アカデミー賞有力候補『キャロル』
『キャロル』は、米国の人気作家パトリシア・ハイスミスが別名義で発表した1952年出版のベストセラーロマンス小説「The price of salt /carol」をベースに、『ヴェルヴェット・ゴールドマイン』、『エデンより彼方に』、『アイム・ノット・ゼア』などで知られる監督トッド・ヘインズが、若手女優のルーニー・マーラと大女優ケイト・ブランシェットを起用し映画化した作品です。
映画『キャロル』あらすじ
1952年クリスマス間近のマンハッタンで、デパートのおもちゃ売り場でアルバイトとして働くテレーズ・ベリベット(ルーニー・マーラ)は、写真家になる夢を抱いています。
ある日、キャロル・エアード(ケイト・ブランシェット)という中年の女性が娘のために、電車のおもちゃを買いにきました。キャロルのもつ特別に華やかな雰囲気に、目がはなせないテレーズ。その視線に気が付いていたキャロルは、故意に手袋をカウンターの上に忘れていきます。
テレーズは、キャロルが帰ったあとに、カウンターに彼女が手袋を置き忘れたことに気が付き、ニュージャージーの彼女の自宅に届くように送りました。
一方、キャロルは、夫ハージとの離婚に手こずっていて、娘リンディの養育費の問題でもめていました。そんな時期に、手袋を届けてくれたテレーズの優しさにうれしくなったキャロルは、ランチにテレーズを招待。その後も、自然と二人は交友を結ぶようになります。
テレーズは、キャロルから目が離せなくなり、遠くからクリスマスツリーを買うキャロルの姿を写真に収めたりしていました。
夫ハージは、以前、キャロルが親友のアビーと逢引をしたことがあったために、テレーズとの関係に疑いをもちはじめるのでした。そのような最中、キャロルはテレーズと旅行にでかけることに...。
映画『キャロル』キャスト
ケイト・ブランシェット/キャロル役
中年の優雅な女性キャロルを演じるのは、ケイト・ブランシェットです。
1969年メルボルン生まれのケイトは、1998年シェーカル・カプール監督の『エリザベス』で、若き女王エリザベスを演じ、ゴールデン・グローブ賞ドラマ部門で主演女優賞を受賞。2004年の『アビエイター』では、大女優キャサリン・ヘプバーン役に挑み、アカデミー賞助演女優賞を初受賞します。
その後、再度シェカール・カプールと組み『エリザベス:ゴールデン・エイジ』、『キャロル』のトッド・ヘインズ監督と『アイム・ノット・ゼア』で仕事し、アカデミー賞にノミネートされている実力派の大女優です。その他の主な作品は、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ、『バベル』、『シンデレラ』、『ミケランジェロ・プロジェクト』などがあり、今回の映画では初のエグゼクティブ・プロデューサーとしてもクレジットされています。
ルーニー・マーラ/テレーズ役
ルーニー演じるテレーズは、カメラをいつも持って歩き、いつか写真家になりたいと夢見ながら、高級デパート店のおもちゃ売り場でバイトをしています。
1985年アメリカ生まれのルーニー・マーラは、姉のケイト・マーラが主演の映画『ルール 封印された都市伝説』でデビュー後、人気テレビドラマ『ER緊急救命室』などでゲスト出演を繰り返します。ルーニーの初主演映画は、2009年の映画『TannerHall』で、こちらは残念ながら日本では劇場未公開でした。
2011年デヴィッド・フィンチャーが監督した映画『ソーシャル・ネットワーク』に出演し、その後、同監督が撮る『ドラゴン・タトゥーの女』の主人公役に抜擢。天才ハッカー少女のリスベットを演じ、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、一躍有名になります。パンクファッションに身を包んだルーニーの姿は、普段の彼女のイメージとかけはなれているので、とてもインパクトがあります。
ルーニーが今まで出演してきた主な作品は、『サイド・エフェクト』『トラッシュ!-この街が輝く日まで-』『PAN~ネバーランド、夢のはじまり』などです。
サラ・ポールソン/アビー役
サラ・ポールソンが演じるのは、かつてキャロルと親密な関係にあった親友のアビーです。
1974年アメリカ生まれのサラ・ポールソンは、1994年後半に『ロー&オーダー』デビュー後、1995年にサムライミが総指揮したドラマシリーズ『アメリカン・ゴシック』にレギュラー出演していることで知られている女優です。
『Studio 60 on the Sunset Strip』というテレビ・ドラマ・シリーズでは、ゴールデン・グローブ賞テレビドラマ部門助演女優賞にノミネート、2011年からはじまったドラマ『アメリカン・ホラー・ストーリー』シリーズなどに出演し、人気を博しています。
映画では、『恋は邪魔者』『ベティ・ペイジ』『マーサ、あるいはマーシー・メイ』『それでも夜は明ける』などに出演しています。
カイル・チャンドラー/ハージ役
カイル・チャンドラーはキャロルの夫役であるハージを演じます。
1965年生まれのカイルチャンドラーは、ジョージアの小さな町で古い映画をみては、裏庭でその役を真似てみるというような子供時代を過ごします。ジョージア大学に進学し、演劇を専攻したカイルは、1988年にスカウトされてLAで生活をはじめるようになります。最初の18か月間は、ナチュラルヒストリー博物館でビールを注いだり、土産物を売ったりする仕事をしていたそうです。
90年代に数々のテレビドラマに出演し、ゲスト出演した人気テレビドラマシリーズ『グレイズ・アナトミー』でエミー賞にノミネート。映画では、ピータージャクソン監督のリメイク作品『キング・コング』や、『SUPER 8 スーパーエイト』、『ゼロ・ダーク・サーティ』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』などに出演しています。
ジェイク・レイシー/リチャード役
ジェイク・レイシーは、テレーズの恋人リチャードを演じています。
1985年生まれのジェイク・レイシーは、テレビのシットコム『Better With You』や、『Pete Miller』、アメリカ版『The Office』などに出演しています。
映画でのジェイクの主な出演作品は、ショートフィルム『C'est moi』に出演後、2014年に『Obvious Child』、『Intramural』、『クーパー家の晩餐会』などがあり、2016年公開予定の英国ラブコメ映画『Their Finest Hour and a Half』をジェマ・アータートン、ビル・ナイ、ジャック・ヒューストンなどと共演予定で、現在撮影中です。
ゴールデングローブ賞・主演女優賞にWノミネート!
2016年1月に行われた第73回ゴールデン・グローブ賞で、『キャロル』に出演するケイト・ブランシェットとルーニー・マーラがドラマ部門の女優賞にWノミネートされました。73年の歴史を持つ権威あるエンターテインメントの賞において、たった5人の主演女優の枠に1作品から2人ノミネートされるというのは、本当に凄い事です。
今回、その他にも同賞のドラマ部門「作品賞」と「監督賞」「作曲賞」にもノミネートされており、女優賞と合わせて驚異の4部門5ノミネートを達成した本作。惜しくも受賞は逃してしまいましたが、そうそうたる作品が並ぶ中で健闘したと言えるでしょう。
映画『キャロル』についてキャストが語る
カンヌ・フェスティバルに登場したケイト・ブランシェットは、最近はなんだかゲイの人々の間で、私生活を話さないといけないような風潮があることを嘆きながら、「誰も他人のセシュアリティになんか興味を持つべきでない」と強く主張。雑誌に多くの女性と関係をもってきたと書かれた後だっただけに、きっぱりと、「過去に女性と関係をもったことはない」と発言しています。
映画の中でヌードシーンを演じることに関しては、全然平気、生まれるときはみんなその状態で生まれてくるのだからと言い放つほど。一体どのようなシーンでケイトのヌードが使われるのか、気になりますね。
現代と50年代という時代でのホモセクシュアリティの違いについて尋ねられ、ケイト・ブランシェットは次のように答えています。
「70ヵ国以上の国々で、いまだにホモセクシュアリティが禁じられていて、それが問題となっているようだけど、何が興味深いかというと、キャロルのような人物を演じる時に、セクシュアリティというのは至極、私事なことだということなの」
映画の中で恋愛を演じることに対して、ナーバスにならないというケイトは、女性との恋愛シーンは、男性と恋愛するシーンと何も変わらないといっています。一体、どのような感じの演技に仕上がっているのか、とても気になります。
ゲイ・マリッジが法律的に認められてきた時代だけど、この映画は別にそのようなメッセージ性をもったものでも、ソーシャル・アジェンダの類の映画でもないそうで、テレーズ役のルーニー・マーラは次のように発言しています。
「全然政治的な映画ではなく、これは単なる恋愛の映画なの。どんな時代かは関係なくって、恋愛ってことが意味があるの」
シンプルなラブストーリー?監督が語るキャロルとは?
過去に設定をおいた作品や、強烈な設定の作品を撮ってきた監督のトッド・ヘインズは本作を「主観的に描いたシンプルなラブストーリー」だと自らが監督した作品に対して説明しました。
最初はテネーズの視点から、そしてキャロルの視点から物語を考えることに意識し、作品が進むにつれどのようにこの視点が変わるのかにフォーカスしたそうで、メインキャストのルーニー・マーラとケイト・ブランシェットとは多くの話し合いを要したといいます。キャラクター自身の視点から徹底的に恋というものを描いた本作は、トッド監督曰く「同性愛を描くものの、シンプルなラブストーリー」になったようで、普遍的なものだと語りました。
映画『キャロル』ではファッションにも注目!
キャロルは映画のあらすじやその話題性以外にも、ファッションの美しさが話題になっています。この映画の衣装を担当したサンディ・パウエルは「恋に落ちたシェイクスピア」や「ヴィクトリア女王 世紀の愛」などでアカデミー衣裳デザイン賞を受賞したこともある人物で、ハリウッドを代表する衣装デザイナーです。
このサンディ・パウエルは今回の映画『キャロル』は50年代のニューヨークが舞台となっているため、50年代当時のファッション誌やダグラス・サークの作品を参考にし、衣装のインスピレーションを得たといいます。なお、本作で注目してほしい点として、テレーズの衣装の変わりように注目してほしいと語りました。テレーズはキャロルに憧れ徐々に衣装が変わっていくといいます。それはどれだけテレーズが成長したかを表しているらしく、衣装を通して見られる変化に注目するとより一層楽しめるといいます。
さらにLUGHAとのコラボイベントが開かれる
新宿の伊勢丹でリ・スタイルの新プライベート・ブランド「ルーガ(LUGHA)」と『キャロル』のコラボレーションイベントが行われることが明らかになっています!
オープンから20周年が立ちその記念として立ち上げられた新ブランド「ルーガ」は新宿の伊勢丹の3階で、ケイト・ウィンスレット演じるキャロルが実際に着用したサルヴァトーレ フェラガモの靴の展示や、上で述べた衣装デザイナーのサンディ・パウエルのデザイン画が展示されるといいます。さらに会場ではキャロルのサウンドトラックを流すなどといったコラボが展開されるようです。
なお、本企画は1月27日~2月1日の期間で開催されています。興味がある方は是非訪れてみてはいかがでしょうか?
ケイト・ブランシェットが来日を果たす!
『キャロル』の公開日である2016年2月11日を前に主演を演じたケイト・ブランシェットの来日を果たしました!
ケイト・ブランシェットにとっては自身3度目となる来日になるようですが、前回訪れた際には「SK-II」の30周年記念記者発表会であり、映画のプロモーションとして日本を訪れるのは初めてだということです。そしてこの1月22日に、TOHOシネマズ六本木で舞台挨拶に登場しました。
この舞台挨拶で『キャロル』についてこう語りました。
「演技というのは、自分の知らない人と“繋がる”ことなのです。この作品で描かれる愛は1950年代にはまだ犯罪だった。パトリシア・ハイスミスは犯罪小説の女王として有名だけれど、『キャロル』では殺人ではなくて”愛”という犯罪を描いたんです。そんな作品で、キャロルは本当の彼女と母親としての彼女という狭間で困難な選択を迫られることになるわ。でも、詳しくは映画を観てのお楽しみよ」引用:tvGroove
さらに、ゲストとして登場した寺島しのぶが様々な役を演じてきたケイトに対し、次に演じてみたい役を尋ねると「相撲取りの人生モノかしらね」と冗談を述べ、笑いを誘いました。
映画ファンの聖地シネマライズが閉館。最後に流した映画は『キャロル』
1986年の開館以来、たくさんの思い出深い映画を上映してきた渋谷の映画館シネマライズが2016年1月7日をもって閉館しました。30年もの間、映画ファンに様々な映画を提供してきたこの映画館は、多くの映画ファンが閉館を惜しむなか、『キャロル』の上映を最後に閉館されました。
このことを知った主演のケイト・ブランシェットはとても素敵なことだとコメントし、監督にも伝えると約束しました。最後には名誉あるこの出来事に感謝を述べました。
いち早く『キャロル』を鑑賞したシアターユーザーの感想を紹介!【ネタバレあり】
yuki12241
女性同士の恋愛を描き、アカデミーやゴールデングローブ等、賞レースで度々目にする本作。批評家ウケを狙った映画だろ?なんて穿った見方をせず、是非とも純粋な心で観て頂きたい作品です。『アデル、ブルーは熱い色』よりもマイルドながらそのドラマは非常に深く、それでいて社会の目から逃げないLGBT要素、更に構成・構図、ファッション的な表層を含めた映画全体の素晴らしいまでの美しさを堪能して欲しいです。
綺麗な模様だなぁ…これはなんだろう?そう思っているとカメラがスゥッと引き、それが排水溝の蓋の模様であることに気付く。そんなオープニング。これは、タイトルロールであり主人公の1人である「キャロル」自身を表していると思います。綺麗に着飾り美しい容姿を持ち、格好の良い佇まい。だけれど彼女の人生はそんなに単純に美しいものでは無く、側溝の泥のような沢山の汚れに塗れた闇をも持つ。では、彼女の一番深い所にあるのは光なのか、それとも闇なのか?汚いはずなのに、美しく見える、そしてその逆も然り。本質は近づいて見ないと分からないのが人間。そう暗示しているようなこの一瞬のシーンで、僕の心は完全にこの映画に掴まれてしまっていました。
この映画は、ケイト・ブランシェット演じるキャロルとルーニー・マーラ演じるテレーズの愛の物語です。デパートの玩具売り場で、たくさんの可愛い玩具や人形に囲まれ、そのうちの1つにすら見えるほどに可愛らしいテレーズが、彼女とは正反対の格好良さを兼ね備えた美しさを持つキャロルと出会う。そんな物語の始まりからしてグッと引き込まれます。頭の中に鳴り響く恋のベル、そしてシンデレラのガラスの靴のように置き忘れられた手袋。彼女たちの恋の始まりは余りにも美しくおとぎ話のようで、ファンタジーのようにも感じてしまいます。しかし、本作はそんなラブストーリーをメインとしながらも、れっきとしたドラマ映画に仕上がっているのは、見たくない現実、闇の部分をしっかりと描いてくれているから。「サイ(夫の名前)の妻」と女性を付属物のように捉えるキャロルの夫との関係性や、偏見に塗れた社会、置かれる厳しい状況。性格もファッションも、何もかも正反対の彼女たちがその出会いによって、確かに人間として成長していくのです。
「私のどこが好き?」そう聞かれてすぐにそれを説明するのは難しいですよね。男女の恋愛はそう。ならば、どうして同性の恋愛に理由が必要か?「人に惹かれる理由も、人を嫌う理由も分からない」という台詞、本当に当たり前の事なのに凄く新鮮に受け止められました。彼女たちが恋に落ちるのは、ただ好きになったから。ある瞬間、ふとカメラが気付くか気付かないか程度に揺れ、唇にエモーショナルにズームしていく。彼女たちが恋に落ちた描写は、そんなさりげない演出の中に潜んでいます。恋なんて、それほどに単純なものなのでしょう。彼女たちの愛は凄く丁寧に時間をかけて描かれ、その中には美しく息をのむシーンも、思わずドキッとしてしまうシーンもいくつもありました。
人と人との出会いって、恋って、こんなに美しいものだったっけ?この映画を観た後にはそう思うのではないでしょうか。ラスト付近のあるシーンで、ハッと気付くことでしょう。「ああ、この映画の主人公は確かに2人だったんだなぁ。」と。減点するところが本当に見当たらない、ドラマ映画として最高峰の映画と言えるのではないでしょうか。
※※※※※ここからネタバレ有※※※※※
写真家を目指しているのにもかかわらず「人」を撮るのに抵抗があったのは、本気で向き合ったこと、愛したことが無かったから。だけれど、キャロルの写真はどうしてか沢山沢山撮ってしまう。ランチのメニューすら自分で決められないし、これまでの人生でロクに意見を言わず全て「Yes」で通してきた。そんなテレーズが初めて「No」を言うのは、一番愛しているはずのキャロルなんです。
これは一見悲しいように見えるけれど、実はテレーズという女性が真に愛を知り、自分と対等の存在を手に入れた希望の一瞬なのではないでしょうか。レストランのテーブルで相対し、これしかないタイミングで放たれた「I Love You」、鳥肌が立ってしまいました。最後、揺れるカメラはキャロルを探して歩くテレーズの迷いを表すのでしょうか。それとも、緊張や昂る気持ちを表していたのでしょうか。これからどの方向に進むのか分からないけれど、彼女たちの物語はこれから新しく始まる…。そんな想像をかきたてる、最高のラストでした。
※※※※※ここまでネタバレ有※※※※※
海外で明かされた『キャロル』の感想・評価まとめ!
本年度アカデミー賞大本命とも言われているこのキャロルですが、海外での評価は感想はまずまずといった感じです。
アメリカの大手、レビューサイトIMDbの評価は星10個中7.6個といった感じで、評価を見てみると極端に悪い評価を下す人がおらず、比較的に高い評価を下す人が多いようです。そのなかで目立ったのが多くの人が"美しい"という言葉を使い感想を述べていたことです。
また、アメリカの大手映画批評サイトRotten Tomatoesでは94点とかなりの高評価が下されています。
映画『キャロル』の公開は2016年2月11日の予定です。