『花束みたいな恋をした』ネタバレあらすじ考察&解説!麦と絹では泣いている理由が違う?
『花束みたいな恋をした』はなぜ売れた?
興行収入26億円を突破し「はな恋」ブームを巻き起こした映画『花束みたいな恋をした』。学生から社会人になるにつれ価値観が移り変わっていく様子が、あまりにリアルで切なく、多く人の共感を呼びました。 また映画の舞台となった2015〜2020年は、サブカルチャーが最盛期から衰退していった時期です。当時懐かしいサブカルの固有名詞がたくさん登場し、そしてその文化が廃れてしまった時代背景を主人公がよく体現していることも、ヒットの理由でしょう。
『花束みたいな恋をした』作品概要
公開日 | 2021年1月29日 |
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上映時間 | 124分 |
監督 | 土井裕泰 |
脚本 | 坂元裕二 |
キャスト | 山音麦役/菅田将暉 八谷絹役/有村架純 |
『花束みたいな恋をした』あらすじ
本作は有村と菅田演じる1組の男女が、井の頭線・明大前駅で終電を逃して偶然に出会うところから始まる物語。時代、時間、場所、すべての偶然が運命のようにシンクロしていく恋の5年間の行方と、子どもでも大人でもない時期を迷いながら歩んでいく2人のリアルな姿を描きます。 主人公は21歳の大学生、山音麦(菅田将暉)と八谷絹(有村架純)。サブカルチャーをこよなく愛する2人は、互いの共通点の多さに驚きつつも、急速に距離を縮めていきます。そうして、自然に付き合い始めました。 イラストレーターを目指す麦は就活せず、圧迫面接で傷ついた絹を見て、一緒に住むことを決意します。大学卒業後も気ままに過ごしていた2人ですが、やがて生活が苦しくなり2人とも就職。仕事に忙殺される麦と趣味を大事にしたい絹の間に、すれ違いが生じ始め……。
『花束みたいな恋をした』結末までのネタバレあらすじ
ここからは麦と絹が出会って大人になっていくまでの6年間を、年ごとに区切って解説していきます。
【2015年】麦と絹の出会い〜幸せな日々
2015年の冬。東京の調布市に住む大学生の山音麦(やまね むぎ)と八谷絹(はちや きぬ)は、その日うっかり終電を逃し、明大前駅で偶然出会いました。 その場に居合わせたサラリーマン、OL風の女性と4人でカフェに入ります。そこで麦は“押井守”を発見し興奮して伝えますが、サラリーマンとOLはピンと来ていない様子。しかし絹だけは、密かに押井守に感動していました。 サラリーマンとOLが2人でタクシーに消えたあと、気まずい空気の中、絹が押井守と遭遇した感動を語り始めます。そのまま2人は居酒屋に雪崩れ込み、もう1軒ハシゴすることに。 それから2人は朝まで、お互いの好きなことを語り合いました。同じ靴を履き、同じような小説家を好み、同じように天竺鼠のライブに行き損なった2人。あまりにも共通の話題がありすぎて、カラオケまで行っても足りず、ついに麦の部屋まで辿り着きます。 麦の本棚は絹の本棚とそっくり。絹は麦の書いたイラストも見つけ、それがとても気に入りました。雨に降られた絹の髪を、麦はドライヤーで乾かしてくれます。それから2人は、麦が作った「劇場版ガスタンク」を一緒に観て寝落ちしました。 その後も何度か一緒に出かけたものの、このままでは友だちのまま終わってしまうと絹は物足りなさを感じはじめます。しかしある晩ついに、ファミレスで麦が絹に付き合おうと告白しました。初めて2人は手をつなぎ、キスをしました。 しかしその頃絹は就活生。恋に夢中になって就活に出遅れ、圧迫面接に疲れ果てる日々が始まります。 絹が辛い目に遭っていると知り、麦は一緒に住もうと提案。多摩川沿いのマンションを借り、拾った猫にバロンと名付け、駅から徒歩30分の余裕を楽しむ満ち足りた生活を送っていました。
【2016年】現実に直面する2人
大学卒業後もフリーターとして過ごし、共通の趣味を楽しんでいた2人。麦はイラストレーターとして、絹はジェラート屋さんで働き始めます。 しかし麦の父からは仕送りを止められ、イラストの仕事も収入は下がっていく一方。絹も両親からしつこく就職を勧められ続けました。 ついに麦は、絹との生活を守るために就活を決意します。絹も一緒に就活を始め、簿記の国家資格に合格して先に就職を決めました。麦の就職先はなかなか見つかりません。
【2017・2018年】それぞれの仕事
焦っていた麦も物流会社の営業職に就き、ずっと2人でいられると安心したのも束の間、麦は仕事に忙殺されて絹と一緒に趣味を楽しむ余裕をなくしてしまいます。一方絹は働きながらも、変わらず自分の趣味の時間を大切にしていました。 絹が共通のはずだった趣味の話をしても、麦は疲れたと言って取り合ってくれません。すれ違う2人の心の距離は、遠くなるばかりでした。 安定した仕事に物足りなさを感じていた絹は、ある日イベント会社の社長からスカウトされ、麦に言わずに転職を決意します。しかし麦は苦労しながら堅実に働いていた分、簡単に仕事を手放す絹のことが理解できませんでした。 楽しく働きたい絹と、仕事は遊びではないと批判する麦。その場で麦は思いがけず、「絹は仕事を辞めて、結婚して好きなことをしたらいい」と最悪な形でプロポーズしてしまいます。
【2019年】終着点
そして2019年、出会いから4年が経った冬。絹はイベント会社に勤め始め、充実した生活を送っていました。麦は昇進して仕事がますます忙しくなり、2人の間からは会話が消えます。 ある日友人の結婚式に参加した2人は、式の最中に、この幸せな気持ちのまま別れようと、それぞれ決意しました。帰り道、出会ったファミレスに立ち寄って別れ話を始めます。 しかし絹が別れた後のことを淡々と話しはじめると、麦は「やっぱり別れたくない。恋人としては無理でも家族なら大丈夫だから、結婚しよう」と言い始めました。 その時、学生らしき若い男女が2人の席の近くに座り、互いの趣味を初々しくも熱く語っているのに耳にします。それはまるで、あの日の麦と絹のよう。たまらず絹は店を飛び出し、麦は絹を追いかけて抱きしめました。2人はもう戻れないことを悟って涙を流し、ついに別れたのでした。
【2020年】エピローグ
2020年、互いに新しい恋人を連れて同じカフェにやってきた2人。あるイヤホンの左右を分けて音楽を聴くカップルを批判しようと立ち上がり、麦と絹は対面しました。しかし何もなかったかのように自分の席に戻っていきます。 イヤホンを分けるカップルの姿は、以前の2人そのものでした。カフェから出ても2人は、言葉も交わさずに後ろ向きで手を振り合って、違う道を歩いていきました。 その後ふと、以前よく絹と一緒に行ったパン屋が気になり、Googleストリートビューを見ていた麦は、そこにある「奇跡」を発見します。それは、多摩川沿いを歩く1番輝いていたかつての自分たちの姿でした。
【感想・評価】なぜ共感してしまうのか?
高校生、大学生、社会人……観る人の立場や経験によって、感じるものや共感できるところがそれぞれ違うのだろうなと思った作品。どんなことにも変化や転換は必ず訪れるもので、それが良い結果悪い結果をもたらすかは当人のあり方次第。変化を恐れない生き方をしたいと、一学生である自分は感じました。
麦と絹の物語のはずなのに、観終わったら自分が主人公だったような感覚に陥りました(恐縮です)。2人の恋愛模様を見ていたはずなのに、気づいたら自分の人生について考えているみたいな……。さすが坂元裕二です。好きなことにまみれていた大学時代から、社会人になって忙しさに埋もれて自分って何者なんだろうと思う気持ちや、流されてしまえば楽だと感じる葛藤まで、余すことなく共感できます。
「エモい」以外の言葉が出てこない素晴らしい映画でした。自分もサブカルチャー好きなのもあってか、最初から最後まで感情移入しすぎて共感性羞恥も感じた。趣味がばっちり合っていくら話しても話し足りなくて、という2人が結局すれ違ってしまったのは悲しかったけど、リアルでした。切ない!
若者のリアルを詰め込んだような作品。麦たちと同世代である自分が共感できないはずがありませんでした。ストリートビューのくだりはほんと最高です。2人に共感しすぎて、終始泣きどおしでした。
麦と絹の物語は、同じ趣味嗜好を持つ相手と出会い、お互いを「分身」のように感じていた1組のカップルの恋を追ったもの。 そんな「同一化」しやすかった2人でも、些細ではあっても確かな価値観の違いや厳しい現実が確かに目の前にありました。それを受け入れることで生じてしまう、2人の変化が丁寧に描かれています。 どんなに分身のように感じていても、実際は個別の人間。それは冒頭のシーンで、イヤホンをシェアするのは邪道と説く麦と絹が「1人に1つずつ」と割り切り、社会と折り合いを付けたことを意味するものでもありました。 脚本を手がけた坂元裕二によれば、今回はアウトサイダーではなく、社会の中で生きようとした“美しい”人たちを書いたのだとか。麦と絹の恋は終わってしまいますが、その5年間で2人が成長したことは間違いありませんね。
ファミレスで2人が泣いてる理由はそれぞれ違う?
物語終盤、結婚式を終えた2人はファミレスで別れ話をしました。若い頃の自分たちにそっくりなカップルを見て、号泣している2人。なぜ泣いていたのでしょうか? 実は麦と絹で、泣いている理由はそれぞれ違うと考察できます。それぞれ紹介していきましょう!
絹
有村架純演じる絹は、変わってしまった麦に以前から不満を抱いていました。仕事に打ち込むあまり、文化を楽しむ豊かな心を忘れてしまった麦。 若いカップルを目の当たりにして、絹が愛した麦はもうどこにもいないのだと改めて痛感したのではないでしょうか。大好きだった麦が、変わり果てていなくなってしまったことを悲しみ、泣いていたのだと考えられます。
麦
一方麦は、絹との生活を守るために必死に働き続けてきました。それによってすれ違いや喧嘩が増え生活が楽しくなくなっても、絹と一緒にいられればそれでよかったのです。 しかし絹が自分と違う人生を選択したのを見て、“一緒にいられれば何でも良い”と思っていたのは自分だけだったと気づきます。さらに、そんな絹と一緒にいる自分も幸せを感じていないと気付き、一度は別れを決意するのでした。 しかしいざ別れの話を始めてみると、あまりにも絹が淡々としていて、さみしさを感じてきます。さらに自分たちにそっくりな若いカップルを見て、改めて、一生懸命守りたかった幸せな生活を思い出します。 再び絹との生活を取り戻したくなった麦は必死に説得を試みますが、絹はもう一緒にいてはくれません。趣味も幸せも犠牲にして守りたかったものを結局守れなかった悲しさと悔しさで、麦は泣いていたのではないでしょうか。
なぜ2人は別れなければいけなかったのか?
麦と絹はこの上なくお似合いに見えるカップルで、だからこそ本作を観た人の一部からは「別れる必要はなかったのでは?」という声もあがっていました。 しかし作中では価値観が食い違ったり、お互い思っていることを言えず飲みこんだりといった2人の姿も丁寧に描かれています。こうした些細なことがごまかしようもないくらい積み重なった結果として、あのラストへとつながったのでしょう。 以下では、劇中に登場するアイテムも別れの伏線になっていたという可能性について考察していきます。
トイレットペーパー
2人が出会ったきっかけにもなったトイレットペーパーは、生活感あふれるアイテムです。 作中では麦がトイレットペーパーを、絹が花束を持ち並んで歩く場面も登場しており、ここでは安定志向の麦と“好き”を追いかける絹の対比が暗示されているようにも思えました。こうした「望むもののちがい」が、2人がすれ違うきっかけになったといえるでしょう。 ちなみに最後に「トイレットペーパー買えたかな」という絹のモノローグがあることで、コロナ禍のトイレットペーパー買占め騒動をうかがわせる演出になっています。現実にいる2人なんじゃないかと思わせる展開ですね。
ミイラとガスタンク
好きなものが共通している麦と絹ですが、お互いにまったく共感できない趣味も持っています。それが麦が好きな「ガスタンク」、絹が好きな「ミイラ」です。 付き合っているあいだは相手に話題を合わせていた2人ですが、別れてから実はお互いに引いていたことを明かします。その素直な気持ちを交際中に打ち明けることができていたら、またちがう結末になっていたかもしれません。
「はじまりはおわりのはじまり」
「はじまりはおわりのはじまり」は、絹が愛読していたブログ『恋愛生存率』のテーマです。その他に「恋愛はパーティーのように終わる」という、恋愛の一瞬のきらめきを凝縮したような言葉も出てきます。 始まったものはいつか必ず終わりを迎える……映画が終わって振り返ってみれば、まるで麦と絹の恋がたどる結末を暗示しているかのようです。
マーガレット
「花の名前を教わると、その花を見るたび一生その子のことを思い出す」と言いながら、麦に花の名前を教えなかった絹。その花は「マーガレット」です。 マーガレットの花言葉には、「優しい思い出」や「私を忘れないで」といったものもあります。きっとこの描写は、2人の恋が美しい過去に変わったことをあらわしているのでしょう。
タイトル『花束みたいな恋をした』の意味は?
麦と絹の紡いだ物語は、長く付き合ってきたカップルによくありそうな話ではあります。しかし2人にとっては、この上なく綺麗な思い出のままで終われた唯一の恋です。 いつまでも忘れられない5年間として一生残り続ける大恋愛であったことは間違いなく、その点が共感の嵐を呼んでいるのかもしれません。 タイトルには、この恋愛が1番美しい瞬間を切り取った「花束」なのだという意味が込められていると考えられます。その時はキラキラと輝いて美しいものでも、次第に枯れていくものでもあるというメタファーなのでしょう。 もちろん、ラストで麦によって見つけられたストリートビューの2人もその象徴なのです。
サブカルチャーを読み解く
押井守
2人の出会いのきっかけは、サブカル界きっての著名人・押井守をカフェで発見したこと。 押井守は「機動警察パトレイバー」や「攻殻機動隊」シリーズで世界的知名度を誇るアニメ映画監督です。しかも劇中に登場するのは、押井守本人!麦や絹でなくても震えます……!
天竺鼠の単独ライブ
終電を逃してしまったものの、押井守を発見したことから話が盛り上がって、居酒屋へ入った麦と絹。そこでお互いどうでもいいことで行きそびれた、お笑い芸人「天竺鼠」のルミネ単独ライブのチケットを見せ合います。あまりの偶然に絶句する2人。 ここで離れがたい気持ちが沸き、麦はちょっと気になる大学の女子と鉢合わせて席に誘われてもそれを断って、先に帰った絹を追いかけます。すでにここで、運命のようなものを感じていたのでしょう。
きのこ帝国の「クロノスタシス」
居酒屋を出た後、カラオケに向かった2人が歌ったのは、きのこ帝国の「クロノスタシス」。その後、缶ビール片手に夜の甲州街道を歩く2人の会話にも、この曲の歌詞の話題が出てきます。 「クロノスタシス」とは時計が止まって見える現象のこと。今まさに出会い、急接近して時が止まっているかのような2人にぴったりな曲です。2人の恋が終わった2019年にきのこ帝国も活動休止しており、そのことも劇中で絹が触れています。
今村夏子の『ピクニック』
麦と絹が敬愛する小説家として、『むらさきのスカートの女』で芥川賞を受賞した今村夏子が登場します。話題に上がるのは、『こちらあみ子』のなかに掲載されている「ピクニック」。 2人が大好きだと語る小説『ピクニック』が大事な場面で言及され、「偉いのかもしれないけど、きっとその人は今村夏子さんの『ピクニック』を読んでも何も感じない人だと思うよ」というセリフが2度出てくるのです。 1度目は圧迫面接で傷ついた絹に麦が、2度目はクライアントにパワハラを受けていると告白した麦に絹が言います。しかし2度目の時、麦は「俺も何も感じないかも」と呟き、ここで2人のあいだに溝ができてしまったことがはっきりするのです。
『宝石の国』
市川春子『宝石の国』は、麦と絹が一緒に読んで感動し、涙を流した作品です。しかしお互いの環境が変わったことによって、2人の作品への向き合い方は変わってしまいます。 麦は忙しすぎて読むことをやめ、内容すら忘れてしまいました。その一方で絹は続きを読み続けます。以前はたしかに共有できたものを共有できなくなっていく、そんな切なさや虚しさがよくあらわれていました。
野田サトルの『ゴールデンカムイ』
野田サトルの漫画『ゴールデンカムイ』は、2人の時間の経過を示すのに一役買っています。まず1巻に登場するアイヌ料理の話題で意気投合した麦と絹は、2人の新居にも蔵書をそろえていきました。しかし8巻が出ても麦の就職は決まらず、7巻で止まったまま。 13巻を読む絹に、もう好きな漫画を追いかけて読む気力すらないという麦。この温度差が、すれ違ってしまった2人の心を端的に表しています。
パズドラ
麦と絹が愛したサブカルチャーの対比として置かれているのが、スマホゲームのパズドラ。作中で麦は激務のあまり本や映画を観ても何も感じなくなり、「パズドラしかやる気しないの」と語っています。 心の底から楽しいと思っているわけでもないことを惰性でやってしまう麦。本や映画に夢中になる姿を知っているからこそ、なかなか心に来る描写です。
【評価】共感を呼んだ3つの理由
①恋愛におけるささやかな幸せを描く
同じ白い靴を履く麦と絹は、色違いのJAXAのトートバッグを持って初デートに行き、イヤホンをシェアして音楽を聴いていました。 恋愛は「同一化」することで相手とより近くなろうとする行為。麦と絹が重なっていく過程が丁寧に描かれているため、多くの共感を呼んでいるのかもしれません。 焼きそばパンを川辺を歩きながら分けあって食べる姿は、そんなささやかな幸せの象徴。その姿がストリートビューに保存されていたことこそが、本作のテーマ「花束みたいな恋」を象徴しているのではないでしょうか。
②まるで自分ごとのように思えるリアルさ
主演の菅田将暉と有村架純は、若手俳優のなかでもキャリア・人気ともに抜群のいわばスター的存在。そんな2人なのに、劇中ではどこにでもいそうな等身大の男女のカップルを演じており、彼らから醸し出される生活感もリアルでした。 2015年から2020年のあいだの出来事もそれとなく劇中に忍ばせてあり、その期間を過ごした誰もが記憶をたどって共感することができるストーリーでもあります。まさに、まるで自分が経験したことのような感覚になってしまうのです。
③2人のあいだに漂う空気感
菅田将暉が演じる麦と、有村架純が演じる絹の2人のあいだに漂う空気感はごく自然で、本当に同じ時間を過ごしてきたカップルにしか見えません。SNSでも2人のカップルらしいリアルな空気感に対して、絶賛する声が多いようです。 この空気感を出せるのは、俳優同士の信頼に基づいているのかもしれません。またリアルで自然な麦と絹という人物像をいちから作り出した、脚本家・坂元裕二の手腕によるところも大きいでしょう。
【スタッフ】脚本・坂元裕二×監督・土井裕泰
坂元裕二
本作の脚本を手掛ける坂元裕二は、『東京ラブストーリー』(1991年)や『最高の離婚』(2013年)、『カルテット』(2017年)、『anone』(2018年)など、各時代で連続ドラマの金字塔を打ち立ててきました。 そんな坂元が映画でラブストーリーの脚本を手掛けるのは、2004年の『世界の中心で、愛をさけぶ』以来であり、オリジナル脚本は初めてとなります。 坂元は本作について、憧れでもなく懐かしむのでもなく、今を生きる人のための、今のラブストーリーを作りたいという思いでいると語り、「22歳で出会った2人の恋の5年間に嘘が混ざらないようにと、ただただ真っ直ぐに映し出しました」と作品を紹介しています。
土井裕泰
本作でメガホンを取るのは、『罪の声』(2020年)で第44回日本アカデミー賞で優秀監督賞を受賞した土井裕泰。 『いま、会いにゆきます』(2004年)や『映画 ビリギャル』(2015年)など大ヒット作を数多く手掛けてきた土井は、坂元とはドラマ『カルテット』以来2度目、映画では初のタッグとなります。
優しい空気感と人生のほろ苦さ……!演出が素晴らしかった
麦と絹の自然な優しい空気感を生み出したのは、『涙そうそう』(2006年)や『ハナミズキ』(2010年)など数々の恋愛映画を手掛けてきた土井裕泰監督の演出はもちろん、ドラマ『カルテット』でタッグを組んだ坂元裕二の脚本によるところも大きいはず。 坂元裕二のこれまでの作品には、有村架純が主演した2016年のドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』のような、その当時の社会を反映しつつも1組のカップルの恋愛に重点を置いた、本作に通じる作風のものもあります。 今回、麦と絹の人物像を創作する際に、ある一般の1人に焦点を定めて深堀りしていったといいます。サブカルチャーにしても自分の趣味を脚本に反映することはないそうで、そのアプローチの仕方が麦と絹のリアルさを生んだようです。
【キャスト】絹・有村架純×麦・菅田将暉
八谷絹役/有村架純
本作の主演を務める有村架純は、『映画 ビリギャル』(2015年)や『フォルトゥナの瞳』(2019年)など多くのヒット作で主人公やヒロインを演じてきました。 有村は本作への出演について、「濃い日々になりすぎて胸焼けすることを期待して、皆さんと同じ方向を目指して頑張ります」とコメントしていました。 演じた八谷絹は、小説・漫画・映画・音楽など日本のサブカルチャーを愛する大学生です。ラーメンブログ「麺と女子大生」を書いており、好きな言葉は「替え玉無料」。そしてなんと理想のデートコースはミイラ展! 特に将来の夢は持っておらず楽しく生きたいと考えているタイプですが、簿記の国家資格に合格して医療事務の職に就きます。
山音麦役/菅田将暉
もう1人の主人公・山音麦を演じた菅田将暉も、『溺れるナイフ』(2016年)や『帝一の國』(2017年)、『アルキメデスの大戦』(2019年)など、大作から個性的な話題作まで幅広く主演を務めてきた実力派。 菅田は以前、坂元にラブストーリーをやりたいと訴えたことを振り返り、本作は「待って、待って、待ち焦がれた」作品だったそう。本作の撮影が開始された際には、「今はただ楽しみです。浮かれず一つ一つ丁寧に作っていけたらと思います」と意気込みを語りました。 演じた山音麦は、イラストを描くのが趣味のサブカル好きな大学生。1人暮らしをしています。 「劇場版 ガスタンク」を自ら監督・撮影・編集するほどのガスタンク好きで、ちょっとした自慢はGoogleストリートビューに映り込んだこと。将来の夢はイラストレーターで、卒業後はワンカット千円でイラスト修行を続けています。
その他のキャスト/登場人物
羽田凜/清原果耶
羽田凛役で出演しているのは、2021年のNHK連続テレビ小説『おかえりモネ』で主演を務める清原果耶。彼女は、麦と絹が別れ話をしにきたファミレスに入ってくる学生です。一緒に入ってきた亘と、ニッチな音楽の話題で大いに盛り上がります。
水埜亘/細田佳央太
水埜亘役で出演しているのは、2018年に『町田くんの世界』で映画初主演を果たした細田佳央太。亘は凛と一緒にファミレスに入ってきた学生で、彼女に好意を抱いている模様。凛も同じ想いのようで、2人を見た麦と絹が涙するシーンは印象的です。
加持航平/オダギリジョー
絹が再就職するイベント会社の社長・加持航平を演じたのは、2019年に『ある船頭の話』で監督業にも進出した俳優のオダギリジョー。麦との溝に悩む絹に「恋愛は生もの」と何気ないアドバイスを送る、絹にとっての人生の先輩的存在です。
八谷早智子/戸田恵子
絹の母親・八谷早智子を演じたのは、『ステキな金縛り』(2011年)や『清須会議』(2013年)など三谷幸喜監督作の常連として知られる女優・戸田恵子。同棲してフリーターを続ける2人のマンションにやってきて同じ小言を言い続ける、絹にとっては厄介な母です。
八谷芳明/岩松了
絹の父親・八谷芳明を演じたのは、劇作家や演出家としても知られる俳優・岩松了。2021年は映画『ヤクザと家族 The Family』に出演し、『シン・ウルトラマン』の公開も控えています。芳明は広告代理店に勤めるサラリーマンで、早智子とともに2人の住むマンションに押しかけます。
山音広太郎/小林薫
麦の父親・山音広太郎を演じたのは、映画・ドラマのほか舞台でも活躍する俳優・小林薫。主演の代表作に「深夜食堂」シリーズがあります。田舎から出てきて、やはり2人のマンションに様子を見にきますが、地元の花火大会を応援することしか頭にない様子。
【曲】Awesome City Clubによる「勿忘」
『花束みたいな恋をした』のインスパイア曲として発表されたのが、Awesome City Club(オーサム・シティ・クラブ)による「勿忘 (わすれな)」。予告編で流れていた、爽やかなメロディーラインが印象的な楽曲です。 Awesome City Clubは男女混成のツインボーカルグループで、2015年にファーストアルバムをリリースしており、麦と絹の5年間とバンドの成長がぴったり重なっています。 劇中では「Lesson」や「アウトサイダー」などの楽曲も使用されており、実は女性ボーカルを務めるPORINもファミレスの店員役で出演しているのです。しかもAwesome City Club本人役として、その後も何度も登場。 PORINの髪色が変わっていくことも、時代の変遷を示すのに取り入れられています。
『花束みたいな恋をした』ネタバレ考察で見えてくる恋愛の本質
「#はな恋みたいな恋をした」という公式タグで、SNS上でも多くの共感を呼んだ映画『花束みたいな恋をした』。 これまで珠玉のラブストーリーを生み出してきた監督・土井裕泰×脚本家・坂元裕二が手がけ、スター俳優の2人がごく普通の等身大のカップルの恋を繊細に表現した本作は、どの世代にも自分の恋の記憶を呼び起こす力を持っています。 やっぱり恋って素晴らしいなと思える『花束みたいな恋をした』。麦と絹が歩んだ5年間の軌跡を今一度見返して見ませんか?