映画『国宝』小野川万菊(田中泯)の最期とは?晩年を安宿で過ごした理由やなぜ喜久雄を呼んだのか徹底考察
主演に吉沢亮、そのライバル役に横浜流星を迎え、そのほか豪華キャストの競演が話題になっている映画『国宝』。そのなかでも異彩を放っているのが、人間国宝・小野川万菊を演じる田中泯です。 2025年現在80歳の田中泯が演じる小野川万菊とは、一体どのような人物なのでしょうか。この記事では、人間離れした存在感を放つ小野川万菊の圧倒的な存在感に迫っていきます。
映画『国宝』小野川万菊は稀代の女形を演じる人間国宝
数多くの実力派キャストが集結した『国宝』の中でも、田中泯が演じる小野川万菊は人間離れした存在感を放っています。特に序盤で彼が披露する『鷺娘』は言葉を失うほど美しく、多くの観客が喜久雄や俊介と同じように見入ってしまったのではないでしょうか。 舞台の上以外でも彼の存在感は異様で、喜久雄に初めて会ったとき「美しいお顔。でも芸をするなら邪魔も邪魔。そのお顔に食われないように」と言います。この言葉は不気味でありながらも喜久雄の本質をとらえ、その後の彼に大きな影響を与えます。 喜久雄は芸のために人生のすべてを捧げましたが、彼は万菊の圧倒的な美しさと迫力に、少しでも近づこうとしたのではないでしょうか。
映画『国宝』万菊の最期は?安宿で過ごした晩年に迫る

映画『国宝』では、万菊が亡くなった様子は描かれてはいませんでした。喜久雄を自分が見を休めている安宿の一室に呼び、歌舞伎界への復帰の道筋を付けてくれるという場面が映画では描かれましたが、原作小説ではこのシーンはありません。 しかし晩年を安宿で過ごしていたというのは、原作小説通り。万菊が過ごしていたのは1泊2000円にも満たない部屋で、生活保護制度で出る上限ギリギリというもの。人間国宝にもなった万菊が、なぜ晩年をそんな安宿で過ごしていたのでしょうか?
歌舞伎界を退き安宿で過ごした万菊の美学とは

原作では「中松屋」という安旅館の一室で亡くなっていた万菊。その宿では亡くなる前の数カ月を過ごしており、そこで交流があった者たちからは「旅役者の女形」やら「銀座のおかまバー」をやっていたなどと噂を立てられていました。 万菊はその仲間たちに「ここは、いいねえ」とこぼし、「ここにゃ美しいもんが一つもないだろ。妙に落ち着くんだよ」と本音を語っています。人間国宝の女形としてただただ「究極の美」を追い続けて万菊にとって、この安宿は自分のことを知らない人々に囲まれ、「もういいんだよ」と言ってもらえる心落ち着く場所だったのではないでしょうか。
映画『国宝』万菊はなぜ喜久雄を救ったのか
小野川万菊は、稀代の女形として知られる人間国宝です。上方歌舞伎の重鎮であり、彼に認められるかどうかが役者としての進退に大きな影響を与えます。 少年時代の喜久雄と俊介は、彼の『鷺娘』を鑑賞した際、その美しさに魅了され、「恐ろしいわ。バケモンや」と衝撃を受けました。そして喜久雄はその高揚感を追い求めるように、歌舞伎に没頭していくのです。 万菊の『鷺娘』が喜久雄の運命を決定づけたと言っても過言ではなく、彼が“悪魔と取引き”してでも女形を極めたいと思ったきっかけとなった人物なのです。 一方で万菊は人間国宝という権威ある立場にありながら、喜久雄が訪れた彼の家は質素なものでした。彼もまた、歌舞伎に人生のすべてを捧げたことがうかがえます。
小野川万菊はなぜ喜久雄を宿に呼んだのか

華やかな歌舞伎界から身を引いていた万菊が喜久雄を宿に呼んだのは、もちろん彼の歌舞伎界復帰を助けるため。喜久雄の女形としての才能を出会った当初から買っていた万菊が、みすみすそのまま見放すはずがありません。 物語の中盤で万菊が喜久雄に冷たく当たっていたのは、二代目花井半二郎が息子の俊介に行ったのと同様の「獅子の子落とし」でした。喜久雄に血筋がないことを知っていた万菊は、いざという時、良きタイミングで初めから彼を救い上げるつもりだったと思われます。
映画『国宝』万菊を演じた役者は田中泯

映画『国宝』で人間国宝の女形・小野川万菊を演じたのは、舞踏家として世界的に著名な田中泯(たなかみん)です。1974年から独自の身体表現を追求し、あらゆる場所で即興で踊る「場踊り」の活動を国内外で続けています。 俳優としては2002年の映画『たそがれ清兵衛』でデビューを飾り、その年の映画賞で数々の新人賞を受賞。それ以降、大河ドラマ『龍馬伝』(2010年)や『鎌倉殿の13人』(2022年)、映画『PERFECT DAYS』(2024年)など数多くの話題作でその存在感を示しています。
田中泯はどう小野川万菊を演じた?

2025年5月30日に京都で行われたジャパンプレミアで、田中泯は人間国宝という大役を演じるにあたっての心境をこう語りました。 「とにかく桁外れの門外漢があって、やってはいけないことかもとドキドキするような仕事で、まだ未だに僕の中で終わった気がしていないというか」 ダンサーとして世界的に活躍してきた彼にとっても、「人間国宝」という権威ある役柄は大きなプレッシャーだったのかもしれません。2016年の芸団協CPRA広報誌『SANZUI』のインタビューで「僕は存在することに賭けてきた」と語った田中泯は、『国宝』でまさに唯一無二の存在感を発揮しています。
映画『国宝』万菊のモデルはいる?

小野川万菊のモデルは、昭和・平成の歌舞伎界に君臨した伝説の女形・六代目中村歌右衛門といわれています。 六代目中村歌右衛門は人間国宝・文化勲章受章者であり、伝統芸能の頂点を極めるために生涯を捧げた孤高の生き様や、三島由紀夫などの文豪との親交、圧倒的な存在感などが万菊というキャラクターの背景に色濃く投影されています。 三島由紀夫の小説『女方』に登場する「佐野川万菊」も六代目中村歌右衛門をモデルに描かれており、『国宝』でもこれを意識した名前になっているようです。
映画『国宝』の田中泯の演技に心奪われる

『国宝』で豪華キャスト陣がそれぞれキャリア最高の演技を見せるなかで、別格ともいえる存在感を放った田中泯。ダンサーから俳優としても活躍の場を広げ、多くの作品でその魅力を発揮してきました。 大絶賛を浴びている『国宝』のキーパーソン、小野川万菊役に彼ほどふさわしい俳優もいないでしょう。


