ハードルが高いから萌える!異種間恋愛の魅力に迫る
お相手は神様や仙人仙女?時には幽霊や魔物?古今東西の神話や民話の世界を見れば、人はいつの時代も人ではない者を畏怖し忌み嫌いながら一方で、そうした存在との恋愛に憧れ続けてきたようです。 映画の世界でも「人ではない者」たちとの男女関係は、時に人を相手にする時よりも濃密で純粋なものとして描かれてきました。種族が違うからこそ生まれるすれ違いや別れの予感の切なさが、物語を盛り上げます。 今回は、ファンタジーからホラー、SFなど、さまざまなジャンルから7本の作品をピックアップ。ハードルが高いからこそ萌え上がる異種間恋愛のドラマティックな魅力を、検証してみたいと思います。 本記事ではネタバレを含みます。
少年のように純粋な死神が運んできた、幸せと切なさ
『ジョー・ブラックをよろしく』は、ブラッド・ピットが一人二役を演じて話題となった、大人のファンタジーです。新しい人生の夢と希望を抱いて都会にやってきた元気な青年と、人生の終末を告げるために現れた死神という、立ち位置的には真逆なキャラクターを見事に演じわけています。 当時のブラピは30代半ば。キラキラ感が半端ではありません。とくに死神が青年の身体を借りている姿には、神々しいほどの透明感が漂っています。それは人生の幸せに興味を持って現世を訪れた死神が、まるで少年のように純粋無垢で汚れを知らない存在だから、でしょうか。 死神のくせに彼は、周囲の人々に幸せを運んできます。共演はアンソニー・ホプキンスとクレア・フォーラニ。それぞれ大富豪とその娘として、ブラピの純粋な好奇心に振り回されながらも家族の幸せや恋をする素晴らしさを深く知り、成長していく役を好演しました。 大富豪の死期が近づくにつれて募るのは、迫りくる喪失への恐怖ではなく別れが訪れる切なさのほう。人生いろいろ、だから面白い!と、死神に教えてもらったような気がします。
最先端のAIに恋をした男が知る、理想と現実の深い溝
『her』のヒロインは人工知能型OS(AI)サマンサ。演じたのはスカーレット・ヨハンソンですが全編を通じて声のみの出演で、見事なブロンドヘアは一切登場しません。それでも主人公が心奪われてしまう理由は、彼女との会話がとても楽しいからにほかなりません。 仕事や日常生活で彼のことを理解し巧みにサポートしながら、ユーモアに溢れた会話で癒してくれるAIは、まさに理想の恋人です。なによりも自分のことを深く理解し、自分が欲しい言葉をかけてくれることが、公私ともに疲れ果てた主人公の心を癒します。 一方でハマり込むと、現実を知った時の衝撃がハンパではないのは、AI相手の恋愛にありがちなリスク。主人公にとってサマンサが「世界でひとつ」の恋人でも、超ハイスペックな彼女にとって彼は同時進行でお相手している数多くの「恋愛対象」のひとりである可能性が、大。それって切なすぎです。
12歳のまま生き続けるヴァンパイアと少年の残酷な愛
2008年に公開されたスウェーデン映画『ぼくのエリ200歳の少女』を、2010年にハリウッドがリメイク。謎めいた美少女アビーといじめられっ子の少年オーウェンの、ピュアで恐ろしい恋愛物語が描かれます。 ヒロインを演じるのは、クロエ・グレース・モレッツ。可憐だけれど不気味な存在感を漂わせる少女の正体は、ヴァンパイアです。外見年齢は12歳ですが、年をとることなく長い時間を生き続けています。ともに暮らす初老の男が少女の怪物じみた「飢え」を癒すために数多くの人間を惨殺し、血液を絞り取ってきました。 狂気に満ちた男のふるまいとは対照的に、少女と少年のつながりは淡く美しいものです。彼女の存在は少年に勇気を与えます。時々血をすすったりする姿にはそうとう凄みが感じられますが、すべては生きるため。愛らしいことに変わりはありません。 全編を通じて優しさと残虐さが見事に同居した物語から伝わってくるのは、人が人生を賭けてまで誰かを好きになることは決して理屈ではないのだという事実。怪物であるアビーを、オーウェンはきっと一生愛し続けるのでしょう。
ネコ科だけど猛獣系な美女から始まる異世界生活と大冒険
同じ人類同士でも、人種や種族が異なれば決定的に「美人」の尺度が違ってくるものです。ましてや「人型」というところだけが共通項の異星人相手に恋愛感情など起きるはずはないハズ。そんな常識を覆すのが『アバター』のヒロイン、ネイティリです。 地球の生物で言えばヒョウのようなネコ科の猛獣系な顔立ちに全身真っ青な肌の色など、ルックス的には地球人の美的感覚にフィットする部分はほぼ皆無。けれど彼女の純朴な心根と勇気と慈愛に満ちた生き様は、主人公だけでなく観客の心まで揺さぶります。 そしてなにより魅力的なのは、彼女と彼女の種族が生きている世界の壮大さでしょう。自然とともにあるがままの姿で生き続けることへの憧れは、人間が本能的に持つ生き物としての強い願望なのかもしれません。主人公の究極の選択に、きっと共感してしまうでしょう。
森を守る妖精と王子の悲恋。呪いを解くのはやっぱり愛
映画『マレフィセント』は、『眠れる森の美女』を、プリンセスではない新たなヒロインの視点からリメイク。アンジェリーナ・ジョリーが、恐ろしくも次第に愛おしく思えてくる闇の魔法使い・マレフィセントを熱演しています。 もともと彼女は優しさと強さを兼ね備えた美しい妖精でした。けれど利己的な人間の王子に恋心をもてあそばれたあげく、妖精の象徴でもある翼を無残に奪われてしまいます。妖精であるがゆえの純粋無垢な心をふみにじる人間側の理屈は、醜く不快です。 彼女の思いの深さはオーロラ姫への呪いを生みます。けれどオーロラの成長とともに、それが愛に変化していきます。信じた恋人に無惨に裏切られた悲しみと、それを補って余りある慈しみの想い。二重の意味で、愛する切なさを感じさせる物語です。
恐ろしいほど美しい世界で、イケメンの『ドラゴン』と暮らす日々
『ドラゴン』は、ロシア版『美女と野獣』といった趣のダークファンタジー。恐ろしいドラゴンに生贄として捧げられたヒロインが、幸せをつかみとるまでを描きます。 彼女が恋に落ちるのは、まさにそのドラゴン。空を飛びます。火も吐きます。そうとう残虐な一面もあります。けれど、実はその正体はイケメンです。謎めいた美青年の正体を知ってなお、ヒロインは彼とともに生きる決心をします。 正体がイケメンだとわかってくると、ドラゴンの姿ですら美しく気高く見えてくるのが不思議です。なによりも世間知らずゆえに孤独で純朴な彼の姿は、守ってあげたい母性本能をくすぐりまくることでしょう。 圧倒的に美しい世界観と映像には、誰もが魅せられてしまうハズ。とくに青年が暮らす「島」の絶景ぶりは圧巻です。ドラゴンと一緒に暮らしたくなる気持ちが、よくわかります。
魚人を救うために中年女性が一念発起!『シェイプ・オブ・ウォーター』
アンデルセンの童話「人魚姫」をモチーフにした恋愛映画と言えば『スプラッシュ!』(1984年/ロン・ハワード監督)や『人魚姫』(2016年/チャウ・シンチー監督)が知られていますが、これまでは常に女性=ヒロインが異種族として描かれてきました。 しかし異種間恋愛ストーリーの最新版は、ちょっと違います。『パンズ・ラビリンス』などダークファンタジーの巨匠として知られるギレルモ・デル・トロ監督の新作『シェイプ・オブ・ウォーター』では、男女の立場が逆転。アマゾンの奥地で神格化されていた知的魚人の命を救うために、言葉を失った大人しい中年女性が立ち上がります。 見た目はかなりグロテスクな「魚」感が強い相手を、異性として想うヒロインの気持ちの根底にあるものは、孤独への癒しでしょうか。音楽やダンス、手話といった言葉に頼らないコミュニケーションが生む心のつながりの大切さを、改めて知ることができそうです。
もう普通の恋では満足できない!?
A huge congratulations to #TheShapeofWater team on their 13 #OscarNoms from @TheAcademy! #Oscars2018 pic.twitter.com/Td8kS1Ediq
— The Shape of Water (@shapeofwater) January 23, 2018
思わず憧れてしまいそうな異種間恋愛のストーリーは、見つかりましたか? ジャンル的にはほかにも天使や悪魔、中にはゾンビなどというスイートスポットが広めな恋愛物語もあります。普通の恋じゃ満足できない!と日頃からストレスを感じていらっしゃるようでしたら、ぜひ一度、チャレンジしてみて下さい。 もっとも……最近あなたが気になっている「彼女」が、ヴァンパイアではないという保証は、まったくありませんが。