【監督・北野武の生みの親?】プロデューサー・奥山和由が今面白い!
タップできる目次
- 日本映画界の革命児!プロデューサー・奥山和由とは?
- 【プロフィール】華麗なる一族!そして波乱を呼ぶ半生
- 『ハチ公物語』で初めて異業種と共同製作
- 日本映画界初の映画ファンド製作!歴史大作『226』
- 『その男、凶暴につき』と監督・北野武の誕生
- つげ義春×竹中直人で高評価!『無能の人』
- 『いつかギラギラする日』で深作欣二×萩原健一をプロデュース
- 『ソナチネ』(1993年)でオフィス北野と決別
- 『RAMPO』(1995年)で初監督!ロバート・デ・ニーロと意気投合?
- 『GONIN』での石井隆監督との出会い
- 今村昌平監督『うなぎ』がパルム・ドール受賞!シネマジャパネスク唯一の成功作?
- チームオクヤマ製作第1弾!『地雷を踏んだらサヨウナラ』
- 『TAIZO〜戦場カメラマン・一ノ瀬泰造の真実〜』でドキュメンタリーを製作
- 『ラストゲーム 最後の早慶戦』で神山征二郎監督と再タッグ
- 吉本興業との業務提携で『オー!ファーザー』の製作総指揮を担当
- 気になる次回作は?さらなる熱情を求めて
日本映画界の革命児!プロデューサー・奥山和由とは?
1980年代〜90年代に豪腕プロデューサーとして名を刻んだ奥山和由。1998年に松竹専務を電撃的に解任された後も、製作会社「チームオクヤマ」を設立し、現在も映画に対する情熱を失わず新作の製作に取り組んでいます。 ビートたけしを北野武監督として世に誕生させたこと、日本で初めて映画ファンドを発足したこと、「シネマジャパネスク」という新しい製作・興行体制を目指したプロジェクトなど、多くの革新的な業績を挙げてきました。 今回はプロフィールとともに奥山和由プロデューサーが手がけた代表的な作品を振り返り、近年の作品や今後の新作情報など紹介していきます。
【プロフィール】華麗なる一族!そして波乱を呼ぶ半生
奥山和由は、1954年愛媛県生まれ東京育ちの映画プロデューサー・監督です。都立戸山高校から学習院大学経済学部経済学科へ進学し、学生時代から助監督として活動しています。卒業後の1979年には父・奥山融が社長を務める松竹へ入社。1982年に『凶弾』で初めて製作に携わり、次々と数多くの映画を手がけていきます。 80年代後半から90年代前半にかけて、『ハチ公物語』や『遠き落日』など多くのヒット作を生み出し、北野武や竹中直人などを新人映画監督としてデビューさせて注目を集めました。1994年には『RAMPO』で監督デビューも飾っています。 しかし1998年、取締役会での緊急動議によって松竹専務を解任されてしまいます。これは当時の松竹の業績不振が奥山親子の会社の私物化によって引き起こされたとする動議で、この解任騒動はクーデターとも呼ばれました。 それでも同年には製作会社「チームオクヤマ」を設立し、2000年代も多数の映画を製作し続けています。2012年に吉本興業と業務提携を結び、吉本興業株式会社エグゼクティブプロデューサーと沖縄国際映画祭エグゼクティブディレクターを兼任。2014年には吉本興業が設立した製作会社「KATSU-do」の代表取締役に就任しました。
『ハチ公物語』で初めて異業種と共同製作
1987年の『ハチ公物語』は、日本映画界で初めて東急グループと三井物産という異業種との共同製作を打ち出した作品です。本作の大ヒットを受けて、その後異業種参入は次々取り入れられ常識となっていきました。 『ハチ公物語』は神山征二郎監督、新藤兼人脚本で、主演は仲代達矢、八千草薫。忠犬ハチ公の物語を創作を交えて描いています。 2007年にはリチャード・ギア主演でハリウッド・リメイク版『HACHI 約束の犬』の制作が発表され、2009年に日本でも公開されています。
日本映画界初の映画ファンド製作!歴史大作『226』
奥山が1989年の『226』で初めて取り組んだのが、製作資金を投資家から調達する映画投資ファンドでした。映画ファンド「フューチャー・フィルム・エンタープライズ」を設立し、プロデューサーが主導して映画を制作できる体制を生み出したのです。 フューチャー・フィルム・エンタープライズの第1号作品が『226』で、その後も第2号で黒澤明監督の『八月の狂詩曲』が製作されました。第3号でロバート・デ・ニーロとの共同製作が予定されていましたが、奥山の松竹解任で実現されませんでした。 五社英雄監督による『226』は、1936年に起きた陸軍青年将校によるクーデター「二・二六事件」を、将校たちの目線で描いた作品です。青年将校役には萩原健一や三浦友和、本木雅弘など豪華キャストが出演しています。
『その男、凶暴につき』と監督・北野武の誕生
1989年には『その男、凶暴につき』でビートたけしを映画監督としてデビューさせます。深作欣二監督の作品となる予定だったところ、スケジュールの都合で実現せず、主演のビートたけしに監督も依頼したという経緯があったようです。 世界のキタノの誕生が、実は名監督の代打起用だったとは驚きです!いずれにしても監督デビュー作で強烈な印象を焼き付け、批評家たちの度肝を抜いたのは間違いありません。 脚本は野沢尚が担当しましたが、ビートたけしが監督を承諾した唯一の条件により大幅な書き直しが行われました。物語はヤクザに雇われた殺し屋と、それを追う一匹狼の刑事の対決を描き、刑事をビートたけし、殺し屋を白竜が演じています。
つげ義春×竹中直人で高評価!『無能の人』
1991年当時はまだコメディアンとしての知名度が高かった竹中直人を、監督・主演として抜擢した『無能の人』は国内の映画賞で高い評価を受けました。その後も奥山プロデュース作品『RAMPO』『GONIN』に出演しています。 原作はつげ義春の連作漫画『無能の人』で、竹中直人はつげ自身がモデルと思われる主人公の助川を演じています。自らを「芸術漫画家」と称する助川とその家族の日常を描いた作品で、原作を忠実に再現した内容には原作者のつげ義春も驚いたとのこと!
『いつかギラギラする日』で深作欣二×萩原健一をプロデュース
深作欣二監督による本格アクション映画『いつかギラギラする日』を1992年に製作。主演には『226』でもメインキャストを務めた萩原健一、共演に石橋蓮司や千葉真一、多岐川裕美、荻野目慶子、木村一八が名を連ねています。 『その男、凶暴につき』同様、タイトル案を出したのは奥山だったそうです。元々は奥山がアクション映画企画を深作監督に提案していたものが、『その男、凶暴につき』の原型となる企画などをいくつも経て、ようやく本作をプロデュースすることになりました。 ベテランの強盗チームが現金輸送車を狙うクライム・アクションで、北海道を舞台に本格的なカーアクションを繰り広げています。萩原健一、石橋蓮司、千葉真一がギャングを演じました。
『ソナチネ』(1993年)でオフィス北野と決別
北野武監督の第4作目『ソナチネ』は1993年、監督・脚本・主演・編集をビートたけしが兼任して製作されました。キャッチコピーは「凶暴な男、ここに眠る」で、『アウトレイジ』につながるような暴力団の抗争劇を描いた作品です。 初期の北野監督作品の集大成ともいえる作品で、衝撃的なラストシーンまで徹底したバイオレンス描写に圧倒されます。1994年に海外の映画祭で上映されて高い評価を受け、「キタニスト」と呼ばれる海外ファンが生まれるきっかけとなりました。 しかし北野作品の奥山プロデュースは、この作品で終わりを迎えます。評価は高くとも興行的には苦戦していた北野作品によって、松竹内では孤立していった経緯があったとか。実際は北野監督との決別というより、オフィス北野社長・森昌行との『ソナチネ』製作費での決裂が決定打となったようです。
『RAMPO』(1995年)で初監督!ロバート・デ・ニーロと意気投合?
1994年には黛りんたろう監督で『RAMPO』を製作。江戸川乱歩生誕100周年と松竹創業100周年に当たる記念作品として公開されました。しかし奥山は黛監督の完成版に納得がいかず奥山バージョンを制作し、結果的に本作が監督デビュー作に。 しかも2バージョンを同時公開し、劇中のサブリミナル効果や上映館内での香水の散布なども含めて大きな話題を呼びました。1995年には奥山バージョンを再編集した「インターナショナル・バージョン」も公開されています。 同年、初監督作『ブロンクス物語』のキャンペーンで来日していたロバート・デ・ニーロと初対面し意気投合。デ・ニーロは『RAMPO』インターナショナル・バージョンの海外上映の際、プロモーションにも協力したといいます。その後も交流は続き、フューチャー・フィルム・エンタープライズの第3号で共同製作する予定でしたが、奥山の松竹解任のため中止となってしまいました。 『RAMPO』には『無能の人』の竹中直人が江戸川乱歩役で主演しているほか、明智小五郎役で本木雅弘が出演しています。原作は江戸川乱歩の小説『お勢登場』と『化人幻戯』で、探偵小説家・江戸川乱歩をめぐる現実と小説の夢うつつの世界を幻想的に描きました。
『GONIN』での石井隆監督との出会い
『RAMPO』インターナショナル・バージョンが公開された1995年、『ヌードの夜』の石井隆監督とバイオレンス・アクション映画『GONIN』を製作することになります。 石井監督が脚本も手がけ、出演者には佐藤浩市、本木雅弘、根津甚八、竹中直人、椎名桔平、ビートたけしとそうそうたる顔ぶれ!それぞれ、ディスコのオーナー、コールボーイ、元刑事、リストラされたサラリーマン、元ボクサーを演じ、はみ出し者同士でヤクザから大金を強奪する計画を実行するという物語を展開していきます。 翌年には『GONIN2』も共に製作しますが続編ではなく、『GONIN』から19年後を描いた『GONIN サーガ』が正統な続編となっています。しかし奥山プロデュースは『GONIN2』まで。2018年現在進行中の企画『SEVEN』では再びタッグを組むようです!
今村昌平監督『うなぎ』がパルム・ドール受賞!シネマジャパネスク唯一の成功作?
奥山が松竹時代に進めていたプロジェクト「シネマジャパネスク」によって製作されたのが今村昌平監督の『うなぎ』です。このプロジェクトは邦画の製作・興行体制に新風を吹き込むために始められ、低予算映画の少数館上映を可能にするものでした。 これもまた、奥山の松竹解任によって中止されたプロジェクトとなってしまいましたが、この画期的な功績が評価され、第7回日本映画プロフェッショナル大賞で特別賞を受賞しています。『うなぎ』はこのプロジェクトの2作目として製作され、第50回カンヌ国際映画祭で作品賞に当たるパルム・ドールを受賞。「シネマジャパネスク」唯一の成功作ともいわれています。 1997年公開の『うなぎ』は、吉村昭の小説『闇にひらめく』を原作としたドラマ作品。主演を役所広司と清水美沙が務めました。不倫した妻を殺して刑に服していた中年男と、その妻にそっくりな自殺を図った女性との出会いと交流を描いています。
チームオクヤマ製作第1弾!『地雷を踏んだらサヨウナラ』
奥山が松竹解任後に設立した製作会社「チームオクヤマ」による第1作目が、五十嵐匠監督、浅野忠信主演の『地雷を踏んだらサヨウナラ』です。公開は1999年で、設立後すぐに製作に取りかかったことがうかがえます。 カンボジアでクメール・ルージュによって処刑された報道写真家・一ノ瀬泰造の人生を追った作品で、残された写真や書簡をまとめた書籍『地雷を踏んだらサヨウナラ–一ノ瀬泰造写真・書簡集』を原作としています。 実はチームオクヤマは、松竹時代にすでに奥山自身の製作チームとして機動していたもの。初めての単独製作で、ロングランヒットを記録しました。
『TAIZO〜戦場カメラマン・一ノ瀬泰造の真実〜』でドキュメンタリーを製作
2003年には『地雷を踏んだらサヨウナラ』でその軌跡を追った、一ノ瀬泰造のドキュメンタリー作品『TAIZO〜戦場カメラマン・一ノ瀬泰造の真実〜』を製作します。奥山は同年にレーサー・太田哲也の壮絶な事故後を記録したドキュメンタリー『クラッシュ』で監督も務めています。 一ノ瀬の両親である一ノ瀬清二、信子の協力のもと、単独でアンコール・ワットをカメラに収めようとした一ノ瀬の情熱を映し出しています。声の出演として一ノ瀬泰造を坂口憲二、ナレーションを監督・撮影の中島多圭子が務めました。 2018年秋には奥山が15年ぶりに監督も務めたドキュメンタリー作品『熱狂宣言』が公開されます。今作では若年性パーキンソン病と闘うDDホールディングス創業社長・松村厚久を追っています。
『ラストゲーム 最後の早慶戦』で神山征二郎監督と再タッグ
2008年の『ラストゲーム 最後の早慶戦』は、『ハチ公物語』『遠き落日』以来のタッグとなった神山征二郎監督作。昭和18年10月16日に行われた六大学野球の「出陣学徒壮行早慶戦」開催に力を尽くした人々を描いています。 早稲田大学野球部部員にキャスティングされた柄本祐は、早稲田大学野球部顧問の飛田役を務めた柄本明と親子で共演しています。慶應義塾塾長には石坂浩二、早稲田大学総長を演じた藤田まことはこの作品が遺作映画となりました。 また本作は現在では主流となっている「製作委員会方式」で製作された作品で、配給会社のシネカノン、映画興行を手がける東急レクリエーション、広告代理店の日本経済広告社、ポータルサイトのYahoo! JAPANなど異業種他社が名を連ねています。
吉本興業との業務提携で『オー!ファーザー』の製作総指揮を担当
2012年には吉本興業と業務提携し、吉本興業が共催している「沖縄国際映画祭」のエグゼクティブ・ディレクターを務めています。また2014年には吉本興業の映画会社「KATSU-do」代表取締役にも就任しました。 こうした提携のもと、竹中直人監督の『R-18文学賞 自縄自縛の私』や、金子修介監督の『R-18文学賞 ジェリーフィッシュ』にエグゼクティブ・プロデューサーとして関わり、松本人志監督・脚本の『R100』では共同プロデューサーを務めました。 2014年には吉本興業の製作で、伊坂幸太郎の『オー!ファーザー』を原作とした同名映画の製作総指揮を担いました。主演は岡田将生と忽那汐里、監督は本作が長編映画デビューとなった藤井道人です。今も変わらず新人監督の発掘に尽力しています。
気になる次回作は?さらなる熱情を求めて
事務所の資料を整理してて発見したRAMPOの撮影風景の写真。
— チームオクヤマstaff (@teamokuyama2018) April 19, 2018
奥山P若い…#事務所の整理整頓シリーズ #奥山和由 #RAMPO #セピア色の写真初めて見た pic.twitter.com/5fINk7MfBW
沖縄国際映画祭の他にも、京都国際映画祭の総合プロデューサーも務める奥山和由。松竹解任後にもすぐ動き、チームオクヤマを率いて日本映画界の最前線を走り続けているプロデューサーの一人といっても過言ではない革新的な人物です。 奥山プロデューサーが映画作りで何よりも大切にしているのは「熱情」。北野武を「既存の映画社会と戦う最も力強い戦友」と評しているだけに、今、そのタッグを再び見たいと願うのは一部の映画ファンだけではないはず! 2018年秋公開の『熱狂宣言』、同年公開予定の中村文則原作の『銃』、そして石井隆監督とのコンビ復活が実現する『SEVEN』など、今後も気になる新作が目白押しです。