2018年3月19日更新

『シン・ゴジラ』には岡本喜八リスペクトが詰まっていた!【牧教授として特別出演】

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『シン・ゴジラ』

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『シン・ゴジラ』に牧教授として特別出演した岡本喜八って?

『シン・ゴジラ』は2016年に公開され話題になった、『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)以来12年ぶりの日本製「ゴジラ」映画です。 総監督と脚本を、『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明が担当し、東宝の伝統的な怪獣映画というよりは、政治家や官僚が会議を重ねる群像劇となっています。庵野秀明は日本の「お家芸」であるゴジラ映画をなぜ、このような作りにしたのでしょう? 『シン・ゴジラ』の冒頭で無人のボートが発見され、持主である牧悟郎という生物学教授の所在が分からなくなっています。後にこの牧博士がゴジラ誕生の鍵を握っていることが判明するのですが、牧博士の写真として劇中で示されるが岡本喜八の写真なのです。 どうやら、この岡本喜八という日本映画の大監督が鍵を握っているようです。

偉大なる職人監督・岡本喜八

岡本喜八は1924年鳥取県出身の映画監督で、40本あまりの監督作品を残して2005年に亡くなります。1943年に東宝に入社し、日本映画黎明期の巨匠・マキノ雅弘や成瀬巳喜男、本田猪四郎らの助監督として師事。 1958年に『結婚のすべて』で監督として一本立ちを果たします。コメディから戦争映画まで幅広いジャンルの作品を次々に発表してきました。 岡本の作品は秒単位カット割りを決めてから撮影するなど、細かいカット割りによってリズム感を出す取り方を得意としています。また庵野秀明をはじめとして、千葉真一、筒井康隆、利重剛など影響を受けた著名人は幅広い分野に存在するのです。

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戦争に対する憤りが表明された岡本喜八作品『肉弾』

岡本喜八は太平洋戦争末期に、招集され陸軍に入隊しました。空襲で戦友たちが死んでいくのを目撃したそうです。ゆえに、戦争に対しては一方ならぬ憤りを抱いています。 本作はその憤りがはっきりと表現されている作品です。舞台は終戦の年、1945年。主人公は名前のない「あいつ」(寺田農)。広島には原爆が投下され、ソ連は日ソ中立条約を破って日本に宣戦布告します。 あいつは特攻隊員として、ドラム缶の中で魚雷を抱えていました。そして……。想像を絶する結末が待っています。 庵野秀明は、『肉弾』は観るとつらくなるので2度しか観ていないけど、インパクトが強かったので、カット割りまで鮮明に覚えていると、岡本喜八との対談で語っているのです。

テンポの良いカット割りで構成される会議映画『日本のいちばん長い日』

本作は1945年のポツダム宣言受諾から、8月15日の昭和天皇が終戦を宣言する玉音放送までを描いた群像劇です。無条件降伏を受け入れることに対する軍部の反対、陸軍と海軍の対立、兵士の反乱などが当時のオールスターキャストで描かれます。 岡本喜八マニアである庵野秀明は、『シン・ゴジラ』の脚本を書くにあたって、本作を下敷きにしたと思われる箇所がいくつかあります。 岡本喜八はテンポの良いカット割りを連続させて、通常なら3時間に及ぶと思われた尺を、2時間37分に抑えました。このほかにも、登場人物の肩書きと名前をテロップで示す手法も岡本喜八のものなのです。『シンゴジラ』でも度々使われた手法ですね。

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豪快な反逆児と少年兵たちの悲惨な戦い『血と砂』

本作も戦争物で、伊藤桂一の『悲しき戦記』が原作です。時代はまたもや終戦間近の1945年。舞台は中国北部の戦闘地域。 上官に対してむやみに服従しない、豪放磊落な小杉曹長を演じるのは、名優・三船敏郎です。彼はまさに岡本喜八的な主人公らしく、上官を殴り飛ばして営倉に入れられてしまいます。 岡本喜八自身が抱き続けた、戦友を空襲で失った憤りは、この作品でも起爆剤となっているようです。 一方、本作には慰安婦が登場し、戦記物に花を添えているのも特筆すべき点でしょう。小杉曹長に惚れているお春(団令子)は、少年兵たちに筆下しをしてあげる、女神のような存在なのです。

特撮を廃した異色SF映画『ブルークリスマス』

本作の英語タイトル、『BLOOD TYPE:BLUE』は、庵野秀明の『新世紀エヴァンゲリオン』の使徒のパターンとして引用されています。『北の国から』で知られる倉本聰が脚本を担当したSFですが、特撮は一切使用していません。 UFOを目撃した人々の血液が青く変質するという、奇妙な現象をめぐる政治ドラマが中心です。当時は興行的に失敗し、批評家たちの評価も芳しくなかったのですが、都筑道夫、星新一、田中小実昌といった作家たちからは絶賛されました。 庵野秀明は、切り返しのリアクション・ショットが必ず入っているところが格好良いと、本作をリスペクトしています。

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庵野秀明のベスト・フェイバリット『激動の昭和史 沖縄決戦』

庵野秀明は本作を、「生涯で一番何度も観た映画」と、岡本喜八との対談で告白しています。生理的にこの映画が好きなのだそうです。 軍関係者以上に、多くの民間人が亡くなったことで知られる、悲惨な戦闘が主題。岡本喜八監督によると、本作撮影のために沖縄に行ったときには、まだ遺骨が散乱していて嫌な気持ちになったそうです。 庵野秀明は、本作で岡本喜八自身が言う台詞、「船が多すぎて海が見えませ〜ん」を、ロボット・アニメ、『トップをねらえ!』(1988)で引用しています。 一体、庵野監督は何を思って、岡本喜八=牧悟郎に、「わたしは好きにした、君たちも好きにしろ」と言わせたのでしょうか? それは岡本喜八作品を観れば分かるでしょう。