「ロード・オブ・ザ・リング」ゴラムって何者?「いとしいしと」の意味を原作とあわせて読み解く
『ロード・オブ・ザ・リング』の主人公であるフロド・バギンズ(の持つ指輪)の後を追う謎多きゴラム。 「いとしいしと!」とよくわからないセリフを連発しますが、そんな哀れなゴラムの姿をなぜか憎めない人も多いのではないでしょうか。 このページではゴラムの正体や謎を解説していきます。「ロード・オブ・ザ・リング」3部作と「ホビット」3部作のネタバレを含むので、未鑑賞の場合は注意してください。
ゴラムの基本情報
名前 | スメアゴル(Sméagol) |
---|---|
種族 | ホビット・ストゥア族 |
年齢 | 500歳以上 |
声優 | アンディ・サーキス(モーションキャプチャも担当) |
吹き替え | 長島雄一 |
ゴラムはかつての「一つの指輪」の持ち主。指輪の力によって驚くほどの長命を得ますが、その姿は指輪と出会う前とはすっかり変わってしまい、誰に会うこともなく霧ふり山脈の奥深くにある洞窟で暮らしていました。
ゴラムは二重人格?
孤独な暮らしのせいか精神を病んでいるゴラムは、二重人格のような行動を取ります。「ロード・オブ・ザ・リング」では独り言で会話をしたり、自分のことを「わしら(We)」と呼んだりする様子が描かれました。
「ホビット」で、フロドに本名で「スメアゴル」と呼ばれるようになってからは、本来のやや善良な「スメアゴル」と、陰湿で残虐な「ゴラム」の2人の人格がどんどん分離していきます。
「いとしいしと」ってどういう意味?
「いとしいしと」は「愛しい人(my precious)」という意味で、長く1人で暮らしてきたゴラムは独り言の相手や通りかかった他人、指輪のことをすべてこう呼んでいました。
しかし指輪を失った後は「ひとしいしと」と呼ぶ対象が指輪のみに変化していきます。「一つの指輪」は人を強く魅了する力を持っており、ゴラムの心も指輪に奪われてしまったのでしょう。
「しと」と表記されているのは、原文で「my precioussss」と“s”を増やした表現をされているから。日本語版翻訳を担当した瀬田貞二が、サ行で歯の間から空気が抜けるようなゴラムの発音の特徴を活かして翻訳したのです。
ゴラムの正体・本当の名前
小さく痩せた身体にギョロっと大きな目。一見して、人間、エルフ、ドワーフ、どの種族の姿にも似ていないゴラム。闇の勢力であるオークとも違います。 実はもともとはホビット。本名はスメアゴルといいました。長らくその名前で呼ばれることはなかったゴラムですが、フロドから「スメアゴル」と呼ばれるようになってからは、優しい表情も見せるようになります。
ゴラム(ゴクリ)の名前の由来は?
いつも咳き込むように喉を鳴らしていることから、その音を指して「ゴラム」と呼ばれるようになりました。日本語版小説では由来に合わせて「ゴクリ」と表記されていましたが、映画の字幕では英語の発音に近い「ゴラム」に変更されています。
ゴラムの人生
指輪を手に入れる
ある日、親戚のデアゴルと釣りに出かけたホビットのスメアゴル。そこで川に落ちたデアゴルが、川底に金色に光るものを見つけ、拾い上げます。それは、長らく世界から失われたと思われていた、世界の全てを統べる力を持つ「一つの指輪」で、強力な魔力を秘めていました。 川底から広い上げた指輪を見つめたスメアゴルとデアゴルは、たちまちその力に捉えられ、指輪を自分の物にしたいという誘惑に取りつかれてしまいます。 2人は激しく争い、スメアゴルはデアゴルを殺してしまします。こうして指輪は手に入りましたが、彼はそのために他の物を全て失うことになりました。
姿が変化する
ゴラムは、デアゴルを殺したこと、また指輪をはめると姿が消えることを悪用したために親族達に疎まれ、住んでいた村から追放されてしまいます。 村から遠く離れ、光を避けるようにさまよった彼は霧ふり山脈の奥深くの洞窟に身を潜めました。指輪のために驚くべき長命を得た彼は500年もの間、光のささぬその場所で暮らすうち、青白い身体に大きな目の、今のような姿に変わっていったのです。
堕ちた暮らし
霧ふり山脈の地下の洞窟で、ゴラムは暗闇の中で生の魚を食べて暮らしていました。原作ではゴキブリや、迷い込んできたオークを食べたこともあります。 また精神を蝕まれたうえに孤独と良心の呵責に苦しんだゴラムは、自分と指輪に話しかけるようになりました。ゴラムが二重人格のようになったきっかけのようです。
ビルボ・バギンスに指輪をとられる
原作『ホビットの冒険』と映画『ホビット 思いがけない冒険』にて、ゴラムがホビットのボルボ・バギンズに指輪を取られるのが、ゴラムが指輪を手に入れてから約500年後のことです。 ゴブリン町の地下を訪れたビルボは、ゴラムが落とした指輪を広います。ゴラムは指輪を落としたことに気付かないまま、2人はなぞなぞ勝負をすることに。 ビルボに指輪を取られたと気付いたゴラムは怒り狂って彼に襲いかかりますが、指輪の透明になる力を使って逃げられてしまいます。こうしてゴラムは何より“いとしい”指輪を失ってしまうのでした。
フロドと出会う
失った指輪に執着していたゴラムは「どろぼう」ことビルボを探していました。やがて見つけたのが、ビルボから指輪を受け継いだフロド・バギンズと、仲間のサムワイズ・ギャムジー。ゴラムは彼を追跡するも、気付かれて捕らえられてしまいます。 しかしゴラムを憐れんだフロドは、ゴラムを助け本名の「スメアゴル」と呼びます。これによりゴラムは元々の性質を取り戻し、フロドに懐くようになりました。そしてフロドとサムを指輪を破壊する滅びの罅裂まで案内することに。 ゴラムが指輪をなくしてから60年後のことで、原作『指輪物語』や映画「ロード・オブ・ザ・リング」3部作で描かれています。
裏切りの最後
フロドとサムを滅びの罅裂まで案内するゴラムでしたが、スメアゴルの性質を取り戻したとはいえ、陰湿で指輪に執着する「ゴラム」の人格も残っていました。 ホビットのスメアゴルに戻るかとも思われましたが、そうはいきませんでした。結局フロドとサムを引き離し、さらにフロドから指輪を奪おうとします。フロドと指輪の奪い合いになったゴラムは、指輪と一緒に滅びの罅裂に転落してしまうのでした。
原作との違い
原作のゴラムはより凶悪で巨大な恐ろしい生き物というイメージでした。そんなゴラムを初めて実写化した映画『ロード・オブ・ザ・リング』では、凶悪さを抑えてサイズも小さくすることでキャラクターがより際立つように作られました。 また原作よりも哀れさや醜さ、そして情けを誘うような見た目になっているのも大きな違いです。「ロード・オブ・ザ・リング」3部作は、情けが1つの大きなテーマ。ゴラムはフロドの「情け」を描くにあたり、重要な役割を果たしました。
ゴラムのトリビア
幻のフロドゴラム
映画『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』では当初、「一つの指輪」に精神を蝕まれまるでゴラムのようになった未来のフロドが描かれる予定でした。最終的には映画から削除されたものの、メイクを施しての撮影も終了していたそう。 フロドゴラムも見てみたい気もしますが、原作には登場しないので、もし採用されていたらファンは複雑だったかもしれませんね。
「いとしいしと」はアメリカ映画の名セリフ!?
アメリカン・フィルム・インスティチュートが企画して2005年に発表された、『アメリカ映画の名セリフベスト100』では、ゴラムのセリフ「My Precious(いとしいしと)」が85位にランクインしているんです! ちなみに『ターミネーター』の「I'll be back.(アイル・ビー・バック)」は37位、『ロッキー』の「エイドリアン!」は80位!そんな中にランクインするほど有名なセリフなんですね。
サメに名付けられた「ゴラム」
実は「ゴラム」と名付けられたサメが存在しています。 1973年、アメリカのサメ分類学者レオナルド・コンパーニョは、ドチザメ属に分類されていたトガリドチザメの属名を新しいものに変更する際、『細く痩せた容姿と深海という暗い海域で生活する様子』からゴラムを連想したため、トガリドチザメの学名として「ゴラム」と名付けたのです。
「ロード・オブ・ザ・リング」ゴラムはかわいそう?指輪の被害者
フロドの情けを無下にしてしまったゴラム。でもよく考えてみると「一つの指輪」の強い魔力に魅了されてしまったゴラムは、指輪の被害者です。かわいそうな気もしますね。 ぜひ映画「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズと「ホビット」シリーズをもう一度見て、ゴラムというキャラクターへの理解を深めてみてください!