2021年5月7日更新

クロエ・ジャオ監督の“ノマド”な生き様に迫る【『エターナルズ』が公開予定!】

クロエ・ジャオ
©WENN.com/Zeta Image

第93回アカデミー賞で作品・監督・主演女優賞の3冠に輝いた『ノマドランド』の監督クロエ・ジャオ。そのキャリアと作品を辿るとともに、中国出身でアメリカ在住の彼女の“ノマド的な”生い立ちにもスポットを当てていきます。

目次

クロエ・ジャオ監督がアカデミー監督賞を受賞!

『ノマドランド』
© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

2021年4月25日に行われた第93回アカデミー賞で監督賞を受賞し、アジア系女性監督として初の快挙を成し遂げたクロエ・ジャオ監督。彼女が監督した映画『ノマドランド』は作品・監督・主演女優賞と主要部門3冠に輝き、アカデミー賞の歴史を塗り替えました。 それまでも『ノマドランド』はベネチア国際映画祭で金獅子賞、トロント国際映画祭で観客賞と国際的にも高評価を得ており、アカデミー賞の前哨戦であるゴールデングローブ賞でも作品・監督賞を受賞しています。 この記事では、注目すべき旬の女性監督クロエ・ジャオのキャリアや作品、そして彼女自身の“ノマド的な”生き方にスポットを当て、その魅力に迫ります。

クロエ・ジャオ監督の注目作/公開予定作

キャリア

〜2011 短編映画を数多く製作
『Post』(2008年)で監督デビュー
『The Atlas Mountains』(2009年)
『Daughters』(2010年)など
2015 初の長編
『Songs My Brothers Taught Me』
 監督・脚本・製作・編集
2017 『ザ・ライダー』☜ 監督・脚本・製作
【受賞歴】
第70回カンヌ国際映画祭
 芸術映画賞
2020 『ノマドランド』☜ 監督・脚本・製作
【受賞歴】
第77回ヴェネツィア国際映画祭
 金獅子賞
第78回ゴールデングローブ賞
 最優秀作品賞/最優秀監督賞
第93回アカデミー賞
 作品賞/監督賞/主演女優賞
2021 『エターナルズ』☜ 監督・脚本
※11月に公開予定

『ザ・ライダー』(2017年)

致命傷を負っても乗ることをやめないカウボーイ

『ザ・ライダー』ブレイディ・ジャンドロー
©Sony Pictures Classics/Photofest/Zeta Image

クロエ・ジャオ監督の長編映画2作目『ザ・ライダー』は、ロデオ競技で致命傷を負ったカウボーイの生き様を描いたヒューマンドラマ。実在のカウボーイであるブレイディ・ジャンドローの実話をベースに、フィクションとして再構成した作品です。 ブレイディ・ジャンドロー自身が、自分を基にした主人公ブレイディ・ブラックバーン役を演じています。 他の出演者たちも実在の人物が彼ら自身を演じており、監督の前作『Songs My Brothers Taught Me (原題)』や『ノマドランド』と同じドキュメンタリー×フィクションの手法が取られています。 本作は第70回カンヌ国際映画祭の監督週間でプレミア上映され、芸術映画賞を受賞。また第33回インディペンデント・スピリット賞では作品賞と監督賞にノミネートされて注目を集めました。

『ノマドランド』(2020年)

住む家を失った高齢な季節労働者たち

『ノマドランド』
(C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

長編映画3作目『ノマドランド』は、ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション『ノマド 漂流する高齢労働者たち』が原作。リーマンショックによって住む家を失った高齢者たちが、季節労働者として各地をキャンピングカーで転々する生き方を追ったロードムービーです。 フランシス・マクドーマンド演じる主人公ファーン、デヴィッド・ストラザーン演じるノマドのデヴィッド以外は、すべて実際のノマド生活者たちが彼ら自身を演じています。 本作はベネチア国際映画祭とトロント国際映画祭の他にも、アメリカ国内の映画賞で作品・監督賞を総なめにしており、アカデミー賞では主要3部門の他にも編集・撮影・脚色賞の計6部門にノミネートされていました。

『エターナルズ』が公開予定!

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これまでの長編3作でドキュメンタリー×フィクションの手法で映画を撮影してきたクロエ・ジャオ監督。彼女が手がけた次回作はなんとマーベル映画『エターナルズ』で、日本では2021年11月5日公開予定です。 『エターナルズ』はマーベル・シネマティック・ユニバースの第26作目で、宇宙種族「セレスティアルズ」が人類の遺伝子実験で生み出した不死の「エターナルズ」の人々を描く群像劇。 主人公セルシを演じるのは、『キャプテン・マーベル』(2019年)のジェンマ・チャン。 他にもアンジェリーナ・ジョリーや「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズのリチャード・マッデンキット・ハリントン、『ゴジラvsコング』(2021年)のブライアン・タイリー・ヘンリー、『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2017年)のマ・ドンソクと豪華キャストが集結しています。

反抗的な青春時代を過ごした?クロエ・ジャオ監督の生い立ち

クロエ・ジャオ
©WENN.com/Zeta Image

クロエ・ジャオは1982年3月31日生まれ、中国・北京市出身の中国人。父は国有鉄鋼会社のゼネラルマネージャーでしたが、両親は後に離婚。中国の人気女優ソン・タンタンと再婚していました。 自身曰く“反抗的に”成長し、西洋のポップカルチャーに傾倒したという彼女は、両親によってイギリス・ロンドンの寄宿学校で思春期を過ごします。卒業した後はアメリカ・ロサンゼルスの高校へ。 その後マサチューセッツ州のマウント・ホリヨーク大学で政治学を学び、職を転々とした後に、ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・アートで映画制作を始めます。数々の短編映画を制作し、2010年の『Daughters』で高い評価を得ました。

クロエ・ジャオ監督自身が“ノマド”な流浪の民だった

『ノマドランド』
(C) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

両極端な国を流転してきたクロエ・ジャオ監督

クロエ・ジャオは中国人ながら、その半生はさながら「ノマド」のように流転の日々だったようです。英語も話せないままイギリスへ単身渡り、多感な思春期をイギリスの寄宿学校で過ごし、高校も母国へは帰らずに憧れのアメリカへ向かいました。 中国とアメリカはどちらも大陸文化を持つ国ですが、いわば両極端な政治思想を持つ国。西洋文化に憧れた彼女が、自由なアメリカをさすらうことになったのは自然の成り行きだったのかもしれません。

中国人でもなく、アメリカ人でもないアイデンティティ

クロエ・ジャオ監督がゴールデングローブ賞で監督賞を受賞した際には、中国国内でも大きくメディアに取り上げられていました。しかし注目をきっかけに、過去の中国を批判した発言が蒸し返され、一転して彼女自身や作品が検閲対象になってしまったのです。 彼女の不遇な青春時代や西洋文化への傾倒を顧みれば、発言は自然に出たと思われるもの。しかし中国では厳しく批判され、アメリカではあくまでも中国人として扱われる彼女は、中国人でもアメリカ人でもなくアイデンティティが常に“漂流している”状態です。 クロエ・ジャオ監督が『ノマドランド』の撮影で実際のノマド生活者たちの生き様に寄り添えたのは、彼女自身がノマドのような流浪の民だからでしょうか。

クロエ・ジャオ監督はナショナリズムに縛られない自由で“ノマド”な映画人

アジア系女性監督として、アカデミー賞の歴史を再び大きく塗り替えたクロエ・ジャオ監督。ところがその快挙が母国では握りつぶされるという、中国とアメリカの現在の関係性を象徴するような状況に身を晒されています。 しかしその過去の発言や作品を知れば、彼女が一国のナショナリズムに縛られることのない、アメリカを愛する自由で“ノマドな”映画人であることもわかります。今後の活躍にもぜひ注目していきたいところですね。