2024年3月6日更新

『タイタニック』ローズはなぜジャックを助けなかったのか?実在したモデルとその後の人生に迫る

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『タイタニック(1997)』、レオナルド・ディカプリオ、
© 1997 Twentieth Century Fox Film Corporation and Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

1997年に公開され、当時歴代最高興行収入を記録した映画『タイタニック』。そのヒロイン、ローズの人生には多くの観客が感動したと同時に、腑に落ちないものを抱えたのも事実です。 今回は、そんなローズの謎や人生論を考察していきましょう。またモデルとなったとされている実在の女優についても紹介します。

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『タイタニック』あの結末はローズが悪い?

タイタニック号が沈没したあと、ローズはバラバラになった船体の板に乗って生還することができました。 しかし映画公開当初から「ジャックも一緒に板につかまっていれば、助かることができたのでは?」と多くの人が指摘しています。実際に彼女が乗っていた板にはジャックも乗ることができたと、あるバラエティ番組が証明しました。 ケイト・ウィンスレット自身も、この問題には長年悩まされていたよう。実際にカナダのメディア「ET Canada」のインタビューで「ジャックも乗れたと思う」と衝撃の発言をしています。 さらにジェームズ・キャメロン監督が検証を依頼した番組でも、ジャックが生き残れた可能性が示されました。しかし監督は米誌『Vanity Fair』のインタビューで、「死と別れについて描くため、彼(ジャック)は死ななければならなかった」と語っています。 一方で、ローズが乗っていた板には確かに2人分のスペースはありましたが、2人乗ると、重さで板が沈んでしまうという指摘もあります。 最愛の人と死別してもなお、ジャックの「今を大切に」という言葉で強く生きたローズを描くため、彼は海に沈む必要があったのでしょう。

議論になったラストシーンを観る

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『タイタニック』ローズにとっての碧洋のハートとは

自由からの足枷であり呪い

ブルーダイヤモンド(碧洋のハート)はローズにとって呪いであり、自由になれない足かせのようなでした。キャルによって与えられたこの宝石は彼の権威主義の象徴でもあり、ローズを自分のものにしておくための担保でもあります。 キャルは彼女にダイヤモンドを渡したとき、「僕たちは王族なんだ」と言っています。これはジャックが船首で「世界は俺のものだ(I'm the king of the world)!」と自由を満喫するセリフと対になっています。

スケッチで身に着けたのはなぜか

そんな忌むべき存在だったブルーダイヤモンドをヌードのデッサンの時にただ一度付けたのは、ジャックに描いてもらえる価値のある女性として見られたかったからです。 ジャックはこれまでに描いた絵をローズに見せながら、「パリの女はすぐ服を脱いでくれるから助かる」と言ったり、マダム・ビジュー(宝石)というあだ名の女性を「ありったけの宝石をつけて帰らぬ人を待っている」と言ったりしています。 ローズはジャックがこれまで描いてきた女性たちと同じように、すぐに服を脱ぎ、宝石を身につれば、彼の望む女性になれると考えていたのです。これは、彼女がまだ自分に自信を持てずにいたからと言えるでしょう。 ブルーダイヤモンドを付けたローズのヌードデッサンは、ジェームズ・キャメロン監督自身が描きました。そのほか、ジャックが描いたとされる絵はすべてキャメロンが描いています。 ジャックがローズのヌードを描くシーンは、実際にキャメロン監督が絵を描く姿を撮影したものですが、ジャックは右利きという設定でキャメロンは左利きであるため、映像を反転させています。

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ローズが碧洋のハートを持ち続けた理由

運命のいたずらによって、タイタニックが沈んだ後にもダイヤはローズの手に残されました。その後もずっと持ち続けていたのは、ジャック・ドーソンという人物の存在を証明するものがこれしかなかったから。 海底に沈んでいたもう1つの証明であるローズのヌードデッサンが発見されたため、ようやく手放すことができたのでしょう。

実はもう1つのエンディングがあった

ローズがダイヤモンドを人知れず秘かに海へ投げ込むラストが、また感動を呼んだ本作。ところがこのエンディングにはもう1つ別のバージョンがあったようです。 2005年発売のDVDのボーナスコンテンツとして収録されていた「もう1つのエンディング」は、一度はローズがブロック・ロベットにダイヤモンドを渡すという展開。初めは探し求めていたダイヤモンドを手にして喜んでいたロベットですが、しばらくすると価値を見出せなくなり、結局はローズに返して投げ捨ててられてしまうのです。 「真の宝とは何か」という議論をロベットに託していた部分もあり、こんなラストも撮られていたのかも?しかしこちらがお蔵入りになったのは最善の選択!

『タイタニック』の結末を観る

『タイタニック』その後のローズの行動は薄情なのか?

ジャックとあれほど愛し合っていたのに、ほかの男性と結婚して子供をもうけたローズを薄情だという声もあります。しかし結婚や子供をもつことはジャックとの約束であり、彼を深く愛していたからこそ、その約束を守ったのではないでしょうか。 力強く生き延びたローズのその後の人生について、その理由を考察してみましょう。

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夫にジャックのことを話していなかったのはなぜ?

ローズが夫にジャックのことを話していなかったことは、裏切りだという意見があります。しかし結婚相手に過去の男の話などするでしょうか。今の夫を深く愛していればこそ、過去に自分を救うために命を落とした男がいたことを話す必要などないと判断するのは自然なことです。 ローズにとってジャックは最愛の人で、文字通り「命の恩人」です。しかしそれだけではなく、その後の生き方を変えるきっかけとなった人物でもあります。そういった意味でも、彼は彼女を救いました。そして彼との約束どおり“今を大切に”生きてきた彼女は、今の夫と出会い結婚したのでしょう。 人生を変えてくれたジャックと、自らの意志で結婚した今の夫、ローズはどちらをより愛しているかということではなく、違った種類の愛を抱いていたのではないでしょうか。

ブルーダイヤモンドを捨てたのはどういう意味?

本作のラストシーンで、ローズはブルーダイヤモンドも海に投げ捨てます。この行動にはどのような意味があるのでしょうか。このシーンの解釈はさまざまですが、ローズがジャックも今の夫も愛していたことを考えると、いくつかの仮説が有力視されています。 まず1つめは、ローズが元気に生きていることをジャックに伝えるため、そしてダイヤモンドをこれまでの人生のお礼をしてジャックに返すため、というものです。もう1つには、ローズがジャックへの想いに踏ん切りをつけたことを表しているとも言われています。 また注目したいのは、その後ダイヤモンドが海の底のタイタニック号までたどり着き、当時の船内のきらびやかな光景が蘇っていくシーンです。 そこには船とともに命を落とした人々、もちろんジャックの姿も。そして彼と若き日のローズは再会します。ローズは自分自身の代わりとして、ブルーダイヤモンドがジャックのもとに行くことを願っていたのかもしれませんね。

『タイタニック』の結末を観る

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『タイタニック』ローズには実在のモデルがいた?

映画『タイタニック』では、実際にタイタニック号に乗船した人物がモデルのキャラクターが登場していることでも有名です。ただし主人公のジャックとローズは、架空の人物だと言われてきました。 しかし1998年に刊行された書籍「タイタニック99 魅力と秘密」では、ローズのモデルが実在のアクション女優であるパール・ホワイトではないかという説が提示されています。

モデルとなったパール・ホワイトは無声映画界のアクション女優

6才の頃から舞台に立っていた女優のパール・ホワイトは、1910年にフランスのパテ社と契約し数多くの映画に出演します。 その後主演を務めた冒険譚『ポーリンの危難』が大ヒットしたことで、「連続活劇の女王」と呼ばれるようになり、史上初のアクション女優として一躍有名になりました。

ローズとの共通点

作中ではローズがアメリカに渡り、1910年代半ば以降、無声映画時代のハリウッドにおいて活劇のスター女優になったという設定があります。これは同じ時期に活躍していたパール・ホワイトと重なります。

監督がインスピレーションを受けたのか?

しかしパール・ホワイトは、タイタニック号に乗っていませんでした。それだけでなく、イギリス出身のローズと違い、彼女はアメリカのミズーリ州出身です。 このことから『タイタニック』の監督であるキャメロンがパール・ホワイトの存在を知り、彼女の作品を鑑賞したうえで、ローズのキャラクターを造形する際にインスピレーションを得たのではないかと言われています。

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パール・ホワイトのその後

作中のローズは1910年代半ば以降、無声映画時代のハリウッドにおいて活劇のスター女優になり、100歳を超えるまで長生きしています。 しかしパール・ホワイトは女優として活躍したあと、1938年にフランスで病死しました。享年49歳でした。 異なる点もありますが、「連続活劇の女王」がモデルと聞くと、腑に落ちるところがあるのもまた確かです。

ローズの生き様が教えてくれる人生論

固定観念を覆す、自由な女性ローズ

映画『タイタニック』の舞台である1912年は、女性は淑女であるべきという固定観念が強かった時代です。理想の女性像は、上品で気品があるおしとやかな女性でした。 しかしローズの性格はそれとは真逆で、中指を立てるシーンや、ラブシーンではジャックを後部座席から引っ張るシーンなど、その時代には似つかわしくないおてんばな様子が描かれています。

失うことはマイナスではない

ローズは保守的な母親とは違い、自分の命を投げうってでも自由であろうとしました。その結果ジャックと出会い、家族を失うことも恐れずにまっすぐに彼を愛します。さらに彼女はジャックをも失うことになりますが、彼との約束を守るため、心のままに自由に生きたのです。 彼女は多くのものを失いましたが、それは彼女がそれらを手に入れたことの証。そして失ったあとにも、必ずしも全てがなくなってしまうわけではなく、次に進む原動力となるということを、ローズの生き方は教えてくれます。

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自分で生き方を選択すること

ジャックに出会ったことで、ローズは誰かに決められた道を進むのではなく、自分で自分の人生を選び取ることの楽しさ、大切さを学びました。 タイタニック号からの生還を経て、彼女は自分の責任を覚悟し、失うことを恐れずに自らの人生を選択していったのでしょう。年老いたローズの枕元に飾られた数多くの写真が、彼女が人生で多くの冒険をしてきたことを物語っています。 自分で生き方を選択することで、その人生の責任は自分で背負うことになります。しかし誰のせいでもなく自分の覚悟のもとに生きることで、結果的に楽しく、しあわせな人生をローズは歩んできたのではないでしょうか。

ローズ役を演じた女優はケイト・ウィンスレット

ケイト・ウィンスレット

ローズを演じたケイト・ウィンスレットは、1975年生まれ、イギリス出身の女優です。彼女は母国での舞台やテレビ出演を経て、1994年にヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した『乙女の祈り』で映画デビュー。 翌1995年に公開された『いつか晴れた日に』では、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされ、英国アカデミー賞では助演女優賞を受賞しました。 その後も数多くの映画に出演し7度のアカデミー賞ノミネート経験を持つ実力派女優として知られています。2008年の『愛を読むひと』では、アカデミー賞主演女優賞に輝きました。

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他にローズを演じる可能性のあった女優とは?

実はローズ役は当初、1996年の『ロミオ+ジュリエット』でレオナルド・ディカプリオと共演したクレア・デインズにオファーされていました。このオファーは実現せず、すでに『セブン』(1995年)などで知名度を得ていたグウィネス・パルトロウも候補に挙がっていたそう。 その他にもアンジェリーナ・ジョリー、ニコール・キッドマン、ユマ・サーマン、シャーリーズ・セロンなどが検討されていたとか! しかし結果的にはケイト・ウィンスレットがローズを演じ、アカデミー賞主演女優賞を獲得しました。

『タイタニック』ローズの人生とその後の年表

1912年 タイタニック号
・政略結婚から逃れようとしてジャックと出会う
・ジャックにヌードデッサンを描いてもらう
・タイタニック号が沈没!!ジャックを失う
事故のその後
・ハリウッドスターに!
・ジャックとは別の人と結婚
・タイタニック号の調査に協力
・100歳を超えるまで長生きする

『タイタニック』ローズは時代を先駆ける強い女性となっていた

タイタニック号の悲劇から生還したローズは、ジャックとの約束どおり自ら人生の選択をし、自由に、しあわせな人生を送りました。最愛の人を失いながらも強く生きた彼女の姿は、当時の固定観念にとらわれない現代的な女性として映ります。 女優として活躍し、長い人生をしあわせに生きた彼女は、時代の先駆けとなったと言っていいいでしょう。