映画『フェイブルマンズ』感想ネタバレあらすじと考察解説 スピルバーグの自伝的作品のタイトルに隠された意味とは
映画『フェイブルマンズ』作品概要
タイトル | 『フェイブルマンズ』 |
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公開日 | 2023年3月3日 |
上映時間 | 151分 |
監督 | スティーヴン・スピルバーグ |
映画『フェイブルマンズ』のあらすじ
エンジニアである父・バートとピアニストである芸術家の母・ミッツィの間に生まれたサミー・フェイブルマン。 両親に連れられて行った映画館で『地上最大のショウ』を観て、映画の魅力にとりつかれたサミーは、自宅で映画を撮り始めます。10代になるとボーイスカウトの仲間たちとともに映画を撮る日々が始まりました。 ある日ミッツィの母が亡くなり、彼女は取り乱してしまいます。サミー・フェイブルマンはキャンプ旅行の動画を編集して元気づけようとしますが、そこで家族のある秘密を知ってしまいます。 >結末までのネタバレあらすじはこちらから
感想・評価
スピルバーグがどのように成長し、家族や周囲との関係からどのように映画に没頭していったのかが丁寧に、そして美しく描かれています。スピルバーグだからこそ撮れる作品であり映画愛に溢れた名作でした!
前半のスローテンポな部分から中盤以降の暗い部分が見えてくるあたりから見入ってしまいました。家族模様や青春ドラマ、純粋なドキュメンタリー様々な角度から楽しめる作品だと思います。
映画『フェイブルマンズ』結末までのネタバレあらすじ
フェイブルマン一家には家族のように時間を過ごしていた父の友人ベニー・ローウィがいました。 サミーはキャンプに出掛けた際、母とベニーが不倫していると思わせる瞬間を映像に撮ってしまったのです。母に不倫を見つけてしまったことを伝えた彼は、2人だけの秘密にすると約束。 父の仕事が成功し、転職のためにアリゾナからカリフォルニアに引っ越したフェイブルマン一家。サミーは転校先でユダヤ人という理由でいじめを受けてしまいますが、親しくなったモニカの提案で学校の行事「シニアスキップデー(おさぼり会)」を撮影し生徒の前で披露。この映像が大盛況を収めます。 結局母はベニーのことを忘れられず、アリゾナに戻りたいと家族に相談。夫婦は離婚することになります。父とともにロサンゼルスに住みながら大学に通っていたサミーは仕事が見つからず大学退学を考えます。 しかし最初はただの趣味と考えていた父が「それが幸せなら自分の道を進みなさい」と助言。サミー宛に大手テレビ会社CBSから一通の手紙が届いており、念願だったドラマの助監督を依頼されるのです。 さらにスタジオの責任者が、『リバティ・バランスを射った男』を観て以来憧れの監督だったジョン・フォード(演:デイヴィッド・リンチ)を紹介。そこでフォードはサミーに「地平線が上か下にある絵は面白い。真ん中にあるのは退屈だ!」と一言アドバイス。 憧れの監督から映画撮影のコツを教えてもらい、嬉しそうにオフィスを出たサミー。彼の後ろ姿を映していたカメラは慌てて上を向き、地平線は下にある状態で映画は終わりました。
【解説】実際のスピルバーグの人生はどうだったのか
映画『フェイブルマンズ』の主人公のエピソードは、実際のスピルバーグの人生が色濃く反映されています。 ユダヤ系であったほか、身長も低く、難読症だったことから勉強も苦手で、運動もできなかったスピルバーグ少年は、学校でいじめにあうこともありました。また不仲だった両親は後に離婚しており、これらのことが彼の作品に大きく影響しています。 17歳のとき、アリゾナに住んでいたスピルバーグはカリフォルニアに遊びに行った際、ユニバーサル・スタジオをバスで回るツアーに参加。その途中でトイレに行くふりをしてバスを降り、1人でスタジオ内を散策していた彼は、スタッフと知り合い3日間の通行証を作ってもらいました。その3日間で人脈を作り、通行証なしでもスタジオに入れるようになったといいます。 1965年からは、カリフォルニア州立大学にて映画を専攻。この頃には、ユニバーサルの空き部屋をオフィスとして使いはじめます。その後、21歳のときにデニス・ホフマンと知り合った彼は、映画製作費用を提供してもらうことになり、26分の短編『アンブリン』を製作。 アトランタ映画祭で最優秀短編映画賞を受賞した同作が、ユニバーサルテレビ部門の責任者シドニー・シャインバーグの目に止まり、ユニバーサルと7年契約することになったのです。
【解説】タイトルに隠された意味
本作はスピルバーグの自伝的映画と言われていますが、主人公はサミー・フェイブルマンという名前です。映画『フェイブルマンズ』はいわゆる「スピルバーグ家」というような意味ですが、なぜ「フェイブルマン」という名前になったのでしょうか。 「fabel(フェイブル)」はドイツ語で寓話、おとぎ話という意味があります。つまりフェイブルマン=おとぎ話をする人という意味。スピルバーグは自分にそういう役割があるということを自負しており、主人公に投影させて名前を付けたのでしょう。 また自伝的映画にもかかわらず「スピルバーグ」という名前を使わなかった理由がもう1つあります。 本作では母ミッツィの不倫が描かれていますが、実際にスピルバーグの母も不倫をし夫婦は離婚しています。本作の製作に取り掛かったのも、母のリア・アドラーが2017年に97歳で、父であるアーノルド・スピルバーグが2020年に103歳で亡くなったあとでした。スピルバーグは自分の父親と母親を、映画を通して傷つけたくなかったのです。
【考察】ラストの「リア/アーノルドに捧げる」とは
エンドロールの後に「リアに捧げる」「アーノルドに捧げる」という文字が映り、映画は終わります。リアとアーノルドはスピルバーグの両親の名前です。 本作の途中で登場する伯父ボリスは「家族と芸術を両方大事にすることはできない。家族が大切なのはわかるが、芸術の道に生きるなら家族の優先度は下げなければいけない。」とサミーに助言しています。 スピルバーグはエンジニアで科学的な考え方をする父と、ピアニストで芸術派の母のもとで育ちました。そんな彼のすごさは新しい映画技術を開発してきたこと。現在ではCGで恐竜が動く映像は当たり前ですが、これらを生み出したのがスピルバーグなのです。 つまり映画(芸術)というフィールドで技術的にも革新的なものを作ってきたスピルバーグは、科学と芸術のタッグを実現した存在ということ。正反対の性格の父と母から、それぞれ大事な要素を受け継いでいたのです。 そんなスピルバーグがこの映画を作ることで、ボリス伯父の助言に対して「映画と家族の愛はきちんと両方大事にできる」ということを伝えたかったのではないでしょうか?
映画がもっと面白くなる!関連作品解説
『地上最大のショウ』(1952年)
『フェイブルマンズ』にも登場する映画『地上最大のショウ』は、実際にスピルバーグが5歳のときに初めて観た映画です。華やかなサーカスのシーンとともに、その裏側の複雑な人間関係を描いた本作は、アカデミー賞で作品賞と原案賞を受賞。 スピルバーグの作品に見られるスペクタクルな映像は、この原体験から来たもの。特に終盤に登場する列車の衝突シーンは彼に大きな影響を与え、後の彼の作品にもたびたびモノとモノがぶつかるシーンが描かれています。
『リバティ・バランスを射った男』(1962年)
劇中で主人公がボーイスカウトの仲間たちと観に行った『リバティ・バランスを射った男』。本作は都会からきたひ弱な弁護士が無法者のリバティ・バランスを決闘で倒したことが新聞などで大きく宣伝され、大物政治家になる物語ですが、メディアの力が諸刃の剣であることを描いた作品です。 劇中でサミー少年は後にこの作品の監督であるジョン・フォードと出会い、映画監督としてアドバイスを受けますが、これもスピルバーグが実際に体験したエピソードの1つです。
『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』(1985年)
バリー・レヴィンソン監督による『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』で、スピルバーグは製作総指揮を務めています。1980年のクリスマス間近のロンドンを舞台に、天才的推理力を持つ少年シャーロック・ホームズが、同級生のジョン・H・ワトスンとともに連続殺人事件に挑みます。 本作は映画で初めてCGでキャラクターを動かした作品として知られており、アカデミー賞で視覚効果賞を受賞。このときのCGチームが後のピクサーとなりました。
『ジュラシック・パーク』(1993年)
スピルバーグが監督を務め、世界中で大ヒットとなった『ジュラシック・パーク』。本作では「ヤング・シャーロック」で使ったCG技術をさらに発展させ、CGの恐竜と人間の俳優が絡む迫力のシーンが展開されます。 さらに『ジョーズ』(1975年)などで培ったアニマトロニクスの技術との融合で、リアルで存在感のある恐竜を表現しています。
『未知との遭遇』(1977年) , 『E.T.』(1982年)
『未知との遭遇』や『E.T.』などでは、父親のいない家庭が描かれており、これも両親が離婚したスピルバーグの実体験からきています。 映画『フェイブルマンズ』でのサミーの両親は一見仲が良さそうですが、やがて離婚。スピルバーグの両親はもともと不仲でのちに離婚しますが、その原因は母の不倫にあったことを知り、彼は父親への見方を変えたと言われています。
『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021年)
前述の通りスピルバーグの両親は離婚していますが、後に再会し2017年に母・リアが他界するまで関係は良好だったとか。 2021年に公開された『ウエスト・サイド・ストーリー』は、公開の前年に死去した父・アーノルドに捧げられています。
キャスト一覧・登場人物解説
サミー・フェイブルマン役/ガブリエル・ラベル
サミー・フェイブルマンは、スティーブン・スピルバーグの幼少期をもとに描かれる少年。映画に魅了されて映画作りに没頭していきます。家族関係と映画作りの間で悩み成長していく本作の中心人物です。 ガブリエル・ラベルは、2017年に映画デビューした若手俳優。本作の演技が高い評価を得ており、これからの活躍が期待されます。
ミッツィ・フェイブルマン役/ミシェル・ウィリアムズ
ミッツィ・フェイブルマンは、サミーの母親であり映画作りを応援してくれる息子の良き理解者の一人。彼女自身も才能あるピアニストの一面があります。 ミシェル・ウィリアムズは『ブルーバレンタイン』(2010)や『マリリン 7日間の恋』(2011)でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされるなど演技力抜群の名女優です。
バート・フェイブルマン役/ポール・ダノ
バート・フェイブルマンは、サミーの父親でありコンピューターエンジニアとして働いています。サミーの映画作りに対しては趣味以上のものとは考えておらず、考えに隔たりがありました。 ポール・ダノは個性派俳優としての地位を確立し、話題作に出演する一方で『ワイルドライフ』(2018)では映画監督に挑戦しています。
ベニー・ローウィ役/セス・ローゲン
ベニー・ローウィはバートの親友であり、仕事仲間。キャンプ旅行にも同行するなどフェイブルマン一家とも仲が良く、近い存在です。 セス・ローゲンは、映画だけでなく声優としても活躍しており『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(2023)では、英語版のドンキーコング役を務めています。
映画はスピルバーグの自伝的作品
本作はスティーブン・スピルバーグ監督の自伝的作品として注目を集めています。コロナ自粛の際に「自分が話していないストーリーの中で、もし話さなかったら自分に腹が立つものは何だろう」と考え、その答えが「自らを形成した7歳から18歳までの物語」でした。 『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021)の脚本家トニー・クシュナーと再度タッグを組み、自伝をもとにしたフィクション作品として完成させ、トロント国際映画祭では観客賞を受賞しています。
『フェイブルマンズ』の映画愛をネタバレあらすじで再確認しよう
数々の名作を生み出してきたスティーブン・スピルバーグ監督の映画との出会いや葛藤が観られる本作。 スピルバーグだからこそ作れた、映画愛と家族愛に溢れた映画『フェイブルマンズ』は2023年3月3日より劇場公開中です。