【ネタバレ解説】映画『TENET テネット』の謎をわかりやすく解決!あらすじ・時系列・伏線を徹底考察
『インセプション』(2010年)、『インターステラー』(2014年)など、時間が鍵となる映画が多いクリストファー・ノーラン。そんな彼の監督作でも特に難解なのが、『TENET テネット』です。 時間が交錯するため話の流れを理解することが難しいといった声も多く、カーチェイスシーンや最後の挟撃作戦の流れなど疑問点がいくつも出てくるクリストファー・ノーラン史上最難解な作品の1つです。 そこでこの記事では、すでに『TENET テネット』を鑑賞した人に向けて、本作の謎を徹底解説していきます。 ※この記事には『TENET テネット』の結末までのネタバレが含まれます。作品を未鑑賞の方はご注意ください!
タップできる目次
- 【ネタバレあらすじ】ストーリー全体の時系列を把握
- 【疑問①】セイターの目的とは?これで映画の大筋がわかる!
- 【疑問②】時間の順行・逆行とは?難解すぎる仕組みを解説!
- 【疑問③】映画の肝!挟撃作戦の仕組みは?
- 【キーポイント①】難解すぎるカーチェイスを解説
- 【キーポイント②】ニールの行動とその後を解説
- 【キーポイント③】ラストシーンの意味を解説
- 【考察①】タイトル「TENET」に隠された伏線
- 【考察②】「無知」が武器とはどういうことか
- 【考察③】【ネタバレ】『TENET テネット』が伝えたかったこととは?
- 【見どころ】『TENET テネット』の注目点
- 【キャスト】キャラクターを演じる俳優・女優
- 【サントラ】トラヴィス・スコットが楽曲を書下ろし
- 【映像美】クリストファー・ノーランのこだわり
- 映画『TENET テネット』解説を読めば必ずもう1度観たくなる!
【ネタバレあらすじ】ストーリー全体の時系列を把握
【図解】主人公から見た時系列
まずは主人公から見た本作の時系列を、ざっくり整理してみましょう。 彼の物語はオペラハウスでのテロにはじまり、いくつかの重要な出来事を経て、セイターとプルトニウムを奪い合ったカーチェイスの後から時間を逆行していきます。 そして最終的には、オペラハウスのテロと同日に起こっていたスタルスク12での戦闘に参加しました。
①キエフのオペラハウスでのテロ
CIAの特殊部隊員として、ウクライナのオペラハウスで起きたテロの鎮圧作戦に参加していた「名もなき男」。彼はそこで仲間を守り、テロリストに捕らえられてしまいます。尋問がくり返されるなか、機密情報を漏らしてしまう前に自らの命を断とうと、彼は毒薬の入ったカプセルを口にしました。 しかしその中身は鎮静剤にすり替えられており、彼は船の上で目を覚まします。そしてそこである男から、謎のキーワード「TENET(テネット)」だけを頼りに“未来から来た敵と戦い、世界を救う”というミッションを与えられるのでした。 そして彼はある研究所で時間逆行装置と「時間を逆行する弾丸」の存在を知り、弾丸の出どころを探ることになります。 その後、彼は相棒となるニールと合流し、弾丸の出どころはロシアの武器商人セイターであると突き止めます。2人は彼に取り入るため、その妻キャットと接触。彼女はもともと画商でしたが、過去にセイターへ贋作の絵を売ってしまったため、囚われの身となっていました。 ストーリーの起点となるこのシーンでは、ジョン・デイビッド・ワシントン演じる「名もなき男」の性格を垣間見ることができます。観客も彼と同様に、わけがわからないままストーリーに引き込まれていきます。
②オスロの空港の倉庫
キャットをセイターから解放して信頼を得るため、主人公とニールは彼女が囚われている原因である贋作の絵を破壊しに行きます。しかしそこで正体不明の何者かに遭遇し、計画は失敗してしまいました。 未来に起こったある出来事から、彼らはのちにこの時間に戻ることになります。 その後、今度は武器商人としてセイターと接触する主人公。日ごろの憎しみからキャットはセイターを乗っていた船から突き落としますが、名もなき男がセイターを救出します。 借りを作りたくないというセイターに対して名もなき男は「プルトニウム241を盗みたい」と告げました。その夜、セイターの船に金塊が運ばれセイターが手をかざすと逆行していきます。未来から報酬を受け取る現場だったのです。名もなき男は盗み見ていましたがバレて、捕らえられてしまいます。 セイターは、監視付きでプルトニウム241の奪還を名もなき男に命じました。
③タリンのフリーポート
大規模な作戦を決行しつつ、正体不明の逆行する車を利用してプルトニウム241の奪還に成功した主人公たち。逆行してきたセイターには空箱だけ渡し、プルトニウム241は見知らぬ車に投げ入れます。 しかしフリーポートでキャットが「逆行する弾丸」で撃たれ、プルトニウム241もセイターに奪われてしまいます。主人公はもう1度プルトニウムを奪い返そうと、逆行してセイターを追います。その際、順行していたときにプルトニウムを投げ込んだのは、逆行している自分が運転している車だったと判明しました。 彼はプルトニウム奪還に成功したものの、またしても逆行してきたセイターにそれを奪い返され、車に火をつけられてしまいます。ニールは凍傷になりかけた主人公を救出して、さらにキャットを治療しますが、「逆行する弾丸」で撃たれた彼女の回復までには時間が必要でした。 カーチェイスからフリーポートまでのシーンはとても複雑なので、後の見出しで詳しく解説していきます。
④再びオスロ空港へ侵入
逆行する弾丸に撃たれたキャットが回復するまでの時間を稼ぐため、主人公たちは時間を逆行して空港に戻ります。 しかし主人公は、ジェットエンジンの噴射で倉庫内に吹き飛ばされていまいました。そこで過去の自分と鉢合わせ、前回倉庫へ行ったときに戦った正体不明の相手は自分自身だったと知ったのです。
⑤スタルスク12での奪還作戦
主人公たちはセイターの計画を阻止するため、この時点まで戻ってきます。 このスタルスク12での奪還作戦は、オペラハウスでのテロ、そしてキャットたちがベトナムでクルーズ旅行をしていたのと同じ日に起こっていました。 自分が死ぬと「アルゴリズム」が起動するように設定したセイターは、過去の“14日”に戻り、自らの出身地であるスタルスク12で「アルゴリズム」を起動させる計画を立てていたのです。 それを知った男たちは、最後の望みをかけてその街へ。時間を順行する赤チームと逆行する青チームに分かれ、「プルトニウム241」を含む「アルゴリズム」の全てのピース奪還を試みます。 ニールの活躍により、「アルゴリズム」を彼の一味から奪うことに成功。「アルゴリズム」は、再びバラバラにして過去に隠されることになりました。
⑥クルーズ船でキャットがセイターを殺害
同じとき、キャットはセイターとベトナムにバカンスに行った“14日”に戻り、過去の自分が息子とともに船を離れている間にセイターが自ら命を絶たないよう見張ることに。 そしてスタルスク12での作戦が成功し「アルゴリズム」が分解された後には、キャット自らの手でセイターを殺す計画でした。しかし彼女はぎりぎりのところで耐え切れず、スタルスク12での作戦成功の連絡が入る前にセイターを殺してしまいます。 彼女がセイターを海に落とした時点ではまだ彼は死んでいなかったのか、幸い「アルゴリズム」奪還作戦は成功したため、事なきを得ました。
【疑問①】セイターの目的とは?これで映画の大筋がわかる!
本作に登場する「回転ドア」や「アルゴリズム」は気候変動によって地球に住み続けることができなくなった未来人が、発明したものです。未来人の目的は、地球全体を逆行させることで、過去の地球を自分たちのものにすること。 「アルゴリズム」は地球全体の逆行を可能にする大規模な「回転ドア」として発明されましたが、その危険性を危惧した一部の未来人が、「アルゴリズム」を9つに分解し過去に隠していたのです。若きセイターはアルゴリズムの1つを故郷で発見し、未来人のために動き、報酬を貰っていました。 セイターの目的は未来人と同じように9つのアルゴリズムを集め、起動すること。一方の「名もなき男たち」はこの計画を阻止するため戦っているのです。このように、『TENET テネット』の大筋は、未来人による過去の地球の侵略を止めるというストーリーになっています。
【疑問②】時間の順行・逆行とは?難解すぎる仕組みを解説!
順行、逆行とはどういう現象?
順行とは、過去から未来へと進む時間の流れを表します。いわゆる私達が過ごしている時間です。その反意語となる逆行は、未来から過去へと進む時間の流れを指します。 順行時間を生きる私達目線で言えば、逆行は「結果が先にあり原因をあとから作りに行く」という作業が必要になるわけです。
そもそもなぜ時間を逆行できるのか?
『TENET テネット』における順行・逆行の原理は非常に複雑ですが、順行・逆行が何なのか、それらのルールを理解していれば映画を鑑賞するうえでは問題ありません。ここでは、仕組みが気になる人のためにわかりやすく原理を解説していきます。 まず普段生きている順行世界は、過去から未来に進んでいますが、これをエントロピーを用いて考えてみます。エントロピーは、熱力学の用語ですが、ここではミルクとコーヒーを同じ容器に入れると勝手に混ざってしまう事と同じだと考えてみてください。この例えのように時間が未来へ進めば、物事は自然とカオス状態に向かっていきます。これがエントロピーが増え続ける状態ということです。 『TENET テネット』ではこのエントロピーを減少させる事が可能になっていました。エントロピーを減少させれば、時間は未来から過去へ進んでいきます。先ほどのコーヒーとミルクの例を用いて考えると、もとは混ざっていたコーヒーミルクがコーヒーとミルクに分離するという事です。 こう考えると、逆行が「結果が先にあり原因をあとから作りに行く」と説明されていることも納得ですね。
時間を逆行する回転ドアのルール
- 装置に入るときは検証窓から自分の姿を確認する自分の姿を確認しないと装置から出られなくなってしまう。
- 逆行時は肺に外気を取り込めないこのため、酸素マスクを装着する必要がある。
- 過去の自分に生身で直接触れてはいけない触れれば分子の逆行が起きて身体が消滅してしまう。
- 逆行時は熱エネルギーの作用も逆転する炎は熱を奪い、氷は熱を放つ。
時間逆行装置には時間が順行する「赤の部屋」と、時間が逆行する「青の部屋」があります。それぞれの色の部屋では、それぞれの方向に時間が進む、または戻るのです。 「順行」の赤と「逆行」の青に倣って、最後の作戦では時間を順行する主人公たちのチームが赤、逆行するニールたちのチームが青の腕章をつけていました。
【疑問③】映画の肝!挟撃作戦の仕組みは?
挟撃作戦の概要
スタルスク12の地底にアルゴリズムを隠すためセイターの軍隊は基地爆破を計画します。その計画を阻止するために順行時間で活動する赤チームと逆行時間で活動する青チームに分けられ挟撃作戦が決行されました。 5分経過時点でビルを同時に爆破するなど両時間軸で協力。青チームのニールは途中で順行と逆行を行き来し名もなき男を助けに行きます。
スタルスク12での最終決戦はどうなっている?
スタルスク12では、「アルゴリズム」を起動させようとするセイター一味と、「テネット」の赤・青チームの激しい攻防がくり広げられます。5分経過時点で、両方の時間軸からビルを狙撃。逆行の銃弾が戻り修復したビルを順行の銃弾によって破壊するなど両方の時間を合わせた戦略をとっていきました。 名もなき男は赤チームから独立して「アルゴリズム」を奪いに行き、トンネルのなかに閉じ込められてしまいます。 そんな彼らを救ったのは、バックパックにオレンジ色のコードを付けた青チームの誰か。時間を逆行していた彼はセイターの部下を制し、「アルゴリズム」がある場所へ男たちが入れるように内側からドアを開けました。しかし彼はセイターの部下に頭を撃たれてしまいます。 扉が開いたことで名もなき男は「アルゴリズム」を奪うことに成功。青チームとして動いていたはずのニールが穴にロープを投げ込み、彼らを救出しました。 作戦を成功させた男たちは、再び「アルゴリズム」をバラバラにして過去に隠すことに。別れ際、男がニールに彼らを過去に差し向けたのはいったい誰なのかと訊きます。ニールは笑いながら、それは未来の「名もなき男」本人であることを告げ、「また会おう」と去っていきました。 そこで彼は、ニールのバックパックにオレンジ色のコードが付いていることに気が付きます。
【キーポイント①】難解すぎるカーチェイスを解説
【図解】カーチェイスシーンでの各自の行動
ここからは、本作でもっとも時系列がこんがらがっているカーチェイスのシーンを解説します。 同じ人物が順行したり逆行したりして同時に存在しているため、複雑に感じられるこのシーン。1つずつ順を追って紐解いていきましょう。
主人公たち順行中の出来事
まず主人公と彼のチームは、消防車などを使った大掛かりな作戦でプルトニウム241を盗むことに成功します。そしてセイターにそれを入れたと見せかけた空のケースを渡し、プルトニウム241は逆行してきた見知らぬ車に投げ込みました。 その後主人公は、セイターが乗っていた逆行する車に取り残されたキャットを救出します。しかしセイターはケースが空であることに気づき、フリーポートで「回転ドア」を使って未来から連れてきたキャットを人質に主人公を問い詰めました。 主人公から情報を引き出したセイターは、キャットを逆行する弾丸で撃ちプルトニウム241を回収しにいきます。
主人公たち逆行後の出来事
「回転ドア」の向こう側の青い部屋から彼女を救い出した主人公は、彼女の治療をニールやアイブスに任せ、逆行してセイターを追うことに。 ここで、さきほど自分がプルトニウム241を投げ込んだ逆行する車は、逆行してきた自分が運転している車だとわかります。しかし実はセイターもそのことに気付いており、逆行する主人公の前に再び現れるのです。 主人公の乗る車はクラッシュし、セイターに火をつけられてしまいました。プルトニウム241も奪われてしまいます。時間が逆行しているため炎は熱を奪い、車はどんどん凍って主人公はピンチに。そこへやはり逆行してきたニールが現れて、彼を救い出しました。
【キーポイント②】ニールの行動とその後を解説
【図解】スタルスク12でのニールの行動
映画終盤のスタルスク12での戦闘で、もっとも重要な役割を果たしているのがニールです。 彼は逆行部隊の一員として作戦に参加します。しかし主人公とアイブスがこれから突入しようというトンネルの入り口に、敵が爆弾を仕掛けているのを目撃。彼らを警告するため、急きょ順行して車で追いかけますが主人公たちは気づかず、案の定トンネルに閉じ込められてしまいました。 主人公たちはトンネルの奥、「アルゴリズム」がある場所の手前までたどり着きますが、扉が閉まっていて中に入ることができません。扉の内側には青チームの“誰か”の死体が。 「アルゴリズム」の起動まであと数秒に迫ったとき、その死体は時間を逆行して蘇り、主人公たちを阻んでいた扉を開けます。しかし彼はセイターの部下に頭を撃たれて、再び動かなくなりました。 扉が開いたことで主人公たちは「アルゴリズム」の奪取に成功。その後ニールが丘の頂上から穴にロープをたらし、主人公とアイブスを救出しました。
ニールの行動の理由とは?
ここで主人公たちを助けた「青チームの“誰か”」はもちろんニールです。 スタルスク12での戦闘では、最終的に未来からやってきたニールが身を挺して主人公を守ります。主人公は逆行するニールがその後命を落とすことを悟っていますが、それを直接本人に知らせることはしませんでした。 なぜなら彼の行動は作戦の成功に不可欠だったからです。“「無知」を武器にする”は彼らの行動基準になっています。ラストで主人公と別れたニールにとって、スタルスク12での2度目の逆行は未来であり、なにが起こるか知らない方がいいと考えることができます。 ただ一方で、作中でニールは“「無知」を武器にする”と同時に、“起こったことは仕方がない”とも言っています。ニールは自分の動きが作戦の成功を左右することを知っていて、主人公の表情から死を悟りながらも過去に戻ったとも考えられるのです。 どちらにしろ、ニールの決死の行動がなければTENETの作戦は成功しませんでした。
【キーポイント③】ラストシーンの意味を解説
セイターに勝利し、新たな現在にたどり着いた「名もなき男」。彼は未来の自分こそが、ニールやプリヤを動かしていた黒幕であると知りました。 一方で、この新たな現在にいるキャットは主人公たちと行動をともにしてきた存在です。彼女は「名もなき男」や「テネット」のことを知りすぎてしまっていました。 プルトニウム241はとても危険な装置なので、その存在を知ってしまった人は死ななければいけません。スタルスク12で主人公と別れたアイブスが言っていたのは、そういうことだったのです。 主人公はプリヤに「テネット」のことを知ってしまったキャットを殺さないよう頼んでいましたが、新たな現在に戻ったキャットは、彼に身の危険を感じると連絡します。 そこで彼はプリヤが彼女を殺そうとしていることに気づき、自ら手を下したのです。ここから彼は「テネット」を遂行する黒幕として暗躍していくのでしょう。 また一部のファンのあいだでは、キャットの息子である幼いマックスが将来「ニール」になってTENETに参加するのでは?という声もあがっています。 たしかにニールを演じるロバート・パティンソンは、本作では明るいブロンドに髪を染めており、それがキャットとの血のつながりを思わせますね。
【考察①】タイトル「TENET」に隠された伏線
『TENET テネット』はラテン語の回文から
タイトルの「テネット(TENET)」は「主義」「信条」「原則」という意味ですが、その言葉こそが本作の最大の鍵です。 実はこれは、「SATOR式」と呼ばれるラテン語の回文と関係があります。前から読んでも後ろから読んでも「SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS(農夫のアレポ氏は馬鋤きをひいて仕事をする)」と読めるこの回文は、正方形の方陣にセットすると四方から同様に読むことができるのです。 さらに中央の「TENET」だけは、上下左右のどこからでも同じように読めるようになっています。 『TENET テネット』のストーリーラインも回文のようになっていて、前半は現在から未来に向かって時間が「順行」します。そして後半では、ある地点からこれまでのストーリーを「逆行」して、別の物語が展開していくのです。 本作で登場人物たちは、過去に戻るためにすでに経験したことをもう1度逆向きに経験しなければいけません。それがこれまでのタイムトラベルものとの大きな違いであり、見ごたえのある驚きの映像とストーリーを生み出しています。
タイトルがスタルスク12の闘いの伏線に
またおもしろいことに、「TENET」を真ん中で分解すると「TEN(10)」とその逆向きに。これはクライマックスのスタルスク12での戦闘で、時間を順行する赤チームが10分前から、逆行する青チームが「爆発」の直後から任務を開始し、両方向から爆発に対処しようとしていることと重ねて考えることができるのではないでしょうか。 さらに上の画像の回文をよく見てみると、本作に関係のある言葉が隠されていることがわかります。それは、アンドレイ・セイターを示す「SATOR(セイター)」、キャットがセイターに売った贋作の作者である「AREPO(アレポ)」、物語の起点となった場所を示す「OPERA(オペラ)」、そしてオスロの金庫を使っていた会社名「ROTAS(ロータス)」。 これだけでも、本作の脚本がよく練られていることに驚かされます。
【考察②】「無知」が武器とはどういうことか
ニールをはじめとする「名もなき男」に関わった人たちは、未来からやってきた敵と戦うために“「無知」を武器にする”と言っていました。普通であれば、この先なにが起こるか知っていたほうが有利に思えますが、そうではないと彼らは言います。 時間を逆行して過去に戻ったあと、そこから目指す未来にたどり着くための手段や方法は、その時点ではわかりません。彼らはただ、逆行する前にすでに行ったことが適切ではなかったことを知っているだけです。 未来を変えるには過去の行動を変える必要がありますが、そのための最適解はその場で考えて動くことになります。そして望んだ結果を出すことができれば、その行動は未来から見たときに適切だったことになるのです。 “知らない”ことでそれ以外の選択肢をとる可能性や自分の行動に制約をなくし、新たな未来を築くことができる、という考え方が“「無知」を武器にする”ということです。
最初に空港の保管庫に忍び込んだとき主人公は未来の自分と戦い、そうとは知らずに殺そうとします。ニールは彼が戦っている相手の正体を知っていましたが、理由を言わずに彼の「自殺」を止めました。 もしここでニールが相手の正体を明かしていたら、主人公のその後の行動はどうなっていたか分かりません。つまり彼らがやってきた未来にきちんと繋がるかどうか、分からないのです。
【考察③】【ネタバレ】『TENET テネット』が伝えたかったこととは?
【考察】セイターと主人公たちを分けたのは「テネット(=信条、主義)」の違い
セイターの目的は巨大な時間逆行装置である「アルゴリズム」を起動させ、地球全体の時間をさかのぼり全てを無に帰すことでした。彼はなぜそんなことをしようとしたのでしょうか。 その理由は、彼がクルーズ船からスタルスク12にいる主人公に電話で語った気候変動による未来の惨状にあります。彼とその仲間は悲惨な未来を変えるため、過去の全てをなかったことにしようとしていたのです。 もちろんそんなことをすれば未来にセイターが生きている保証もなくなりますが、ここでニールが語った「祖父殺しのパラドックス」がポイントになります。 それは「過去に戻って自分の祖父を殺したら、孫である自分は消滅するのか」という議論。この問いに答えはありませんが、セイターたちは「祖先を殺しても自分たちには関係ない」と考えているのです。 セイターは未来の惨状をどうにかするために、地球をゼロからやり直そうと考えていました。その背景には、彼自身が余命いくばくもないこと、そして「自分のものにできないのなら、誰のものにもさせない」という彼の支配欲も関係しています。 しかし未来の「名もなき男」は、セイターが全てを消滅させることを良しとしませんでした。彼らの使っている時間逆行装置では、過去に行くことはできますが未来を知ることはできません。 そのため彼は“未来は変えられる”と信じているのではないでしょうか。“「無知」を武器にして”未来を切り開くこと、それが彼の信条(テネット)なのです。 そしてそれは、私たち観客にも「未来は変えられる」ということなのかもしれません。また望む未来を導き出すために“「無知」を武器にして”起こした行動は、未来から見ればそのときするべきだったことをしたことになります。 この考えとニールがよく口にしていた“起こったことは仕方がない”という考え方は、一見矛盾するようにも思えます。しかし実は、失敗かと思えたことも未来のためには必要だった、という意味があるのではないでしょうか。 そう考えると、この2つは私たちが生きていくうえでも希望を持てる価値観です。
【見どころ】『TENET テネット』の注目点
見たこともない映像にひたすら目を奪われる
『TENET テネット』の最大の魅力は、とにかくその驚きの映像にあります。予告編でも映し出されていたとおり、後ろ向きに走る車や銃口に戻る弾丸など、「時間の逆行」という本作のテーマはこれまで誰も見たことがない映像を生み出しました。 時間が逆行するなかでのアクションに圧倒されながら、これらのシーンはいったいどうやって撮影したのか?という疑問も浮かび上がってくるでしょう。 もしストーリーをうまく理解できなくても、この映像を見るだけで充分に映画館に行く価値があります。映画冒頭でも、あるキャラクターが「あまり深く考えるな」というようなセリフを言っているのです。 「映像体験」として、本作はノーランのこれまでの作品とでさえ全く次元が違います。
観たあと誰かと話したくなる!『メメント』を彷彿とさせる“時間逆行”のストーリー
本作は「国際スパイが世界を股にかける大作アクション」で、「革新的なブロックバスター映画」であり、「世界をめぐる冒険映画」、そして「時間の連続性」を巡る物語といわれています。 「時間の連続性」と聞くと、ノーランの初期作『メメント』(2000年)を思い出す人もいるのではないでしょうか。しかし『TENET テネット』のストーリーや設定は、それとはまた大きく違う魅力があります。 すでに紹介したように本作の構成はまさに回文のようになっており、それが映像とストーリーに革新性をもたらしているのです。 『メメント』以上に難解と感じられるストーリーは、観終わったあとに誰かと答え合わせのように話したくなることは間違いありません。
もちろんIMAXカメラで撮影
『ダークナイト』(2008年)以降、IMAXでの撮影を当たり前にしたクリストファー・ノーラン。前作『ダンケルク』(2017年)は、ほぼ全編IMAXカメラで撮影という前代未聞の作品となりました。 ノーランのこだわりにより、本作ももちろんIMAXで撮影。映像の美しさ、画面の広さや明るさなど、監督が意図したとおりに上映できる劇場はまだ多くはありませんが、カメラの性能に合わせて衣装やセットなどもディテールまで作り込まれていることがわかります。 本作でも、IMAXでなければ実現できない映像の迫力を堪能したいですね。
ホンモノ志向のド派手アクションも健在!
CGをあまり好まない映画監督として知られるクリストファー・ノーラン。彼のこだわりはアクションシーンでも発揮されます。 彼の代表作である『ダークナイト』(2008年)には、トラックがひっくり返るシーンや病院が爆破されるシーンなど、実際に撮影された危険なアクションシーンが数多く存在しました。 本作予告編でも、車が横転からもとに戻るシーン、破壊されたジャンボジェット機のパーツが戻っていくシーン、巨大な建物が爆破され残骸が飛び散るシーンなどが見られます。もちろんこれらもCGを使わず、実際に撮影した映像です。 ホンモノだけが持つ迫力のアクションも、本作の見どころのひとつです。
【キャスト】キャラクターを演じる俳優・女優
名もなき男/ジョン・デイビッド・ワシントン
本作で主演を務めるのは、2018年の『ブラック・クランズマン』で注目を集めたジョン・デイビッド・ワシントン。彼は、突然時空を超えた重大な任務を任せられる国際スパイ「名もなき男」を演じます。 名もなき男は、ウクライナで起きたオペラハウスのテロ事件に特殊部隊の一員として参加したことから、謎のキーワード「TENET (テネット)」を巡る壮大なミッションに巻き込まれる本作の主人公。 元アメリカン・フットボール選手という経歴を持つジョン・デイビッド・ワシントンについて、ノーランは「ものすごく才能のある俳優で、身体能力もすばらしい」と絶賛。 「アスリートだから、みんな彼の動きについていくのに必死だった。車やヘリコプターなど、いろいろな乗り物に乗って彼を追いかけていた」とも語っています。
ニール/ロバート・パティンソン
『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(2005年)のセドリック・ディゴリー役で注目を集め、「トワイライト」シリーズで爆発的な人気を獲得したロバート・パティンソンも本作に出演。彼が演じるのは、ワシントンの相棒となるスパイのニールです。 ニールは世界各国で任務の遂行を手助けしている優秀なエージェント。新たに公開された世界13カ国を舞台にした12種のアクションビジュアルにも、スペイン、ロシア、イギリス、フランス、日本と各国の場面に登場しています。 ノーラン作品への出演は本作が初となるパティンソン。2021年には主演を務めた映画「ザ・バットマン」が公開されました。
キャット/エリザベス・デビッキ
エリザベス・デビッキは、『コードネームU.N.C.L.E.』(2015年)や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017年)などへの出演で知られています。彼女が演じるのは、謎の悪人アンドレイ・セイターの妻キャット。一児の母でもあり、セイターの秘密を握っているキーパーソンです。 アクションビジュアルではイタリア、韓国、オーストラリア&ニュージーランドに登場。主演のワシントンが運転する車の後部座席で、叫んでいる様子が予告編に映っています。 本作以降は、声の出演を務める『ピーター・ラビット2/バーナバスの誘惑』が2021年に公開されました。
アンドレイ・セイター/ケネス・ブラナー
前作『ダンケルク』(2017年)につづき、ノーラン作品への参加となるケネス・ブラナー。彼が演じるのは、未来と現在を繋ぐ役割を果たす「謎の悪人」アンドレイ・セイターです。 天然ガスで一代で富を成したとされていますが、その裏の顔は武器商人。ロシアの財閥で、アクションヴィジュアルではマスクを付け銃を持った姿でエストニアに現れています。 イギリスを代表する名優である彼の主な出演作には、『ヘンリー五世』(1989年)や『マリリン7日間の恋』(2011年)などがあり、後者ではアカデミー賞助演男優賞にノミネート。また、『マイティ・ソー』(2011年)や『シンデレラ』(2015年)などの監督としても知られています。
プリヤ/ディンプル・カパディア
ディンプル・カパディアはインドのベテラン女優です。1973年、16歳のときにロマンティック・ミュージカル映画『ボビー』で主演デビューを果たした彼女は、その同じ年に俳優ラジェッシュ・カーンと結婚し、女優を引退。 1984年に復帰し幅広いジャンルの作品で活躍しています。 インドでは数々の受賞歴を誇る名女優として知られる彼女。本作では“TENET(テネット)”を知る秘密組織の一員、プリヤを演じました。
アイブス/アーロン・テイラー=ジョンソン
「キック・アス」シリーズや『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015年)などへの出演で知られるアーロン・テイラー=ジョンソンは、2016年の『ノクターナル・アニマルズ』ではゴールデングローブ賞助演男優賞も受賞した実力派。 以前からノーランのファンだったという彼は、本作への出演を熱望し、撮影ではすばらしい時間を過ごしたと米Colliderに語りました。彼が演じるアイブスは、プリヤが指揮する部隊のリーダーで、突然世界を救う任務を任された主人公を導く役柄です。
バーバラ/クレマンス・ポエジー
「ハリー・ポッター」シリーズのフラー・デラクール役で一躍注目を集めたクレマンス・ポエジーは、フランス出身の女優です。本作に出演するロバート・パティンソンとは、『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』で共演しました。 彼女が演じるのは、バーバラという女性科学者。予告編では白衣姿で登場し、主人公に逆行する弾丸の仕組みを教えます。
マイケル・クロズビー卿/マイケル・ケイン
2005年の『バットマン ビギンズ』以降、ノーラン作品の常連として知られるマイケル・ケインは本作にも出演。彼が演じるのは、英国情報部とのつながりを持つマイケル・クロズビー卿です。名もなき男にセイターの情報を教えます。 ケインは『ハンナとその姉妹』(1986年)と『サイダーハウス・ルール』(2000年)で2度アカデミー賞助演男優賞を受賞。イギリスが誇る名優のひとりで、シリアスからコメディまで演技の幅が広く、出演作を選ばないことでも知られています。
マヒア/ヒメーシュ・パテル
マヒア役で出演しているのが、ダニー・ボイル監督作『イエスタデイ』(2019年)で大きく注目されたインド系イギリス人俳優のヒメーシュ・パテル。同作中ではビートルズの楽曲を自ら歌って演奏するという多彩な才能を見せました。 本作で彼が演じるマヒアは、主人公とニールの行動をサポートする工作員です。
サンジャイ/デンジル・スミス
プリヤの夫であるサンジャイ役を演じるのは、ムンバイ出身のインド人俳優のデンジル・スミス。性格俳優として舞台や映画でよく知られており、これまで50本もの映画に出演しているベテランです。 近年では、2019年に配信されたAmazonプライム・ビデオの『メイド・イン・ヘヴン 〜運命の出会い〜』やNetflixの『デリー凶悪事件』など、配信サービスのオリジナル・ドラマにも出演しています。
フェイ/マーティン・ドノヴァン
アメリカのドラマシリーズ『Weeds 〜ママの秘密』のピーター・スコットソン役で知られるマーティン・ドノヴァン。彼が本作で演じるのは、テロの後、昏睡状態から目覚めた主人公に「あるミッション」を持ちかけるフェイです。 舞台でも活躍するベテラン俳優で、2000年公開のハル・ハートリー監督作『ブック・オブ・ライフ』では、イギリスのミュージシャンPJ・ハーヴェイと共演し、イエス・キリスト役を演じました。
【サントラ】トラヴィス・スコットが楽曲を書下ろし
音楽を担当するのはルドウィグ・ゴランソン
本作の音楽を担当するのは、クリストファー・ノーラン監督作に初めて参加するスウェーデン出身の作曲家ルドウィグ・ゴランソン。2014年の『フルートベール駅で』や2018年の『ブラックパンサー』の音楽を手がけたことで有名です。 ルドウィグ・ゴランソンが本作の作業を始めたのは2019年の夏。その後も新型コロナウイルスの影響下で仕上げの作業を続けてきたといいます。ほとんどの曲は自宅にスタジオごと持ち込んで、自分のパソコンで作ったとか。 クリストファー・ノーラン監督自身が実験することに前向きなため、彼も本作で新しい挑戦を本気で行ったそうです。監督もそんな若く才能ある作曲家との仕事を楽しんだよう。彼の音楽は、この謎に満ちた作品をどのように彩っているのでしょうか。
ノーラン監督も絶賛!トラヴィス・スコットの楽曲
また、本作には人気ラッパーのトラヴィス・スコットがオリジナル楽曲「The Pain」を提供しています。スコットは、カニエ・ウェストやジャスティン・ビーバー、ザ・ウィークエンドなどの有名アーティストとコラボレーションしてきた、いま世界でもっとも注目を集めるラッパーの1人。 彼は『TENET テネット』を鑑賞してから楽曲制作に臨んだとのことで、映画本編については「説明できませんね。とにかく観るしかありません。激アツですよ」と語っています。 クリストファー・ノーランはこの楽曲について、GQのインタビューで「彼(スコット)の声が、長年かけて作ってきたパズルの最後のピースになった」と絶賛。また「彼は私とルトウィグ・グランソンが作り上げた音楽と物語のメカニズムを、素早く、深く、そして心から理解している」と語りました。
【映像美】クリストファー・ノーランのこだわり
超アナログ派!CGやグリーンバックは(極力)使わない
私生活でも携帯電話やインターネットを使わないことで知られるノーランは、映画づくりの際にもデジタル技術をほとんど使わないことでも有名です。 『ダークナイト』(2008年)ではCGを使わず、本物のビルを1棟まるごと爆破。『インセプション』(2010年)の廊下が回るシーンは、回転するセットを組んで撮影しています。 また宇宙が舞台である『インターステラー』(2014年)では、グリーンバックを使わず俳優や小道具を吊るすことで無重力を表現。さらに地球の映像の一部は、実際にジェット機にIMAXカメラをつけて撮影しました。 そして『ダンケルク』(2017年)の兵士が集まるシーンでは、大勢のエキストラに加えて描き割りを使うなど、常にアナログな手法を用いてリアルな映像を作り出しています。 どれも予算が潤沢だからできることかもしれませんが、デジタルでないリアルな映像への強いこだわりを感じるものばかり。 米Entertainment Weeklyによれば、「テネット」では世界7ヶ国のあちこちで大規模なアクションの撮影をしたとのことです。本作でも、観客の期待を大幅に超える映像を見せてくれました。
IMAX大好き!長編劇映画で初めてIMAXカメラを使用した映画監督
リアルな映像にこだわるノーランは、世界で初めてIMAXで長編劇映画を製作した映画監督でもあります。その際、当時は世界に4台しかなく、約50万ドルもしたIMAXカメラをカーチェイスのシーンでひとつ壊したとか。 IMAXは通常の35mmフィルムの約4倍となる画面面積70mmの大画面が特徴。そのため映像の鮮明さや画面の明るさ、撮影範囲の広さ、音響の良さ、3D作品での立体感など、その差は歴然です。映像そのものへのこだわりが強いノーランが、IMAXを愛用するのは当然でしょう。 もちろん「テネット」でもIMAXカメラを使用しています。
IMAXにこだわるもうひとつの理由「観客に家から出る理由を与えなくては」
映像ストリーミングサービスが普及してきている昨今、映画監督のなかにはそれを肯定的には捉えていない人もいます。 ノーランは、2019年3月の英国映画館連盟の会議にビデオスピーチで登場。経済がどうであろうと、コストを省く必要があろうと、ショーマンシップは絶対に忘れたくないと宣言したうえで、自身の幼少期の体験を踏まえて、映画館で作品を鑑賞することの重要性を語りました。 映画館で映画を観る体験自体にワクワクしたというノーランは「特に古びていないのはスクリーンのスケールやサイズの記憶です。現実よりも大きな人や風景を観て、ときに圧倒され、夢中になり、興味をひかれました」としています。 また、現代の映画製作に関わる者たちには「観客に家から出る理由を与えなくてはならない。映画館の巨大なキャンバスを使う責任がある」とそのプレッシャーも語りました。
映画『TENET テネット』解説を読めば必ずもう1度観たくなる!
世界中の注目を集めるクリストファー・ノーランの新作『TENET テネット』。本作は、2020年9月18日から全国公開中です! 迫力の映像とストーリーに引き込まれる本作。ぜひ大きなスクリーンの映画館で楽しんでください!
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