2020年2月5日更新

【ネタバレ】映画『ジョゼと虎と魚たち』が愛される理由を考察&名言

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『ジョゼと虎と魚たち』、今なお色褪せない恋愛映画の魅力とは?

邦画、洋画と問わず、身体的ハンデを扱ったラブストーリーは数多く存在します。その中で、邦画の名作の一つと言えるのが『ジョゼと虎と魚たち』ではないでしょうか。 2003年に製作された本作は、芥川賞作家・田辺聖子の短編小説を、『眉山-びざん-』『のぼうの城』の犬童一心監督が映画化した作品。キャストは主演の妻夫木聡と池脇千鶴、上野樹里、新井浩文ら実力派が集結し、音楽はロックバンド「くるり」が担当しました。 足が不自由なヒロインと、平凡な青年の出会いと別れを描いた『ジョゼと虎と魚たち』。ただの感動映画ではない、一味違った名作の魅力を紹介します。

韓国リメイク作にアニメ映画も!2020年は「ジョゼ」の年に!?

『ジョゼと虎と魚たち』は韓国でも人気で、2019年に妻夫木がラジオ番組「FM映画音楽ハン・イェリです」にゲスト出演した際も、本作が話題に挙がったほど! 実は韓国リメイク作『ジョゼ』の製作が決定し、JTBCの名作ドラマ『眩しくて』のナム・ジュヒョクと、ハン・ジミンの再共演が実現。2020年に韓国で公開予定ですが、同年夏には日本でアニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』の公開も決まり、再注目されています! アニメ映画の監督は、「ノラガミ」シリーズなどのタムラコータロー。また、キャラクター原案の絵本奈央によるコミカライズ連載が、『ダ・ヴィンチ』2020年2月号より開始します。

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映画『ジョゼと虎と魚たち』のあらすじ

大学生の恒夫(妻夫木聡)は、アルバイトとして働く雀荘の噂話で「明け方に乳母車を押す謎のばあさん」の存在を知ります。マスターの犬の散歩中、恒夫は坂道を下ってくる乳母車と老婆(新谷英子)を目撃し、乳母車に乗る少女ジョゼ(池脇千鶴)と出会いました。 老婆は彼女の祖母で、足が不自由で車椅子生活を送るジョゼを散歩させていたのです。ジョゼを「半端もん」と呼ぶ祖母に戸惑いつつ、ジョゼに興味を抱き、家に通い始める恒夫。 彼は大学では香苗(上野樹里)に好意を寄せ、セックスフレンドのノリコ(江口のりこ)もいる、優しくて女性関係にだらしない平凡な青年です。一方のジョゼは、恒夫にとっては日常でも、自分には憧れの“外の世界”を見せてくれる彼に心を開き始めました。 そして、2人はジョゼの祖母の死をきっかけに身体を重ね、恋人同士になるのでした。 恒夫とジョゼは、「好きな人ができたら世界で1番怖いもの(=虎)を見に行く」というジョゼの夢や、願い事を少しずつ叶えていくのですが……。

【ネタバレ】映画『ジョゼと虎と魚たち』はなぜ私たちを魅了したのか?

障害者に対する固定概念をぶち壊す“ジョゼ”というキャラクター

池脇千鶴の演技が素晴らしいのはもちろん、ジョゼが従来の邦画にありがちな謙虚で、無垢で、一生懸命で……という障害者像ではないところが、高く評価されています。例えば、香苗がジョゼに「あんたの“武器”が羨ましいわ」と、障害を皮肉るシーンです。 物語としてのお約束では、ここでジョゼが泣いたり、身を引いたりするのでしょう。 ジョゼは挑発的な笑みを浮かべながら、「ほんまにそう思うんやったら、あんたも脚切ってもうたらええやん」と香苗に返し、一歩も引かないのです。世間を斜めに見て、皮肉屋で、ちょっと擦れているけれど、脆いところもある少女・ジョゼ。 固定概念的な障害者像に辟易していた人は、“障害者に対する無意識の憐れみ、優越感”を突きつけるかのような彼女に、カタルシスを感じたのかもしれません。

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お涙頂戴ストーリーにしない、生々しいまでにリアルなラスト

『ジョゼと虎と魚たち』がチープなお涙頂戴映画にならなかったのは、人間の弱さも、強さもリアルに詰め込んだラストが理由ではないでしょうか。 観終わった後には心がえぐられ、喪失感や何とも言えない感情が渦巻く結末ですが、決して救いがないわけではありません。ジョゼと恒夫、そして香苗もお互いを通して新しい世界を知り、出会いと経験を糧にして成長していくのだろう、と思わせてくれます。

2人は交際開始から約半年後、障害者であるジョゼにストレスを感じ始めた恒夫の心変わりから、あっけなく別れることになりました。 荷物をまとめ、ジョゼの家を出た恒夫を待っていたのは復縁した香苗。彼女は福祉の道を諦め、街でキャンペーンガールをしていた時に、偶然恒夫と再会したのです。恒夫は香苗との会話の途中で突然泣き崩れ、「ジョゼに会う事は、もう2度とないと思う」と、ジョゼから逃げた自分を責めます。 恒夫をあっさりと見送ったジョゼは、一人で電動車いすを使いこなし、一人で買い物に行き、一人で料理を作ってたくましく生きていくのでした。

とても人間的で等身大のキャラクターたちに感情移入する

恒夫が障害者に抱いたかもしれない中途半端な好奇心と、正義感のような感情も。親にジョゼを紹介すると言いつつ、その時が近づくと怖気づいたことも、今を楽しく生きるごく平凡な大学生の限界だったように思えて、彼の感情がリアルに伝わってきます。 福祉関係の仕事を目指しながら、恒夫を巡って「障害者のくせに」とジョゼを罵倒して後悔する香苗も人間らしくて、ある意味ピュアなキャラだと思います。 恒夫という光を失いたくないと願いつつ、彼の心離れを察して「それもまた良しや」と、愛する人を想うジョゼにも切なくなりました。“愛するだけではどうにもならない”こと、綺麗事ばかりではない現実の厳しさが丁寧に描かれており、胸がギュッと締め付けられるでしょう。 そんな痛々しいほど等身大のキャラクターたちに、思わず感情移入してしまうはずです。

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「ジョゼ」の心に染みる3つの名言を紹介

1.「あの子は壊れ物ですねん」

ジョゼの祖母が他人にジョゼの話をするシーンで、何度か登場する台詞。祖母はジョゼをできるだけ家に閉じ込め、敢えて腫れ物のように扱うことで、守ろうとしていたのでした。 実際に恒夫と出会い、祖母に隠れて外出するようになったジョゼは、雀荘の客に暴力を振るわれて傷つくこともありました。ジョゼも祖母の愛情を理解して納得していましたが、障害者を取り巻く現実を立った一言で表現しており、とても切ない気持ちになりますね。

2.「あんたなんか……あんたなんか関係ない。帰れ。……帰ってもう!!」

恒夫はジョゼの祖母が亡くなったと聞き、家を訪ねて大丈夫か訪ねますが、ジョゼは「近所のおじさんが胸を触らせてくれたらゴミ出しを手伝うと言うので触らせた」と答えます。怒った恒夫に、ジョゼがこの台詞を返して喧嘩になり、恒夫は帰ろうとするのですが……。 ジョゼはそれを見て大泣きし、「帰らんといて……」と本音をこぼしました。大人びているようでも脆い部分や弱さを持つ、“女の子”であると気付かされます。

3.「やべ……俺いまなんか泣きそうだ」

恒夫とジョゼが初めて身体を重ねたシーンで、「ええよ、しても」と服を脱ぎだしたジョゼを前にして、恒夫が言った台詞です。セフレもいて、女性とは割と適当な関係を持ってきた恒夫にとって、ジョゼとの行為は特別なものだったのでしょう。 男としての性欲以上に、ジョゼへの愛おしさ、葛藤やこれからのこと、言葉にできない多くの感情がこみ上げてきたのかも知れません。

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綺麗事だけではないからこそ、切なくリアルな『ジョゼと虎と魚たち』

『ジョゼと虎と魚たち』は残酷なまでに現実的に、障害者と健常者の恋愛を取り巻く問題と、障害者に対する世間の視線を捉えた映画と言えます。 障害のある、なしに関わらず人と人が関わりを持つ時、綺麗な感情ばかりではなく、上手くいかないことの方が多いのかも知れません。そうした部分もさらけ出して描くことで、キャラクターたちにより感情移入できますし、ラストの切なさが生きてくる作品でした。 人を愛することを知り、外の世界へ飛び出した少女とごく平凡な青年の切ないラブストーリーは、時代が変わっても愛され続けるでしょう。