2020年3月10日更新

【ネタバレ】『チェルノブイリ』全話あらすじ&ドラマのスゴさを解説 史上最悪の原発事故が起きた背景とは

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HBO制作『チェルノブイリ』全5話のあらすじをネタバレありで紹介 史上最悪の原発事故はなぜ起きたのか

アメリカの放送局HBOが、2019年に制作した全5話のミニドラマシリーズ『チェルノブイリ』。同5月6日から6月3日にわたり放送され、視聴者や批評家からの圧倒的支持や、その年のエミー賞で主要10部門を制すなど高い評価を得ています。 このドラマが題材にしているのは、1986年4月26日にソビエト連邦のチェルノブイリ原子力発電所で起きた事故。世界最悪の原発事故として記憶に刻まれ、「深刻な事故」を示す最大レベル7とされました。 ドラマでは事実や証言に基づいて事故が克明に描かれ、ドキュメンタリータッチでありながら、関係者たちのヒューマンドラマとしても見応えのある作品となっています。 この記事ではまず、題材となったチェルノブイリ原発事故の概要と現在、そしてドラマのどこがスゴイのかを解説。さらに全5話のあらすじをネタバレありで紹介していきます。 ※本記事はドラマ『チェルノブイリ』に関する重大なネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください!

チェルノブイリ原発事故とは

チェルノブイリ原子力発電所事故とは、1986年4月26日午前1時23分、ソビエト連邦のチェルノブイリ原発4号炉が爆発して起きた原子力事故です。安全性テストの実験中に起こった爆発によって原子炉が屋根ごと吹き飛び、大規模な火災とともに広島原爆の何倍もの放射性物質が大気中に放出されました。 その後欧州をはじめ北半球一帯に放射性物質が拡散し、人々は被曝の恐怖におののき、世界的に原発事故がもたらす深刻な問題を知らしめることになりました。日本でも原発に対する不信感が急増し、雨に含まれる放射性物質を気にしていたことが記憶に残っています。 2017年にはチェルノブイリ原子力発電所4号炉に、100年間は放射性物質を安全に封じ込められる「新安全閉じ込め構造物」と呼ばれるシェルターが完成。しかも今では原発周辺は観光地となっているといいます。 2020年現在でも2600平方キロメートルもの「チェルノブイリ立ち入り禁止区域」が設けられていますが、原発関係者たちが住んでいた町プリピャチは今や「ダークツーリズム」という廃墟の観光ツアーで賑わっているとか。科学者たちによって禁止区域での動植物など生態系の研究も行われています。

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ドラマ『チェルノブイリ』のここがスゴイ!

『チェルノブイリ』
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ドラマでは事故に至るまでの様子を秒刻みで克明に追い、その後の対処方法も事実に基づき忠実に再現。さらに事故によって被曝した多くの関係者たちのヒューマンドラマと、その証言を元に事故の原因を突き止めていくサスペンス・スリラーともいえる要素が盛り込まれています。 長期にわたる綿密な取材を元にリアルさも追及され、屋外シーンの撮影にはチェルノブイリ原発と似た設計のリトアニアの廃炉になったイグナリナ原発がロケ地として選ばれました。イグナリナ原発では現在見学ツアーが人気になっているようで、ドラマの効果が伺い知れます。 また、ソビエト政府が事故原因の真実をKGBを使って隠蔽する様が描かれており、冷戦で国民が監視下にある社会主義国家の中で、嘘と真実の間で揺れ動く人間たちのドラマも重厚。自らも被曝しながら事故の真実を突き止めた科学者たちが、嘘をつき続ける政府と対峙する姿には込み上げるものがあります。 特に主要な三人の人物、レガソフとシチェルビナとホミュックが物語が進むにつれ培っていく団結力と友情に心熱くなり、科学者として真相を解明したいという探究心と責任感には感嘆させられます。

第1話「1時23分45秒」のあらすじ【ネタバレ】

『チェルノブイリ』メイン画像
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1988年4月26日、政府の監視下にいた一人の男がある告発をテープに録音し、隠してから首吊り自殺を図ります。彼の名はヴァレリー・レガソフ(ジャレッド・ハリス)。チェルノブイリ原発事故の収拾を担当した科学者でした。 その2年と1分前、1986年4月26日午前1時23分45秒、チェルノブイリ原子力発電所で爆発事故が起こりました。あり得ない事故に所員たちが慌てふためく中、火災が発生して消防士たちが消化活動を始めます。 一方、原発の関係者たちが住む町プリピャチでは、夜中の火災を見に人々が橋に集まっていました。この時点で誰一人、事の重大さを知る者はいません。 爆発前に安全性テストの実験を行なっていた責任者のディアトロフ副技師長(ポール・リッター)は、駆けつけたブリュハノフ所長(コン・オニール)とフォーミン技師長(エイドリアン・ローリンズ)に、爆発したのは非常用タンクであると事実確認もせず報告。その間にも何も知らない所員や消防士たちが次々と被曝していきます。 その頃、クルチャトフ原子力研究所の副所長ヴァレリー・レガソフは、閣僚会議副議長でエネルギー部門責任者ボリス・シチェルビナ(ステラン・スカルスガルド)から事故処理の政府委員会へ出席するよう要請されていました。

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第2話「現場検証」のあらすじ【ネタバレ】

白ロシア原子力研究所のウラナ・ホミュック博士(エミリー・ワトソン)は、いち早く事故の深刻さを知り、チェルノブイリへ向かいます。その間にも、プリピャチ病院には放射性火傷を負った消防士たちが次々運ばれ、火事見物して被曝した住民たちでもあふれて野戦病院のような有様に。 政府委員会では、いまだ事故を楽観視している閣僚たちを尻目に、レガソフが炉心が剥き出しになって放射性物質が放出されているという事の重大さを詳細に伝えていました。それを聞いたゴルバチョフ書記長は、シチェルビナとレガソフに現地調査を命じます。 現地にヘリで向かった二人の目に映ったのは、黒煙上る原子炉と建屋の上に散乱する黒鉛片。高精度な測定器で測った放射線量は15,000レントゲンを記録し、明らかに原子炉が爆発したことを示していました。 レガソフは炉心溶解物を封じ込めるためには5,000トンのホウ素が必要とシチェルビナに訴え、すぐに準備を整えてヘリからの投下作業を開始。一方ソビエト政府は諸外国からの追及でようやく原発事故を認め、プリピャチなど近隣住民の避難が始まりました。 しかしホウ素投下が成功したのも束の間、チェルノブイリに来たホミュックがシチェルビナとレガソフにさらなる水蒸気爆発の危険性を説きます。これを回避するには炉心下の地下タンクから排水作業を行わなければならず、それは作業員の被曝を意味しました。

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第3話「KGB」のあらすじ【ネタバレ】

地下タンクの排水に成功した3人は無事戻り、火災は鎮火に向かっていましたが、すでにメルトダウンが始まっていました。 炉心融解物が地下水に入るとドニエプル川から黒海までが汚染されるため、溶解物を液体窒素で冷却する案が出され、炭鉱夫を動員して穴を掘り、原子炉の下に熱交換器を設置することになります。 ホミュックは事故原因の追及に余念がなく、自ら事故当時に実験を行った技師たちに話を聞きに行きます。彼らはすでに重度の被爆により死に瀕していました。しかしホミュックはそこで、緊急停止のAZ-5ボタンを押した時に爆発したという重要な証言を耳にします。 その頃、ホミュックと同じ病院にイグナテンコ消防士の妻リュドミラ(ジェシー・バックリー)が夫を探しに来ていました。被爆末期の症状で痛々しい姿の夫に直接触り、子を宿したことを報告するリュドミラ。ホミュックはその姿を目撃し、慌てて彼女を部屋から引きずり出します。 妊婦を被曝の危険に晒したと騒ぎ立てるホミュックは、その場でKGBに逮捕されて拘束されます。レガソフはKGBのチェルコーフ第一副議長に彼女の釈放を要求。ホミュックは釈放され、二人は改めて科学者として事故の真相を解明することを決意します。

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第4話「掃討作戦」のあらすじ【ネタバレ】

事故から数ヶ月が経ち、プリピャチ周辺では「リクビダートル」と呼ばれる除染作業を行う作業員たちがテント生活をしていました。その中には避難時に置き去りにされ、汚染されたペットたちを駆除する仕事も……。 大学図書館で「極限状況下のRMBK炉について」という論文を閲覧し、再び病院でディアトロフに聴取を行ったホミュックは、事故の直接的原因がAZ-5ボタンを押したことだと突き止めます。 レガソフたちは月面車を使って建屋屋上に散乱する黒鉛を原子炉に落とす作業に取りかかりますが、汚染度が高い場所は月面車も使用できません。西ドイツから提供された無人作業車「ジョーカー」も数秒後に機能停止。実は政府は体面から本当の線量を西ドイツに伝えていなかったのです。 レガソフは苦悩の末、人間の作業員を投入することを決めます。作業に当たるのは一人一回につき90秒。総勢3828名もの兵士たちが動員されました。 調査を終えて戻ったホミュックは、レガソフとシチェルビナに爆発の原因の根拠となる論文を見つけたことを報告し、レガソフにIAEA本部で告発するべきだと迫ります。 しかし事故の真相を暴露することは、ソ連製のRBMK原子炉の欠陥を指摘することであり、自分はおろか家族までKGBに狙われることになるのです。一方、リュドミラの赤ちゃんは出産後4時間で死亡していました。

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第5話「真実」のあらすじ【ネタバレ】

KGBとの取引

チェルコーフに原子炉の欠陥を修理する約束を取り付けたレガソフは、IAEA本部で原因は技師のミスであると、その奥にある真相を隠したまま報告。その見返りとしてクルチャトフ原子力研究所所長の座を確約されます。しかしレガソフもすでに髪が抜けるなど、放射線障害の症状が現れていました。 それでもホミュックは、事故の責任を問う裁判で真相を傍聴する科学者たちに告げ、修理を求める声を上げさせようと食い下がります。裁判は1987年7月に開廷され、被告としてブリュハーノフ、ディアトロフ、フォーミンの三人と証人としてシチェルビナ、ホミュック、レガソフの三人が出廷しました。

裁判での証言

シチェルビナはまず、事故の背景にあった被告三人の思惑と実験の実状について説明。そもそも4号炉の完成後にするべきテストが未完のまま炉が稼働されており、功を焦る所長たちは失敗続きの実験を何としても成功させようとしていました。 次にホミュックが、事故の原因には「人的な問題」と「科学的な問題」があったと指摘します。月末のノルマ達成のため、キエフ電力局から出力を落とさなければならない実験を10時間延期するよう要請を受けていました。ところが昇進がかかっていたディアトロフは、無理な状況で実験を強行したのです。 その結果、実験が予定されていた4月25日ではなく26日に行われ、何も知らされていない経験の浅い技師が実験を担当することに。明らかに安全規則を無視して実験を強行しようとするディアトロフに誰一人逆らえず、原子炉は極限の状態に陥っていきます。

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不都合な真実

最後にレガソフが「科学的な問題」を説明します。バランスの崩れた極限状態にある原子炉に、制御棒が挿入されたことで急激に反応し爆発。緊急停止ボタンAZ-5が皮肉なことに起爆ボタンとなったのです。ここまで説明したレガソフをディアトロフが遮り、一旦閉廷されそうになりますが、ついにレガソフは事故の真相である原子炉の欠陥の政府による隠蔽を暴露します。 閉廷後、レガソフはKGBに連行され、チェルコーフに社会的抹殺を告げられます。政府の監視下に置かれたレガソフはその2年後、告発テープを残して自ら命を絶ちました。しかしレガソフの告発によって多くの科学者が立ち上がり、稼働中のRMBK原子炉の改良が施されたのでした。

チェルノブイリとフクシマ、その共通点は

「嘘の代償」はあまりにも大きく、世界を巻き込んだ史上最悪の原発事故を引き起こしました。レガソフはこの事故の最大の原因は政府による「嘘」だとはっきり語っています。ホミュックという架空の登場人物は、その嘘に対する科学者たちの良心の象徴として創作されたのでしょう。 事故当時の書記長ゴルバチョフは後に、ソビエト連邦崩壊の真の原因はチェルノブイリ原発事故だったかもしれないと告白しています。日本でも、東日本大震災による福島第1原発事故によって社会基盤が大きく揺さぶられました。 チェルノブイリとフクシマ、そのどちらにも「原発の安全神話」がどっしりと腰を据え、原子力に対する無知とデマが横行し、その結果多くの人が犠牲になりました。このドラマから私たちが学べることは、多いのではないでしょうか。