天才演出家・久世光彦の魅力と代表作を徹底紹介!【盟友・向田邦子との関係は?】
タップできる目次
- テレビドラマの一時代を築いた伝説の演出家・久世光彦
- 1.久世光彦が注目されるきっかけになった『七人の孫』【1964年~】
- 2.日本のホームドラマを代表する国民的大ヒット作『時間ですよ』【1970年~】
- 3.社会現象すら巻き起こした家族ドラマの傑作『寺内貫太郎一家』【1974年~】
- 4.挿入歌も大ヒットした異色ホームドラマ『ムー』【1977年~】
- 5. ジョージ秋山による人気コミックの実写ドラマ化『恋子の毎日』【1986年~】
- 6.「向田邦子新春シリーズ」を代表する一作『麗子の足』【1987年】
- 7.異色キャストも話題をよんだギャラクシー奨励賞受賞作『キツイ奴ら』【1989年】
- 8. 久世光彦を芸術選奨文部大臣賞に導いた傑作ドラマ『女正月』【1991年】
- 9. テレビドラマ化と舞台化の両方を手掛けた『センセイの鞄』【2003年】
- 10.向田邦子自身の恋をドラマ化した『向田邦子の恋文』【2004年】
- 向田邦子との密接な関係、そして多彩な交友関係
- 日本のテレビドラマ史に燦然と輝く久世光彦の功績
テレビドラマの一時代を築いた伝説の演出家・久世光彦
テレビというものがお茶の間の唯一の娯楽だった日本のテレビドラマ黄金期を支えた伝説の演出家が久世光彦(くぜてるひこ)です。とりわけ脚本家の向田邦子と組んで生み出した数々の名作により、一時代を築いたといっても過言ではありません。 久世光彦は1935年4月19日、現在の東京都杉並区阿佐ヶ谷に生まれました。東京大学文学部美学美術史学科卒業後にラジオ東京(現在のTBS)に入社し、キャリアをスタートさせます。 同社の人気演出家として数々の伝説的ドラマを手掛けたあと独立し、1980年に制作会社「カノックス」を設立。さらに後年は、小説やエッセイ・評論など多彩な執筆活動にも取り組んで高い評価を得ていましたが、残念ながら2006年3月2日、虚血性心不全のため70歳で他界しています。 ここでは、そんな久世光彦が演出を手掛けたテレビドラマの代表作を10作品選りすぐり、ご紹介したいと思います。
1.久世光彦が注目されるきっかけになった『七人の孫』【1964年~】
源氏鶏太の同名小説を原作に、2シーズンに渡って放送された大家族ホームドラマの元祖的作品です。明治生まれの73歳の祖父を大黒柱に、大正生まれの父と母、昭和生まれの7人の孫たちが織り成す人間模様をコミカルに描きました。 主人公の祖父・北原亮作を森繁久彌、父母を大坂志郎と加藤治子、孫を松山英太郎やいしだあゆみらが演じ、テレビ普及過渡期であったにもかかわらず30%を超える視聴率を記録しています。 複数人いた演出家・脚本家チームのなかに久世光彦と向田邦子がおり、彼らが注目されるきっかけになった最初の作品として知られています。
2.日本のホームドラマを代表する国民的大ヒット作『時間ですよ』【1970年~】
一度単発放送されたのちに1970年から連続ドラマ化され、その後1990年まで複数シーズンに渡るシリーズ化放送、また何度もスペシャルドラマ化されたメガヒットホームドラマが『時間ですよ』です。 中心となる第3シーズンまでの物語の舞台となっているのは東京五反田にある銭湯「松の湯」です。経営している松野一家や従業員たちの間で繰り広げられるドタバタ騒動をギャグとお色気満載で描き、国民的人気を博しました。 女将を演じた森光子はじめ、堺正章や悠木千帆(現・樹木希林)らレギュラー陣に加えて毎回多彩なゲストが登場し、そのたびに話題になりました。久世光彦は演出のほかプロデューサーも兼任しており、一躍その名が広く知られて文字通りの代表作となりました。
3.社会現象すら巻き起こした家族ドラマの傑作『寺内貫太郎一家』【1974年~】
東京の下町で石屋「寺内石材店」を営む一家に巻き起こる騒動と情けあふれる人間模様をコミカルに描き、平均視聴率が30%を超えた大ヒット家族ドラマです。おばあちゃんが発する「ジュリー~」の決め台詞が流行語になるなど、ある種の社会現象を巻き起こしました。 頑固親父を小林亜星、妻を加藤治子、祖母を悠木千帆、長男を西城秀樹、長女を梶芽衣子など絶妙なキャストが演じる個性あふれるキャラクター同士の派手な衝突が毎回大きな見どころです。 演出兼プロデューサーの久世光彦、脚本・向田邦子という2人の名コンビぶりが冴えわたる傑作となりました。2シーズンに渡って放送されたのち、20年以上のときを経て1998年と2000年にもスペシャルドラマが放送されて大きな話題になっています。
4.挿入歌も大ヒットした異色ホームドラマ『ムー』【1977年~】
『時間ですよ』と『寺内貫太郎一家』と合わせ、久世光彦がTBS在籍時に手掛けたホームドラマ3部作ともいえるのが本作です。1977年に放送されて好評を博し、翌年には『ムー一族』の名で続編が放送されました。 東京の新富で足袋屋「うさぎや」を営む宇崎家を軸に繰り広げられる人情劇が描かれます。四代目主人を伊東四朗、その妻を渡辺美佐子、また郷ひろみ扮する次男と樹木希林扮するお手伝いの名コンビぶりが人気をよびました。2人が歌った挿入歌「お化けのロック」と「林檎殺人事件」はともに大ヒットを記録しています。 オープニングに登場する横尾忠則による強烈なイラスト、また生放送で物語を進めたり、サプライズな仕掛けがあったりするなど実験的手法を取り入れて、ある種バラエティー番組のような拡がりを見せました。
5. ジョージ秋山による人気コミックの実写ドラマ化『恋子の毎日』【1986年~】
久世光彦演出作品としては非常に珍しい、ジョージ秋山による同名人気コミックの実写ドラマ版です。義理人情に厚いヤクザの夫・三郎と明るく気立てのいい妻・恋子、さらに三郎の兄貴分である星永を交えたドタバタな三角関係をコメディタッチで描きます。 三郎を小林薫、恋子を田中裕子、星永をビートたけしが演じ、脚本はトレンディドラマを多数手掛けた松原敏春が担当しました。 1986年3月に放送されて好評を博し、1988年7月には同キャスト・スタッフ陣のまま続編が放送されました。豪華キャストによる話題作にもかかわらず、VHS版が存在するのみであり、ファンの間で長らくDVD化が熱望されている作品です。
6.「向田邦子新春シリーズ」を代表する一作『麗子の足』【1987年】
1985年に始まり、2001年まで全19作品が放送された「向田邦子新春シリーズ」。向田邦子の小説を原案に、久世光彦の演出、小林亜星の音楽、黒柳徹子によるナレーションで毎年1月の恒例スペシャルドラマとして定着しました。 1987年1月7日に放送され、シリーズの中でも屈指の出来と人気の高い作品が『麗子の足』です。1936年に発生した二・二六事件前後が舞台であり、事件に関わることになる軍医に切ない想いを寄せるいとこの姿が、戦前の風景のなか叙情豊かに描かれます。 第24回ギャラクシー奨励賞を受賞し、脚本を担当した寺内小春が第5回向田邦子賞に輝きました。軍医の聡一郎を永島敏行、女学校の教師をしているいとこの麗子を田中裕子が演じています。
7.異色キャストも話題をよんだギャラクシー奨励賞受賞作『キツイ奴ら』【1989年】
少年院あがりの兄弟分の男2人を主人公に、借金返済に奔走する姿と美しい女性をめぐって繰り広げられる恋愛模様を描いたコメディドラマです。第26回ギャラクシー奨励賞を受賞しました。 かつての金庫破りから今は訪問販売員として働く吾郎を小林薫、少年院時代の弟分で多額の借金に追われる完次を玉置浩二が演じています。さらに吾郎が恋するピアニストの雪子を篠ひろ子、借金絡みの社長でやはり雪子のことが好きな貴一朗を柳葉敏郎が演じるなど、異色キャストも話題になりました。 とりわけ人気歌手の玉置浩二の演技が高い評価を得たばかりか、手掛けた主題歌「キ・ツ・イ」もヒットしています。
8. 久世光彦を芸術選奨文部大臣賞に導いた傑作ドラマ『女正月』【1991年】
秀作が揃った「向田邦子新春シリーズ」の中でも最高傑作との誉れ高い作品が1991年1月7日に放送された『女正月』です。本シリーズの多くで久世光彦と名コンビぶりをみせる金子成人が脚本を手掛けています。 10年前に父を亡くした神山家。母と子4人暮らしの一見穏やかな日常に、次女が恋人を連れてきたことで思わぬ波風が立つのでした。母を加藤治子、暗い過去を背負う既婚の長女を田中裕子、次女を南果歩、その恋人を小林薫とおなじみの顔が揃いました。 緊迫した濃密な人間ドラマは味わい深さに満ちています。久世光彦は、本作の高い評価もあって翌年、芸術選奨文部大臣賞受賞に至りました。
9. テレビドラマ化と舞台化の両方を手掛けた『センセイの鞄』【2003年】
谷崎潤一郎賞を受賞した川上弘美のベストセラー小説が久世光彦の演出でドラマ化され、WOWOWによる「ドラマW」の栄えある第1作として放送されました。 小泉今日子扮する主人公・大町月子が馴染みの居酒屋で再会した高校時代の恩師・松本春綱。30歳の年の差がある2人の不思議な恋愛が描かれます。センセイ役は柄本明です。 文化庁芸術祭優秀賞や日本民間放送連盟賞のテレビドラマ最優秀賞、さらに小泉今日子が芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞するなど、数々の栄誉に輝いています。 ドラマはそのまま2005年に沢田研二主演の音楽劇として舞台化され、やはり演出を久世光彦が担当しました。同芝居は久世最後の演出作品として知られています。
10.向田邦子自身の恋をドラマ化した『向田邦子の恋文』【2004年】
1981 年に飛行機事故で急死した向田邦子の秘められた恋を綴った、実妹・和子による同名エッセイのスペシャルドラマ化です。久世光彦が並々ならぬ想いで演出にのぞんだ力作であり、向田邦子役には山口智子が抜擢されました。 昭和38 年、東京の杉並に暮らす向田一家。映画雑誌の記者から放送作家になったばかりの長女・邦子には家族も知らぬ、妻子ある男性との秘められた恋がありました。やがて、2人の関係は思いも寄らぬ結末に……。 両親を岸部一徳と藤村志保、次女を石田ゆり子、三女を田畑智子が演じているほか、森繫久彌や樹木希林ら久世・向田作品ゆかりの役者たちが小さな役柄で脇を飾っています。
向田邦子との密接な関係、そして多彩な交友関係
手掛けた作品のラインアップからもわかる通り、向田邦子との密な関係なくして久世光彦のキャリアを語ることはできません。戦友ともいえる脚本家と演出家の関係から、向田が急死した後もその世界を忠実に映像化できる演出家として多くの作品を送り出し続けました。 2人の20年におよぶ関係を綴った2冊のエッセイ「触れもせで」と「夢あたたかき」も発表しています。 また、久世の葬儀に参列した豪華な顔ぶれは多彩な交友関係を如実に物語るものでした。 数々の久世作品に出演した田中裕子や小林亜星、加藤治子や小林薫ら常連俳優との深い関係はもちろんのこと、郷ひろみや浅田美代子らのために作詞も手掛け、沢田研二とは5作もの芝居で演出を担当しました。
日本のテレビドラマ史に燦然と輝く久世光彦の功績
代表作として10作品を選りすぐってご紹介しましたが、もちろんこれらは久世光彦が演出を手掛けた膨大な作品のうちのほんの一部にすぎません。 2006年の急死が悔やまれますが、もし生きていれば成熟を極めた演出でさらに数々の傑作ドラマを世に送り出していたことは間違いないでしょう。 しかし、亡くなったあと、近年になっても過去の作品がまとめてDVD化されるなど、その名声は衰えぬばかりか、全盛期を知らぬ世代でも再評価の気運が高まっています。 いま一度、日本のテレビドラマ史に輝く久世光彦の名作たちをあらためて鑑賞してみるのはいかがでしょうか?