2018年9月18日更新

京都発のNHKドラマ『ワンダーウォール』、吉田寮モデルの作品が話題に

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ワンダーウォール
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興奮覚めず。NHKドラマ『ワンダーウォール』が話題沸騰

ワンダーウォール
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映画『ジョゼと虎と魚たち』や、ドラマ『カーネーション』などを手掛けた渡辺あやが脚本を手がけたNHKの単発ドラマ『ワンダーウォール』。京都大学とその寮「吉田寮」をモデルにした本作には、2018年7月の初回放送時から「傑作」と讃えられ、話題になっています。 一つの寮の存続を巡り対立する学生たちと大学の物語は、何故多くの人の心を捉えることが出来たのでしょうか?4つのポイントから考察したいと思います。

1.現代の社会問題を想起させる深みのあるストーリー

ワンダーウォール
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本作では、実際に廃寮の危機にある「吉田寮」をモデルに、100年近い歴史を持つ大学寮の存続を願う学生たちと、安全性を理由にそれを取り壊そうとする学校側の対立と葛藤が描かれます。本作で描かれるのは「大学寮の廃寮」という一見するとコンパクトな話のようで、実は現代社会を反映したような非常に奥深い問題でした。 例えば、寮を守ろうとする学生たちに、大学側は「施設の老朽化に伴う安全性の欠如」を理由として説明しますが、学生たちが補修工事をすれば安全性を確保出来ると説明をしても、聞く耳を持ちません。実は大学側の真の狙いは、寮を取り壊した跡地に国からの助成金が得やすい学部の新たな施設を作りたいというものだったからです。 自身の属する組織に対する不信感や裏切りは、どこか現代の日本で起こっている様々な問題を想起させるものではないでしょうか? また、寮を愛するあまり大学側との戦いに傾倒し、周囲と軋轢が生まれていく学生や、何と戦っているのかわからなくなる学生、争いに興味を示さない学生など……本作では巨大な「壁」を前にした学生たちの様々な行動が印象的に描かれていますが、こうした描写に「3.11以降の日本の学生」の姿、例えばSEALDsの参加者たちを連想する人も多いのではないでしょうか。 そして、学生寮を守りたいという共通の目的を前になぜか分断してしまう彼らのもどかしさに、身に覚えがある方もいるかもしれませんね。 このように、「大学の寮の存続問題」という小さな問題を通して、現代社会を反映しつつ、多くの人に届くような様々なドラマを内包していることも、本作が傑作と評される理由の一つだと思います。

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2.約1500人のオーディションを勝ち抜いた若手俳優たちの好演

ワンダーウォール
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もう一つの大きな魅力として、俳優たちの好演もあげられます。 本作には、成海璃子、岡山天音、若葉竜也など、既に知名度の高い俳優陣も参加していますが、メインとなるキューピー役の須藤蓮は今年から俳優を始めたばかりという新人です。 実際に鑑賞してみると、成海たちはもちろん、須藤らの演技にも目を奪われます。新人俳優だからこそなのか、先入観なく、彼らを実際に寮で生活している学生のように見ることが出来るのです。話題になった『カメラを止めるな!』もほぼ無名のキャストたちの好演が話題になりましたが、今後は知名度に関わらず、イメージにあう俳優を起用する風潮が生まれるかもしれませんね。 なお、須藤だけでなく、印象的な役を演じた三村和敬、中崎敏らも、本作の出演を経て、今後の飛躍が期待出来ます。実は、本作のオーディションには約1500人が参加しており、彼らはその激戦を勝ち抜いた実力者たちなのです。

3.衣装、音楽、演出、美術、撮影……全スタッフの技量の高さに脱帽

ワンダーウォール
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本作の演出を担当したのは、NHK京都放送局の前田悠希。25歳の新鋭です。本作は、一見するとドキュメンタリーのような淡々とした演出にも見えますが、クスリと笑えるところや、思わず胸が熱くなるような場面など、しっかりとドラマとしての緩急もつけられていて、見ていて退屈することはありません。 また、1時間という短い時間の中で、6人のキャラクターを魅力的に描写したのは、俳優、脚本の力もさることながら、前田監督の技量があってこそだと思います。 それ以外にも、本作は音楽、美術、衣装、撮影、編集といった、作品を彩る様々な要素が非常に魅力的な作品です。例えば、どの街にいそうなリアリティを保ちつつ、しっかりとキャラクターの個性が見える衣装や、雑然としつつもどこか調和が取れた寮の美術など。 良いところをあげればキリがありませんが、画面全体から、スタッフが本作に込めた熱意が感じ取れるようでした。

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4.安直な結末に帰結せず、大きな「問い」と「希望」を残す物語

ドラマの中では、わかりやすい形で寮の問題が解決することはありません。それは、本作のモデルとなる吉田寮が2018年9月で廃寮になろうとしていることも関係しているのでしょう。わかりやすいハッピーエンドに帰結せず、ほろ苦さと共に爽やかな感動を与えてくれるラストは必見です。 なお、本作のオフィシャルサイトには、脚本の渡辺あやが『ワンダーウォール』に寄せたコメントが掲載されており、そこには彼女が本作に込めた現代社会への問いや希望、そして、前田監督の思いなどが綴られています。本作を視聴する前後に一読すると、一層作品を楽しめるはずです。

ドラマ『ワンダーウォール』はNHKオンデマンドで配信中です。