【連載#6】今、観たい!カルトを産む映画たち『裸のランチ』クローネンバーグが描くいびつな世界【毎日20時更新】
連載第6回「今、観たい!カルトを産む映画たち」
有名ではないかもしれないけれど、なぜか引き込まれる……。その不思議な魅力で、熱狂的ファンを産む映画を紹介する連載「今、観たい!カルトを産む映画たち」。 ciatr編集部おすすめのカルト映画を1作ずつ取り上げ、ライターが愛をもって解説する記事が、毎日20時に公開されています。緊急事態宣言の再発令により、おうち時間がたっぷりある時期だからこそ、カルト映画の奥深さに触れてみませんか? 第5回の『サンタ・サングレ/聖なる血』(1990年)に続き、第6回は『裸のランチ』(1992年)を取り上げます!
文学ファン必見!知る人ぞ知るカルト映画?【ネタバレ注意】
一口にカルト映画といっても、作品で描かれる内容はさまざまです。あなたがその映画を観る理由はなんでしょう?好きな俳優が出演しているから?あるいは原作となっている小説やアニメのファンだから?それともメガホンを取った監督に憧れているから? 今回ご紹介する作品は、1992年に公開された『裸のランチ』という映画です。この作品は、50年代・60年代に活躍した作家ウィリアム・S・バロウズの同名長編小説を原作としています。 原作小説は、あらすじや背景となる物語などはありません。さまざまな文章から作者がツギハギした異形とも言える文体で全編構成されています。その前衛的な手法は当時の文学界に多大な影響を与え、後のサブカルチャーにも大きな影響を残しました。 そんな原作を映像化した映画『裸のランチ』。それは、文学ファンなら絶対放っては置けない奇怪な魅力に輝いているのです。 ※本記事では映画の展開について、ネタバレありで触れています。まっさらな状態で映画を楽しみたい人は、視聴後に記事を読むことをおすすめします。
映画『裸のランチ』のあらすじ
原作小説『裸のランチ』をもとに、メガホンを取ったデヴィッド・クローネンバーグ監督がオリジナルのストーリーを紡ぎ出したのが本作です。 害虫駆除員として働くビル・リーは、薬物中毒だった過去を抱えています。現在は妻もいて仕事に勤しむ、傍目から見ると幸せな毎日。しかしあろうことか妻は、リーの扱う薬剤の中毒者となってしまいました。 日々リーの仕事道具である駆除薬を盗み出し、身体に注入しては快楽に溺れる妻。彼はその事実を知ってもなにもできないでいました。ある日、リーは麻薬密売人の汚名を着せられて逮捕されてしまいます。収容された部屋には、彼の上司だと名乗る1匹の巨大なゴキブリがいて……?
気になるキャストは?
ビル・リー/ピーター・ウェラー
害虫駆除員として働きながらも謎の麻薬に溺れてしまう主人公リーを演じているのは、ピーター・ウェラーです。 彼は「ロボコップ」シリーズや『リバイアサン』(1989年)などの人気SF映画に多数出演。役者としての活動を始めたのは70年代頃で、舞台を中心に活躍していました。1979年に公開された『新・明日に向って撃て!』で初めての映画出演を果たします。
ジョーン・フロスト/ジュディ・デイヴィス
リーの妻で害虫駆除薬の中毒となってしまうジョーンに扮するのはジュディ・デイヴィスです。 多数のコメディ映画に出演してきたジュディですが、映画デビューとなった『わが青春の輝き』では英国のアカデミー賞で主演女優賞に輝くという快挙を成し遂げています。その後は1992年の『夫たち、妻たち』や1997年の『地球は女で回ってる』など、ウディ・アレン作品の常連となりました。
監督はデヴィッド・クローネンバーグ!
本作でメガホンを取ったのはデヴィッド・クローネンバーグ。ハエと合体してしまった男の恐怖を描いた『ザ・フライ』のヒットで知られる、クローネンバーグ監督ならではの魅力が本作でも発揮されています。 また、『裸のランチ』では脚本も担当。原作から得たイマジネーションを基にオリジナルストーリーを描き、斬新な発想で見事に映像化されたのです。クローネンバーグはこの作品で、全米映画批評家協会賞の、最優秀監督賞と脚本賞を受賞しました。
“裸のランチ”って?
タイトルだけ聞けば、素っ裸で昼食を食べることかと勘違いしてしまいそうですが、この映画や原作小説はそんなストリップ趣味の人を描いたものではありません。 映画にも原作小説にも一貫して流れているテーマは、麻薬との付き合いです。脈絡のない文章で埋め尽くされている原作小説ですが、その中でもはっきりと作者ウィリアム・バロウズは述べています。 麻薬とは裸の、むき出しの食事であると。細胞そのものが渇望するむき出しの食事であると。 本作では、一度は克服したものの、妻が薬物に溺れていく様子を見て、再び自分も悪夢に身を投じる主人公の葛藤と苦悩、そして遭遇する奇妙で不可解な世界が描かれます。人間の愚かさと脆さ、弱さ滑稽さが痛いほどに伝わる一作です。
原作者バロウズについて知ろう!
映画『裸のランチ』は、監督が原作からインスパイアされたオリジナルストーリーで構成されていますが、映画の魅力により深く浸るためにも原作や作者について知ることは有意義なことだと思います。 原作者バロウズは、映画の主人公リーと同じように妻を射殺しています。その事件の詳細は、ウィリアム・テルごっこを行っていた結末だというのだから驚きです。リーと同じように長年重度の麻薬中毒に苦しみながらも多方面で活躍し、若い世代にも絶大な影響を誇りました。
話す巨大なゴキブリなどシュールな展開に注目!
麻薬を密売しているとの疑いをかけられ逮捕されたリーが出会ったのは、人間の言葉を話す巨大なゴキブリ。ゴキブリは彼の上司だと言い、妻のジョーンはスパイなので殺さないといけない、と奇妙な命令を下します。 再び麻薬に溺れ、ついに「ブラック・ミート」という謎の麻薬に手を出してしまったリーを待っていたのは、魚の化物のような姿をした男でした。男の命令で手に入れたタイプライターは、巨大なゴキブリに変身したり、虫の化物のようになったりと七変化します。 この作品には、薬物による幻覚がそのまま現実の世界に起こってしまったかのようなシュールでグロテスクなシーンが多数登場するのです。
映画『裸のランチ』に出会うには
映画『裸のランチ』は2018年7月4日にキングレコードからBru-rayが発売されました。2,500円(税別)というリーズナブルな価格で、クローネンバーグ監督のいちばんの問題作『裸のランチ』が自宅で手軽に見られるのは嬉しい限りですね。 また2021年1月現在は、本作をU-NEXTで視聴することもできます。 原作小説と合わせて、奇妙な世界にどっぷりと浸ってみてください。
次回の「今、観たい!カルトを産む映画たち」は?
今回は前衛的な小説を原作に、クローネンバーグがその鬼才っぷりを発揮した『裸のランチ』を紹介しました。 連載第7回で紹介するのは、映画好きでなくてもそのヴィジュアルはおなじみ!巨匠スタンリー・キューブリックの『時計じかけのオレンジ』です。次回もお楽しみに!