2018年6月1日更新

超絶時代劇『サムライチャンプルー』が何度観ても面白いのはなぜ?

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笑いあり、涙あり、ハードな切り合いまである珍道中記。

『サムライチャンプルー』は、2004年の5月から地上波とBSを合わせて全26話で放送。スタイリッシュな映像と、摩訶不思議な世界観の中で個性的なキャラクターたちが繰り広げる旅の物語は、目の肥えたアニメファンから注目されることになりました。 江戸時代が舞台なのにカタカナ言葉はもちろんラップまで飛び交い、ロードムービーなのに時にシリアス、時にコメディ、中にはホラーになってしまう回もあるなど、なんでもありのエピソードの積み重ねは衝撃的。だからこそ、何度観ても新鮮で飽きない面白さに満ち溢れていると言えるでしょう。 独特なセンスが光る名匠、渡辺信一郎監督の新作情報が届いた今、改めてその代表作のひとつ『サムライチャンプルー』の魅力を、徹底的に紐解いてみたいと思います。

向日葵の匂いのするお侍さんを求めて、日本を縦断。

舞台は、現代カルチャーのエッセンスが濃厚に混ざっている架空の江戸時代。人を探す少女フウと流れ者のムゲン、ジンが出会う横浜から物語が始まります。フウに用心棒を頼まれたふたりですが、実はそれぞれにワケあり。正体不明の組織から命を狙われながらの、危険に満ちた旅立ちでした。 横浜を経った一行は、フウが探す「向日葵(ひまわり)の匂いのするお侍さん」の手がかりを求めて、まずは江戸へ。そこから長崎へと向かうことになるのですが、なにしろ揃いも揃ってトラブルメーカー揃いですから、すんなりとは進めません。 途中でヤクザの抗争に巻き込まれたり、浮世絵師や南蛮人、エセ教祖に野球好きまで、あらゆる職種と人種の「変な」キャラクターたちとの出会いで騒ぎが起きます。もちろん時には切ない恋模様も。本作は、東から西日本を股にかけた壮大な寄り道の物語でもあるのです。

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天才的トラブルメーカー、ムゲン(無幻)が全てを盛り上げる!

琉球からやってきた、腕自慢の流れ者。旅の目的は、もっと強いヤツと戦うため。と、聞くとサイヤ人に進化してしまいそうですが、そんな必要はないくらいに剣さばきと体術を合わせた豪快な喧嘩殺法で相手を圧倒します。当面の最強ライバルは、ジン。 性格はとにかく粗暴です。トラブルメーカーとしても天才的。人を信用せず誰に対しても喧嘩腰なので、常に悶着を呼び寄せます。女好きなところが問題を引き起こすこともしばしば。 ただし弱い者に対しては、ぶっきらぼうに振る舞いながらも不器用な優しさを見せる一面も。声は、『ONE PIECE』でも強面の剣士ロロノア・ゾロを演じている中井和哉。普段は粗野なのにボツリと名言をつぶやく時の低い声色が、強く印象に残ります。

最強のライバル、ジン(仁)は、ただの美剣士ではなかった。

無口でクール、眼鏡を掛けていることもあって知的な雰囲気まで漂わせている美剣士。ムゲンとはあらゆる意味で正反対のキャラクターです。無住心剣流の達人で、まさに電光石火のような鋭い剣を振るいます。 恩師を殺してしまったために、一門から追われる身に。重い過去を背負っているワケあり感も、その優男ぶりに似合います。しかし一方で、実はムッツリ。どちらかと言えば熟女が好みらしく、遊女に身を落とした人妻を、後先を考えずに助けてしまうような突進型の顔も持っています。 テレビや舞台で活躍している佐藤銀平の声音は、感情の起伏を抑え気味。ですが、ムゲンやフウとの掛け合いではクールな調子はそのままに、そうとうな迷言を吐きまくって笑わせてくれます。

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ヒロインは、豪快な食欲とともに前向きに生きる少女、フウ(風)

「向日葵の匂いがするお侍さん」を探す少女。ムゲンとジンとの出逢いをきっかけに旅立つ、本作のヒロインです。ポジション的には昔懐かし「ドリカム編成」のセンターですが、扱われ方はきわめて邪険。勝手気儘な用心棒どもに振り回される日々にうんざり。それを実は楽しんでいる感があります。 特殊能力の持ち主で、満腹になると肥大化します。常に空腹で多少食べても満たされることはないため、おおむね10代半ばの華奢で可憐な少女の風体を保っていますが、満腹時は『千と千尋の神隠し』に出てくる「坊」にうりふたつ。ちなみにムゲンからは「軽くバケモノだな」との評が。 声を演じているのは、川澄綾子。重い過去を背負いながらも、とことん前向きに生きようと頑張る少女を、熱演しています。

驚くほど個性的なキャラクターが、総勢100人以上も登場。

全26話のロードムービーながら、行く先々で出会う人々はとんでもない数。シリーズ全般での出演キャラは、総勢100人を超えるそうです。その中でも記憶に残るのは、レギュラーの3人が絡む恋模様や、強敵の存在でしょうか。 フウが心を通わせる新輔(第7話/声:渋谷茂)やオクル(第17話/大塚明夫)は、それぞれにタイプの違ういい男。ジンが苦海から救い出す紫乃(第11話/鶴ひろみ)や、ムゲンを「未来の旦那」に選んだ八葉(第15話/日高のり子)も魅力的でした。 強敵と言えば鬼若丸(第2話/佐々木誠二)や霞清蔵(第25-26話/中田浩二)が、圧巻。ムゲンと哀感に満ちた死闘を繰り広げる最強の瞽女(ごぜ)・沙羅(第20-21話/玉川紗己子)も、強烈に記憶に残るゲストキャラです。

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ハリウッドからもオファーが届く渡辺信一郎監督。

監督を務めた渡辺信一郎は、1998年のSFアクション『カウボーイビバップ』でさらに注目される存在になりました。スタイリッシュな映像やこだわりの音楽など、『サムライチャンプルー』の原型的な作品と言えるかもしれません。 アメリカでも注目度は高くハリウッドからもオファーが。2017年公開の『ブレードランナー2049』のプロモーションとなる短編WEBアニメ『ブレードランナー ブラックアウト2022』を手がけています。 ほかにも名うてのスタッフが揃っていますが、ちょっと面白いのが、武器を扱う「得物デザイン」。担当した前田真宏はアニメーターや監督として活躍しながら、平成ガメラシリーズの怪獣デザイン、シン・ゴジラのコンセプトも手がけるマルチプレーヤーなのでした。

日本を代表するヒップホップの名手たちが集結。

渡辺監督は、音楽による世界観の表現にも非常にこだわっています。『カウボーイビバップ』では作曲家で音楽プロデューサーの菅野よう子と組んでジャズを使い、そのサントラ盤が「日本ゴールドディスク賞」を受賞しました。 『サムライチャンプルー』では、ヒップホップがコンセプト。劇中でも積極的に使われています。たとえば第8話では自称・将軍になる男、永光(山寺宏一)が文字どおり「ウォークマン」状態で自前のラッパーを引き連れ、BGM代りに歌わせていました。 オープニング曲「battlecry」など数曲のプロデュースを担当したNujabesは、日本を代表するヒップホップの第一人者。36歳という若さで逝去した彼の楽曲もまた『サムライチャンプルー』を特別な作品にしているのです。

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江戸時代から現代まで、さまざまな「その道のプロ」たちが協力。

いわゆるアニメとは本来あまり関わりのないスペシャリストの「協力」もまた、作品世界を盛り上げる重要な要素となっています。たとえばヒップホップ以外にも、多彩な音楽を劇中歌として採用しました。 第14話では奄美大島の島唄伝承者として知られる朝崎郁恵の唄声が響き、第16-17話ではアイヌの伝統音楽を継承する安東ウメ子ほかの演奏が使われています。第20-21話で流れる「葛の葉子別れ歌」も、三味線奏者で瞽女唄を継承する月岡祐紀子が沙羅として歌っています。 ちなみにオープニングでキャラクターの背景で使われているニワトリや魚、野菜などの絵画は、すべて伊藤若冲の作品です。江戸時代中期の絵師ですから、もしかするとフウたちが旅をしていた頃、ちょうど活躍していたのかもしれません。

セリフが絶妙。名言キングは、意外だけれどムゲンだったりする。

セリフまわしの面白さもまた、『サムライチャンプルー』の醍醐味のひとつ。時に無言で物を語る絵画のような演出が観られるかと思えば、時代を超越した?かのような軽妙洒脱なセリフまわしで、盛り上がるシーンもあります。 そこには数々の名言が。たとえばジンが第11話で紫乃(鶴ひろみ)に懇願するようにつぶやく「この雨が、ずっと止まなければいい……そうしたら、ずっとここにいられる」は、女性ファンのみならず男性ファンにもササりそう。少しクサめぐらいが、ジンらしくて良いのです。 対女性ということなら、なにげなく味わい深い名言を連発しているのが、実はムゲン。とくに第21話の18分37秒、暗殺者としての宿命とムゲンに対する想いに苦悩している沙羅との戦いに臨む時の言葉(「お前にそれしか道がねぇならよ、全部引き受けてやるよ」)は、文句なく究極の口説き文句でしょう。

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栄えある迷言キングは、もしかするとジン!?

そんな名言とは裏腹に、掛け合い漫才状態で交わされるセリフの応酬の中で思わず笑ってしまう迷言も数知れず。いわゆる「番外編」となるコミカルなエピソードでの出現率がやはり多めですが、とくに第6話「赤毛異人」は秀逸。タイトルどおり、変な日本語を話す丈二(大塚芳忠)という南蛮人が登場します。 数ある丈二の変な日本語の中でも、屋台の寿司を食べるシーンで「きっく〜!これがわびさびね〜」(正解はわさび)が、ツボ。ほかにはジンの「私は江戸の観光地図と呼ばれた男だ」がヒット。エンドロールの後、「第一部江戸編 完」のテロップが流れた瞬間のやはりジンの「初耳だ」の一言もスマッシュです。 実はジン、無口なようでいて掛け合いが得意。 ムゲン:てめぇ、そのうちぎゃふんと言わせてやるからな! ジン:ぎゃふんなどと本当に言う奴がいるか。聞いたことがないわ。 野次馬(がムゲンを見て):何者だ、奴は? ジン(が冷たく):ばかものだ。 いかがでしょう。

ホラーから日米野球対決まで、面白ければすべてよし。

なにしろタイトルが「チャンプルー」(「混ぜこぜにしたもの」という沖縄の方言)だけに、とても時代劇とは思えない展開を見せるエピソードもあります。第22話ではホラーなストーリーを展開。不死者が腐食防止のために殺菌効果に富んだ生わさびをかじるという、ブラックなギャグは見逃せません。 続く第23話は日米野球対決編。ペリー来航のはるか以前の戦いが描かれています。この時、登場するゲストキャラ影丸(古川登志夫)が哀川翔にそっくりという噂が一時期流れました。2005年に発行された「サムライチャンプルー ロマンアルバム」という設定資料集で、それが事実であると証明されたそうです。 それにしても最終エピソードに向かって本来なら盛り上げまくるべきタイミングで、このユルさ。さすがです。ムゲンがアラレちゃんよろしく「キーン!」と八葉に迫ったり(第15話)、フウのペット、モモンガのももさんが障子を突き破ってムゲンの顔にへばりついたところがフェイスハガーそのものだったり(第19話)しても、もはや驚きません。

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渡辺信一郎監督の新作『キャロル&チューズデイ』も気になる!

いかがでしたか?テレビ放送が終了してからすてに10年以上が過ぎてなお、新鮮な面白さを味わわせてくれる『サムライチャンプルー』。ともすれば続編を期待したくなるところですが、どんなエピソードを追加したところで蛇足になりそう。 これ以上はない、というくらいに気持ちのよいエンディングを見終わって、もっとムゲンやジン、フウと旅を続けくなったなら、また最初から観てもいいかも。あるいは渡辺信一郎監督の他の作品が気になるなら、2014年に放送された『スペース☆ダンディ』がお勧めです。 新作としては、総監督を務めるテレビアニメ『キャロル&チューズデイ』も期待大。2019年4月から、フジテレビ系列の新たなアニメ専門放送枠「+Ultra」で放送される予定です。