『竜とそばかすの姫』ネタバレあらすじを解説&考察!なぜ酷評だったのかラストをひもとく
『竜とそばかすの姫』簡単なあらすじ
すずは高知県の女子高生。幼い頃に母を亡くして以来、父とは必要最低限の言葉しか交わさず、大好きだった歌も歌えなくなっていました。 そんなある日親友からインターネット上の仮想世界<U>に誘われます。アバター<As>を「ベル」と名付けたすずは、仮想世界の中で、歌うことを思い出していくのでした。 ベルの歌は瞬く間に世界中で大人気になります。しかし<U>の世界で行われたある日のコンサートで、「竜」のアバターがコンサートを滅茶苦茶にしてしまうのです。竜は<U>のあちこちで暴れ回っており、仮想世界では「竜の正体探し」が始まりました。
結末までのネタバレ
「竜の正体探し」の渦中、ベルは竜の城へ
一方現実世界のすずは、冴えない女子高生。実は幼馴染の忍が気になっていましたが、忍は学校中の人気者です。少し一緒にいるだけで非難の的になってしまいます。 その間にも自警団「ジャスティス」のリーダー・ジャスティンは、竜をアンベイル(正体を明らかにする)しようと、彼の城を探していました。 ベルとしてのすずは竜のことが気になっていて、自警団から身を隠しながら竜の城へ通います。そして心を閉ざしている竜に、自分の気持ちを歌に乗せて届けました。 竜の体はアザだらけでしたが、本当に傷ついているのは心だったのです。歌に合わせて共に踊るうち、2人は少しずつ心を通わせていきました。
50億の中から竜の正体が明らかに!
しかしジャスティンたちはとうとう城を見つけ、燃やしてしまいました。ベルが駆けつけると、竜は姿を消してしまいます。 窮地に陥った竜を助けるべく、すずと親友のヒロちゃんは50億のアカウントから竜の正体を探し始め、14歳の少年・恵であることを突き止めました。 恵は弟の知を父の暴力から守るため、自らを盾にしていたのです。その姿をネット越しに目の当たりにしたすずは、「助けたい」と恵に声をかけます。しかしすずの姿で顔を合わせるのが初めてだったため、恵に信用してもらえず回線を切られてしまいました。 彼の信用を得るため、すずは<U>の大観衆を前に自らをアンベイル。本当の姿をさらし、真心を込めて歌い上げます。
竜の危機にかけつけるすず
すずの姿を見て、恵はもう1度回線をつなげてくれました。しかし父親に見つかりすぐに切られてしまいます。すずたちはビデオ通話の履歴から居場所を特定。すずは兄弟を助けに東京へ向かいました。 2人と会うことができて喜んだのも束の間、父親が追ってきて子どもたちに拳を振り上げます。すずは1歩も引かず兄弟の前に立ち塞がりました。そのあまりに堂々とした姿に、父親は慄き走り去ります。 そしてすずが恵を抱きしめると、恵は「これからは自分も戦う」とすずに伝えました。
自分の世界に戻って
高知に帰ってきたすずは、久しぶりに父とゆっくり話しました。 また駅に迎えにきてくれた忍からは「これで心配せずに普通に付き合うことができる」と告白(?)されます。 合唱隊の人たちからはリードボーカルを頼まれ、すずはにこやかに引き受けました。
登場人物・相関図
竜の正体は?【ネタバレ注意】
竜のAsを使っていたのは、ビデオ配信をしていた少年・知くんの兄の恵でした。2人が虐待されている様子をビデオ越しに見たすずは、2人を救いに都会へ旅立ちます。
兄弟2人とすず・忍はその後どうなる?
劇中で恵が「これからは自分も戦う」と言っていたので、その後兄弟は父親と戦うようになるでしょう。子どもだけで大人と戦うのは難しいので、最終的には児童相談所など他の大人の力を借りる可能性が高そうです。周りを信じ、頼って、強く生き抜いてくれると信じたいですね。
一方自分を貫けるように成長したすずは、忍と対等でより親しい関係を築いていけるのではないでしょうか。互いにもともと恋愛感情(?)を持っていたようだったので、いずれ交際する可能性もあるかもしれませんね!
【感想・評価】ラストはひどい?
映画館で見たのですが、本当に最高のライブ体験でした!中村佳穂が歌上手すぎる!!この映画でファンになってしまいました。ストーリーは美女と野獣を意識してるのかな?ひどいみたいな声も多いけど、僕は人を信じられず周りに当たり散らしてしまう青年に共感できました。
ストーリー展開にツッコミどころが多すぎて、正直あんまり楽しめなかったなあ……。虐待問題をこんなに簡単に片付けてしまうのにも納得できない。演出は本当に良くて、華やかな音楽とか衣装に胸がときめいた!
【解説1】竜やクリオネの正体は?
<As>の正体一覧
ベル | すず |
---|---|
竜 | 恵 |
クリオネの天使 | 知くん |
ジャスティン | 恵の父? |
ペギースー | すずの母に助けられた子ども? |
くじら? | 忍 |
①クリオネの正体はともくん
天使の姿をしたクリオネのアバターを使っているのは恵の弟・知くんだと考えられます。 理由は3つあり、1つ目はクリオネも知くんも「君は綺麗」と発言していること、2つ目は竜がクリオネに負けたこと、3つ目は知くんとクリオネの声優が同じであるからです。
②ジャスティンの正体はけいくんの父?
恵の父親が初めてすずを見た時、怯んだ様子を見せました。このことから、ジャスティンの正体は恵と知の父親ではないかと考察されています。 確かにこの2人は威圧的に正義を振りかざすような似た性格をしています。しかし実際に同一人物であるかは劇中では明らかになっていません。作品テーマに通ずる一般的な社会悪として描かれているのではないでしょうか。
③ペギースーの正体は助けられた子ども?
ベルに嫉妬するUの歌姫ペギースーのオリジンは、昔すずの母が救った子どもではないかという噂があります。もしこれが事実なら、すずも母親と同じ子を救ったことになるので感動的! しかし彼女のオリジンも作中では描かれておらず真偽は定かではありません。
④しのぶくんの<As>はくじら?
劇中では忍が<U>をやっている様子はうかがえませんが、忍の<As>はすずが乗っている「クジラ」なのではないかという説もあるようです。 真偽はわかりませんがクジラ説が浮上しているのは、忍がすずのことを見守り支える母親代わりのような存在として描かれているからでしょう。
【解説2】なぜ酷評が?映画にまつわるQ&A
本作は賛否が分かれる作品でした。寄せられたマイナスな評価の中には、小説と合わせて考えたり、視点を変えてみることで解消できるものもあります。ここではよくあげられる評価や疑問にQ&A形式で答えていきましょう。
設定が気になる……
竜のキャラ設定
・なぜ暴れ回っているのか?派手なあざは何なの? ・なぜ子供から人気があるのか?
答え
竜の派手な行動や痣は、憤りや社会へのSOSと捉えることができます。 父から虐待を受けていた恵は、「助ける助ける」と言いながら結局助けてくれなかった社会に憤っていました。しかし恵はまだ子供で、だれかに助けを求めるしか弟と自分を守る術を見つけられません。 社会や自分の無力さへの憤りが暴力行為に、それでも助けてほしいという心の叫びがあのカラフルな痣に現れていたのでしょう。 また子供たちは、苦しみを抱えながらも圧倒的な強さで大人の社会に動揺をもたらしている竜に共感と憧れを抱いたのではないでしょうか。
自警団の立ち位置
・存在はオフィシャルなもの?私的な存在ならなぜそんなに特別な力を持っている? ・なぜスポンサーがつくのか?
答え
自警団は、「自警」と名乗っているので<U>の公的な組織ではなく私的な軍です。スポンサーは彼らの理念に共感し、支援したいと考えた企業でしょう。 アンベイルの装置など、自警団の軍事装備もスポンサー企業が自警団に提供していると考えられます。スポンサーの存在が彼らに特別な力を与えているのです。
<U>の世界観
・テクノロジーや利用規約がよくわからない。竜の行為は違法?アンベイルは合法?
答え
<U>の世界の設定については、劇中以上の情報は小説や他のメディアでも明かされていません。特にテクノロジーについては、各々が想像で補うしかなさそうです。 利用規約については、竜が暴れ回っても自警団が勝手に権力を振りかざしても警告等がなかったことから、ほとんど存在しないのではないかと考察できます。<U>は自由度の高い仮想空間のようです。 ここは多くの人が指摘している通り、ストーリー上少し設定の詰めが甘かった部分なのかもしれませんね。
その他
・飼い犬の前足が折れてるのが気になる…… ・しのぶくんとの幼い頃の思い出、これだけ?
答え
こちらはどちらも小説版に答えがありました! 飼い犬のフーガの前足がないのは、イノシシの罠にかかって怪我をしたからです。フーガは保護犬としてすずが引き取った犬で、以前は野良犬か迷い犬だったよう。 しのぶくんとの幼い頃の出来事も小説版に記述されています。しのぶくんはすずが母を失う前から親しかった幼馴染でした。母を失って間もない頃、すずは川の対岸に母の幻影を見て、川に入り追いかけようとします。それを体を張って止めたのがしのぶくんでした。 しのぶくんの魅力が伝わるこのエピソードがカットされているのは少しもったいないですね。
ストーリー展開について
あの名作にそっくり
・『美女と野獣』に似すぎ!パクり?
答え
『美女と野獣』にそっくりなのはオマージュを捧げているからです。キャラクターデザインはディズニーのスタッフでもあるジン・キムが担当しているため似ているのでしょう。 関連作や制作スタッフについては、記事後半の見出しで詳しく解説しています。
すず/ベルの言動
・なぜ竜を助けたかったの? ・しのぶくんと竜どっちが好きなの?
答え
竜を助けたかったのは、心に傷を抱えている竜に恋をしたからです。映画版は匂わせる程度でしたが、小説版ではベルが竜に異性として惹かれていたことがより明らかに示されています。 傷を抱えながらも自分らしく社会と戦う竜の姿にベルは勇気をもらい、その感情が好意へと変化していったのではないでしょうか。 しのぶくんと竜どちらが好きなのかは、考えるのが難しい質問です。ベルとしては竜が気になり、すずとしてはしのぶくんが気になっていたのでしょう。恋の形は人それぞれです!
メッセージ性にまつわる批判
母親の死因
・自分の娘を置いて死んでしまうのは優しさとは違うと思う ・自分が死んでしまうくらいなら助けない方がよかった
すずの勇気ある行動
・暴力を振るう父親がいる家庭に女子高生が1人で助けに行くなんて危険すぎる ・何も解決されてない!虐待問題はこんなに甘くない ・自分の子供に真似してほしくない
すずの最後の行動は、母のかつての行動をなぞるものになっていました。周りが傍観する中たった1人で、批判や犠牲を恐れず助けに行くという行動です。ここから細田監督からのメッセージが読み取れます。 以下の見出しでは込められたメッセージについて深ぼっていくので、そちらも読んだ上でもう一度2人の行動について考え直してみてください!
【考察】伝えたい2つのメッセージ
①周りの声に流されず自分らしく生きる
すずは同調圧力に弱いキャラクターでした。幼少期には母への悪口に傷つけられて歌えなくなり、インターネットの世界でもベルへの誹謗中傷に怯え、クラスメイトとのチャットでも噂に振り回されています。 しかし物語が進むにつれ周りに流されず自分らしく歌えるようになり、ついにはたった1人で恵を助けられるまで成長します。その姿はまるでたった1人子供を助けに行った母のようです。 このヒロインの成長から読み解くに「周りに振り回されず自分らしく生きる」ということが、映画の伝えたいメッセージではないでしょうか。
すずの友人たちの「自分らしさ」
すずの友人たちも皆このメッセージを体現しています。カミシンは1人でボート部として活躍、ルカちゃんは変人と呼ばれるカミシンに恋をしていて、しのぶくんも周りの目を気にせずすずに話しかけてくれました。 親友のヒロちゃんも我が道をいくタイプのキャラクターで、アンチが集まっても親に説教されても無視してすずを支え続けていました。そんなヒロちゃんは細田監督の思いが詰まった名言を残しています。
アンチがいるのは本物の証拠
「アンチがいるのは本物の証拠。賛同だけの存在なんて嘘っぱちよ」という名言でヒロちゃんはすずを励ましました。このセリフからは「周りの声に流されず自分らしく生きる」というメッセージと、監督自身の覚悟を読み取ることができます。 『竜とそばかすの姫』で細田監督は、批判が出ることも覚悟した上で本当の「自分らしさ」を表現したのではないでしょうか。 監督自身がメッセージを体現し「アンチがいる本物」を私たちに見せてくれた。作品に対する酷評が出てはじめてこの映画は完成したとも言えるかもしれません。 私たちも自分らしく生きる勇気をもらえる作品ですね。
②母からすずが受け継いだ「優しさ」
それではすずや母の「自分らしさ」とは何なのでしょう。それは多くの人が持っていない、本当の優しさではないでしょうか。そして本当の優しさは、ときに自己犠牲を伴うものなのです。 映画ではすずの“犠牲”はあまり描かれていませんでしたが、小説版では正体を晒した最後の歌唱のあと大変な誹謗中傷を受けるシーンがあります。すずはベルという自分の分身を犠牲にし、さらに生身の自分をも危険にさらしてまで恵を救いに行ったのです。
優しさを思い出させてくれた父
すずも犠牲や危険をわかっていて、はじめは怯えていました。また母の死後を思い出し、自分のやろうとしていることが正しいのかどうか悩んでいました。だからこそ東京へ向かう電車の中で父にメールをするのです。しかしそんなすずの背中を、父は温かく押してくれました。 「すず君は母さんに育てられて こんなに優しい子になったんだよ。 その人に優しくしてあげなさい」 父は、死んだ妻とその娘が受け継いだ優しさを、強く認めていたのです。メッセージを読んだすずは、勇敢に恵たちを救うため戦うことができました。
傍観者ではなく当事者となれ
優しさはときに犠牲を払う。多くの人は犠牲を恐れて何も行動しません。助けると言って結局だれも助けてくれなかったと恵が語った通り、ほとんどの人は憐れむだけで傍観者の立場から出ようとしないのです。 しかしすずやすずの母は行動しました。自ら巻き込まれに行って、当事者として苦しみを一緒に戦ったのです。 現実ではそんなに簡単に問題は解決しないでしょう。しかし「当事者として一緒に戦ってくれる人がいる」という事実が、苦しんでいる人を救うこともあると思います。 賛否両論あるメッセージかもしれませんが、傍観者ではなく当事者になることこそ真の優しさだと、この映画は説いているのではないでしょうか。
【補足】細田守と“インターネット”の関係
細田守監督はこれまで『デジモンアドベンチャー/ぼくらのウォーゲーム!』と『サマーウォーズ』で、おおよそ10年ごとにインターネットの世界を舞台にした作品を発表してきました。 昨今コロナ禍にもよって、現実とさらに密にリンクし始めたネット世界。誹謗中傷などのマイナスのイメージが連想されがちなテーマに、常に大いなる希望を込め続けている監督でもあります。 ここからは3つの視点から、細田監督が描くインターネットへの肯定についてより深く解説していきます。
これまでに描いたインターネットの世界
『竜とそばかすの姫』は物語の舞台や設定が発表された際、『サマーウォーズ』に似ていると話題になりました。 実は、細田守監督がインターネットの世界を描いた映画はこれまでに2作品が存在しており、それぞれ似ているようで全く違った魅力を持った作品となっています。 細田守監督の描くインターネットの世界は常に現実世界とリンクしていて、仮想世界の中でキャラクターの成長があったり、現実の人間関係や家族の繋がりがより強くなったりする様子も多く見られます。 実際にインタビューで「子どもにとってのネットは、それによって自由を得られるものであってほしい」という思いを語っている細田監督。作中ではネットも現実も善悪両面があることを描きつつ、「子どもたちには目の前の世界を肯定的にとらえてほしい」と願っているそうです。 以下では細田監督がインターネットをどんなふうに肯定的に捉えているのか見ていきます。
①“新しい自分”の可能性を引き出す
本作の冒頭では「ようこそ<U>の世界へ」という文言から<U>の世界の解説が始まります。ナレーションは「さあ、もうひとりのあなたを生きよう。さあ、新しい人生を始めよう。さあ、世界を変えよう。」と締めくくられていました。 この言葉通り、劇中の<U>はインターネットが「もう1つの新しい人生」を拓いてくれる可能性を示してくれています。 すずや恵のように、抑圧された才能や内面的な強さが色濃く開花していることも興味深い点です。ベルの前に<U>のスターだったペギースーのオリジンも、実は普通の人であることが本人の口から語られていました。 現実世界では様々な制約があるが、仮想世界では自由に自分を表現できる。このように細田守監督は、インターネットの持つ可能性を本作で伝えてくれたのではないでしょうか。
②誰かを救うことができる
本作が企画された時よりも、速いスピードでどんどん進化を遂げているインターネットの技術。<U>の世界観の1つである「ボディシェアリング」も、一部の機能は現実世界で実現しつつあります。 劇中で知と恵を助けるために活用された技術も、ネット配信や画像解析などすでに現実世界で実際に使われているリアルなもの。今まさに、現実世界で誰かを救うことができるツールとしてネット技術は駆使することができるのです。 すずが恵たちを遠く離れた場所からでも救うことができたのは、紛れもなくこうした技術の進歩のおかげです。しかし使い方によっては善にも悪にもなることは、心得ておきたいですね。
音楽シーンを沸かせたクリエイター陣を紹介
King Gnu常田らが手掛ける音楽
バンド「King Gnu」や音楽プロジェクト「millennium parade」の主宰で知られる常田大希が、本作のメインテーマ「U」の作詞・作曲を手がけました。 細田守監督によれば、<U>の巨大な世界観を音楽で表現できるのは彼だと感じ、自らオファーしたとのこと。常田大希本人は、「ベルが<As>の群衆が熱狂する<U>の歌姫であることにリアリティを持たせなければならないこと」が1番高いハードルだったと語っています。 音楽監督を務めたのは、映画『モテキ』で知られる岩崎太整。本作の音楽は多様性に富んだ作曲家と連携した「作曲村」というコンセプトで作られ、挿入歌「心のそばに」や「歌よ」、そして重要なシーンで歌われる「はなればなれの君へ」は中村佳穂や細田守監督も作詞を担当しています。
<U>の世界観はどう作られたのか
圧倒的な美しさで描かれ、これぞ仮想世界の建造物と思えるような<U>の世界を創り出したのは、ロンドン在住のイギリス人建築家エリック・ウォンです。 ネット世界を描くならネットで人材を探そうと思い至った細田守監督は彼を探し当てます。個人作品として、架空の都市設計やイラストレーション制作も行っていたそうです。 <U>全体のモチーフは、楽器のハープが元になっているそう。コロナ禍の中、頻繁にやり取りして監督とともに<U>の世界を創り上げていったことが語られています。
歌姫ベルの振り付けの秘密
<U>の歌姫ベルが歌いながら踊る振り付けは、コンテンポラリーダンス界で著名な振付師の康本雅子が担当しています。モーションキャプチャーを使って、細田守監督と話し合いながら振り付けを決めていく様子がメイキングに映されていました。 デジタル化した動きを元に、CGアニメーションとして取り込み、ベルのエモーショナルな表現を細かく修正しながら完成させていったようです。 仮想世界<U>のシーンでは手描きアニメーションだけではなく、3DCGを用いた手法が多く取り入れられた本作。細田守監督が挑戦した新たな表現の境地にも目が離せません。
関連作や舞台を探る
モチーフとなった『美女と野獣』
2021年7月6日に行われた完成報告会見で、細田守監督が本作の発想の原点である物語として言及したのが『美女と野獣』。主人公の「ベル」という名前はフランス語で「美しい」という意味を持つ言葉であり、作中の仮想世界<U>における竜の表示は“BEAST”です。 さらに監督は『美女と野獣』の物語の持つ二重性とインターネットの特徴である“現実と虚構”を共通点として捉え、現代の日本を舞台にインターネットを介して『美女と野獣』の世界観を表現したと述べています。 劇中で『美女と野獣』を彷彿とさせるのは、なんといっても竜の城やダンスシーン。フードを被ったベルの姿も、バラを胸に付けて2人で踊るシーンもオマージュといえる出来栄えです。 竜を「ご主人様」と呼ぶAIたちも、まるで城の使用人たちのような立ち位置のキャラクターとなっていました。
『サマーウォーズ』の延長戦
細田守監督曰く、『サマーウォーズ』の世界の延長線上にある世界観だという本作。冒頭には、『サマーウォーズ』の冒頭部分にも登場していたウサギのようなアバターが、今度は<As>として登場していることに気が付いたでしょうか? 『サマーウォーズ』でのアバターが、<U>の世界では<As>としてバージョンアップしたと考えても良さそうですね。
舞台は高知県
現実世界の日常の舞台に高知県を選んだのは、そこに仁淀川という美しい川があったからだといいます。初めはUとの対比となる場所を考えていたそうで、高知自体は想定していなかったとか。 人口が少なく、美しい自然があるのに寂しい環境であることが、現実世界の圧力に耐えながら生きているすずが住む場所としてイメージに合っていたようです。
『竜とそばかすの姫』はアンチも出るほど本物の傑作
細田守監督の作品は、あえて賛否両論を巻き起こし、ある問題を提示するものもあります。特に『竜とそばかすの姫』は、映像美あふれるネット世界と現実世界の両方を舞台にして「自分らしく生きる」とはどういうことか?を問いかける大作といえるでしょう。 多くの批判があるのは、それだけ観ている人がいるということ。まずは自分の目で見て、作品の本質に触れてみてはいかがでしょうか?