【ネタバレ感想】映画『侍タイムスリッパー』から溢れる時代劇への愛!泣けて笑えるテンポ感が絶妙
映画『侍タイムスリッパー』のあらすじ
公開年 | 2024年 |
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監督 | 安田淳一 |
キャスト | 山口馬木也 , 冨家ノリマサ , 沙倉ゆうの |
安田淳一が監督、脚本、照明、編集、衣装など1人何役もこなした自主制作映画『侍タイムスリッパー』。監督のそれまでの人脈や脚本を読んだ京都撮影所などの協力により完成した奇跡の時代劇です。 2024年8月に池袋シネマ・ロサ1館のみで封切られ、その後口コミで話題を呼び、2025年2月現在は全国100館以上で上映されています。 日本アカデミー賞では作品賞、監督賞のほか、脚本賞、照明賞、編集賞、主演男優賞など、7冠に輝きました。
映画『侍タイムスリッパー』のあらすじ
幕末の京都。会津藩士の高坂新左衛門(山口馬木也)は、ある長州藩士を討つよう密命を受けます。しかしその途中で、落雷によって気を失ってしまいました。 新左衛門が目を覚ますと、そこはなんと現代の京都にある時代劇撮影所。彼は行く先々で騒動を起こしながら、江戸幕府が140前に滅んだことを知り、愕然とします。1度は死を覚悟しますが、優しい人々に助けられ、生きる気力を取り戻していく新左衛門。 そして彼は、磨き上げた剣の腕だけを頼りに撮影所の門を叩き、「斬られ役」として生きることを決意します。
【ネタバレ】映画『侍タイムスリッパー』結末までのあらすじ
幕末からタイムスリップしてきた侍
幕末の京都。会津藩士の高坂新左衛門(山口馬木也)と村田左之助(高寺裕司)は、長州藩士の山形彦九郎(庄野崎謙)を暗殺しようとしていました。大雨の降りしきるなか、竹林の開けた場所で互いに剣を振り下ろそうとしたとき、両者に雷が落ちます。 新左衛門が目を覚ますと、そこは長屋の路地でした。突然昼になったことに驚きながら、1本離れた大通りに出た新左衛門。そこには商人や町娘など様々な人が行き交っています。そんななか、3人の侍が町娘に絡んでいました。すると“世直し侍・心配無用ノ介”と名乗る俳優の錦京太郎(田村ツトム)が娘を助けます。 そこに監督から「カット」の声がかかります。そこは現代の時代劇撮影所だったのです。 監督が本番のスタートをかけると、新左衛門が「心配無用ノ介殿、助太刀いたす」と出てきます。怒った監督は新左衛門を怒鳴りつけ、助監督の優子(沙倉ゆうの)は彼を別の場所へ行くよう促しました。 撮影所をぶらついていた新左衛門はカメラのクレーンに頭をぶつけ、病院に運ばれてしまいます。病院のベッドで目覚めた彼は、優子が看護師を呼びに行っている隙に外へ。車や電車に驚きながら、道端に貼ってあった「黒船来航」のポスターに「幕府滅亡から140年」の文字を見つけた新左衛門は愕然とします。
「斬られ役」として活路を見出す新左衛門
街をさまよっているうちに、見覚えのある山門前に着いた新左衛門。翌朝、門の前を掃除していた住職(福田善晴)が倒れている新左衛門を見つけ、時代劇の役者と思い、彼を家に運んで看病しました。 新左衛門を探していた優子は、住職から話を聞いて駆けつけます。その後、新左衛門はテレビを見て絵が動いていることに驚きつつも、時代劇の物語に涙します。そして優子がこの作品に関わり、監督を目指してがんばっていることを知った新左衛門は、彼女の手伝いがしたいと申し出ました。 あるとき時代劇のロケを見物していた新左衛門は、斬られ役の1人が体調を崩したため、代役を務めることに。するとその迫真の演技が気に入られます。時代劇をやりたいなら、と住職に勧められ、殺陣師の関本(峰蘭太郎)を訪ねた新左衛門。しかし関本は「今どき時代劇では食っていけない」と反対します。しかし新左衛門は諦めず、その姿に関心した関本は入門を許しました。 その後、新左衛門はセリフのある役で『心配無用ノ介』に出演するなど、「斬られ役」として出世していきます。そしてついに映画の準主役のオファーが来ました。 その作品は、10年前に引退した元時代劇トップスターの風見恭一郎(冨家ノリマサ)が復帰して主演を務める本格時代劇『最後の武士』でした。断るつもりでいた新左衛門でしたが、2人きりになったとき、風見が「あの嵐の夜、丸顔の同輩はどうした?」と聞いてきました。
時代劇スター・風見恭一郎の正体
風見の正体は長州藩士の山形彦九郎で、あの夜、30年前の日本にタイムスリップしていたのでした。彼は新左衛門と同様に時代劇にエキストラ出演するようになり、やがてトップスターまでのし上がったのです。最近テレビを見て新左衛門も現代にやって来たことを知り、出演オファーを出したのです。 周囲の勧めで映画に出演することにした新左衛門は、あるとき2人で釣りをしていたとき、新左衛門は風見になぜ時代劇をやめたのかと聞きました。すると風見は「向こうにいたころ、人を斬ったことがある。こっちに来て時代劇で何度も人を斬るうち、その感覚を思い出した。もう限界だと思って辞めた」と言います。 撮影が進み、あるとき台本の改訂版が配られました。そこには会津藩の惨状が描かれており、ショックを受けた新左衛門は涙を流しながら台本を読みます。 映画のラッシュが行われた後、新左衛門はラストシーンで真剣を使うことを提案します。安全上の問題から周囲は反対しますが、新左衛門と風見は「なにがあっても自己責任」という宣誓書を準備していました。監督は「すごい映画が撮れる」と乗り気になりますが、関本は「絶対に認められない。私は見に行かない」と新左衛門と絶縁します。
『最後の武士』の定め
監督がリハーサルを行うと言いますが、2人はリハーサルはいらないと断ります。風見が「あのときの続きか。お前と映画を撮れて楽しかった。どうしても斬り合わなければならんか?」と聞くと、新左衛門は「それが我々の務め」と答えます。 本番が始まり剣を構える2人。身じろぎもしない緊張感が現場を包むなか、2人は斬り合います。すべてアドリブだと監督たちは気づきますが、撮影を続行。刀の押し合いになると風間が刀を落とし、「これも定めか。さあ成すべきことを成せ」と言って座り込み、新左衛門が刀を振り下ろします。 映画館で『最後の武士』が上映されます。新左衛門が刀を振り下ろすと風間が地面に倒れ、流れる血。新左衛門は「成仏してくれ」とつぶやき、映画は幕を閉じました。住職とその妻は「いい映画だった」と感激していました。 撮影現場。新左衛門は風間に刀を振り下ろしますが、真剣は地面を打ち、新左衛門は泣きながら「俺は情けない男だ」と言います。すると監督はOKを出し、スタッフが拍手喝采が起きます。 次にジェラルミンの刀に持ち替え、もう一度ラストシーンを撮影しました。 その後、優子は再びシナリオを書きはじめ、新左衛門は斬られ役を続けました。そんなあるとき、新左衛門と山形がタイムスリップしてきた路地に、左之助が現れます。
映画『侍タイムスリッパー』に見る時代劇愛
先述の通り『侍タイムスリッパー』は、安田淳一が監督・脚本をはじめ、編集、照明、衣装などほとんどの役割を1人でこなし、制作した自主制作映画です。 しかし出演者は多くの時代劇で活躍する大ベテランぞろい。さらに京都撮影所が特別協力のもと制作されました。多くの出演者も撮影所も、その脚本の素晴らしさに惹かれて協力したとのことです。これは脚本に時代劇への愛がにじみ出ているからでしょう。 時代劇はいまや斜陽産業として衰退の一途を辿っています。そんななか、時代劇を作る人々の情熱を描いた本作は、熱い支持を集めているのです。
映画『侍タイムスリッパー』の感想
脚本が良い。タイムスリップしてきたのが会津藩士というところがポイント。キャストも良い。主演の山口馬木也さんは本物の侍のように見えたし、他の出演者の実力派ぞろいで物語に引き込まれた。最後の真剣でのチャンバラシーンはものすごい緊迫感で圧倒された!
メインの役者の表情がとにかく良い。伝えたいこともストーリーもオチも良かった。よりよい未来のために、あの時代を必死で生き抜いた方々に感謝と、現代を生きる我々も必死で生きていきたいと感じさせてくれた。
映画『侍タイムスリッパー』のキャスト
高坂新左衛門役/山口馬木也
主人公の高坂新左衛門を演じた山口馬木也は、藤田まこと主演「剣客商売」で主人公の息子・秋山大治郎役を演じて以来、数多くの時代劇をはじめ、映画やテレビで活躍する実力派です。 本作は役者人生25年で初となる長編映画での主演。インディーズ作品であることよりも、「とにかく脚本が面白かった」と出演を快諾しました。
風見恭一郎役/冨家ノリマサ
物語のカギとなる風見恭一郎を演じたのは、『おしん』(1983年)でデビュー後、テレビ、映画と幅広く活躍する冨家ノリマサ。 現場では作品のクォリティを上げるため、積極的にアイディアを提案し、「キャラクターに想定外の深みが出た」と監督をよろこばせました。
山本優子役/沙倉ゆうの
助監督の山本優子を演じた沙倉ゆうのは、安田監督の前作『ごはん』(2017年)では、主演を務めました。また本作では劇中で助監督を演じつつ、実際に助監督、制作、小道具スタッフなども務める大活躍でした。 東映京都俳優部に所属し、テレビ、映画にも積極的に出演しています。
殺陣師・関本役/峰蘭太郎
16歳で昭和の時代劇スターとして知られた故・大川橋蔵に弟子入りし、テレビデビューした峰蘭太郎。「斬られ役」として数多くの作品で活躍する傍ら、殺陣技術集団・東映剣会の役員・会長を歴任してきました。 本作では「5万回斬られた男」の異名を持つ福本清三が急逝したことから、峰に白羽の矢が立ちました。出演を快諾後、福本の墓前に「先生の代役をつとめさせて頂きます」と手を合わせたとか。
映画『侍タイムスリッパー』感想をネタバレありで語りました
『侍タイムスリッパー』のネタバレ・あらすじ、感想を紹介しました。 たった1館から上映され、いまや100館以上の映画館で上映されている『侍タイムスリッパー』。2024年8月の上映開始から、口コミで評判が広がり、高い評価を受けています。