【ネタバレ】映画『ジョーカー』あらすじ解説&考察!意外な裏話も?
バットマンの宿敵ジョーカー。コミック時代から多くのファンを獲得し、バットマンの物語には欠かせないキャラクターです。これまでのバットマン映画にもたびたび登場したジョーカーは、バットマンと表裏一体の存在として強烈な印象を残してきました。 そのジョーカーの誕生譚を描いた映画『ジョーカー』が2019年に公開。アカデミー賞で11部門にノミネートされて高い評価を得たことは、大きな話題を呼びました。 ホアキン・フェニックス主演、トッド・フィリップス監督で絶賛を集めている本作。今回はそのあらすじやキャスト、DC映画の中での位置づけを紹介しましょう。また、これまでのジョーカーとの違いや本作のテーマなど、ネタバレ解説もお届けします! ※この記事には『ジョーカー』のネタバレがあります!本編を未鑑賞の方はご注意ください。
『ジョーカー』のあらすじ
貧困と汚染が深刻なゴッサム・シティに暮らす青年アーサー・フレック。ピエロの仕事をしながら、コメディアンになる夢を追いかけています。緊張すると発作的に笑ってしまう病を抱えており、老いた母親の面倒も見なければならず、貧困にあえいでいました。 そんな彼に周囲の人々は冷たく、社会からは疎外され、時に嘲笑い暴力を加えます。過酷な現実から逃れるように、隣人の女性との恋愛を妄想する日々。しかし仕事をクビになり、生活面でも追い詰められたアーサーは、ついにこれまで彼を嘲笑ってきた人々に「やり返す」快感を覚えます。 心優しかったアーサーが、どのようにして「ジョーカー」としての人格を形成していったのかを描いたヴィラン誕生譚ですが、社会派ドラマとして野心的な作品でもあります。
これまでのDC映画との関連は?
2008年からマーベルがすべての映画作品をひとつの世界での出来事として成功をおさめた一方、DCは今後ユニバースのつながりを意識しない方針を発表しています。 つまり本作はこれまでの『ジャスティス・リーグ』や『ワンダーウーマン』、『アクアマン』、『シャザム!』といった作品とは無関係なものになるということ。もちろん、本作のジョーカーは『スーサイド・スクワッド』でジャレッド・レトが演じたジョーカーとは別人、ということになります。
DC映画特有のリアリティのある作風に回帰
『アクアマン』や『シャザム!』などで、近年エンターテインメント性の高い路線にシフトしてきたDCコミック映画ですが、本作は久しぶりにリアル路線に回帰。1980年代を舞台に、1人の善良で孤独な青年が、「悪のカリスマ」に変貌するまでの過程を描きます。 本作はマーティン・スコセッシ監督の『キング・オブ・コメディ』(1982年)などの映画から影響を受けており、社会から疎外された男の人物描写が非常にリアルです。
【ネタバレ解説】“悪のカリスマ”ジョーカーが生まれた背景とは
アーサーの夢
貧富の格差と街の汚染が問題視されているゴッサム・シティ。ここで母親と2人暮らしをしている青年アーサー・フレックは、派遣ピエロの仕事をしながらコメディアンになる夢を追いかけていました。しかし彼は脳や神経の損傷によって突然笑い出す発作を抱え、周囲の人たちとうまく人間関係を築けません。 定期的に福祉士のカウンセリングを受け、書くように言われた日記にはジョークのネタを書いていました。ところが市の予算削減によってカウンセリングは閉鎖され、服用していた薬ももらえなくなります。ピエロの仕事でも何度も失敗し、同僚のランドルに渡された銃を小児病棟に持ち込んだためついにクビになってしまいます。
貧困層のアイコンとなる殺人ピエロ
仕事を失った帰りの地下鉄で、3人の男たちに絡まれる女性を見ていたアーサーは、突然笑いの発作が出てしまいます。男たちはそんな彼に暴行を加え、とっさにアーサーは持っていた銃を発砲。次々に彼らを射殺しました。 アーサーが殺害したのは市長候補のトーマス・ウェインが経営するウェイン社の社員でした。アーサーはその時ピエロの扮装をしていたため、犯人は不明のまま。富裕層に不満を抱く貧困層の人々が、この凶行を支持し始めます。 念願のコメディクラブの舞台に立ったアーサーでしたが、緊張のため発作が出てうまくトークもできません。しかし好意を寄せる隣人のソフィーが見に来てくれ、地下鉄殺人もマスコミに大きく取り上げられて、アーサーは充実感を感じていました。
母親の殺害
そんな時、アーサーは母親が書いたトーマス・ウェイン宛の手紙に、自分がウェインの息子であると書いてあるのを見てしまいます。アーサーはウェイン邸に赴きトーマスに会わせてほしいと頼みますが、母親ペニーの妄想だと一蹴されました。 家に戻ると、倒れたペニーが救急車で運ばれるところでした。病院で母親に付き添っていた時、人気司会者マレーがアーサーをコメディクラブに出た時の映像でコケにするのを見て凍り付きます。マレーはアーサーが尊敬するコメディアンだったのです。 トーマスに直に会って「あなたの息子だ」と主張しますが、トーマスは母親のことを「イカレ女だ」と言って否定。母親がいたアーカム州立病院に行き診断書を見たアーサーは、母親が妄想性精神病で自分が養子だったことを知ります。しかも母の交際相手から酷い虐待を受けていたことも。 絶望したアーサーは恋人のソフィーの部屋へ行きますが、彼女は冷たく怯えた態度。実は恋人だと思っていたのは彼の妄想だったのです。すべてに追い詰められ絶望したアーサーは、病室で母親を枕で窒息死させてしまいます。
ジョーカーの結末
元同僚のゲイリーとランドルが訪ねてくると、ゲイリーの目の前でランドルを惨殺。晩にマレーの番組に出ることをゲイリーに告げ、「きみだけが優しかった」と彼を逃がします。 ピエロの出で立ちで踊りながら、嬉々として長い階段を降りるアーサー。彼に疑いをかけていた刑事に追われますが、殺人ピエロの扮装をしたデモ隊に紛れ込み、そのままテレビ局へ向かいます。 マレーのショーに「ジョーカー」として出演したアーサーは、生放送中に自分が地下鉄殺人の犯人であることを告白。マレーと討論するうちに激昂したアーサーはマレーの頭を銃で撃ち抜きます。 アーサーは警察に逮捕され、外では暴動が悪化。アーサーを連行するパトカーに暴徒のトラックが突っ込み、負傷したアーサーを引きずり出しました。暴徒はトーマス・ウェインを撃ち殺し、アーサーは喧騒の中で目を覚まし、人々に「ジョーカー」として祭り上げられる中で微笑むのでした。
映画『ジョーカー』のネタバレ考察
【残された謎】嘘をついているのは誰なのか?
トーマス・ウェインの存在は、ジョーカーの誕生に重要な意味を持っていました。しかし、ひとつ気がかりな描写もあります。 アーサーの母ペニーは、彼の父親はトーマス・ウェインだと言いました。それを信じたアーサーは、ウェインのもとを訪ねますが、彼はペニーのことを「イカれている」と言い、父親であることを認めさせようとするアーサーを殴ります。 その後ウェインの言ったとおり、アーサーは彼女の養子であり、彼が幼いころに虐待されていたという記録も出てきました。これでアーサーは母の嘘を確信し、彼女を殺害するに至ります。しかし映画終盤、ジョーカーが手にしていたのはは若き日のペニーと思われる写真。その裏には「君は美しい」というメッセージとともに“TW”のイニシャルが。 “TW”は、“トーマス・ウェイン”と思われます。もしペニーの言ったことが本当だったとしたら、大富豪であるウェインは、アーサーの養子縁組や彼女を精神病院に入れるなどの隠蔽工作も可能だったのではないでしょうか。 そうなると、ジョーカーとバットマンは異母兄弟ということになります。 製作開始当初から本作に影響を与えているといわれる『キング・オブ・コメディ』では、結末の解釈は観客に委ねるつくりになっていました。本作のアーサーの父親の正体についても、観客の解釈に委ねられているのかもしれません。
アーサーはトーマス・ウェインの子供?
観客の解釈に委ねられているとはいえ、ペニーが主張するように、アーサーがトーマス・ウェインの息子であるというのは少々不自然な気もします。というのも、ペニーの手紙と写真のサインの筆跡が同じに見えるため、やはりペニーの妄想による自作自演なのでは?と感じるからです。 加えて、トーマスがもしペニーの診断書を改ざんするような慎重な人物なら、迂闊にもペニーにサイン入りの写真など渡すとは思えないという点もあります。 もしブルースとアーサーが異父兄弟であれば設定としては面白いですが、この作品自体がDCユニバースから独立したものであるため、後続の作品とは関連が生まれないでしょう。実際、『ジョーカー』続編にトーマスの話はまったく出てきませんでした。
ブルース・ウェインはバットマン?
本作に登場したトーマス・ウェインの息子はブルースという名前であり、DCユニバースに登場するバッドマンの本名と同じです。そのため当然、多くの観客はこのブルースがのちにバットマンになる?という期待感を持っていました。 しかしこの作品中でのアーサーとブルースの年齢差が大きすぎるため、それはなさそう。これまでのユニバース作品に登場したバットマンとジョーカーの年齢差はあまりないようでした。やはりブルースとバットマンについても、『ジョーカー』続編には一切登場していません。
隣人・ソフィーはアーサーに殺された?
隣人のシングルマザー、ソフィーについてはすでに劇中でアーサーの妄想の中の恋人であることが判明していました。ペニーを殺害した後、慰めと逃げ場を求めてかソフィーの部屋へやってきたアーサーでしたが、ここでソフィーによそよそしく遠ざけられたことで、ようやくこれまでのことが妄想だと気付きます。 われわれ観客もここで、アーサーがペニーと同じく妄想癖のある人物だと思い知らされるわけですが、それはかなりの戦慄です。次のシーンではもうアーサーは自室でうなだれているのですが、もしかしたら絶望の淵に居るアーサーが、あの後ソフィー親子を殺害したのでは?とも推測してしまいます。 しかしアーサーはそもそも子ども好きな様子でしたし、本来は優しい性格。ゲイリーのように自分に優しくしてくれる味方には手出しをしていません。そして続編でもソフィーはアーサーの裁判に証人として召喚されており、ダメ押しのように2人の関係はただの隣人だったという事実も知らされます。
ジェスチャーの意味は?
『ジョーカー』にはマーティン・スコセッシ監督の『キング・オブ・コメディ』(1983年)の影響があると同時に、同監督作の『タクシードライバー』(1976年)のオマージュが劇中に登場しています。特に印象的だったのは、ソフィーがアーサーに向かって手で銃の真似をして頭を撃つジェスチャー。 これは『ジョーカー』にも司会者マレー役で出演しているロバート・デ・ニーロが、主演作『タクシードライバー』のラストでしていたジェスチャーです。ジェスチャーの意味は「死にたいくらい最悪の気分」というのもありますが、大きくいうと「最悪な社会や状況に対する反抗や不満」を示すようなもの。 アーサーもソフィーの部屋に来た時にこのジェスチャーをしますが、ソフィーには通じませんでした。もっともアーサーがこのジェスチャーをした時は、本気で死にたい気持ちだったのかも。マレーの番組に出る前に自分の部屋でリハーサルをしていた時には、本物の銃を自らの顎に突き立てていました。
カウンセラーはハーレークイン?
DCユニバースに登場するジョーカーの恋人ハーレイ・クインは、アーカム州立病院の精神科医という設定。そのため『ジョーカー』のラストに登場するカウンセラーはハーレイ・クイン?という予想もありました。序盤にもアーサーをカウンセリングしている福祉士が登場しています。 しかしどちらも黒人女性であり、2人は明らかに別人。両者ともDCユニバースに登場するハーレイ・クインではありませんでした。『ジョーカー』続編にはレディー・ガガ演じる精神科医リー・クインゼルが登場しますが、こちらもユニバースのハーレイ・クインとは別物であるようです。
映画『ジョーカー』キャスト解説
アーサー・フレック/ジョーカー役 | ホアキン・フェニックス |
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マレー・フランクリン役 | ロバート・デ・ニーロ |
ソフィー・デュモンド役 | ザジー・ビーツ |
ペニー・フレック役 | フランセス・コンロイ |
トーマス・ウェイン役 | ブレット・カレン |
ブルース・ウェイン役 | ダンテ・ペイオラ=オルソン |
アルフレッド・ペニーワース役 | ダグラス・ホッジ |
ジョーカー, アーサー・フレック役/ホアキン・フェニックス
「ジョーカー」で、のちに“犯罪界の道化王子”へと変貌を遂げる売れないコメディアン、アーサー・フレックを演じるのは、『ザ・マスター』(2012)や『her/世界でひとつの彼女』(2013)などのホアキン・フェニックス。アーサー/ジョーカー役は「キャリア最高の演技」と絶賛されています。 フェニックスは、本作のために大幅な減量を行いました。もともとがっしりした体格の彼は、撮影4ヶ月前から減量を始め、後半の2ヶ月は栄養士とともに“カロリーをとらない”減量に取り組んだそうです。 そんな壮絶な減量で作り上げたフェニックスのほとんど骨と皮だけの肉体は、昨今のアメコミ映画で多くの俳優たちが見せる鍛え上げられた肉体に負けずとも劣らないインパクトです。
マレー・フランクリン役/ロバート・デ・ニーロ
本作には名優ロバート・デ・ニーロがマレー・フランクリンという役で出演します。彼はTV番組の司会者です。予告編ではどうやら彼の番組にジョーカー、もしくはアーサーが出演していると思われるシーンが見られました。 前述の通り本作に影響を与えた『キング・オブ・コメディ』は、売れないコメディアン、ルパート・パプキンが有名コメディアンを熱狂的なファンから救ったことから彼とコネを取り付け、自分はスターになったと思い込んでしまう、という作品です。 マレーはアーサーの憧れのコメディアンという設定。彼は物語にどんな影響を与えるのでしょうか。
ソフィー・デュモンド役/ザジー・ビーツ
『デッドプール2』(2018)でドミノを演じたザジー・ビーツは、本作でアーサーが興味を寄せるシングルマザー、ソフィー・デュモンドを演じます。 アーサーと恋愛関係になる、重要なキャラクターです。
ペニー・フレック役/フランセス・コンロイ
テレビドラマ「アメリカン・ホラー・ストーリー」シリーズなどで知られるフランセス・コンロイは、アーサーの母であるペニー・フレックを演じます。 年老いてあまり外出せず、アーサーに面倒を見てもらっているペニーですが、彼女には秘密があるようで……。
トーマス・ウェイン役/ブレット・カレン
ブルース・ウェインの父トーマス・ウェインを演じるのは、数多くのドラマや映画に出演しているブレット・カレンです。 予告編ではテレビで覆面の犯罪者を糾弾する彼をアーサーが見ている描写があり、2人の関係やどのように関わってくるかが気になります。
ブルース・ウェイン役/ダンテ・ペレイラ・オルソン
本作には幼いころのブルース・ウェイン、のちのバットマンが登場。彼を演じるダンテ・ペレイラ・オルソンは、2018年の映画『ビューティフル・デイ』でホアキン・フェニックスが演じたジョーの幼少期を演じています。その他にはテレビシリーズ『HAPPY!』(2017〜2018)などにも出演。 予告編では、幼いブルースがアーサーに無理やり口角を上げさせられるシーンがありました。
アルフレッド・ペニーワース役/ダグラス・ホッジ
ウェイン家に代々仕える執事アルフレッド・ペニーワースも登場。本作では映画『レッド・スパロウ』(2018)などのダグラス・ホッジが演じます。
監督は「ハングオーバー!」シリーズのトッド・フィリップス
「ジョーカー」の監督を務めるのは、映画「ハングオーバー!」シリーズのトッド・フィリップスです。多くのコメディ作品で成功をおさめてきたフィリップスの起用は意外かもしれませんが、実は彼は、もともとドキュメンタリー監督としてキャリアをスタートさせています。 近年フィリップスはこれまでの作品とは違うジャンルへの挑戦に興味を示していたことから、本作の監督に就任したのだとか。フィリップスは『8 Mile』(2002)や『ザ・ファイター』(2010)などのスコット・シルヴァーとともに共同脚本も務めています。
映画『ジョーカー』に関するトリビア 衣装のこだわりや音楽にまつわる裏話も紹介
これまでのジョーカーとの違い
『ジョーカー』がこれまでのバットマン関連映画と決定的に違うのは、アーサー・フレックの存在、つまりジョーカーになる前の彼が描かれていることです。 実写映画では、これまで『ダークナイト』でヒース・レジャーが演じたジョーカーが語ったデタラメ以外に、彼のオリジンを少しでも覗わせるものはありませんでした。しかし本作は、果敢にもバットマンの最凶の敵が誕生した経緯を詳細に、繊細に描き出しています。 また、コミックおよびティム・バートン監督の「バットマン」シリーズに登場したジョーカー(ジャック・ニコルソン)は、「ある犯罪者が化学薬品(もしくは酸)のタンクに落ち、肌は白く、髪は緑色、唇は真っ赤になり正気を失った」という設定です。しかし、本作のジョーカーは『ダークナイト』のジョーカーと同様に、白塗りのメイクを施しています。
衣装の色づかいやシルエットでアーサーからジョーカーに
ジョーカーといえば紫色のスーツに緑色のシャツをイメージする人も多いのではないでしょうか。しかし、本作の衣装は、1981年という時代にあった色合いに変更されています。 衣装を担当したマーク・ブリッジスによると、80年代初頭という時代を考えると、仕える色やその組み合わせは限られているのだとか。たとえば、本作では青、茶色、海老茶、薄紫、グレー、紺、カーキを多用しています。 また、アーサーのファッションは基本的なアメリカンカジュアルです。ブリッジスは「アーサーは楽な服装を好み、物持ちがいいので、普段着はどことなく子供っぽいし、古めかしい」雰囲気を目指したと語っています。 アーサーの衣装は、物語が進むに従って“ジョーカー”の衣装へと徐々に変化していきます。コメディクラブのシーンで使った衣装のコーディネートを変えながらほかのシーンにも使い、最終的にジョーカーの装いが完成します。 本作では、アーサーは“悪のカリスマ”になるためにスーツを新調したわけではなく、以前の彼とジョーカーが地続きであるということが衣装でも表現されています。
音楽とジョーカーに生まれ変わるダンス
監督のトッド・フィリップスは、撮影開始前から脚本の一部を作曲家のヒルドゥル・グーナドッティルに見せて協力を求めていました。フィリップスから、脚本を読んで感じたことを楽曲にしてほしいと頼まれたグーナドッティルは、物語の良さに惚れ込み、よろこんで引き受けたのだとか。 彼は、脚本を読んでアーサーのキャラクターの多面性に衝撃を受けたと語っています。そして、それを表現するためにチェロを主体とした、ごく簡素で単調なメロディの楽曲を作っていきました。 しかし、実は演奏には総勢90人のオーケストラが参加しています。チェロの音色に数多くの音が隠されている本作のサウンドトラックは、一見単純なようで複雑な内面を持つアーサーを的確に表現しています。 またアーサーは、のちにジョーカーとなる自分のなかのなにかが顔を出すたびに踊ります。 この演出が誕生したのは、ある重要なシーンで撮影に行きづまったことがきっかけだったとか。撮影中、すでにグーナドッティルから楽曲を渡されていたフィリップスがその楽曲をかけたところ、音楽にのってホアキン・フェニックスが優雅に踊りだし、印象的なシーンができあがりました。
アカデミー賞をはじめとした映画賞を総なめ
2019年8月31日(現地時間)、イタリアで開催されたヴェネツィア国際映画祭で『ジョーカー』はプレミア上映を迎えました。上映後は8分間におよぶスタンディングオベーションで盛大に讃えられ、観客や批評家からは、絶賛の声が数多く寄せられました。そして、同映画祭の最高栄誉である金獅子賞を受賞。 世界でも最古の歴史を誇るヴェネツィア国際映画祭。その金獅子賞は、作家性/アート性が重視される傾向にあり、ハリウッド大手スタジオの作品が選ばれることは非常に稀です。また、『ジョーカー』はアメコミ映画としては史上初の受賞作となりました。 そんな快挙を成し遂げた本作は、アカデミー賞でも主演男優賞と作曲賞を受賞しました。
「暴力を誘発する」?ニューヨークの映画館では厳戒態勢も
一方で、善良で孤独な男が犯罪者になるまでの過程を描く本作は、公開前から「暴力を誘発するのでは」「ジョーカーを英雄的に描いているのでは」と危険視する声も挙がっています。 これについて、主演のホアキン・フェニックスはIGNのインタビューに答え、本作はひとつの問いかけであるとし、「まず問いかけることが大切だ」とコメント。「なにがトリガーになるかは誰にもわからない。この質問で怒り出す人もいるかもしれない」と語り、危険性があるからといって全面的に否定したり禁止したりするのはおかしいという見解を示しました。 また、同インタビューで監督のトッド・フィリップスも、「作品を観ないうちから批判している人が多いと思う。観てから言ってほしい」と語っています。 アメリカ・ニューヨークの映画館では、本作の公開初週、10月4日から6日に万一の場合に備えて、制服警官や覆面警官を配置する厳戒態勢を予定しているとのことです。
本作のゴッサムシティは経済的格差が拡大し、貧困層の若者の非行が進み治安が悪化しています。一方で、ウェイン産業のような大企業に務めるエリートビジネスマンは、選民意識から弱いものに横柄な態度をとります。 その両方の暴力の対象となり、抑圧されつづけ限界を超えたアーサーは、ジョーカーへと変貌を遂げました。
『ジョーカー』(2019年)はアメコミ映画の枠を超えた傑作
これまで謎に包まれていたジョーカーのオリジンを描く『ジョーカー』。ビジュアルや予告編が公開され、ファンの期待も最高潮に高まっていたところにヴェネツィアでの金獅子賞受賞をしたことで、アメコミ映画という枠を超えて、大ヒットを記録しました。 ジョーカーの誕生を描く本作は、そのリアルな世界観や人物描写が特徴。とくに「キャリア最高の演技」と絶賛されるホアキン・フェニックス演じるジョーカーから目が離せません。