【ネタバレ考察】『竜とそばかすの姫』竜の正体&ラストのお母さんとの関係を解説!あらすじからひどい評価の理由をひもとく
【ネタバレなし】『竜とそばかすの姫』あらすじと設定を振り返る

- 利用者数50億人以上のインターネットサービス。
- 「Voices」と呼ばれる5人の賢者たちによって創設
- 利用者は<As>と呼ばれるアバターを使用
- 生体情報を読み取ることで、<As>の容姿と能力が自動設定される
- 治安維持システムは導入されておらず、違法、迷惑行為が横行している
- <As>のオリジンが暴露されることを「unveil(アンベイル)」と呼ぶ
すずは高知県の女子高生。幼いころに母を亡くして以来、父とは必要最低限の言葉しか交わさず、大好きだった歌も歌えなくなっていました。 すずの母は地域の合唱団のメンバーで、さまざまなジャンルの音楽を聞いており、スマートフォンに音楽制作アプリを入れたりしていました。その影響で、幼いすずは音楽を作ることに興味を持ち、自作の曲を母に褒めてもらえることがよろこびでした。 しかし母の死によって内向的でおとなしい性格になってしまったすずは、ネガティブ思考の持ち主で、評価よりも批判を気にしてしまうようになってしまいます。 そんなある日、すずは親友からインターネット上の仮想世界<U>に誘われます。自分の<As>を「ベル」と名付けたすずは、仮想世界の中で、歌うことを思い出していくのでした。 自作の曲を歌うようになった「ベル」は、当初はアンチに批判されていたものの、彼女の曲を編曲する人や衣装を作る人も現れ、瞬く間に世界中で大人気になります。
『竜とそばかすの姫』相関図でキャラを解説

| キャラ | キャスト |
|---|---|
| ベル | 中村佳穂 |
| 竜 | 佐藤健 |
| ジャスティン | 森川智之 |
| ペギースー | ermhoi |
| 天使 | HANA |
| キャラ | キャスト |
|---|---|
| 内藤鈴 | 中村佳穂 |
| 久武忍 | 成田凌 |
| 千頭慎次郎 | 染谷将太 |
| 渡辺瑠果 | 玉城ティナ |
| 別役弘香 | 幾田りら |
| すずの父 | 役所広司 |
| 恵 | 佐藤健 |
| 知 | HANA |
しかし<U>の世界で行われたある日のコンサートで、「竜」のアバターがコンサートを滅茶苦茶にしてしまうのです。竜は<U>のあちこちで暴れ回っており、仮想世界では「竜の正体探し」が始まりました。 竜のAsを使っていたのは、ビデオ配信をしていた少年・知くんの兄の恵でした。父親から虐待されていた兄弟、特に兄の恵は弟を守るため「僕が我慢すればいいんだ」と心に深い傷を負っており、それが竜の姿にも反映されていたのです。 それと並行してすずのリアルでの人間関係も描かれました。すずが気になっているのは幼馴染の忍。しかし忍は女子から大人気で、幼なじみとして一緒にいるだけで女子から総攻撃をくらってしまいます。 すずは6歳のころに忍から「守ってあげる」と言われ、それをプロポーズだと考えていましたが、今では自分の勘違いだったと恥ずかしく思っていました。それでも彼への想いは消えず、ひっそりと想いつづけています。 しかし忍は、すずのことをずっと気にかけていました。それまでただすずを見守っていましたが、トラウマを克服し、すずが明るさを取り戻すと、「普通に付き合えそう」だと口にしています。 またすずは人気者の女子・瑠果が忍と両思いだと勘違いしてショックを受けますが、瑠果の想い人はカミシンこと慎次郎です。
『竜とそばかすの姫』結末までのネタバレ考察
ベルのコンサート中に竜が乱入?

大観衆を集めたベルのライブ。オーディエンスが盛り上がるなか、突然竜の<As>が現れ、会場をめちゃくちゃにしていきます。聴衆によると、竜は6ヶ月ほど前から<U>に現れ、そのたびに暴れまわっているとのこと。 その間にも自警団「ジャスティス」のリーダー・ジャスティンは、竜をアンベイル(正体を明らかにする)しようと、彼の城を探していました。 ベル(すず)はヒロちゃんの力を借りて竜を探すことに。AIに邪魔されながらもなんとか彼が住む城にたどり着きます。 城に入ってきたベルを威嚇する竜でしたが、その体はアザだらけでしたが、本当に傷ついているのは心だったのです。歌に合わせて共に踊るうち、2人は少しずつ心を通わせていきました。
「竜の正体探し」の渦中、ベルは竜の城へ通うように

一方現実世界のすずは、冴えない女子高生。実は幼馴染の忍が気になっていましたが、忍は学校中の人気者です。少し一緒にいるだけで非難の的になってしまいます。 ベルとしてのすずは竜のことが気になっていて、自警団から身を隠しながら竜の城へ通います。そして心を閉ざしている竜に、自分の気持ちを歌に乗せて届けました。 <U>で竜の正体探しが加熱するなか、ヒロちゃんとともに竜のオリジンを探していたすずは、竜だけが知っているはずのベルの歌を誰かが歌っているのを耳にします。その歌声を辿っていくと、知という少年が歌っている動画にたどり着きました。
50億の中から竜の正体が明らかに!

動画を見たすずは、知と彼の兄・恵が父親から虐待されているのを知りました。恵は弟の知を父の暴力から守るため、自らを盾にしていたのです。竜のオリジンは恵でした。 その姿をネット越しに目の当たりにしたすずは、「助けたい」と恵に声をかけます。しかしすずの姿で顔を合わせるのが初めてだったため、恵に信用してもらえず回線を切られてしまいました。ベルを名乗って通話をつなぎます。 一方、ジャスティンたちはとうとう城を見つけ、燃やしてしまいました。ベルが駆けつけると、竜は姿を消してしまいます。 恵の信用を得るため、すずは<U>の大観衆を前に自らをアンベイル。本当の姿をさらし、真心を込めて歌い上げます。
竜の危機にかけつけるすず

すずの姿を見て、恵はもう1度回線をつなげてくれました。しかし父親に見つかりすぐに切られてしまいます。すずたちはビデオ通話の履歴や部活の遠征で東京に行ったカミシンの証言から、知たちの居場所を特定。すずは兄弟を助けに東京へ向かいました。 2人と会うことができて喜んだのも束の間、父親が追ってきて子どもたちに拳を振り上げます。すずは1歩も引かず兄弟の前に立ち塞がりました。誰かを救うため自分が盾になる姿は、すずの母親によく似ていました。そのあまりに堂々とした姿に、父親は慄き走り去ります。 そしてすずが恵を抱きしめると、恵は「これからは自分も戦う」とすずに伝えました。
自分の世界に戻って

高知に帰ってきたすずは、久しぶりに父と素直に言葉をかわします。 また駅にはヒロちゃんたちや合唱隊のメンバーたちが迎えにきてくれました。忍からは「もう見守るんじゃなくて、これから普通に付き合える気がする」と告白(?)されます。 母の死というトラウマを克服し、現実世界でも歌えるようになったすず。彼女は合唱隊の人たちからはリードボーカルを頼まれ、すずはにこやかに引き受けるのでした。
【考察】『竜とそばかすの姫』ラストの意味とは?すずに生まれた母性の正体は?
すずの母親は川へキャンプへ行ったとき、川の中洲に取り残された女の子を助けて命を落としました。SNSなどでは、自分も子どもがいるのに他人の子どもを助けて死ぬなんて愚の骨頂だという声もあり、すずは深く傷つきます。 しかし知や恵を守るために、彼らの父親の前に立ちはだかったすずは、まぎれもなく母と同じ「誰かを助けるために身を挺する」ことを実行したのです。このことによって、すずは母を亡くしたトラウマを克服することができました。 また、すずを殴れなかった知たちの父親は、彼女に妻の姿を重ねて恐ろしくなってしまったのではないでしょうか。
【考察②】兄弟2人とすず・忍はその後どうなる?

劇中で恵が「これからは自分も戦う」と言っていたので、その後兄弟は父親と戦うようになるでしょう。子どもだけで大人と戦うのは難しいので、最終的には児童相談所など他の大人の力を借りる可能性が高そうです。周りを信じ、頼って、強く生き抜いてくれると信じたいですね。 一方自分を貫けるように成長したすずは、忍と対等でより親しい関係を築いていけるのではないでしょうか。互いにもともと恋愛感情(?)を持っていたようだったので、いずれ交際する可能性もあるかもしれませんね!
【感想・評価】ラストはひどい?酷評の理由は?

『竜とそばかすの姫』はラストが良くないといった酷評をされることがあるようです。そこで、設定や展開で指摘されている点をおさらいして、酷評の理由は一体何なのかを考察していきます。
設定が気になる……
- 竜のキャラ設定、あざや暴れる理由、子どもからの人気
- 自警団の立ち位置
- <U>の世界観、利用規約が不明瞭
- 飼い犬の前足が折れている理由
- 忍との思い出が少ない
竜が暴れる理由やあざがある理由は虐待されていることへのSOSと捉えることができます。同じく窮屈を感じている子どもたちが賛同するのも納得です。 一方で<U>の設定はやはり気になります。暴れるアバターを自由にさせていることや、オフィシャルではない私的な軍である自警団にアンベイルなどの権限を与えすぎている点は説明がありませんでした。警告やペナルティを出す描写もなく、無法地帯といった様子なのは気になってしまいます。 飼い犬や忍とのエピソードは小説版に詳しく書かれていたので、単に映画には入り切らなかったようです。
ストーリー展開について
- 『美女と野獣』に似すぎ
- ベルが竜を助けたかった理由
- 結局ベルは竜と忍、どっちが好きなの?
本作が『美女と野獣』に似ているのは、制作時点で『美女と野獣』をモチーフにしているからです。名前もベルにしており、わかりやすくオマージュしています。 ベルは小説版によると異性として竜に惹かれています。その想いがあったから、あれだけの行動を起こせたのです。対して現実世界のすずは忍が好きな様子。 映画ラストの時点で、ベルは竜が、すずは忍が好きなのでしょうが、そのどっちつかずな感じもマイナス評価になってしまっているのでしょう。
メッセージ性にまつわる批判
- 母親の死因
- すずの行動
すずの母親は氾濫した川で取り残された子を助けて亡くなっています。この行動は後のすずの行動にもつながっており外せない設定であることがわかりますが、自己犠牲の上に成り立つ優しさというメッセージに拒否反応が出た観客も少なくないようです。 また虐待問題の扱いがライトすぎるという批判も。行動力は素晴らしいとはいえ、すずはまだ未成年です。また一度は父親から殴られるのを阻止したといっても根本的な解決には至っておらず、ここからどうするの……?と引っかかってしまうのは仕方ないことかもしれません。
【解説】竜やクリオネの正体は?
<As>の正体一覧
| ベル | すず |
|---|---|
| 竜 | 恵 |
| クリオネの天使 | 知くん |
| ジャスティン | 恵の父? |
| ペギースー | すずの母に助けられた子ども? |
| くじら? | 忍 |
①クリオネの正体はともくん
天使の姿をしたクリオネのアバターを使っているのは恵の弟・知くんだと考えられます。 理由は3つあり、1つ目はクリオネも知くんも「君は綺麗」と発言していること、2つ目は竜がクリオネに負けたこと、3つ目は知くんとクリオネの声優が同じであるからです。
②ジャスティンの正体はけいくんの父?

恵の父親が初めてすずを見た時、怯んだ様子を見せました。このことから、ジャスティンの正体は恵と知の父親ではないかと考察されています。 確かにこの2人は威圧的に正義を振りかざすような似た性格をしています。しかし実際に同一人物であるかは劇中では明らかになっていません。作品テーマに通ずる一般的な社会悪として描かれているのではないでしょうか。
③ペギースーの正体は助けられた子ども?
ベルに嫉妬するUの歌姫ペギースーのオリジンは、昔すずの母が救った子どもではないかという噂があります。もしこれが事実なら、すずも母親と同じ子を救ったことになるので感動的! しかし彼女のオリジンも作中では描かれておらず真偽は定かではありません。
④しのぶくんの<As>はくじら?

劇中では忍が<U>をやっている様子はうかがえませんが、忍の<As>はすずが乗っている「クジラ」なのではないかという説もあるようです。 真偽はわかりませんがクジラ説が浮上しているのは、忍がすずのことを見守り支える母親代わりのような存在として描かれているからでしょう。
【考察】伝えたい2つのメッセージ
①周りの声に流されず自分らしく生きる

すずは同調圧力に弱いキャラクターでした。幼少期には母への悪口に傷つけられて歌えなくなり、インターネットの世界でもベルへの誹謗中傷に怯え、クラスメイトとのチャットでも噂に振り回されています。 しかし物語が進むにつれ周りに流されず自分らしく歌えるようになり、ついにはたった1人で恵を助けられるまで成長します。その姿はまるでたった1人子供を助けに行った母のようです。 このヒロインの成長から読み解くに「周りに振り回されず自分らしく生きる」ということが、映画の伝えたいメッセージではないでしょうか。
すずの友人たちの「自分らしさ」

すずの友人たちも皆このメッセージを体現しています。カミシンは1人でボート部として活躍、ルカちゃんは変人と呼ばれるカミシンに恋をしていて、しのぶくんも周りの目を気にせずすずに話しかけてくれました。 親友のヒロちゃんも我が道をいくタイプのキャラクターで、アンチが集まっても親に説教されても無視してすずを支え続けていました。そんなヒロちゃんは細田監督の思いが詰まった名言を残しています。
アンチがいるのは本物の証拠
「アンチがいるのは本物の証拠。賛同だけの存在なんて嘘っぱちよ」という名言でヒロちゃんはすずを励ましました。このセリフからは「周りの声に流されず自分らしく生きる」というメッセージと、監督自身の覚悟を読み取ることができます。 『竜とそばかすの姫』で細田監督は、批判が出ることも覚悟した上で本当の「自分らしさ」を表現したのではないでしょうか。 監督自身がメッセージを体現し「アンチがいる本物」を私たちに見せてくれた。作品に対する酷評が出てはじめてこの映画は完成したとも言えるかもしれません。 私たちも自分らしく生きる勇気をもらえる作品ですね。
②母からすずが受け継いだ「優しさ」
それではすずや母の「自分らしさ」とは何なのでしょう。それは多くの人が持っていない、本当の優しさではないでしょうか。そして本当の優しさは、ときに自己犠牲を伴うものなのです。 映画ではすずの“犠牲”はあまり描かれていませんでしたが、小説版では正体を晒した最後の歌唱のあと大変な誹謗中傷を受けるシーンがあります。すずはベルという自分の分身を犠牲にし、さらに生身の自分をも危険にさらしてまで恵を救いに行ったのです。
優しさを思い出させてくれた父
すずも犠牲や危険をわかっていて、はじめは怯えていました。また母の死後を思い出し、自分のやろうとしていることが正しいのかどうか悩んでいました。だからこそ東京へ向かう電車の中で父にメールをするのです。しかしそんなすずの背中を、父は温かく押してくれました。 「すず君は母さんに育てられて こんなに優しい子になったんだよ。 その人に優しくしてあげなさい」 父は、死んだ妻とその娘が受け継いだ優しさを、強く認めていたのです。メッセージを読んだすずは、勇敢に恵たちを救うため戦うことができました。
傍観者ではなく当事者となれ
優しさはときに犠牲を払う。多くの人は犠牲を恐れて何も行動しません。助けると言って結局だれも助けてくれなかったと恵が語った通り、ほとんどの人は憐れむだけで傍観者の立場から出ようとしないのです。 しかしすずやすずの母は行動しました。自ら巻き込まれに行って、当事者として苦しみを一緒に戦ったのです。 現実ではそんなに簡単に問題は解決しないでしょう。しかし「当事者として一緒に戦ってくれる人がいる」という事実が、苦しんでいる人を救うこともあると思います。 賛否両論あるメッセージかもしれませんが、傍観者ではなく当事者になることこそ真の優しさだと、この映画は説いているのではないでしょうか。
【考察②】「歌よ」の歌詞の意味について解説

すずが初めてベルとして歌った楽曲「歌よ」。その歌詞には変われない自分へのもどかしさや、それでも変わりたい、一歩を踏み出したいという思いが詰め込まれています。 彼女が歌う「あなた」は、すでに会うことが叶わない母親のことや、片思い中の忍のことを指しているのだと受け取れます。自分以外はうまくいっているように見えるというのも、実に等身大な歌詞です。 歌声がすばらしいのはもちろんですが、この共感性の高い歌詞があったからこそ、ベルは一躍ときの人になれたのでしょう。 長年歌えなかった歌への戸惑いと期待が入り交じり、心に響く歌詞となっています。
【補足】細田守と“インターネット”の関係

細田守監督はこれまで『デジモンアドベンチャー/ぼくらのウォーゲーム!』と『サマーウォーズ』で、おおよそ10年ごとにインターネットの世界を舞台にした作品を発表してきました。 昨今コロナ禍にもよって、現実とさらに密にリンクし始めたネット世界。誹謗中傷などのマイナスのイメージが連想されがちなテーマに、常に大いなる希望を込め続けている監督でもあります。 ここからは3つの視点から、細田監督が描くインターネットへの肯定についてより深く解説していきます。
これまでに描いたインターネットの世界

『竜とそばかすの姫』は物語の舞台や設定が発表された際、『サマーウォーズ』に似ていると話題になりました。 実は、細田守監督がインターネットの世界を描いた映画はこれまでに2作品が存在しており、それぞれ似ているようで全く違った魅力を持った作品となっています。 細田守監督の描くインターネットの世界は常に現実世界とリンクしていて、仮想世界の中でキャラクターの成長があったり、現実の人間関係や家族の繋がりがより強くなったりする様子も多く見られます。 実際にインタビューで「子どもにとってのネットは、それによって自由を得られるものであってほしい」という思いを語っている細田監督。作中ではネットも現実も善悪両面があることを描きつつ、「子どもたちには目の前の世界を肯定的にとらえてほしい」と願っているそうです。 以下では細田監督がインターネットをどんなふうに肯定的に捉えているのか見ていきます。
①“新しい自分”の可能性を引き出す

本作の冒頭では「ようこそ<U>の世界へ」という文言から<U>の世界の解説が始まります。ナレーションは「さあ、もうひとりのあなたを生きよう。さあ、新しい人生を始めよう。さあ、世界を変えよう。」と締めくくられていました。 この言葉通り、劇中の<U>はインターネットが「もう1つの新しい人生」を拓いてくれる可能性を示してくれています。 すずや恵のように、抑圧された才能や内面的な強さが色濃く開花していることも興味深い点です。ベルの前に<U>のスターだったペギースーのオリジンも、実は普通の人であることが本人の口から語られていました。 現実世界では様々な制約があるが、仮想世界では自由に自分を表現できる。このように細田守監督は、インターネットの持つ可能性を本作で伝えてくれたのではないでしょうか。
②誰かを救うことができる

本作が企画された時よりも、速いスピードでどんどん進化を遂げているインターネットの技術。<U>の世界観の1つである「ボディシェアリング」も、一部の機能は現実世界で実現しつつあります。 劇中で知と恵を助けるために活用された技術も、ネット配信や画像解析などすでに現実世界で実際に使われているリアルなもの。今まさに、現実世界で誰かを救うことができるツールとしてネット技術は駆使することができるのです。 すずが恵たちを遠く離れた場所からでも救うことができたのは、紛れもなくこうした技術の進歩のおかげです。しかし使い方によっては善にも悪にもなることは、心得ておきたいですね。
音楽シーンを沸かせたクリエイター陣を紹介
King Gnu常田らが手掛ける音楽
バンド「King Gnu」や音楽プロジェクト「millennium parade」の主宰で知られる常田大希が、本作のメインテーマ「U」の作詞・作曲を手がけました。 細田守監督によれば、<U>の巨大な世界観を音楽で表現できるのは彼だと感じ、自らオファーしたとのこと。常田大希本人は、「ベルが<As>の群衆が熱狂する<U>の歌姫であることにリアリティを持たせなければならないこと」が1番高いハードルだったと語っています。 音楽監督を務めたのは、映画『モテキ』で知られる岩崎太整。本作の音楽は多様性に富んだ作曲家と連携した「作曲村」というコンセプトで作られ、挿入歌「心のそばに」や「歌よ」、そして重要なシーンで歌われる「はなればなれの君へ」は中村佳穂や細田守監督も作詞を担当しています。
<U>の世界観はどう作られたのか

圧倒的な美しさで描かれ、これぞ仮想世界の建造物と思えるような<U>の世界を創り出したのは、ロンドン在住のイギリス人建築家エリック・ウォンです。 ネット世界を描くならネットで人材を探そうと思い至った細田守監督は彼を探し当てます。個人作品として、架空の都市設計やイラストレーション制作も行っていたそうです。 <U>全体のモチーフは、楽器のハープが元になっているそう。コロナ禍の中、頻繁にやり取りして監督とともに<U>の世界を創り上げていったことが語られています。
歌姫ベルの振り付けの秘密

<U>の歌姫ベルが歌いながら踊る振り付けは、コンテンポラリーダンス界で著名な振付師の康本雅子が担当しています。モーションキャプチャーを使って、細田守監督と話し合いながら振り付けを決めていく様子がメイキングに映されていました。 デジタル化した動きを元に、CGアニメーションとして取り込み、ベルのエモーショナルな表現を細かく修正しながら完成させていったようです。 仮想世界<U>のシーンでは手描きアニメーションだけではなく、3DCGを用いた手法が多く取り入れられた本作。細田守監督が挑戦した新たな表現の境地にも目が離せません。
関連作や舞台を探る
モチーフとなった『美女と野獣』
2021年7月6日に行われた完成報告会見で、細田守監督が本作の発想の原点である物語として言及したのが『美女と野獣』。主人公の「ベル」という名前はフランス語で「美しい」という意味を持つ言葉であり、作中の仮想世界<U>における竜の表示は“BEAST”です。 さらに監督は『美女と野獣』の物語の持つ二重性とインターネットの特徴である“現実と虚構”を共通点として捉え、現代の日本を舞台にインターネットを介して『美女と野獣』の世界観を表現したと述べています。 劇中で『美女と野獣』を彷彿とさせるのは、なんといっても竜の城やダンスシーン。フードを被ったベルの姿も、バラを胸に付けて2人で踊るシーンもオマージュといえる出来栄えです。 竜を「ご主人様」と呼ぶAIたちも、まるで城の使用人たちのような立ち位置のキャラクターとなっていました。
『サマーウォーズ』の延長戦
細田守監督曰く、『サマーウォーズ』の世界の延長線上にある世界観だという本作。冒頭には、『サマーウォーズ』の冒頭部分にも登場していたウサギのようなアバターが、今度は<As>として登場していることに気が付いたでしょうか? 『サマーウォーズ』でのアバターが、<U>の世界では<As>としてバージョンアップしたと考えても良さそうですね。
舞台は高知県

現実世界の日常の舞台に高知県を選んだのは、そこに仁淀川という美しい川があったからだといいます。初めはUとの対比となる場所を考えていたそうで、高知自体は想定していなかったとか。 人口が少なく、美しい自然があるのに寂しい環境であることが、現実世界の圧力に耐えながら生きているすずが住む場所としてイメージに合っていたようです。
『竜とそばかすの姫』はアンチも出るほど本物の傑作
細田守監督の作品は、あえて賛否両論を巻き起こし、ある問題を提示するものもあります。特に『竜とそばかすの姫』は、映像美あふれるネット世界と現実世界の両方を舞台にして「自分らしく生きる」とはどういうことか?を問いかける大作といえるでしょう。 多くの批判があるのは、それだけ観ている人がいるということ。まずは自分の目で見て、作品の本質に触れてみてはいかがでしょうか?




