2019年9月13日更新

映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』は史実にどれくらい基づいている?ネタバレありで見どころ紹介!

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映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』が公開!見どころをネタバレありで紹介

『人間失格 太宰治と3人の女たち』
© 2019 『人間失格』製作委員会

自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながら、『斜陽』『走れメロス』といった名作を世に送り出した文豪・太宰治。 太宰の代名詞とも言える『人間失格』は、2010年に生田斗真主演で実写映画が公開され、漫画化、TVアニメ化もされました。そして2019年、主演の小栗旬や20~40代の各世代を代表する実力派が集結し、映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』が公開されます。 小説『人間失格』を題材に、今回は過去作とは違う視点から描くとのこと。何と、太宰治本人の生涯を原作とした、全く新しい「人間失格」になるのです! この記事では、映画「人間失格」のあらすじやキャストとともに、見どころや史実との一致度をネタバレありで解説していきます! ※この記事には『人間失格 太宰治と3人の女たち』のネタバレが含まれています。史実に基づいた物語ではありますが、前情報なしで映画を楽しみたい人は気を付けてください。

映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』のあらすじ

「恥の多い生涯を送って来ました。」日本文学史上、あまりにも有名な一文で知られる『人間失格』が発表された年に、太宰治はこの世を去りました。 戦前から戦後にかけて活躍し、天才ベストセラー作家となった太宰。身重の妻・美知子(正妻)との間にふたりの子どもをもうけながら、2人の愛人との関係も並行して続け、さらに自殺未遂を繰り返す自堕落な日々を送っていました。 突飛な言動、酒と女に溺れる私生活から、太宰は文壇では煙たがられていたようです。 そんな彼を取り巻く、正妻、作家志望の弟子、未亡人の3人の女たち。玉川上水に身を投げるまで、太宰は何を思い、誰を愛したのか……。それぞれの目線から、日本中を騒がせた“文学史上最大のスキャンダル”と、小説『人間失格』の誕生秘話を紐解きます!

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見どころ1:どのくらい史実に忠実?【ネタバレ】

本作は、太宰治が入水自殺によってこの世を去るまでの、約1年間に焦点を当てて描かれた物語になっています。登場人物も、実際に太宰にゆかりあった人々が実名で描かれるのです。そのため、注目ポイントの一つとなるのは、「これってホントにあったことなの?」という点。

太宰作品のモデルとなった3人の女性は実在していた

『人間失格 太宰治と3人の女たち』
© 2019 『人間失格』製作委員会

本作のなかで、太宰治を取り囲むようにして描かれる3人の女性は、実在の人物です。『ヴィヨンの妻』のモデルと言われる妻・美知子(宮沢りえ)、『斜陽』のモデルと言われる愛人・太田静子(沢尻エリカ)、太宰とともに最期を添い遂げた山崎富栄(二階堂ふみ)。 なかでも気になるのは、『斜陽』が静子との共作であるかのように描かれていたことではないでしょうか。劇中では静子が書いていた日記をもとに、そこから着想を得た太宰が『斜陽』を著したことになっています。 実際に、太宰と静子の間に生まれた娘・治子はのちに、『斜陽』は箇所によっては、静子の日記をそのまま書き写している部分もある、と証言しています。

疑問点の多い史実には配慮して再現されていた?

人間失格
© 2019 『人間失格』製作委員会

『斜陽』の内容が、実際には静子の日記とどの程度重複していたのかは、今となっては分かりません。劇中では「人間は恋と革命のために生まれてきた」という部分だけを取り上げており、小説全体が日記の内容と同じかどうかまでは言及されませんでした。 他にも、史実としてハッキリと描くのが難しい部分には、十分な配慮がなされていたように思えました。 例えば、太宰と富栄との関係は……。

富栄は太宰と知り合うと、すぐに彼の魅力に惹かれていきます。そして次第に、太宰に対する独占欲が暴走し始め、青酸カリでいつでも死ぬ用意があると太宰を脅すのです。その末、太宰とともに死ぬことを強く望むようになり、結果的に2人は入水自殺を遂げることになりました。 この心中に関して、解決されなかった疑問点があるのです。それは、太宰は入水に抵抗したのではないか、という点。 2人が入水した現場には、下駄を履いた状態で思いきり突っ張った跡が残ってました。このことが指すのは、太宰の抵抗ではないかと思われるのです。 劇中では「ともに死のう」という富栄に対し、太宰は「死ぬのをやめないか」と提案しています。激しいもみ合いや事件性こそ描かれなかったものの、彼が死ぬことを拒んでいたのではないか、という部分がほのめかされています。

あくまでも本作は「史実に基づいたフィクション」ですので、純粋に物語として楽しむことが一番です。しかし史実に忠実に描かれている部分が多く、太宰に関するあいまいな部分にも配慮されている点でも評価できます。

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見どころ2:蜷川作品の醍醐味ともいえる、鮮やかな色彩

人間失格
© 2019 『人間失格』製作委員会

蜷川実花の最大の特徴といえば、なんといっても色鮮やかで幻想的な場面描写ですよね。その色彩豊かでどこか現実離れしていながらも、一方で生々しさがある表現によって、『ヘルタースケルター』や『さくらん』などで高い評価を得ています。 そんな蜷川チックな世界観は、本作でも投影されています。血を吐くほどの病に侵されながらも、取りつかれたように創作への意欲を向ける太宰。彼はその中で、たびたび死へと誘われるような幻惑に襲われています。 風車を持った子供たちが不気味に笑っているほの暗く赤い空間、鮮血と真っ白な雪の対比、などなど……。蜷川実花が描く、独特で恐ろしくも惹きつけの強いビジョンは、本作でも見どころになっています。

見どころ3:真に狂気的なのは太宰か、それとも……。

人間失格
© 2019 『人間失格』製作委員会

映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』は、タイトルにもあるように、晩年の太宰治と彼を取り巻く3人の女たちとの関係を中心に物語が描かれます。 小説『人間失格』といえば、太宰の自伝的小説といわれることが多く、彼の狂気を感じさせるほどの破滅願望や、ただれた生活がたびたび取沙汰されます。 劇中でも、雑誌編集者たちが集まる場では、「太宰は狂っている」だとか、「彼が女で死ぬか、薬で死ぬか、結核で死ぬか」などと話題にされていました。 確かに、幾度もの自殺未遂や薬物濫用など、彼には破滅的な一面があります。しかし、本作では太宰本人のそういった面よりも、3人の女たちの方に狂気を感じる場面が多々あるのです。

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3人の女、それぞれが抱える狂気的な一面

人間失格 太宰治と3人の女たち
© 2019 『人間失格』製作委員会

本作では太宰の妻である美知子、愛人の静子、ともに自殺した富栄、それぞれの女性の狂気的とも思える一面が描かれました。

愛人の静子は、太宰との関係を「愛」ではなく「恋」だと強調しています。彼女は「愛されない妻より、ずっと恋される愛人でいたい」と断言するのです。その執念の末、太宰との間に子をもうけ、さらには斜陽のモデルとして、彼の中に永遠不動の爪痕を残したのです。 彼とともに死を遂げた富栄は、太宰への独占欲を満たすことに躍起になっていました。彼を他の女のもとへやるくらいなら青酸カリを飲むと脅しをかけたことに、最もよく表れています。彼女は、太宰の“最後の女”として死ぬことを望み、最終的にその願望を叶えたのです。 そして、正妻の美知子。彼女は、太宰が他の女にうつつを抜かしていることを知りながらも、それに耐えて家庭を守り続けていました。理由は、誰よりも太宰の才能を認め、尊敬していいたから。彼女は太宰に「家庭を壊しなさい、そして本当の傑作を書きなさい」と告げるのです。

3人それぞれが、自分の理想像を太宰の中に見出し、執着する――。太宰のダメ男っぷりと同時に、彼女らの太宰に対する「愛」または「恋」が、狂気的とも言えるほど極端に描かれています。

見どころ4:色気ムンムンのシーンに大興奮

人間失格
© 2019 『人間失格』製作委員会

『人間失格 太宰治と3人の女たち』は、太宰の乱れた生活を描いているため、それぞれの女性との濡れ場があります。 子どもが欲しいとねだる静子とは、伊豆での逢瀬を楽しみ、富栄の体をがむしゃらに抱き、美知子には甘えるように彼女の愛を求め――。 濃厚なキスシーンや体を重ねあうシーンは、とにかく小栗旬の色気がムンムン溢れ出ています。それとともに、二階堂ふみと沢尻エリカの美しい体もあらわに。 セクシーシーンも、男女ともに興奮してしまうこと間違いなしの、注目ポイントです。

見どころ5:脇を固めるキャストがすごい!

人間失格
© 2019 『人間失格』製作委員会

本作は、脇を固めるサブキャストも豪華俳優陣が勢揃いしています。 太宰と互いに刺激を与え合った坂口安吾役の藤原竜也をはじめ、太宰作品を批判していたことで知られる三島由紀夫役に高良健吾、太宰の編集者を務めるオリジナルキャラクター・佐倉潤一役に成田凌、などなど……。演技派の俳優陣が、太宰に対してそれぞれの思いをぶつける登場人物たちを演じます。 中でも『斜陽』を刊行した際、太宰と坂口安吾が語り合うシーンは必見。ともに蜷川幸雄に見出され、苦楽をともにしてきた小栗旬と藤原竜也だからこそ、リアルな信頼関係や互いの感情の機微が繊細に紡がれたのかもしれません。

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主演は小栗旬!豪華すぎるメインキャスト一覧

太宰治(本名:津島修治)/小栗旬

決して褒められたものではないダメ男っぷりながら、魅惑的な色気を放つ天才作家・太宰治を演じるのは、「花より男子」シリーズでブレイクしてから数々のヒット作品を生み出している小栗旬。 映画『信長協奏曲』や『銀魂』などの話題作に主演し、2020年に日本公開予定の『ゴジラVSコング(仮題)』にて、ハリウッドデビューも決定しています。蜷川監督とは初のタッグとなり、役作りのために短期間で大幅な減量を行ったという気合の入れようです。 後の太宰治こと津島修治は、青森県下有数の大地主の六男として誕生しました。17歳頃に習作を書き、多くの傑作を生む一方で、カルモチンによる自殺未遂、左翼活動、複数の女性と関係を持つなど何かと問題が絶えません。 そんな太宰治の最期は、愛人と入水自殺を遂げるという、センセーショナルなものでした。

津島美知子/宮沢りえ

太宰の小説『ヴィヨンの妻』のモデルとされ、短編『十二月八日』では一人称で登場する正妻、津島美知子を演じるのは宮沢りえ。 舞台・映画を中心に活躍しており、3度目となる日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を始め、女優賞を総なめにした『湯を沸かすほどの熱い愛』も記憶に新しいですね。今回は2人の子どもを抱え、3人目を身ごもりながらも、奔放な夫を支える妻を演じます。 実在の津島美知子も、芯の強さとその溢れんばかりの包容力で懸命に家庭を守ろうとした姿から、作家の妻の鑑と称されました。

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太田静子/沢尻エリカ

太宰の愛人で、弟子でもある作家・太田静子役には沢尻エリカ。2012年公開の主演映画『ヘルタースケルター』に続き、蜷川と再びタッグを組みました。同作で日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞し、2020年には『麒麟が来る』で大河ドラマ初出演を果たします。 太田静子は没落華族を描いた小説『斜陽』のモデルとされる女性で、太宰に文才を認められ、彼の創作のために自身の日記を提供しました。そこから男女のつながりを持ち、妻の存在を知りつつも彼の子どもを熱望し、恋に生きる資産家の令嬢です。

山崎富栄/二階堂ふみ

人間失格
© 2019 『人間失格』製作委員会

太宰と晩年を共にした“最後の女”で、共に入水自殺を遂げた愛人・山崎富栄(やまざき とみえ)役に二階堂ふみ。映画『私の男』や『蜜のあわれ』などのエロティックな世界観から、『翔んで埼玉』といったコメディまで、幅広く演じ分ける若手実力派女優の一人です。 山崎富栄は未亡人で、戦地へ赴任した夫を待ちながら、美容師として働いていました。夫は戻らず、太宰と禁断の恋に堕ち、共に死ぬことを夢見るように……。 太宰治の最晩年に、看護婦役として付き添い、執筆活動を支え続けた女性でした。

監督は『ヘルタースケルター』などで知られる蜷川実花

監督を務める蜷川実花は、世界的な演出家・蜷川幸雄の娘で、写真家、映画監督として活躍する有名トップクリエイター。極彩色の世界観が人々を魅了し、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会理事に就任するなど、幅広く活躍中です。 蜷川は2007年に、安野モヨコ原作の映画『さくらん』で映画監督デビュー。映像の世界でも、蜷川ワールドを存分に発揮しています。 沢尻エリカを主演に迎えた『ヘルタースケルター』は、興行収入21.5億円を記録し、新人映画監督に贈られる「新藤兼人賞2012」で銀賞を獲得しました。2019年は本作よりも先に、藤原竜也主演のサスペンス映画『Diner ダイナー』が、7月5日に公開予定です。 太宰治の孤独の生涯を、サスペンスフルでスキャンダラスに、そしてエロティックに!蜷川監督ならではの解釈とビジュアルで映し出します。

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世界で最も売れている日本の小説『人間失格』

小説『人間失格』は、累計1200万部を突破した「世界で最も売れている日本の小説」です。夏目漱石の『こころ』とは、いまだに累計部数を争い続けています。 この小説は、ベストセラーを連発した文豪・太宰治の代表作にして、完結作としては最後の作品。太宰は『人間失格』の脱稿から1ヶ月後、1948年6月13日に愛人の山崎富栄と入水自殺しており、彼の遺作(遺書)として語り継がれているのです。 主人公の描写には太宰本人の人生を反映したと思われる部分が多く、推敲を重ねた末にフィクションとして創造した、自伝的な小説と捉えられてきました。しかしこの物語を私小説と捉えてよいものか、という点は、たびたび議論の焦点となります。 ではこの『人間失格』、どのようなあらすじだったのか、ざっくりと振り返りましょう。

主人公・大庭葉蔵の独白で綴られる小説『人間失格』のあらすじは?

本作は主人公の大庭葉蔵(おおば ようぞう)ではなく、「私」がスタンド・バアのマダムから、彼の手記と写真を提供され、奇妙さに惹かれて手記を開く描写から始まります。 手記は「恥の多い生涯を送って来ました」という一文から始まっていました。大庭葉蔵は他人を恐れるあまり「道化」を演じてやり過ごした幼少期を経たということ、酒・煙草・淫売婦・左翼思想に浸ったことまで、彼の人生について洗いざらい綴られていました。 葉蔵は、乱れた女関係をもちながら、深い孤独と絶望にまみれた生活を送っていました。一度は内縁の妻・ヨシ子によって救われたものの、彼女が強姦される場面を目撃してしまいます。一度は安定した精神が再び崩壊し、酒に溺れ、ヨシ子が用意していた睡眠薬で自殺を図りました。 その後サナトリウム(療養所)ではなく、脳病院(精神病院のこと)へ送られた彼は、「自分はもはや人間を失格したのだ」と確信するに至るのです。 退院後、故郷へ戻った葉蔵は「廃人」同然となり、ただ時間だけが過ぎていくのでした。

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小説を原作とする2010年公開映画とは違った作品に!

太宰治生誕100年を記念して、2010年にも一度、実写映画化された『人間失格』。今回の映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』は、前作と決定的に違う部分があります。 前作は小説を踏襲し、オリジナルのラストや原作にない文豪・中原中也の登場シーンを入れることで、独自の魅力を構築しました。一方、今作で最も重要なのは小説そのものではなく、太宰治本人の実話を原作としていること! 太宰の周囲の人物が実名で登場し、入水自殺に至るまでの、史実に基づいて描かれるのです。 かの文豪は何を思い、どんな生涯の果てに名作を完成させたのか。正妻と2人の愛人、彼女たちが太宰に与えた影響とは……。原作小説や2010年版『人間失格』と比較し、太宰の人生が色濃く反映された描写や設定を考察するのも、面白いかもしれませんね!

映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』で色鮮やかに描かれる、太宰の刹那的な生きざまに注目

今回は、ネタバレありで『人間失格 太宰治と3人の女たち』の見どころや、史実との一致度を解説してきました。 文学界に多大な影響を与えてきた文豪・太宰治の、破滅的で刹那的な生き方を、色鮮やかな情景と共に描きます。太宰を囲んだ3人の女、彼女らの「狂気」とも「強さ」とも言える、愛に生きるさまにも注目です。 *映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』はR15+指定作品です。ご注意ください。