朝ドラ『マッサン』が異例のキャスティングでも受け入れられたワケ【ウィスキーづくりの真実】
竹鶴政孝とリタをモデルにした朝ドラ『マッサン』とは
『マッサン』は2014年から2015年にかけてNHKで放送された朝ドラ。ウィスキー会社の創業者で社長の亀山政春(マッサン)とその妻エリーの日々を描いたドラマで、竹鶴政孝とリタがそれぞれのモデルとなっています。 舞台は明治から大正の大阪の街。国内生産は不可能だと言われていたウィスキーの製法を学ぶために単身で、ウィスキーの本場スコットランドへと渡ったマッサン。 マッサンは2年の修行を終えて帰国しました。スコットランドの女性・エリーを連れて……。ウィスキーづくりに情熱を懸けたマッサンと妻・エリーの物語のはじまりです。
失業・不況・挫折のウィスキーづくりを支えたエリーの愛
本場の技術を身につけ、日本でのウィスキーづくりに取り掛かったマッサン。しかし世の中が大不況に陥り、ウィスキーの製造計画はとん挫してしまいます。 失業したマッサンでしたが、ワイン事業で成功を収めた鴨居商店の鴨居欣次郎に工場長として迎え入れられ、山崎の地で国産ウィスキーを誕生させました。ついに苦労が実を結んだと思いきや、ウィスキーが全く売れません。 なかなか上手くいかないマッサンのウィスキーづくり。妻・エリーは文化の違い、厳しい周りの目などの困難の中でマッサンを愛し、彼を支えました。
朝ドラ『マッサン』のモデルとなった竹鶴政孝
広島の醸造家に生まれた政孝は、日本で本物のウィスキーを作りたいという熱い想いを胸にウィスキーの起源であるスコットランドへと渡りました。 留学当初はなかなか思うように学ぶことができず、焦る気持ちを抱えた日々を送ることになります。しかし、政孝の熱意をくみ取ってくれる職工との出会いによって、ウィスキーの製造技術を身につけることができました。 またこの留学で、のちに政孝のパートナーとなるリタとも出会います。リタの弟の柔術の先生として知り合ったのがきっかけでした。
日本のウィスキーづくりの裏に隠れたリタの貢献
実は政孝は、愛に生きてスコットランドにとどまっていたかもしれないのです。スコットランドの女性・リタとの出会いは政孝にとって大きな支えとなりました。 リタにプロポーズをするときには、リタが望むのならスコットランドに残るとまで言った政孝。対してリタは政孝のことを考えて、家族や親戚の反対を押し切り故郷を離れるという大きな決断をしました。 リタの覚悟があったからこそ、日本のウィスキーづくりは発展したと言っても過言ではないでしょう。政孝はリタに恋したことを誇らしくも切なく、いとおしく思ったそうです。
「マッサン」の奮闘によって日本初の本格ウィスキーが誕生
政孝がスコットランドで学んだウィスキーに関するすべてのことがノートにまとめられています。そのノートには、製法や設備、工場配置図、機械や部品のスケッチ、さらには職人の待遇、税金に関してまでもが記されていました。 そのノートを携え、リタとともに日本へと帰国した政孝。スコットランドで蒸溜所を訪ね歩きまわったときに出会ったムーア博士とのつながりで、サントリーの創業者・鳥井信治郎と出会い、日本初の本格ウィスキーを誕生させたのでした。 ウィスキーづくりの技術だけでなく、人との出会いもスコットランドで得ていたのですね。
ニッカウヰスキーの「ヰ」の文字に込められた想い
政孝は「ニッカウヰスキー」という社名にもウィスキーへのこだわりを込めていました。「ニッカ」というのは政孝が最初に社名にした「大日本果汁」の略称です。では「ヰ」の文字は何を意味するのでしょうか? 当初は「ニッカウ井スキー」で社名の登記申請をしたそうです。これはウィスキーには水が大切で、「井戸」の漢字を使った名前にしたいという想いからでした。 しかし漢字とカナを一緒に登録できないという決まりが当時あったため、「ヰ」という「井」に由来したカナを使ったようです。
そんな朝ドラ『マッサン』のキャストは異例だった!
朝ドラ初出演で主演となった玉山鉄二!男性主人公は1995年以来
マッサンを演じたのは、ダイハツ「ウェイク」のCMであんちゃんを演じる玉山鉄二。このCMで見せる「あんちゃん、それウェイクだよ。」の台詞が印象的なコメディータッチな演技はもちろん、ドラマ『素直になれなくて』では繊細で心優しい役柄を演じ切りました。 『マッサン』の放送前に、マッサンを演じることでクールで無口な自分の印象をぶち壊す新しい可能性に期待していると話していた玉山。『ウェイク』のCM、『素敵な選TAXY』でのプロ野球選手役と、さらに活躍の幅を広げました。 またNHKが男性を主人公とした朝ドラを製作したのは1995年の『走らんか!』三国一夫以来。異例の抜擢にも関わらず、ウィスキーづくりの真実を丁寧に描いた本作は受け入れられ、平均視聴率21.1%のヒット作となりました。
ヒロイン役を異国から掴んだシャーロット・ケイト・フォックス
ヒロイン・エリーを演じたのは当時、日本に来たことがなく日本語も話せなかったアメリカ人女性シャーロット・ケイト・フォックスです。 シャーロットは『マッサン』のヒロイン役を演じる白人女性を募集していることをインターネットで知り、アメリカからオーディションを受けるために来日。日本語を全く話せない彼女でしたが、プロデューサーに「ずば抜けた演技力」「コメディセンス」と言わしめた実力で見事にヒロインの役を勝ち取ります。 『マッサン』をきっかけに日本でブレークを果たし、『名探偵キャサリン』『OUR HOUSE』と民放ドラマでも主演を務める女優になりました。 本作は初めてヒロインキャストに外国人女性を起用しましたが、これはモデルである竹鶴政孝とリタがつくった歴史を再現しようとした結果でしょう。
『マッサン』のポスターに写る艶やかな女性キャストも話題に
『マッサン』の作中で、「太陽ワイン」という商品が出てきました。この商品はサントリー「赤玉ポートワイン」がモデルになっていると言われています。 「太陽ワイン」はフランス産のワインにメープルシュガーを加え、日本人が旨いと感じるワインにしたと作中で鴨居社長がマッサンに話していました。メープルシュガーと他にも何かを加えていたようですが、鴨居社長は意味深な笑みを浮かべて答えを教えてくれることはなく、気になるところではあります。 この「太陽ワイン」のポスターにはヌードの女性が使われており、その役を演じた柳ゆり菜が話題になりました。
国産ウィスキーを嗜みながら“マッサン”に思いをはせる
現在の日本産ウィスキーの背景にあった竹鶴政孝とリタの物語。2人の絆と人との出会いによって、日本産ウィスキーが生まれたとわかりました。 朝ドラ『マッサン』を観て、政孝とリタに思いをはせながらウィスキーを飲んでみませんか?