2021年2月3日更新

【連載#20】今、観たい!カルトを産む映画たち『ダーク・スター』ジョン・カーペンターの原点であるSF映画【毎日20時更新】

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連載第20回「今、観たい!カルトを産む映画たち」

『サイレント・ランニング』
©Universal Pictures/Photofest/zetaimage

有名ではないかもしれないけれど、なぜか引き込まれる……。その不思議な魅力で、熱狂的ファンを産む映画を紹介する連載「今、観たい!カルトを産む映画たち」。 ciatr編集部おすすめのカルト映画を1作ずつ取り上げ、ライターが愛をもって解説する記事が、毎日20時に公開されています。緊急事態宣言の再発令により、おうち時間がたっぷりある時期だからこそ、カルト映画の奥深さに触れてみませんか? 第19回の『サイレント・ランニング』(1986年)に続き、第20回は『ダーク・スター』(1981年)を紹介します! ※本記事では映画の展開について、ネタバレありで触れています。まっさらな状態で映画を楽しみたい人は、視聴後に記事を読むことをおすすめします。

ゆる~い脱力系SF映画『ダーク・スター』とはどんな映画?【ネタバレ注意】

『ダーク・スター』
©Bryanston Distributing Company/P/zetaimage

人類が宇宙に進出した未来、宇宙船ダーク・スター号が宇宙の彼方で孤独な任務を果たしていた!というところから始まる『ダーク・スター』。彼らの任務とは、邪魔な不安定惑星の破壊(広大な宇宙で本当に必要な任務?)でしたが、4人+1人(冷凍保存中の艦長)は長い宇宙生活ですっかりたるんでいました。 そんなスラッカー(=怠け者)な彼らの日常を描いている本作。宇宙船の機器は故障していきますが、乗組員としてまともに選ばれたとは思えない彼らには対処できません。 問題行動ばかり起こす連中で、引きこもって星を眺めていたり、マスコットにしたエイリアン(どう見てもビーチボール)と追いかけっこをしたりと、ゆるい姿が描かれています。 そんなある日、搭載している惑星破壊用の爆弾に誤作動が発生。どういう訳か知性を与えられている爆弾に、暴発しないよう必死に説得を試みるも、やがて自我が目覚めた爆弾は自爆します。ダークスター号も消滅しますが、それは乗組員が全てから解放される時でもありました。

『ダーク・スター』
©Bryanston Distributing Company/P/zetaimage

本作の当初のタイトルは『The Electric Dutchmen(電気仕掛けのオランダ人)』で、ジョン・カーペンター監督はこの映画を「宇宙で『ゴドーを待ちながら』」と紹介し、売り込んだのだとか。ユーモアに満ちた不条理劇として作られたSF映画なのです。 後のジョン・カーペンター作品と大きく異なる内容ですが、それには様々な理由がありました。そして、本作制作時の体験が彼に大きな影響を与えていることを知っていますか?それらを紹介しつつ、この映画をひも解いていきましょう。

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映画オタク少年だったジョン・カーペンター

ジョン・カーペンター
© Retna/Photoshot

1948年1月16日、ニューヨーク州で生まれたジョン・カーペンター。彼は音楽教師の父を持ち幼い頃から音楽活動をすると同時に、熱心な映画ファンでもありました。 8歳の頃に8ミリカメラを与えられ映画製作を開始。そのなかには40分を越える作品もあったという本格派です。もっとも彼自身は、「さんざんな出来だった」と語っていますが……。 その後の1965年には、SF・ホラー映画のファン雑誌を3冊出版。カーペンター自身はこの頃を「以前ほど映画を観なくなり、映画に注文をつけるようになった時代」と振り返っています。彼は早熟かつ熱心な映画少年だったのでしょう。

大学進学、アカデミー短編賞受賞映画への参加

ジョン・カーペンター (ゼータ)
©C.M. Wiggins/WENN.com

1968年、カーペンターは“当時世界最高の映画学校だった”南カリフォルニア大学(USC)映画学科に入学します。 映画作りを通して様々な技術を実践的に学び、ハリウッドの業界関係者が講演し、新作・名作などの様々な映画が上映され、その監督本人の話を聞く機会もある素晴らしい環境でした。

アルフレッド・ヒッチコック
© Photofest/zetaimage

彼の在学中の講師には、ジョン・フォード、オーソン・ウェルズ、アルフレッド・ヒッチコック(画像)、そして彼が敬愛するハワード・ホークスなどがいました。講義の後、学生は巨匠と身近に語り合い、その人間性に触れることも出来たそうです。 1969年にUSCの学生たちが製作した短編映画『ブロンコ・ビリーの復活』に脚本として参加(共同脚本に彼の多くの作品に関わるニック・キャッスルも)は、アカデミー短編映画賞を受賞します。西部劇の世界に憧れる男を描いた物語には、ジョン・カーペンターの思いも反映されていたのでしょうか? 彼に言わせると、この映画は主要なメンバーが皆で製作した作品で、自分も共同監督のようなものだ、とのことです。またアカデミー賞はUSCの代表が受け取り、映画の配給収入もUSCのものとなり、学生には映画の製作費すら返されなかったとか。 この経験からカーペンターは、次こそは自分たちの物となる映画を作ろうと決意します。

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ダン・オバノンと共に『ダーク・スター』製作開始

『エイリアン』
© 20TH CENTURY FOX/zetaimage

『ダーク・スター』には共同脚本・編集・出演など様々な形でダン・オバノンが参加しています。ジョン・カーペンターとはUSC入学後に出会い、共にSFファンと知り意気投合。親友となった間柄です。 ダン・オバノンは後に、『エイリアン』(1979年)や『スペースバンパイア』(1985年)といったSF・ホラー映画の脚本で活躍し、『バタリアン』(1986年)では監督も行った人物。ジョン・カーペンターと共に70年代後半~80年代のSF・ホラー映画ブームを築きました。

2001年宇宙の旅
©MGM

『2001年宇宙の旅』(1968年)のパロディ的な物語、後に『エイリアン』のベースとなる設定や展開、そして映画に漂うブラックユーモアなど『ダーク・スター』の様々な要素。これらダン・オバノンの影響の大きさは、ジョン・カーペンター自身も認めています。 1970年、ダン・オバノンのほかUSCの仲間を集めて『ダーク・スター』の製作が始まります。 そのなかの1人であるニック・キャッスルはというと、本作のゆるキャラ、ビーチボール型エイリアンの足(!)を演じています。こうして仲間たちと作った『ダーク・スター』は、1972年にまず45分の中編映画として完成しました。

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劇場公開までの悪戦苦闘の日々

USCを卒業したカーペンターの前に、ジャック・ハリスというプロデューサーが現れます。彼はシーンを撮り足し長編映画にすれば、この映画を配給し劇場公開すると提案しました。 このジャック・ハリスとは、『マックイーンの絶対の危機』(1965年)という低予算SF映画を製作し、大ヒットさせた人物です。

『ダーク・スター』
©Bryanston Distributing Company/P/zetaimage

ジャック・ハリスの注文でシーンが追加され、映画は当初の形から変わっていきます。ジョン・カーペンターの話ではハリスが実際に出した金は僅か、作業に時間をかけたのに報酬はゼロ。足りない費用は調達せねばならず、この間は成人映画の編集などで危機をしのぎます。 ダン・オバノンは様々なハリスの口出しに怒り心頭で、『ダーク・スター』劇中のモニター画面に「“FUCK YOU HARRIS”と入れたのは彼の仕業」と語ったジョン・カーペンター。彼自身は耐えに耐え、劇場公開まで辛抱したそうです。 その彼も、公開後はハリスを「ハリウッドの、いわばゴミあさり」と手厳しく呼んでいます。 ちなみにジャック・ハリスは同時期に、ジョン・ランディス監督のデビュー作『シュロック』(1981年)の製作も手掛けました。同作は特殊メイクの巨匠、リック・ベイカーのキャリアスタートとなった作品としても知られています。 ジョン・ランディスは家族や友人から金を集めて製作し、1971年に撮影終了させたものの、1973年の米公開まで紆余曲折を経験しました。 『シュロック』の舞台裏にも、本作と同様の物語があったのでは?と勘ぐってしまいますね。

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映画の公開とダン・オバノンとの別れ

こうして、1974年に完成した劇場公開版の『ダーク・スター』。本作の魅力であり、同時に欠点とも受け取られている間延びしたリズムは、ジャック・ハリスの影響も大きいのです。「最初は理想に書いたような学生映画として始まったが、最後は長い旅をやっと終えた気分だった」とカーペンターは語っています。 翌年にようやく劇場公開されますが、上映は早々に打ち切られてしまい、これを機に監督の仕事がもらえるという希望も叶いませんでした。 観客が彼の悪戦苦闘を評価してくれることもなく、“人生の最初の大きな挫折”を経験したのです。

『ダーク・スター』
©Bryanston Distributing Company/P/zetaimage

間違いなくこの映画の大きな部分を占めていたダン・オバノンですが、本作の公開後に『ダーク・スター』を監督したのは自分だ、と周囲に語り始めます。 無論ジョン・カーペンターは否定していますが、彼が参加した『ブロンコ・ビリーの復活』での役割を共同監督の様なもの、と主張したのと似た構図を感じませんか? ジョン・カーペンターはダン・オバノンの才能を認めつつも、この後彼とは決別。オバノンが2009年に亡くなるまで、2度と仕事を共にすることはありませんでした。友情で結ばれても、共に映画監督になる目標をもった野心的な2人が衝突するのは、当然の結果だったのでしょう。 ジョン・カーペンターは本作公開後の、ダン・オバノンの言葉を語っています。「これもなにかの勉強だよ。俺たちはこれからなんだ。」と……。

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『ダーク・スター』の後に変わったもの

ヒットしなかった『ダーク・スター』ですが、作品の持つユーモアを理解した若い観客を中心に、カルト的な支持を得ることはできました。しかしジョン・カーペンターは、この時期を「父の支えが無ければ、荷物をまとめて家に帰っていた」と振り返っています。 本作の製作後、カーペンターは他の映画の脚本の仕事をしながら、1976年にアメリカで公開された映画『ジョン・カーペンターの要塞警察』を監督しました。 この映画は、彼が敬愛するハワード・ホークスの『リオ・ブラボー』(1959年)と同じ設定というオマージュに満ちた作品。それと同時に、原作の西部劇の世界を現代に置きかえた映画でもあります。

『ハロウィン』(1978)
©︎Compass International Pictures/Photofest/zetaimage

しかし、彼がもっともハワード・ホークスから影響を受けたのは、USC時代に身近に接した際のタフな雰囲気であったのかもしれません。 ジョン・カーペンターは『ダーク・スター』での経験を通し、「映画監督とは、現場で父親的存在になること」だと学び、全てをコントロールして映画を作る姿勢を身に付けたのです。それを実現するために、ハリウッドの主流から距離を置くことも厭いませんでした。 後に『ハロウィン』(1979年)の成功が彼の地位を不動のものにしますが、この作品からタイトルに「John Carpenter's」の文字が付けられています。これはこの映画が間違いなく自分のものである、との力強い宣言なのでしょう。

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そして、ジョン・カーペンターの変わらぬもの【ネタバレ注意】

『ダーク・スター』
©Bryanston Distributing Company/P/zetaimage

ジョン・カーペンターは『ダーク・スター』の有名なラストシーン、宇宙でサーフィンをする姿について質問されると「あれはあの時代のもので、いま同じ事を行っても上手くいかないだろう」と答えています。 しかし彼は、後に『エスケープ・フロム・L.A.』(1996年)で、主人公のスネーク(カート・ラッセル)に唐突にサーフィンをやらせていました。しかも、アメリカン・ニューシネマとヒッピー映画の象徴、ピーター・フォンダと共に! 『エスケープ・フロム・L.A.』の舞台は、終身大統領が支配する、道徳の名の下で監視社会と化したアメリカ。その社会からはみ出した者たちの巨大な監獄と化したロサンゼルスで、サーフィンをしているのです。このシーンを観て、本作のラストを思い浮かべたファンも多いでしょう。

『ダーク・スター』
©Bryanston Distributing Company/P/zetaimage

『ダーク・スター』ではサーフィンによって、密閉され退屈な宇宙船生活から解放されます。その姿に『ダーク・スター』製作時のゴタゴタから解放された、ジョン・カーペンター自身の姿を重ねるのはファンの思いこみに過ぎないのでしょうか? そして『エスケープ・フロム・L.A.』では、サーフィンをする姿が監視社会への反抗の象徴となりました。2021年現在の状況をみると、この映画で描かれたディストピアは妙に身近に感じられますね。 常に自分のスタイルを貫いて作られたジョン・カーペンターの映画は、時代の変化とともに新たな意味を持ち始めています。2018年に『ゼイリブ』(1988年)と『遊星からの物体X』(1982年)のリバイバル上映が行われたのも、そんな背景があったのでしょう。

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映画『ダーク・スター』と出会うためには

新たな視点で評価されているジョン・カーペンターの映画。反骨の映画作家として活躍してきた彼の原点は、間違いなく『ダーク・スター』なのです。ぜひそんな視点でこのカルト映画に向き合ってみてください。 2021年現在、『ダーク・スター』はAmazonプライムビデオ、TSUTAYA TV、ビデオマーケットで見放題作品にラインナップされています。DVDやBlu-rayも発売されていますが、2,000円~5,000円と少しお高いので、VODサービスでの視聴がお得です! 鑑賞する際はゆる~く、脱力しながらどうぞ。

次回の「今、観たい!カルトを産む映画たち」は?

『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』
©PARAMOUNT/zetaimage

連載第20回は、ジョン・カーペンター監督の長編デビュー作であり、その後の作品とは一線を画すSF映画『ダーク・スター』を紹介しました。製作時の背景や監督のキャリアを深堀りしていくと、また違った視点から映画を楽しむことができますね。 さて次回は、60歳差の恋愛を描く異色の映画『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』を紹介します。人間の死生観を突き詰めた、考えさせられる作品です。お楽しみに!