【ネタバレ】映画『本心』ラストシーンを解説！近未来で描き出される人の内面

平野啓一郎の小説『本心』が、池松壮亮主演で映画化！この記事では、映画『本心』のキャストを紹介し、原作小説のあらすじをネタバレありで解説します。 ※本記事には小説『本心』のネタバレが含まれますので、未読の方はご注意ください。

「大事な話がある」と言い遺して急死した母・秋子(田中裕子)。「自由死」を選んだ母の本心を知りたい一心で、朔也(池松壮亮)は最新テクノロジー「ヴァーチャル・フィギュア(VF)」で母を蘇らせることを決断します。 VFとは生前のデータをAIに取り込み、仮想空間にその「人間」を作る技術。しかし朔也は開発者の野崎(妻夫木聡)から「本物以上のお母様を作れます」と聞き、一抹の不安を覚えます。その不安は的中し、母のVFは次第に朔也の知らない母の一面を見せ始め……。

AIとARの技術が格段に進歩した近未来の日本。その発展した技術によって、亡くなった人のデータからそっくりの「ヴァーチャル・フィギュア(VF)」が仮想空間に作り出せるようになっていました。 母親の秋子と2人暮らしをしていた石川朔也は、突然の事故で母を失ってしまいます。実は秋子は朔也には黙って「自由死」を希望していました。自由死とは自分の「死」の時期を選択することで、この世界では合法化されています。 なぜ母が自由死を望んでいたのか、その本心を知りたいと思った朔也は母のVF制作を依頼します。出来上がった母のVFはすべてが母にそっくりでした。

VFの母との新しい生活の中で、母が生前に仲良くしていた三好という女性の存在を知ります。三好と実際に会って話した朔也は、彼女の辛い境遇を聞いて気持ちを通わせるのでした。 ある時、強い台風が日本を襲い、三好のアパートも被害を受けたと知った朔也は、母の部屋を貸すことを提案します。こうして2人の一時的な共同生活が始まりました。 朔也は依頼者の代わりに疑似体験を行う「リアル・アバター」として働いています。そのほとんどが依頼者の指示に従って行動するだけ。朔也の同僚・岸谷はリアル・アバターの仕事に疑問を持っており、ある依頼を受けたことでテロ犯罪に関わることになってしまいます。

岸谷がテロ事件の犯人として逮捕された後、リアル・アバターに対する世間からの風当たりは一層強くなる一方。会社からの要求も厳しくなり、依頼者の意味のない指示でただ遊ばれるだけの仕事もありました。 そんな仕事に嫌気が差した朔也は、解雇されることも覚悟で依頼者の了承を得ずに行動します。コンビニのレジに並んでいた朔也の前で、ある客が外国人の店員に差別的な発言をしていました。朔也は思わず店員をかばって、その客に「帰れ」と言い放ちます。 この日を機に、朔也はリアル・アバターの仕事を辞めることに。ところがしばらくして、朔也にリアル・アバターの仕事が殺到していると連絡が入りました。実はコンビニでの朔也の行動がネットに投稿されて反響を呼んでいたのです。

世界的に有名な「アバターデザイナー」のイフィーも、朔也を指名した依頼者の1人でした。朔也の勇敢な行動を見て、専属のリアル・アバターとしてオファーしたのです。 三好とともにイフィーの自宅に招かれて交流が始まりますが、やがて朔也はイフィーも自分自身も三好に好意を寄せていることに気付いてしまいます。朔也はイフィーの代理として三好に好意を告白し、イフィーと三好は付き合い始めました。 その頃、朔也は母の愛読書の作者・藤原亮治に手紙を送ってコンタクトを取ろうとしていました。朔也は自分が藤原の息子なのでは？と疑問を抱いていましたが、実際に会って話してみると、藤原が母と出会ったのは朔也が誕生した後で、彼が父親ではありませんでした。 母には東日本大震災の時に知り合った親しい女性がいて、40歳になった時にある男性から精子提供を受けて朔也を生み、一緒に育てようとしていたことを知ります。しかしその女性は出産前に姿を消してしまったのでした。 母の数奇な人生を知り、その本心に少し近づけた気がした朔也。VFの母には自由死も出産も“記憶がなく”、やはりAIには限界があることにも気付きます。 助けたコンビニ店員と再会し、彼女をきっかけに福祉の仕事に興味を抱いた朔也は、イフィーのオファーを断って福祉の勉強を始めるのでした。

本作で朔也は、母が本当に自由死を望んだのか知りたいという想いから彼女のVFを作成しました。しかし、VFによって朔也がどれだけ求めていた「本心」に迫れたかという点には疑問が残ります。 VF自体は、製作者である野崎の娘が編集できる可能性が高く、再現された母の言動は、あくまでもデータに基づいてAIが作り出したにすぎないのです。 最終的に朔也が福祉の仕事を志したように、人の心というのは、どれだけ技術が進化しても再現できるものではないのでしょう。

遠隔で依頼者から指示を受けて疑似体験をする職業「リアル・アバター」として働く石川朔也(いしかわさくや)。母の本心を知るため、「ヴァーチャル・フィギュア」として母を仮想空間に蘇らせます。 演じるのは、『シン・仮面ライダー』(2023年)で主演を務めた池松壮亮。石井裕也監督作では今作を含め『愛にイナズマ』(2023年)ほか9作品に出演しています。

朔也の母・秋子が生前親しくしていた友人・三好彩花(みよしあやか)。過去のトラウマから、他人に触れることができずにいました。訳あって、朔也の家に同居することになります。 演じるのは、『ダンスウィズミー』(2019年)で主演を務めた三吉彩花。2023年の映画『ナックルガール』ではボクサー役に挑戦しています。

朔也の過去を知る幼なじみの岸谷(きしたに)。朔也と同じリアル・アバターの仕事をしていますが、ある依頼を受けたことで犯罪に関わることになります。 演じるのは、2024年に『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』で日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞した水上恒司。2024年はドラマ『ブルーモーメント』と映画『八犬伝』に出演しています。

世界的に有名な「アバターデザイナー」のイフィー。朔也のある行動を見て興味を抱き、彼にリアル・アバターの仕事を依頼します。 演じるのは、2026年の大河ドラマ『豊臣兄弟！』で主演を務める仲野太賀。石井裕也監督作には『町田くんの世界』(2019年)、『生きちゃった』(2020年)、『愛にイナズマ』(2023年)に出演しています。

リアル・アバターの仕事を始めた朔也の依頼人である若松(わかまつ)は、朔也に最期の願いを託します。 演じるのは、世界的に著名なダンサーとして知られる田中泯。映画では2002年の『たそがれ清兵衛』でデビューして以来多くの作品に出演しており、2025年公開の『国宝』にも出演しています。

VFの開発者・野崎によって生み出されたヴァーチャル・フィギュアの中尾(なかお)。朔也に「VFの心」について語ります。 演じるのは、Netflixドラマ『地面師たち』(2024年)で主演を務める綾野剛。2024年は他にも主演映画『カラオケ行こ！』や出演映画『ラストマイル』が公開されています。

ヴァーチャル・フィギュアの開発を行う技術者・野崎将人(のざきまさと)。朔也の依頼を受けて、秋子のVFを制作します。 演じるのは、2022年に『ある男』で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した妻夫木聡。石井裕也監督作には『ぼくたちの家族』(2014年)と『バンクーバーの朝日』(2014年)以来の出演となります。

朔也の母・石川秋子(いしかわあきこ)は、息子に黙って自分の死の時期を決める「自由死」を選んでいました。本心を隠したまま急死したため、朔也によってVFとして仮想空間に蘇ることに。 演じるのは、『ええじゃないか』(1981年)や『天城越え』(1983年)などで数々の映画賞に輝いた田中裕子。近年の出演作に是枝裕和監督作『怪物』(2023年)があります。

『本心』の監督・脚本を務めるのは、『舟を編む』(2013年)で日本アカデミー賞最優秀作品賞・監督賞を受賞した石井裕也です。2010年に『川の底からこんにちは』で商業映画デビューして以来、『乱反射』(2018年)や『茜色に焼かれる』(2021年)など数々の名作を生み出しています。 2023年は『月』で報知映画賞やブルーリボン賞など多くの国内映画賞で監督賞を受賞。社会の歪やそこに生きる人々の心情を映し出す作風が特徴です。

平野啓一郎原作×石井裕也監督×池松壮亮主演の映画『本心』。近未来を舞台としたヒューマンドラマで、AI技術の行く先を考えさせられる作品です。2024年11月8日から全国公開されますので、ぜひ劇場でご覧ください！