意外と知らない配給会社とは?
映画の本編が始まる前に色々なロゴが出てくるのはご存知でしょう。それらはその映画を製作した会社や、映画をその国内で配給する配給会社のロゴなのです。 日本にも松竹、東宝、日活などの配給会社があります。それと同じようなアメリカの老舗の配給会社にはどんなものがあるのでしょう? また、自主製作映画や国外の作品を配給する会社もアメリカには多数あるに違いありません。それぞれどのような特徴があるのでしょうか? 映画の配給会社という観点からハリウッド映画を俯瞰してみました。前・後編ですのでじっくりお読みください。
アメリカにおけるメジャーな配給会社
現在のアメリカ映画の主要配給会社は、「ビッグ・シックス」と呼ばれる6社に集約されます。すなわち、「ワーナー・ブラザーズ」、「20世紀フォックス」、「パラマウント」、「ユニバーサル」、「ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント」、「ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ」です。 様々な映画製作会社はこれらのうちのどれかの傘下に入っています。映画製作会社はこうした配給会社と契約して、配給会社は映画館とブッキングを行い、配給業務、宣伝などを行うわけです。 映画製作者と映画興行を結ぶ、謂わば卸売業に当たる、アメリカにおける主な配給会社について見ていきましょう。
老舗の巨人、ワーナー・ブラザーズ
ワーナー・ブラザーズの歴史イコール、ハリウッド映画の歴史と言えるでしょう。1920年代にワーナー4兄弟によって設立された会社は、1927年に世界初のトーキー映画『ジャズ・シンガー』を公開します。 80年代に大手出版社タイムと合併したり、2000年代にインターネット・プロバイダーAOLに買収されたりと紆余曲折を経ました。現在では「ワーナー・ブラザーズ・アニメーション」、「ニュー・ライン・シネマ」、「キャッスル・ロック・エンターテイメント」などを傘下に収めています。 グループにDCコミックスがあるので、近年では「ジャスティス・リーグ」シリーズをリリースしています。
劇的なジングルのアバン・タイトルが印象的、20世紀フォックス
1930年代にフォックス・フィルムと有名なプロデューサー、ダリル・F・ザナックの会社、20世紀映画が合併して設立。戦前はジョン・フォードの西部劇で有名で、戦後は『サウンド・オブ・ミュージック』(1965)を始めとするミュージカル映画を多数公開しました。 傘下の「フォックス・サーチライト・ピクチャーズ」は、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014)などのインディペンデンス系の映画を製作しています。 アニメ部門の「ブルースカイ・スタジオ」は『アイス・エイジ」シリーズなどのアニメーションで有名です。
雪山と星のロゴで有名、パラマウント
1910年代にできたフェーマス・プレイヤーズを前身として、1920年代にパラマウントと改称しました。雪山と星のロゴで有名です。 財政難で破産宣告をしたり、様々な会社に買収されたりを繰り返しながらも、名前は残りました。一時期、スピルバーグのドリームワークスSKGを傘下に収めて、『モンスターVSエイリアン』(2009)などを配給していました。 グループのパラマウント・ヴァンテージは、『ヴァージン・スーサイド』(1999)などのアート系映画を製作しています。 また、子ども向け映画を製作するニコロデオン・ムービーズは、『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』(2011)などで有名。
USJのモトはこの会社です、ユニバーサル
USJで知られるユニバーサルは、20世紀初頭に、カール・レムリが発明王エジソンに対抗する形で起ち上げた映画会社でした。 1960年代には全米テレビ・ネットワークのNBCに買収されながらも、70年代にはスピルバーグの『ジョーズ』(1975)が大ヒット。その後も「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズや「ジュラシック・パーク」シリーズが成功を収めます。 グループに属するワーキング・タイトル・フィルムズは、イギリスの会社で、エドガー・ライトの『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)などを製作。 『COP CAR/コップ・カー』などを製作したフォーカス・フィーチャーズ、『ミニオンズ』(2015)が大当たりしたイルミネーション・エンターテイメントも子会社です。
親会社は日本の企業、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント
日本の家電大手ソニーの子会社、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントは、コロンビア映画を買収しました。コロンビア映画のオープニング・ロゴは自由の女神に似た「コロンビアレディ」が登場することで有名です。 近年では「007」シリーズ、『ブレードランナー2049』(2017)などを製作しています。 また、子会社のトライスター・ピクチャーズ(ペガサスのロゴで知られる)は、『第九地区』(2009)、『LOOPER/ルーパー』(2012)など先鋭的な作品、同じく子会社のスクリーン・ジェムズは『ドント・ブリーズ』(2016)などの低予算ホラー、SF作品を配給。 さらに、ソニー・ピクチャーズ・アニメーションは寡作ですが、『くもりときどきミートボール』(2016)などの傑作を生み出しています。
アニメーションの老舗、ウォルト・ディズニー・スタジオ
言うまでもなくアニメーションの老舗ですが、近年は実写映画を製作する部門など、巨大なグループを成しています。 ウォルト・ディズニー・ピクチャーズはファミリー向けのアニメーションや実写映画を製作する部門で、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズで有名です。 ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオは、アニメーション制作部門で、『アナと雪の女王』(2013)の大ヒットが記憶に新しいですし、「トーイ・ストーリー」シリーズのピクサーもCGアニメ制作の子会社。 「アベンジャーズ」シリーズなどのマーベル・スタジオ、「スター・ウォーズ」シリーズのルーカスフィルムもディズニーの傘下です。
パクり御免の便乗商法、アサイラム
1997年に設立された映画製作会社兼映画配給会社。有名タイトル便乗のB級映画で知られます。 その制作姿勢から「盗作」、「粗製乱造」と誹られることも多く、過剰な残虐描写やエロ描写も批判の対象です。 例えば、『アイ・アム・レジェンド』(2007)に便乗した『アイ・アム・オメガ』(2007)、『地球が静止する日』(2008)をパクった『地球が静止した日』(2008)、『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』(2012)を女性に置き換えてお色気要素を足した『エクスペンダブル・レディズ』(2014)などがあります。
マイナー・レーベルだがアカデミー賞作品も、サミット・エンターテイメント
1991年に設立された映画製作・配給会社で、2012年にライオンズ・ゲートに買収されました。しかし、レーベル名は残り、活動を続けています。 サミット・エンターテイメントは「トワイライト」シリーズの大ヒットで、一躍有名になりました。ほかにも『ミッション:8ミニッツ』(2011)、「ジョン・ウィック」シリーズなどの話題作も生み出しています。 また、『ハート・ロッカー』(2008)、『ハクソー・リッジ』(2016)、『ラ・ラ・ランド』(2016)などアカデミー賞に食い込むような作品も手がけており、独立系の中では注目株です。
アメリカ国外の映画を配給、マグノリア・ピクチャーズ
2001年に設立されてたアメリカの映画配給会社。海外の映画の配給や自主映画の配給の特化されたレーベルです。 例えば、「マッハ!」シリーズ、『グムエル-漢江の怪物-』(2007)、『大日本人』(2007)、『アウトレイジ』(2010)、『ニンフォマニアック』(2014)などを配給しています。 スウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』(2008)のDVD、Blu-rayをマグノリア・ピクチャーズが北米で発売したとき、その英語字幕にあまりにも誤訳が多いことが指摘され、問題になりました。
コメディからドキュメンタリーまで、ロードサイド・アトラクションズ
2003年に設立された自主製作映画の配給に特化された映画配給会社。2007年にライオンズ・ゲートに買収されました。 カナダのゾンビ・コメディー映画『ゾンビーノ』(2007)から、和歌山県のイルカ追い込み漁を描き、アカデミー長編ドキュメンタリー賞を獲得した『ザ・コーヴ』(2009)までという幅広いラインナップを擁します。 特筆すべき作品はドキュメンタリー映画『スーパー・サイズ・ミー』(2004)でしょう。これは監督のモーガン・スパーロック自身が、1ヶ月間三食マクドナルドだけを食べ続けたらどうなるか、という実験に挑戦したものです。 本作はアカデミー長編ドキュメンタリー賞にノミネートされましたし、全米興行収益トップ10入りという成功を収めました。