2018年3月9日更新

【再評価でリバイバル?】世界で愛される香港の名匠、ウォン・カーウァイの魅力を徹底解説

香港映画界から飛び出し、今や世界で愛される名匠となったウォン・カーウァイ。日本では2018年に入ってさらなる盛り上がりをみせているウォン・カーウァイの魅力に迫ります。

世界で愛される名匠、ウォン・カーウァイ

香港映画界から華々しく世界に飛び出し、今や鬼才というよりアジアを代表する名匠として愛されるウォン・カーウァイ。もちろん日本にも多くの熱狂的なファンがいます。 撮影のクリストファー・ドイルとのコンビで生み出した独特の映像世界、つまりハンドカメラを駆使したリアリティあふれる緊張感、スローモーションやカッティングの多用、斬新な色彩感覚などが世界に衝撃を与えました。 人気スターを好んで起用し、また彼らに台本のない即興の演技を求めるという実験的手法を採用したりなど、常にチャレンジを続けています。ここでは、そんなウォン・カーウァイの魅力についてプロフィールや代表作、最近の話題など交えて紹介したいと思います。

ウォン・カーウァイのプロフィール

ウォン・カーウァイ(漢字名:王家衛)は1958年7月17日、中国の上海で3人兄弟の末っ子として生まれました。文化大革命を逃れて5歳のときに家族と共に香港に移住しましたが、その頃から母親の影響で映画好きになったと言います。 香港理工学院ではグラフィック・デザインを学び、卒業後はテレビ局の制作現場に職を得ました。様々なタイプのドラマを多数手掛けて経験を積み、やがて脚本家として映画界入りします。 1988年に満を持して映画『いますぐ抱きしめたい』で監督デビューを果たすや、いきなり熱い注目を集めました。2作目の『欲望の翼』以後は撮影のクリストファー・ドイルと組んで独自の映像世界を確立、3作目の『恋する惑星』の世界的大ヒットにより名声を不動のものとしています。

国内外で非常に高い評価!

第1作目の『いますぐ抱きしめたい』が権威ある香港電影金像奨で作品賞や監督賞など主要9部門にノミネートされたことからわかるとおり、デビュー当時から評価の高かったウォン・カーウァイ。『恋する惑星』の世界的ブレイクも、クエンティン・タランティーノらが激賞したことがきっかけでした。 その後は世界各国で様々な映画祭を席巻します。『ブエノスアイレス』でカンヌ国際映画祭監督賞、『花様年華』でフランスのセザール賞外国語映画賞、『グランド・マスター』でアジア・フィルム・アワード最優秀監督賞に輝いていますが、これらはほんの一部です。 そういった実績が認められ、2006年のカンヌ国際映画祭と2013年のベルリン国際映画祭では審査委員長に選ばれました。また2013年には仏レジオンドヌール勲章コマンドゥールを受章するなど、まさに名匠にふさわしい華々しい経歴の持ち主です。

ウォン・カーウァイの代表作を紹介!

1988年の監督デビュー後、短編やオムニバス作品など除くとわずか10作品と寡作で知られるウォン・カーウァイですが、どの作品も強い印象を残しています。その中から、あえておすすめしたい7作品をご紹介します。

『恋する惑星』【1995年】

「香港ニューウェーブ」の旗手として、ウォン・カーウァイの名が世界的に知られるきっかけとなった作品です。有名な重慶マンションなど香港独特の混沌とした街中を舞台に、交差する2組の男女の別れと出会いを疾走感あふれる斬新な感覚の中に描きました。 金城武扮する失恋で落ち込む警官、ブリジット・リン扮する謎めいた金髪の女、フェイ・ウォン扮する飲食店で働く不思議な店員、トニー・レオン扮するスチュワーデスの恋人と破局する警官……。4人の別れと新たな出会いを軸に物語は進みます。 クリストファー・ドイルの自由奔放なカメラワーク、またママス&パパスの「夢のカリフォルニア」やフェイ・ウォンの「夢中人」など音楽のセンスも冴えわたり、圧倒的な支持を得ました。香港電影金像奨では作品賞・監督賞・主演男優賞など主要部門を独占するなど、90年代のアジア映画を代表する傑作となりました。

『天使の涙』【1996年】

もともと3話構成の予定だった『恋する惑星』で描かれなかったエピソードが基になり、別の作品としてあらたに製作されたのが本作です。香港の街で繰り広げられる5人の若者たちの青春と恋を、よりスタイリッシュさを増した映像センスで描きました。 殺し屋と彼に惚れた女エージェント、そしてもう一人の謎の女、口のきけない男など、原色のネオンが瞬く香港の夜を舞台に個性的な若者たちの切ない人間模様が交差します。 前作に引き続いて抜擢された金城武、さらにレオン・ライ、ミッシェル・リー、カレン・モクら香港を代表する若手人気スターが勢揃いして大きな話題をよびました。続編ではないものの、『恋する惑星』とセットで鑑賞したい作品です。

『ブエノスアイレス』【1997年】

レスリー・チャンとトニー・レオンという香港を代表する2大国際派スターを主役に抜擢し、男同士のやるせない愛の痛みを官能的に描いた第50回カンヌ国際映画祭最優秀監督賞受賞作です。 旅の合間に出会ったウィンとファイ。激しく愛し合いながらも喧嘩と別れを繰り返し、それでも離れることのできない苦しい愛憎を、南米アルゼンチンのブエノスアイレスを舞台に描きました。 イグアスの滝などの雄大な自然やブエノスアイレスの裏通りを抒情的に映し、またピアソラの奏でるタンゴの旋律がドラマチックに2人の関係を彩ります。独特の世界観で捉えた官能的な男たちの姿は、まさにウォン・カーウァイの独壇場です。

『花様年華』【2001年】

1962年の香港を舞台に、隣人同士の男女の不倫を官能みなぎる映像美で描いた大人のラブストーリーです。それぞれに家庭を持つ男女を、トニー・レオンとマギー・チャンが演じました。 新聞社で働くチャウが妻とともにアパートの一室に引っ越してきた同じ日、隣室にも商社の秘書として働くチャンが夫とともに移ってきます。やがて、それぞれの妻と夫が浮気していることがわかって復讐心から2人も接近。ところが、ともに時間を過ごすうちに2人も激しく惹かれあっていくのでした。 フランスのセザール賞で外国語作品賞、モントリオール映画祭の最優秀作品賞などのほか、トニー・レオンがカンヌ国際映画祭で最優秀主演男優賞に輝いた傑作です。

『2046』【2004年】

ウォン・カーウァイと名コンビとなったトニー・レオンにくわえ、コン・リー、チャン・ツィイー、フェイ・ウォン、さらに日本から木村拓哉が出演するという豪華なオールスターキャストで描いた近未来のラブストーリーです。 1960年代後半、香港のホテルに暮らす男チャウが執筆した「2046」というタイトルのSF小説。それは報われなかった愛を取り戻すことができる「2046」へと向かう列車に乗り込んだアンドロイドと人間の姿を描いた小説でした。 トニー・レオンが昔の女性を想い続ける主人公チャウを演じ、木村拓哉は「2046」から帰ってきた唯一の男という劇中劇の主人公タクに扮しています。彼らを取り巻く個性的な女たちの魅力、そして美しい近未来の光景や衣装も見どころです。

『マイ・ブルーベリー・ナイツ』【2008年】

アメリカを舞台にした、ウォン・カーウァイが手掛けた初の英語作品です。ヒロインに抜擢されたのはグラミー賞も受賞している歌手のノラ・ジョーンズ、そしてその相手役をジュード・ロウが演じたほか、ナタリー・ポートマンやレイチェル・ワイズら豪華スターが脇を飾りました。 失恋の痛手を引きずるエリザベスは、ある一軒のカフェに足を運ぶようになり、ブルーベリーパイを出してくれるオーナーのジェレミーと接することで癒されていきます。やがて、立ち直って新しい自分を見つけるための旅に出ることに……。 ニューヨークからメンフィス、ラスベガスへと移るロードムービースタイルで描かれる心温まるラブストーリーです。ルイ・ヴィトンが担当した衣装、もちろんノラ・ジョーンズも参加した音楽も話題になりました。

『グランド・マスター』【2013年】

ウォン・カーウァイが初めて中国伝統武術カンフーをテーマに選び、実在の宗師・葉問(イップ・マン)に関わる逸話を壮大なスケールで描いたアクション大作です。 1930年代、北の流派・八卦掌の宗師である宝森は引退に際し、北と南の流派を統一できる後継者候補として、弟子の馬三あるいは南の詠春拳の宗師である葉問を指名します。ところが馬三が謀反を企てたことにより、宝森の娘・宮若梅らも絡む壮絶な頂上決戦が幕を開けるのでした。 ブルース・リーの師匠としても知られる主人公の葉問をトニー・レオン、六十四手の達人である宮若梅をチャン・ツィイーが演じています。ハリウッド映画顔負けの究極アクションとウォン・カーウァイ独特の映像美が織り成す極上のエンターテインメント作品に仕上がりました。

ウォン・カーウァイのリバイバルブーム到来か?

ウォン・カーウァイの作品はたびたび過去作の特集・企画上映がなされ、そのたびに評判をよんできました。 2018年には、初期の作品『欲望の翼』のデジタルリマスター版が2月から全国で順次公開されており、以前からのファンはもちろん若者ら新しいファンを獲得しています。 東京で同作を上映したBunkamuraル・シネマでは、公開記念として『恋する惑星』などその他の作品もリレー形式で上映されるなど、ある種のリバイバルブームと呼んでもいい盛り上がりです。

また東京池袋にある新文芸坐では、3月10日、『世界の映画作家Vol. 198 ウォン・カーウァイ Quizas Quizas Quizas』と題したオールナイト上映イベントが開催されます。『ブエノスアイレス』『恋する惑星』『花様年華』『天使の涙』の4作を一挙に鑑賞するという企画が話題になっています。

新作が待たれるウォン・カーウァイ

『グランド・マスター』を最後に、ウォン・カーウァイ監督から新作のリリースがありません。同作とその前作『マイ・ブルーベリー・ナイツ』の間も6年間のブランクがあり、世界中のファンが首を長くして待っています。 2017年9月には、Amazonビデオからウォン・カーウァイ監督による新しいドラマシリーズの製作が発表されました。19世紀のサンフランシスコを舞台にしたギャングもののようですが、詳細は明らかになっていません。 映画については、2014年のメディアのインタビューで、中国の作家・金宇澄の小説『繁花』を原作としたものなると答えたようですが、その後の進展については不明です。 もうしばらくは過去作品を観直しつつ、新作のさらなる情報を待ちましょう!