2020年7月3日更新

映画『シャイニング』徹底解説 ラストの解釈や散りばめられた要素の意味とは?【ネタバレ】

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世界最高峰のホラー映画の一つ『シャイニング』(1980)を徹底解説【ネタバレ注意】

スタンリー・キューブリック監督が映画化を手がけ、80年代の傑作ホラー映画と称されている『シャイニング』。映画史に残る数々の名シーンや、多くの謎を残す作品として語り継がれてきました。 この記事では、そんな本作のあらすじと共に、映画を読み解くポイントを徹底解説します。 ※本記事には映画『シャイニング』に関するネタバレを含むため、未鑑賞の方はご注意ください!

映画『シャイニング』のあらすじをおさらい

小説家志望の主人公ジャックは、コロラド州のロッキー山の上にあるオーバルック・ホテルの管理人として面接を受けます。雪が深く積もり閉鎖される冬季限定で管理をする仕事でしたが、面接時に支配人のアルマンから、以前の管理人が家族を斧で殺した上に自殺した話を聞かされるジャック。 曰く付きの物件であることも厭わず、彼は妻のウェンディと息子のダニーを連れて、ホテルに移り住みます。しかし、“シャイニング”という不思議な力を持つダニーをはじめ家族はホテルで様々な怪奇現象を体験していくことに……。

原作と映画を比較解説 改変ポイントと映画オリジナル要素とは?

キューブリックは、映画を制作するにあたり、キングの原作を大きく改変しています。大まかなあらすじは原作と同じですが、改変された主なものとしては、ホテル自体の存在と、ジャックの狂気、“シャイニング”についてです。そもそも、原作ではより狂気や邪悪な物の原因がホテルそのものになっており、存在感が強いです。ジャックの狂気も、このホテルが原因であることを家族も理解しています。 しかし、映画版ではグレイディというホテルの元管理人が登場して彼の狂気を高めるも、どちらかといえば創作への行き詰まり、それによるプレッシャーやアルコール依存が原因のように描かれているのです。 また、原作でかなり重要なものとして描かれる、ダニーのもつ“シャイニング”という力。これも映画版では、しっかり語られるどころか、ほぼ触れられていません。加えて、同じこの能力を持つホテルの料理人ハロランに関しても大きく取り上げていないので、キューブリックはこの要素を捨てたことが考えられます。恐らく、キングが本作を嫌う理由はこの点にあるのではないでしょうか。

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映画ラストと各所に散りばめられた重要ファクターの意味とは?【ネタバレ】

本作には鏡のシーンが印象的に登場します。まず、ダニーが自宅の洗面所の鏡に向き合ってトニーという謎の人物と会話しているシーン。そして、ジャックがグレイディとバーのトイレで会った時のシーン。そして、237号室のシーンです。 特に237号室のシーンが分かりやすく、本作における鏡の役割を如実に表しています。鏡の中の世界が現実で、外の世界が幻影であることを写すものです。237号室ではジャックが裸の美女と遭遇します。彼女が美しい時点では、部屋の鏡が意図的に映されていません。しかし、鏡には醜い老婆に変貌した姿が。 また、ダニーが扉に刻みつけた「RED RUM」という文字が、鏡越しに見ると「MURDER(殺人)」と読めることも重要。これに気づき、母のウェンディはやっと“あちらの世界”の存在を知りました。 グレイディとバーで会話をするシーンでも、ジャックは彼がこの世のものかどうか知るために、彼が鏡に写っているかどうか確認しようとします。しかし、絶妙なカメラワークによって鏡の反射は映されませんでした。これはわざとグレイディの存在をぼやかすためだったのです。

237号室

237号室は先述の通り、腐乱しかけた肉体の老婆がジャックを狂気の世界に取り込もうとしたシーンで印象的でした。さらに、ダニーが一度中に入り何者かに首を締められた部屋でもあります。ホテルの支配人から絶対に入るなと言われていた部屋ですが、ここで一体何が起きたのでしょう。 映画ではその背景が語られていませんが、原作ではジャックを誘惑した美女について詳しく描かれています。彼女の名はマッセイ夫人。彼女は若い男をジャックのように誘惑するものの、逃げられてしまったため睡眠薬を大量摂取してバスタブで自殺をしたのです。

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双子

ダニーが廊下で見かけた、青いワンピースを纏った気味の悪い双子。彼女たちは前任のホテル管理者グレイディの娘であり、彼の手で殺された幽霊です。彼女たちもまた、狂気に満ちた“あっちの世界”に家族を引き込もうとしているのです。

映画ラストの解釈、ジャックの正体とは

上記の見出しの双子に関わってくる重要なファクターが、ジャックの正体です。本作のラストには、1921年7月4日に撮られた写真の中にジャックが写っているショットが登場します。 なぜ、ジャックが写っているのでしょうか。彼の死によって魂が完全に取り込まれた、という見方もできますが、もうひとつジャックの正体を明かす見方もできます。 実は、グレイディとバーのトイレで会った時、ジャックに対して彼は「あなたはいつもこのホテルの管理人でしたよ」と言うのです。この一言から、ジャックは写真の中の人物の生まれ変わりであり、グレイディに宿った狂気も全てジャックだったと考えられます。双子と妻を殺したのも、ずっとホテルの管理人として転生し続けたジャック本人だったのです。

キューブリックの狂気的なこだわりと製作秘話

ここからは、本作におけるスタンリー・キューブリックの狂気的なまでのこだわりの片鱗を紹介していきます。

リテイクの嵐!ワンシーンに2週間を費やした撮影、雪には900トンの塩を使用

ジャック・ニコルソンがシャワールームのドアを斧でぶち破るシーンには、なんと約2週間も費やされたといいます。ちなみに、このシーンは2秒程度であるにも関わらず190以上のテイクが費やされたのです。キューブリック監督はリテイクを重ねるため、撮影期間が長いことで有名です。本作も、製作に5年もの歳月がかかりました。 加えて、巨大な雪の迷路が舞台となるエンディングのシーンのためだけに、約900トンもの塩が撮影で使用されています。

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最新技術ステディカムを採用、シンメトリーにこだわったカット

本作は、当時開発されたばかりのステディカムを用いて撮影されました。ステディカムとは、カメラマンが持ち歩きながら撮影した際の振動や手ブレを抑え、スムーズにしたカメラ安定支持機材です。これは、特にダニーが三輪車で廊下を走るシーンで実感できるでしょう。 加えて、これまで撮影後にフィルムを現像しないとビデオチェックができませんでしたが、本作で初めて撮影中にフィルム映像がチェックできる技術が取り入れられるなど、かなり革新的な技術も採用されています。 また、キューブリック監督といえばシンメトリー(左右対称)の構図を好むことで知られており、彼の作品のほとんどでこの特徴が見られます。 『シャイニング』も例外ではなく、画面の奥行きとシンメトリーをこだわりぬいたカットが多数登場。前述のダニーのシーンや、双子の少女のシーン、237号室の風呂場などが代表的に挙げられます。実は、ホテルの床に敷かれたカーペットの模様でさえ、左右対称なのです。

身内にスタッフを起用していた

『シャイニング』のエグゼクティブプロデューサーを務めていたのは、キューブリック監督の義理の兄弟でした。それだけではなく、監督の妻や娘も本作の制作に関わっていたのです。

スティーブン・キング vs スタンリー・キューブリック

キングはキューブリック版が本当に嫌い!

前見出しでもキングが、キューブリック版の『シャイニング』を嫌ったと述べました。そもそも、キューブリックの原作すら読まずに監督した姿勢も、彼の怒りを買ってそうな気がしますが……。キングは自身の著書である「死の舞踏」の中でも、本作に関して「思い違いだらけで腹立たしい、期待はずれの映画」とはっきり酷評しているのです。 ちなみに、映画に対する批判はキューブリック死後も度々続いていることから、相当本作を嫌っていることがわかります。

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納得いかず、ドラマ制作まで着手

さらに映画版の全てにおいて納得のいかなかったスティーブン・キングは、公開から17年がたった1997年に、自身が総指揮としてドラマ版『シャイニング』を制作しています。90年版の『IT/イット』も、これと同じスタイルで製作されています(※キングは原作者として参加)。 ドラマ版の『シャイニング』は全編が4時間半、原作に忠実なストーリー。しかし、映像美や斬新さでいえば圧倒的にキューブリックのものに敵わず、度々「駄作」と言われることも。しかし、原作ファンからは支持されていることもあり、キングのものは物語性が高く、キューブリックはビジュアルが強いと作家性が完全に分かれた作品なのです。

その他の『シャイニング』のトリビアを紹介

様々に翻訳された名フレーズ

「All work and no play makes Jack a dull boy.(働いてばかりで遊ばないとジャックはダメな子になる)」というフレーズがあります。 世界各国で上映された際、その訳は様々だったようです。例えばドイツ語では、「Don’t put off till tomorrow what you can do today.(今日できることを明日に延ばすな)」と訳されました。

あの237号室は存在しない

原作では、あの世にも恐ろしい現象が起きた部屋は217号室となっていますが、映画では237号室。 利用客が217号室を避けるのを懸念したロケ地のホテル側の要望により、実際には存在しない237号室が撮影の舞台となったのです。 しかし実際は、映画の人気によって237号室に泊まりたがる宿泊客も多かったのだとか。

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超レアな子役たちの演技が観られる?あの子はホラー映画だと知らなかった

ダニー役のダニー・ロイドと、双子の女の子の幽霊役、リサ&ルイーズ・バーンズ姉妹には共通点があります。3人は皆、『シャイニング』が唯一の映画出演作品なのだそうです。彼らの演技が観られる、とても貴重な作品というわけです。 ちなみに、ダニー・ロイドは撮影当時5歳でした。彼が幼かったため、キューブリック監督は映画の撮影について、怖がらせないように「ホラー作品の撮影ではない」と伝えていたそうです。

『エクソシスト2』との意外な接点

スタンリー・キューブリックは本作以前から、ホラー映画の制作には大変興味があったと言われています。 さらに『シャイニング』の映画化と同時期に、監督として『エクソシスト2』のメガホンを取る話もあったようですが、最終的に『シャイニング』を選びました。 ただ、1980年に公開された『シャイニング』と1977年公開の『エクソシスト2』は、どちらも科学で説明できるものと説明できないものがミックスされていることなど、類似した点がいくつかあります。どちらもホラー作品と認知されていますが、SF的な要素が入っているのです。

続編『ドクター・スリープ』は30年後が舞台

2019年には、本作のラストで生き残ったダニーを主人公とした続編『ドクター・スリープ』が公開されました。本作は原作でも続編的な内容であり、前作から30年後が舞台となっています。 あの山荘から生還し、トラウマを抱えたまま大人になったダニーは、自身の能力“シャイニング”と向き合うことはできるのでしょうか。

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詳細は以下の記事で

『シャイニング』は後世に語れる、屈指のホラー映画だ!

「Here's Jonny!」というセリフとともに、今世まで名作として語り継がれている『シャイニング』。公開後は、本作をオマージュする作品も数多く出たことから、多くの監督に特に映像面で影響を与えてきた、まさに映画史に残る一作です。 2018年に公開されたスティーブン・スピルバーグ監督作『レディ・プレイヤー1』でも、本作がとあるシーンでかなりはっきりとオマージュされていたことから、再び注目を浴びました。 今回紹介した解説やトリビアを踏まえて、もう一度観てみるのも面白いかもしれませんね。