2019年12月19日更新

【ネタバレ】映画『アイリッシュマン』解説 実在の事件との比較やトリビアも紹介

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アイリッシュマン
Netflixオリジナル映画「アイリッシュマン」 11月27日(水)独占配信開始

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マーティン・スコセッシ×ロバート・デ・ニーロのマフィア映画『アイリッシュマン』がNetflixで配信中!劇場公開も

ロバート・デ・ニーロと組んで多くの名作を生み出してきたマーティン・スコセッシ監督。2019年にNetflixで配信された『アイリッシュマン』では9度目のタッグを組み、実在したマフィアの殺し屋を主人公にアメリカ現代史の裏歴史を描き出しました。 チャールズ・ブラントのノンフィクション「I Heard You Paint Houses」を原作とし、構想に長年を費やした本作。物語の主要人物3人を演じるロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシの豪華キャストが決定するまでにも時間がかかったとか。膨れ上がる製作費のため製作も難航し、Netflixが出資に乗り出して2017年にようやく撮影が開始されました。 アメリカ国内で2019年11月1日から劇場で限定公開され、日本でも同年11月15日から劇場公開されました。Netflixでは2019年11月7日から配信がスタートしています。今回は『アイリッシュマン』のあらすじ・キャスト、ネタバレを含む解説や見どころ、さらにはトリビアなどを詳しく紹介していきます。

『アイリッシュマン』あらすじ

アイリッシュマン
Netflixオリジナル映画「アイリッシュマン」 11月27日(水)独占配信開始

1950年代のフィラデルフィア、トラック運転手フランク・シーラン(ロバート・デ・ニーロ)は、マフィアに商品の横流しをしたことで起訴されたものの、有能な弁護士ビル・バッファリーノによって無罪を勝ち取ります。ビルがフランクに紹介したのが、ペンシルバニアのマフィア「バッファリーノ・ファミリー」のボスであるラッセル・バッファリーノ(ジョー・ペシ)でした。 ラッセルのもとでマフィアの「仕事」を引き受けるようになったフランクは、ラッセルから全米トラック運転手組合「チームスターズ」委員長ジミー・ホッファ(アル・パチーノ)を紹介されます。 ホッファのボディーガードを務めながら、家族ぐるみの付き合いを築いていたフランクでしたが、ホッファは組合の年金積立金を不正使用した罪で逮捕されてしまいます。さらに、ホッファは出所後も組合委員長の座に固執したため、組合幹部やマフィアとの間に溝が深まっていくのでした。

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『アイリッシュマン』解説【ネタバレ】

『アイリッシュマン』の時代背景とテーマ

アイリッシュマン
Netflixオリジナル映画「アイリッシュマン」 11月27日(水)独占配信開始

『アイリッシュマン』で描かれた主な時代は、フランク・シーランがトラック運転手と殺し屋稼業を続けた1950年代から70年代。アメリカは第二次世界大戦後の東西冷戦とケネディ大統領の誕生と暗殺、そしてベトナム戦争に突入していった激動の時代です。 シーランはペンシルバニア州生まれのアイルランド系アメリカ人で、第二次世界大戦に従軍してイタリア戦線を経験をしていました。覚えていたイタリア語を駆使して、イタリア系マフィアのバッファリーノと絆を築いていくシーンもあります。 原作のタイトル「I Heard You Paint Houses」は直訳すれば「お前が家のペンキを塗っているのを聞いたぞ」ということ。物語の初めにこの言葉が映し出され、いわゆる「殺し」を示すマフィアの隠語だとわかります。ラッセルがフランクに殺しを含めた仕事を回すようになり、彼は殺しの度にまさに血で“家にペンキを塗り”続けることになるのです。

アイリッシュマン、ロバート・デ・ニーロ、ジョー・ペシ
Netflixオリジナル映画「アイリッシュマン」 11月27日(水)独占配信開始

しかし家族ぐるみで付き合っていたホッファと、恩義あるラッセルとの仲が修復できないところまで壊れてしまいます。ホッファとはボディーガードながら親友のような間柄になっていたフランク。ラッセルに「手は尽くした」と言われ、ホッファ暗殺を任されたフランクは悩ましい表情のまま指示された場所へ向かうのです。 『アイリッシュマン』は、こうした戦後のアメリカ裏社会を生きた男たちの信頼と友情、そして裏切りと虚しさがテーマとなっています。またフランクの家族関係もサブテーマであり、ホッファに懐いていた娘のペギーがフランクのホッファ暗殺に気づいて絶縁してしまうのも、彼の殺し屋人生の虚しさを強調するものでした。

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ジミー・ホッファ失踪事件

アイリッシュマン、アル・パチーノ
Netflixオリジナル映画「アイリッシュマン」 11月27日(水)独占配信開始

本作では、ケネディ大統領暗殺と同じく真相が謎のままとされている「ジミー・ホッファ失踪事件」が大きく取り上げられています。ホッファは1957年から1971年まで全米トラック運転手組合の委員長を務め、アメリカ大統領の次に有名かつ影響力のある人物でした。なぜなら彼はアメリカの最大の労働組合の実権と全米の物流を握っていたからです。 長年マフィアと密接につながっていたため、ロバート・ケネディ司法長官に組合年金不正や裏社会とのつながりを厳しく追及されます。その模様は劇中でも登場し、ホッファがケネディ兄弟を罵るシーンも。結局1967年に有罪となり連邦刑務所に収監されますが、ニクソン大統領の特赦で出所した後、返り咲きを画策します。 しかしこれが、ホッファ追放を狙う組合幹部やマフィアとの確執を深め、1975年の失踪事件につながっていきます。映画ではその経緯がフランクの回想として詳しく描かれていますが、劇中では結局最後までフランクははっきりと告白はしていません。原作はフランクが告白したことをもとに書かれており、それまで様々な説が浮上したホッファ失踪事件に、新たにフランク・シーラン犯人説が加わることになりました。

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『アイリッシュマン』見どころ

マーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ—レジェンドたちの共演

そもそも、実在の主要人物であるフランク・シーラン、ラッセル・バッファリーノ、ジミー・ホッファの3人を、70年代以降にマフィア・ギャング映画の最盛期を彩った伝説の俳優たちが演じるということ自体が豪華。ロバート・デ・ニーロとジョー・ペシは『グッドフェローズ』と『カジノ』でマーティン・スコセッシ監督とマフィア映画の傑作を作り上げ、アル・パチーノは「ゴッドファーザー」三部作で名を馳せた名優です。 意外なことに、アル・パチーノとマーティン・スコセッシ監督が組むのは『アイリッシュマン』が初めて。しかも事あるごとに比較される同じイタリア系アメリカ人俳優ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノのがっつり共演が、本作で実現しているということも何よりの見どころなのです。 ジョー・ペシは2010年以来映画出演がなく、事実上俳優としては引退状態でしたが、マーティン・スコセッシ監督の熱心な説得によって本作への出演が決まりました。なんと説得に数年かかり、50回ほど断られたとか!監督の情熱が伝わるエピソードですね。

革新的映像技術で蘇った若かりし日の名優たち

『アイリッシュマン』はフランク・シーランの半生を描いた作品であり、彼の若かりし頃から老年期までをロバート・デ・ニーロ一人が演じることは、実質的には不可能かと思われました。 しかし「スター・ウォーズ」シリーズなどを手がけてきたルーカスフィルムのVFX制作会社「インダストリアル・ライト&マジック」が、彼の風貌を若返らせる特殊効果の実現に成功。風貌だけでなく、姿勢を伸ばしたり動作を早くするなど細かな演技によって、青年期から老年期までを一人で演じきっています。 実際にその風貌の移り変わりを見てみるとほとんど違和感なく、まるで若き日のロバート・デ・ニーロを見ているよう。彼だけでなく、アル・パチーノとジョー・ペシにも特殊効果が施されており、微妙な月日の経過を追って目撃することができます。

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『アイリッシュマン』のトリビアを紹介

『グッドフェローズ』を使った実験とセルフオマージュ

マーティン・スコセッシ監督は若返りの特殊効果の出来を確認するために、『グッドフェローズ』の一場面を再現実験したようです。それは、ロバート・デ・ニーロ演じるジミー・コンウェイが部下に組織犯罪を隠すため高級品を処分するよう命令するシーンだったとか。わざわざ『グッドフェローズ』に似たセットを作り、ロバート・デ・ニーロが演じたといいます。 その『グッドフェローズ』を、『アイリッシュマン』本編で連想させるシーンがあります。本編のオープニングは『グッドフェローズ』の「コパカバーナ・クラブ」シーンにも登場するようなトラッキングショットです。 しかし前者が活気あふれるクラブの台所からきらびやかなステージへ向かうのに対し、後者では養老施設で一人佇む車椅子の老人、つまりフランクに向かっていきます。実にアイロニカルで対照的なシーンとなっています。

「ゴッドファーザー」シリーズとのつながり

『アイリッシュマン』では、ジェシー・プレモンス演じるホッファの養子チャッキー・オブライエンは、養父が暗殺される計画に気づかずに手を貸してしまうという、やや不運な人物として描かれています。しかし実際のチャッキーはまったくその逆で、『ゴッドファーザー PARTⅡ』に登場するコルレオーネ・ファミリーの弁護士トム・ヘイゲンというキャラクター形成に一役買ったスマートな人物だったという面白いつながりがあります。 もちろん、『ゴッドファーザー PARTⅡ』でロバート・デ・ニーロが若き日のドン・ヴィトー・コルレオーネを演じ、その息子マイケル役を務めたのがアル・パチーノであるという“奇跡のつながり”を忘れてはいけません。マフィア映画の金字塔となった「ゴッドファーザー」三部作と比較されることも多い『アイリッシュマン』ですが、批評家や観客から絶賛されており、新たなマフィア映画の傑作として記憶に刻まれることは間違いなさそうです。

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奇跡の共演!『アイリッシュマン』のキャストを紹介

フランク・シーラン/ロバート・デ・ニーロ

ロバート・デ・ニーロ
WENN.com

‟アイリッシュマン”こと25人以上の殺害に関与したとされるマフィアの殺し屋、フランク・シーランを演じるのは、ロバート・デ・ニーロ。 デ・ニーロの俳優としての出世作は1974年の『ゴッドファーザー PART2』です。この作品で、若き日のドン・ヴィトー・コルレオーネを演じ、アカデミー助演男優賞を受賞したデ・ニーロは一躍有名になり、以降犯罪映画では欠かせない存在となりました。 マーティン・スコセッシ監督とは、1973年の『ミーン・ストリート』に出演して以来、多くの作品でタッグを組んでおり、『アイリッシュマン』は9度目の共作となります。

ジミー・ホッファ/アル・パチーノ

アル・パチーノ
WENN.com

全米トラック運転組合の委員長で、マフィアとつながりを持ち、不正を働いていたとされるジミー・ホッファを演じるのはアル・パチーノです。 1971年の『哀しみの街かど』でヘロイン中毒者の演技が評価されたパチーノは、翌年1972年の『ゴッド・ファーザー』でマフィアのボスの三男マイケル・コルレオーネ役を演じ俳優としての地位を確立していきました。『ゴッド・ファーザー』にはデ・ニーロはオーディションで落ちてしまったため共演していませんが、『ゴッドファーザー PART II』で二人は父子役として出演しています。 以降、デ・ニーロとパチーノは8作品に渡って共演経験がありますが、意外にもパチーノがスコセッシ作品に出演するのは本作が初だそうです。

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ラッセル・バッファリーノ/ジョー・ペシ

ジョー・ペシ
©︎Philip Vaughan/ACE Pictures/Newscom/Zeta Image

フランク・シーランを雇ったマフィアのボス、ラッセル・バッファリーノを演じるのはジョー・ペシです。 身長158㎝という小柄でありながら、甲高い声を活かした独特の存在感がある俳優です。1990年の『グッド・フェローズ』で演じたマフィアの構成員役がアカデミー助演男優賞に輝き、以降イタリア系マフィアのキャスティングには欠かせない存在になりました。 しかし、1990年の『ホーム・アローン』で子供に翻弄させられる泥棒のハリーを演じるなど、コメディのセンスも持っています。 デ・ニーロとは同じイタリア系ということで親交が深く、2006年にデ・ニーロが監督した『グッド・シェパード』に出演もしています。

ゴールデングローブ賞にノミネート!アカデミー賞ノミネートなるか?

アカデミー賞の前哨戦ともいえるゴールデングローブ賞が先日発表され、『アイリッシュマン』は作品賞・監督賞など4部門で5ノミネートと、すでに高い評価を受けています。特に助演男優賞にアル・パチーノとジョー・ペシの二人が同時ノミネートされていることは嬉しい限りで、アカデミー賞にも手が届きそうな勢いです。 マーティン・スコセッシ監督のこれまでのキャリアの集大成ともいえる3時間30分もの大作であり、念願の豪華キャストの共演や巨匠のNetflix参戦という話題性も相まって、今後もさらなる注目を集めるかもしれません。ショーレースの発表前には、ぜひ鑑賞しておきたい作品です。