2021年4月30日更新

【ネタバレ】映画『ノマドランド』のあらすじ・意味を解説!米アカデミー賞で評価された理由は?

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映画『ノマドランド』のあらすじを徹底解説!なぜアカデミー賞受賞作に?

ノマドランド
© Searchlight Pictures/Photofest/ZetaImage

オスカー女優フランシス・マクドーマンドを主演に迎え、路上で暮らす車上生活者「ノマド」たちの生き方を追ったロードムービー『ノマドランド』。 ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション『ノマド 漂流する高齢労働者たち』を、『ザ・ライダー』で知られるクロエ・ジャオ監督が映画化した作品です。 アメリカの大自然を映した映像美、ドキュメンタリーとフィクションを融合した手法などが話題を呼び、2020年度の国際映画賞ではベネチア国際映画祭の金獅子賞、トロント国際映画祭の観客賞など最高賞を受賞。 また米アカデミー賞では6部門にノミネートされ、結果的に作品・監督・主演女優賞の3部門を受賞しました。 この記事では、高い評価を受けている『ノマドランド』のあらすじやテーマ、そしてノマドという生き方について詳しく解説していきます! なお記事内では本作のネタバレ情報を取り扱っています。未鑑賞の場合はご注意ください。

【ネタバレ】映画『ノマドランド』のあらすじ

亡き夫が務めていた企業「USジプサム社」がリーマンショックによって倒産し、長年住んでいたネバタ州エンパイアの町がなくなり、住居まで失ったファーン。 彼女はキャンピングカーに夫との思い出の品を詰め込み、放浪の民「ノマド」となって、Amazon倉庫やバッドランズ国立公園など季節労働の現場を渡り歩いて生活をつないでいました。 資本主義社会を離れて自由に、しかしそれ故に過酷な日々を懸命に乗り越えながら、行く先々で出会ったノマドたちと交流を重ね、ノマドとしての生き方を学んでいきます。 壮大なアメリカ西部の大自然に触れ、彼女の旅は愛する夫を失った心を癒すものとなっていくのでした。

食品加工工場で職を得ていたファーンですが、ある日車がパンクしてしまい、やむなく修理代を妹に借りるためカリフォルニアへ。妹は1人で車上生活する姉を気遣いますが、ファーンは別れを告げて「砂漠の集い」で知り合ったデヴィッドの家に赴きます。 デヴィッドの家族はファーンを歓待し、デヴィッドからも一緒に暮らそうと誘われます。しかしベッドよりも自分の車で寝たほうが落ち着くこと、ここにも自分の居場所がないことに気付いたファーンは、翌日静かに旅立っていきました。 再び「砂漠の集い」に参加し、一緒に過ごしたスワンキーがガンで亡くなったことを知ります。ノマドたちが弔うなか、集いの主催者ボブが夫を忘れられないと言うファーンに、自分も息子を自殺で亡くしたことを告げ、ノマドのいいところは「さよなら」がないところだと語りました。 「また路上で会おう」という言葉に励まされたファーンは、ゴーストタウンと化したエンパイアを訪れ、倉庫の荷物を処分。ここで暮らしていた頃の生活に想いを馳せ、かつて住んだ家でそっと涙します。 そして彼女は、再び路上の旅へと旅立つのでした。

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映画『ノマドランド』はフィクション×ドキュメンタリーのかけ合わせ?

原作となったノンフィクション『ノマド 漂流する高齢労働者たち』

ノマド

『ノマドランド』の1番の特色を挙げるなら、ドキュメンタリーにフィクションが掛け合わされている点でしょう。原作はジェシカ・ブルーダーの『ノマド 漂流する高齢労働者たち』で、実際に数百人ものノマドに取材して書かれたノンフィクション作品です。 クロエ・ジャオ監督は、原作に書かれた高齢労働者たちがリーマンショックですべてを失って“漂流している”背景や、過酷な労働環境を告発するという側面を強調するよりも、ノマドたちの生き方に寄り添う形で映画化。 その結果、ノマドたちの自由で誇りを持った生き様が印象に残る作品となっています。 本作には実際のノマドたちが自分自身として登場しており、そこに原作には存在しないファーンという主人公を差し込むことで物語を創り上げているのです。

雄大な自然を映し出す映像と、実際にノマドとして暮らす人々

ノマドランド
© Searchlight Pictures/Photofest/ZetaImage

また本作で印象的なのが、アメリカ西部の雄大な自然を映し出した美しい映像です。実在のノマドたちが暮らす過酷ながら美しい大自然が、観客の心を打つとともに、彼らのリアルを描き出しています。 クロエ・ジャオ監督は、『ザ・ライダー』などこれまでの作品でもドキュメンタリーとフィクションの掛け合わせを行ってきました。 監督はノマドたちが実際に暮らしている自然のなかに、ファーン役を演じたフランシス・マクドーマンドとともに身を投じて、ドキュメンタリーに近い作風を創り出しています。 ボブ・ウェルズ、リンダ・メイ、スワンキーなど出演したノマドたちの自然な演技は素晴らしく、作品に見事に溶け込んでいました。ドキュメンタリーとフィクションに境界線がない、新しい表現ジャンルといえます。

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映画『ノマドランド』が刺さるのはなぜ?本作が訴えるメッセージを考察

ファーンの生き方“ホームレスではなくハウスレス”が示すもの

『ノマドランド』
(C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

劇中で以前教えていた生徒に出会い、彼女に「先生はホームレスになったのか」と聞かれ、「ホームレスではなくハウスレス」と答えたファーン。これこそが、ノマドの生き方を象徴する言葉かもしれません。 この言葉には、経済的理由で家を失い、やむなく漂流している高齢者といった惨めな気持ちはなく、“自分が選んでこの生活をしている”という自負のようなものが表れています。 自分たちを社会の隅へ追いやった物質至上主義・資本主義へのアンチテーゼとして、あえてハウスレスを選び、ホーム(故郷や居場所)は失ったのではなく、いつでも自分のなかにあるのだという精神です。 ファーンの境遇はまさに一般的に見ればホームレスですが、ホームという概念を大切にしているノマドにとっては、あくまでもただハウスレスな状態なのです。

ノマドとして生きることの苦悩

『ノマドランド』
(C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

とはいえ、ハウスレスな生き方を選んでいるファーンも、完全に資本主義から逃れられるわけではありません。例えば、自分の生活基盤である愛車の故障は、結局お金に頼らざるを得ない事態でした。 そのほかにも、スワンキーが骨折するというエピソードがありましたが、高齢者にとっては健康保険に加入しているか、すぐに病院にかかることができるかということも重要な問題ではあります。 ノマドとして生きていくには、子どもたちや家など、過去の思い出と決別して旅立てるのかも考えなければなりません。実際ファーンには、まだ夫と暮らした家や町に想いが残っていました。

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ノマドたちが選択しているハウスレスな生き方には、古くは西部開拓者、ホーボーやヒッピーなどこれまでのアメリカの「漂流者たち」の精神が息づいているようでした! 端々に彼らの誇りが感じられ、時には立ち止まって、物質至上主義や資本主義社会のあり方に疑問を抱くのも必要なのかもしれないと思いました。

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【ネタバレ】ファーンの今後はどうなる?実際のノマドたちもぶつかる壁

『ノマドランド』
(C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

出会ってきたノマドたちと触れ合ううち、ファーンはその影響を受け、自分自身の過去の思い出にも向き合う決意をします。夫と暮らした町と家を訪れ、倉庫の荷物をすべて処分し、再び旅立っていきました。 今後も彼女はノマドとして物質に頼らない生活を続けていくかもしれませんが、定住者でないというために、その先にはさまざまな困難も待ち受けているでしょう。 特にノマド生活者の多くは高齢者であり、老いや病気は重要な問題です。前述したように、健康保険に入っていることはノマドとして暮らすには大切な点。 本作ではスワンキーのように、ガンであってもあえて車上生活を続けることを選んだノマドの姿を見せることで、その厳しさも描いています。

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本作を観た後は、自由なノマドに憧れのようなものを抱く部分もあるかもしれません。 それでもAmazonや国立公園などが高齢者にとっては過酷な労働環境であることは間違いなく、いつまで体が元気で働けるかも気になりますね。 もし自分がこの生き方を選ぶとしたら、健康であることが第一条件!

米アカデミー賞で作品賞をはじめとする3冠受賞!評価された理由は?

本作はベネチア国際映画祭やトロント国際映画祭で高く評価され、アカデミー賞にも6部門にノミネートされていた作品。ゴールデングローブ賞では4部門にノミネートされ、作品・監督賞を受賞していました。 2021年4月25日に行われた第93回アカデミー賞では作品・監督・主演女優賞を受賞し、主要3部門を制覇!クロエ・ジャオ監督は、アジア系女性としてはじめて監督賞を受賞するという栄誉に輝きました。 この前年には、ポン・ジュノ監督が韓国人として初めて監督賞を獲得したことで、アジア系にも更なる門戸が開かれていたアカデミー賞。近年は「白すぎるオスカー」や「#MeToo運動」によって、ノミネートにも多様性が求められてきました。 今回の受賞の背景にはこの多様性も作用しているかもしれませんが、アジア系女性監督が現在のアメリカを独特な手法でありのままに描いた特異な点も確かに評価されたものと考えられます。

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2018年には『スリー・ビルボード』でアカデミー主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンドが、「インクルージョン・ライダー」という言葉でスピーチを締めくくり、ハリウッドに多様性を求めたこともありましたね。 確実に近年のアカデミー賞には、変革の時が訪れていると感じます!

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監督を務めたのはクロエ・ジャオ 中国出身の女性監督に注目が集まる

『ノマドランド』
(C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

クロエ・ジャオ監督は、1982年に中国・北京に生まれた中国系アメリカ人。イギリスで育ち、アメリカに移住した後、政治学と映画制作を学んでいます。 初の長編映画『Songs My Brothers Taught Me (原題)』(2015年製作)と長編2作目『ザ・ライダー』(2017年)は、本作同様ドキュメンタリー×フィクションの手法で制作され、ともに高い評価を受けました。 制作する上で心がけたことが「ありのままの世界」を映すことであり、それが「映画を特別にする」と語ったクロエ・ジャオ監督。 しかし中国では彼女の過去の反政府的な発言が問題視され、アカデミー賞受賞の速報すら流れなかったといいます。「ありのまま」を標榜する監督が「うそだらけ」と語った中国の現状が伺えます。 監督を手がけた次の作品は、2021年11月5日公開予定のマーベル映画『エターナルズ』。これまでの手法とはまったく逆のマーベル映画で、どのような手腕を発揮しているのかに注目です。 ■クロエ・ロジャ監督作『ザ・ライダー』を観よう

登場人物/キャストを紹介 主人公を含む2人以外は実際のノマド生活者!

ファーン役/フランシス・マクドーマンド

フランシス・マクドーマンド
Geisler-Fotop/Newscom/Zeta Image

主人公ファーンを演じたのは、本作で3度目のアカデミー主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンド。1957年生まれのアメリカ人女優で、『ファーゴ』(1996年)と『スリー・ビルボード』(2017年)でアカデミー主演女優賞を獲得していました。 待機作に、ウェス・アンダーソン監督の『The French Dispatch (原題)』(2021年)、ジョエル・コーエン監督作でデンゼル・ワシントンと共演する『Macbeth (原題)』があります。 『ノマドランド』では主演とともに製作も担っており、原作にはないファーンというキャラクターを、自身の生き方や考え方、ファッションなどのライフスタイルすべてを投影して創作しました。

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デヴィッド役/デビッド・ストラザーン

デビッド・ストラザーン
©AMPAS/ABC/Photofest/Zeta Image

ファーンとノマドの集いで出会い、心を通わせるデヴィッド役には、『グッドナイト&グッドラック』(2006年)でベネチア国際映画祭の男優賞を受賞したデヴィッド・ストラザーン。 ワーナーとレジェンダリー・ピクチャーズが製作するモンスターバースの『GODZILLA ゴジラ』(2014年)と『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年)では、ウィリアム・ステンツ提督役で出演しました。 待機作は、アメリカで2021年12月公開予定のギレルモ・デル・トロ監督作『ナイトメア・アレイ』です。 ファーンとデヴィッドのあいだで紡がれる物語は、フランシス・マクドーマンドと彼自身の関係性を反映しながら構築されたといいます。

実際にノマドとして暮らす人々

前述した通り、ファーンとデヴィッド以外のノマドたちはすべて実在のノマド生活者です。特にノマド歴の長いボブ・ウェルズ、リンダ・メイ、スワンキーの3人が劇中でフィーチャーされています。 クロエ・ジャオ監督は役者ではない彼らの自然な姿を撮影できるように、撮影現場を工夫したそう。彼らに寄り添って、ありのままを世界を映し出すことで、ドキュメンタリーに近いよりリアルな作品となりました。 監督の自然な撮影方法によって、原作にも脚本にもない場面が撮れたのが、ボブがファーンに息子のことを話すシーンだそう。監督ならではの撮影現場が、ボブが自然に語れる雰囲気を作り出したといえますね。

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映画『ノマドランド』は米アカデミー賞も納得の傑作!ぜひ映画館で観よう

『ノマドランド』
(C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

アメリカの現在を映し出し、美しい大自然とともに放浪するノマドたちをありのままの姿で描いた『ノマドランド』。アメリカン・ドリームの今を、中国系アメリカ人のクロエ・ジャオ監督が映像化したという点が実に興味深いですね。 お金と物ばかりを追う現代の生活に疲れた時に、ふと立ち止まり、自分自身の本当の幸せは何か、居場所はどこかを振り返るのにはうってつけの作品!ぜひ今、映画館で鑑賞してほしい1本です。