2018年10月16日更新

【レビュー】密室群像劇『ジェノサイド・ホテル』が問う信仰とは?

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ジェノサイド・ホテル
(C)2017 New Realms Films Pty Ltd. All rights reserved.

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ムンバイ同時多発テロを題材にした『ジェノサイド・ホテル』

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『ジェノサイド・ホテル』のあらすじ

2008年11月26日。インド最大の都市ムンバイで、イスラム過激派組織によるテロが発生。 標的のひとつとなったホテルに宿泊していた英国人のショーンは、たまたま居合わせた老婦人を救うため、他の宿泊客に助けを求めることに。 さまざまなバックグラウンドをもつ宿泊客たちが偶然にも次々とひとつの客室に集まり、不安や恐怖に耐えながら生き延びようと力を合わせます。 一方、最上階の豪華な客室では、老人とその孫娘がふたりきりで息を潜めていました。 時折部屋の外から聞こえるテロリストたちの声に肝を冷やしながら、彼らは生き延びることができるのでしょうか。

実際の出来事から着想を得た作品

ジェノサイド・ホテル
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本作は、2008年11月26日から29日の朝にかけて、実際に起こったムンバイ同時多発テロを題材にしています。 鉄道の駅や外国人向けの高級ホテルなど複数の場所が狙われたこのテロでは、最低でも172人が死亡、負傷者は200人以上にのぼることが確認されています。 本作の内容そのものはフィクションですが、舞台となっているホテルは実際にテロリストが立てこもった場所。劇中では明言されていませんが、この事件に詳しいと、ある種ネタバレ的な要素を感じるほど実際の出来事に忠実です。 実際のニュース映像などを挟みながら、地獄の4日間が緊迫感たっぷりに描かれる本作では、人間の愚かさと同時に、他者と関わることの美しさが描かれています。

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密室群像劇としての面白さ

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『ジェノサイド・ホテル』は限定された空間での群像劇であり、ひとつのホテルに閉じ込められた人々は3つのグループに分けて描かれます。 ひとつの客室に集まった、ショーンをはじめとするさまざまな年齢、性別、職業、人種、国籍、宗教の人々。最上階の客室にいるおじいさんとその孫娘。そして、テロ実行犯の2人組。 特に物語の中心となっているショーンたちは、それぞれの事情や思いを抱えながら極限状態のなかで初めて出会い、ひとつの部屋のなかで同じことを経験します。そこでの彼らのやりとりには、群像劇としての面白さが凝縮されています。 また、最上階のおじいさんはちいさな孫娘を“守る”ため、他の生存者たちとは違った行動に。 テロ実行犯の2人は、凶悪な人物でも顔の見えない不気味な存在でもなく、そこに確かに存在する普通の人間として、それゆえの愚かさとともに描かれます。 監督のリアム・ワーシントンが銃を向ける側と向けられる側の人間両方を描きたかったと語っているとおり、それぞれのキャラクターが現実味を伴って躍動しています。

テロに対する強い怒りとメッセージ

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『ジェノサイド・ホテル』は、明確なメッセージを送ってきます。 本作で問われているのは、「信仰とはなにか?」「信仰は必要なのか?」ということ。信教の自由は基本的人権として保障されていますが、劇中でその矛盾をあるキャラクターが一言で言い表しました。 主人公ショーンのモノローグでもはっきりとそのメッセージが語られ、そのあまりの直球さに少し面食らってしまうかもしれません。 しかし、あえてメタファーなどを使わないストレートな表現であるからこそ、監督のテロに対する怒りがひしひしと感じられ、この世界に対する危機感と強いメッセージが観客にダイレクトに伝わるのです。

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『ジェノサイド・ホテル』はWEC2018にて10月13日から上映!

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『ジェノサイド・ホテル』はカラフルなヒンドゥー教のお祭り、ホーリー祭の場面から始まり、その色粉が混ざり合う様子を人間の他者との関わりになぞらえながら、その美しさを讃えています。 しかし、違ったものが同時に存在するということが、時に悲惨な出来事を招いてしまうこともあるのです。 “信仰する宗教の教えに基づいて”行われたテロを題材とした本作では、実際の出来事から着想を得て、ショッキングな描写と緻密な人間ドラマが描かれました。そして「信仰とはなにか?」を問い、私たちに強いメッセージを送ってきます。

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『ジェノサイド・ホテル』は、「世界中のガツン!とくる映画集めました」をテーマに開催されるワールド・エクストリーム・シネマ2018で、東京はヒューマントラストシネマ渋谷で10月13日(土)から、大阪はシネ・リーブル梅田で11月17日 (土)から上映されます。 他にも世界各国で好評を博した作品を観ることができるのは、この機会だけ。 各上映作品や上映スケジュールは、下記公式サイトや公式ツイッター、各上映館のサイト、および当サイトの紹介記事をご覧ください。