映画『パッセンジャー』SFロマンスをネタバレ解説!評価の分かれ目や隠されたモチーフとは
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映画『パッセンジャー』ジェニファー・ローレンス×クリス・プラットのSFロマンス
ハリウッドのトップ女優ジェニファー・ローレンス主演、相手役に大作映画の主演が続く注目俳優クリス・プラットを迎えた映画『パッセンジャー』。 本作はベネディクト・カンバーバッチ主演のヒット作『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』で知られるモルテン・ティルドゥムがメガホンをとったSF大作映画です。 この記事では本作をより理解し堪能するために、ネタバレあらすじから考察、さらには制作裏話までたっぷりとご紹介します!
『パッセンジャー』のネタバレあらすじ【ラストまで】
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20XX年、5,000人を乗せた豪華宇宙船アヴァロン号が、地球から120年の距離にある植民惑星へ向けて出発。人々は冬眠ポッドで眠り、到着の4ヶ月前に目を覚ます予定です。 しかしエンジニアのジム(クリス・プラット)だけが、冬眠ポッドの故障によって90年も早く目覚めてしまいます。希望に満ちた移住先へ向かう船の中、たった1人で人生の残りの時間を過ごすという絶望。 1年が過ぎた頃には、ジムは孤独に耐えられず自殺を考えるようになり、やがてある衝動を抱き始めます。その衝動とは、冬眠ポッドで眠る小説家の美女・オーロラ(ジェニファー・ローレンス)を目覚めさせること。
葛藤の末、孤独に耐えられなくなったジムはオーロラの冬眠ポッドを操作して目覚めさせてしまいます。支え合い、やがて愛し合う2人。しかしオーロラが目覚めて1年後、彼女がジムの身勝手で目覚めさせられたことを知ってしまいます。 ジムはあの手この手で謝罪しますが、オーロラは憤怒し、ジムを拒絶し続けるのでした。 やがてジムの冬眠ポッドの故障から始まった船内の故障が深刻なものになり、眠っている5,000人の命さえ危ういものになります。2人で協力して船の修理に当たるも、故障によって船外で手動で操作を行う必要がありました。 命がけで修理を成功させ、宇宙空間に吹き飛ばされてしまうジム。オーロラが船外に飛び出してジムを救出し、蘇生に成功します。2人の間には愛が戻り、ジムが医療用ポッドで1人だけ冬眠状態に入ることができることを発見しても、オーロラはジムと2人で最期まで過ごすことを決意するのでした。 88年後、目覚めた乗組員たちの目に飛び込んできたのは、船内を覆う緑の木々や動物たち。無機質な宇宙船は、まるで地球のような豊かな姿に変貌していたのです。
非日常SF空間でのロマンティックな恋愛にドキドキ
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本作の最大の魅力は、“非日常感溢れるSF空間の中で展開するロマンチックな恋愛”ではないでしょうか。 舞台は、古き良きアール・デコ調と近未来的な曲線美を融合させた豪華な宇宙船アヴァロン号。船内ではアンドロイドやAIがはたらき、窓の外に広がるのは無数に輝く星と惑星……。 愛し合うようになった2人はドレスアップして食事を楽しんだり、宇宙服を着て宇宙空間の散歩を楽しんだりと、永遠に2人きりの宇宙でロマンチックすぎるデートを繰り広げるのです。 空間がスタイリッシュでゴージャスなだけでなく、映像も非常に美しく、うっとりしてしまいますね。ジムが抱く罪悪感や絶望的なシチュエーションもロマンチックさを引き立てる要素のひとつです。
『パッセンジャー』の隠れたモチーフを解説!オーロラの名前には由来があった?
グリム童話『眠れる森の美女』
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ジムがオーロラを目覚めさせるストーリーは、魔法使いの呪いによって100年の眠りについてしまった王女を王子がキスで目覚めさせるという、グリム童話『眠れる森の美女』(『いばら姫』)を連想させます。しかも、ディズニー版の『眠れる森の美女』の王女の名前もオーロラ姫! しかし近年、この『眠れる森の美女』の展開は“睡眠中に勝手にキスをする”という行為が強姦に当たるのではと問題視されています。 映画『パッセンジャー』のジムは、甘い愛をくれる王子様のような存在であり、同時に罪深く残酷な「加害者」として描かれています。まさに現代のSF版『眠れる森の美女』だと言えるのではないでしょうか?
旧約聖書の「創世記」
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旧約聖書の「創世記」において、神は無から創造した「エデンの園」にアダムとイブを住まわせます。宇宙船で展開される2人だけの世界は、このアダムとイヴの楽園そのものです。 エデンの中心には生命の樹と知恵の樹が植えられたという設定も、ジムが作品内でオーロラのためにフロアの中心に植えた木を思わせますね。 「創世記」ではその後、神は禁断の実を食べたアダムとイブを追放し、正しい行いをしていたノアの一族と動物を1組ずつ助けることにし、「ノアの箱舟」を作らせて世界に大洪水をおこします。 大量の人間や動物、植物が冬眠ポットに保管された宇宙船アヴァロン号は、そんな「ノアの箱舟」を連想させますよね。そしてオーロラの書いた小説は、旧約聖書の「創世記」自体を表しているのではないでしょうか?
賛否両論あり?評価の分かれ目となるのはジムの行為……
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本作は公開当時から賛否両論が巻き起こりました。批判的意見の理由の多くは、ジムがオーロラを起こしたことにあります。 オーロラは“地球に戻って移住経験を本にする”という夢を持っていました。ジムは孤独と恋心によって自分勝手に彼女を起こし、彼女の夢や、惑星・地球での未来を奪います。もちろんオーロラ自身も“私の人生を奪ったのよ!”、“これは殺人よ”と激しく怒りました。 しかしエンディングではジムと生きることを選ぶオーロラ。この展開に、“ジムがひどすぎて共感できない”、“ロマンチック化された虐待だ”などという声が見られたのです。 ただ、宇宙空間でたった1人目覚めてしまったジムの絶望も相当なものだったはず。“周りで眠る人々は希望に満ちた新世界へ向かっているのに、なぜ自分だけ1人ぼっちで死ななければならないのか”、“起こした事がバレなければ良いのではないか……”と考えてしまうのもおかしくはありません。 もしあなたがジムの立場であったら、一体どんな行動を取っていたでしょうか?また逆に、オーロラの立場だったらどう考えるでしょう?オーロラは、ジムの行為の残酷さを理解した上で“起こされてジムに出会った事も運命だ”と考えたのかもしれません。
映画と違う!オリジナル脚本の驚くべきエンディングとは
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眠っている約5,000人の命を守り、船内に美しい楽園を築きながら2人で最期まで過ごしたというラストが描かれた映画『パッセンジャー』。 しかし実は、オリジナルの脚本では、2人を除いた約5,000人が宇宙空間に投げ出され命を失うというまさかの結末が待っていました。オーロラは“ジムに起こされていなければ自分も死ぬ運命だったのだ”と悟り、やがてジムとの愛がもう一度芽生えます。 さらにオリジナル脚本のラストシーンは、オーロラが宇宙船内で見つけていた乗客達の遺伝子バンクから誕生させた様々な人種の子供たちが、移住先の惑星へ降り立つというものだったようです。 エンディングが変更されたことによって、宇宙船を作ったホームステッド社の責任に観客の意識を移させず、ジムの行為を問題視させているように感じます。つまり、巻き起こった賛否両論は制作者の意図的なものだったのかもしれません。
『パッセンジャー』の脚本はブラックリストに入っていた!?
映画『パッセンジャー』の脚本は「ザ・ブラックリスト」に入っていました。これは、未制作で流通する映画脚本の人気ランキングリストのことです。 リストは毎年人気投票によって制作されており、ハリウッドの映画会社やエージェントなど、業界での信頼は厚いとのこと。本作は2007年にリスト入りしました。 過去にリスト入りして映画化されたものでは、『スラムドック$ミリオネア』、『英国王のスピーチ』、『ソーシャル・ネットワーク』など観客の評価が高いものや賞レースに絡んだヒット作も多くあります。
監督は有望株のモルテン・ティルドゥム!
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映画『パッセンジャー』の監督は、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』のモルテン・ティルドゥム。 ノルウェー出身の彼はニューヨークのスクール・オブ・ヴィジュアル・アーツで映画の道をスタートさせました。ノルウィー人作家のベストセラーを映画化したクライム・サスペンス『ヘッド・ハンター』が地元で大ヒットを記録。世界から注目される存在になりました。 その後、初の英語圏作品となるベネディクト・カンパーパッチ主演『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』が絶賛されました。アカデミー賞監督賞に初ノミネートされた彼は、現在ハリウッドで最も注目される有望監督の1人です。
『パッセンジャー』をもっと楽しむための制作裏話
冬眠ポッドはCGではなくセットだった【アカデミー賞美術賞ノミネート】
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映画『パッセンジャー』でキーアイテムとなる、精巧で美しい冬眠ポッド。実はこれらはCGではなく、大きなセットの中に10週間かけて作られたものでした。しかも実際に中にエキストラが入って撮影しており、寝心地も良かったために撮影中本当に眠ってしまうエキストラもいたそうです。 美術監督を担当したのは、ガイ・ヘンドリックス・ディアス。本作で第89回アカデミー賞美術賞にノミネートされました。 これまで『X-MEN2』(2003年)や『スーパーマン リターンズ』(2006年)、『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(2008年)といった大作で美術を手掛けてきた実力者です。 クリストファー・ノーラン監督作『インセプション』(2010年)でアカデミー賞美術賞に初めてノミネートされ、本作が2度目のノミネートとなりました。
レイチェル・マクアダムス×キアヌ・リーブスだったかも?
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キアヌ・リーブスとレイチェル・マクアダムスは同時期に今作の主演候補になっていたと言われています。 そのほかにもオーロラ役にはリーズ・ウイザースプーン、エミリー・ブラントも時期を別にして名前が上がっていましたが、結局ジェニファー・ローレンスに決まりました。
あのジェニファー・ローレンスがナーバスになったシーンとは?
ジェニファー・ローレンスはクリス・パインとのラブシーンを演じるにあたってかなりナーバスになったと語っています。 初めてのラブシーンではなかったのですが、既婚者の俳優とはキスシーンですらしたことがなかったそう。彼女は当日アルコールの力を借りてラブシーンの撮影に臨んだそうです。
名作ホラー映画にオマージュを捧げていた!
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本作を鑑賞済みの人なら、必ず印象に残るであろうアンドロイドのバーテンダーが登場するシーン。このアンドロイド役を演じたマイケル・シーンによると、この役を演じるにあたり、あまり人間すぎずロボットすぎずのバランスを心がけていたと言います。 また、あの宇宙船のバーシーンはスタンリー・キューブリックがメガホンを取った名作ホラー『シャイニング』へオマージュを捧げているそう。よく観ると、バーの雰囲気やバーテンの衣装がそっくりです。
大物揃い!『パッセンジャー』のメインキャストを紹介
ジム・プレンストン/クリス・プラット
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デンバー出身で地球から脱出するために宇宙船に乗り込んだ機械技師、ジム・プレストンを演じるのはクリス・プラット。彼はマウイでウェイターとして働いていたところを客として来店した女優のレイ・ドーン・チョンに見出され俳優としてキャリアをスタートさせました。 2014年ジェームズ・ガンがメガホンをとったマーベル映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の主役ピーター・クイル役で一気に大ブレークを果たした後、2015年世界中が熱狂した『ジェラシック・ワールド』でオーウェン・グレイディを演じています。 2022年には『ジュラシック・パーク』シリーズ最新作の公開を控えており、これからの活躍がますます楽しみですね。
オーロラ/ジェニファー・ローレンス
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ニューヨーク出身のジャーナリストであるオーロラを演じるのはジェニファー・ローレンス。彼女は主演の『ウィンターズ・ボーン』リー・ドリー役でアカデミー主演女優賞を始めとする数々の映画賞へノミネート、受賞で注目されました。 その後、ブラッドリー・クーパーと共演の『世界にひとつのプレイブック』ティファニー・マクスウェル役ではアカデミー賞主演女優賞を受賞し、ハリウッド女優として確固たる地位を築いています。 その他にも、大人気小説を映画化した『ハンガー・ゲーム』シリーズ、実話を基にした映画『アメリカン・ハッスル』、『レッド・スパロー』など、話題作には引っ張りだこの女優です。
アーサー/マイケル・シーン
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『パッセンジャー』でアンドロイドのバーテンダーを演じるのはイギリス出身の俳優マイケル・シーンです。 王立演劇学校出身の彼は舞台俳優として経験を積んだ後、ブロードウェイで上演された舞台『アマデウス』でモーツアルトを演じ高評価を獲得。アメリカでも注目されるようになりました。 イギリス王室を舞台とした映画『クィーン』(2007)ではトニー・ブレア前イギリス首相を演じ、英国アカデミー賞助演男優賞にノミネート。また2008年にはロン・ハワードがメガホンをとった『フロストXニクソン』でTV司会者デヴィッド・フロストを演じました。 その他の代表作には『トワイライト』シリーズのアロ役、『アンダーワールド』ルシアン役、『ミッドナイト・イン・パリ』ポール役などが挙げられます。
ガス・マンキューソ/ローレンス・フィッシュバーン
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船長のガス・マンキューソを演じたのは、『マトリックス』のモーフィアス役で世界的に有名なローレンス・フィッシュバーン。 ハリウッドで最も多才な俳優の1人であり、全米黒人地位向上協会(NAACP)が開催する映画・テレビ・音楽・文学の賞であるNAACPイメージ・アワードの常連でもあります。 そんな彼は、『ラスベガスをぶっつぶせ』コール・ウィリアムス役や『ジョン・ウィック』シリーズのバワリー・キング役など、ヒット作に多く出演してきました。
映画『パッセンジャー』は知れば知るほど奥深いSFロマンス!【続編が観たい】
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ロマンチックな映像美が楽しめる映画『パッセンジャー』は、知れば知るほど奥深く、何度も見たくなる名作SFロマンスです。 2人はどのように美しい楽園を築きどのように過ごしたのか、また移住先の惑星にたどり着いた人類にはどのような運命が待っていたのかなど、続きが非常に気になる本作。現時点で続編情報は特にありませんが、是非とも続編を製作して欲しいものです!