2018年12月3日更新

ドラマ『海月姫』静かなヒットの理由を考察 月9ブランド復活の鍵は「連ドラらしさ」?

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視聴率10%未満ながら好評を博した『海月姫』

2018年1月から「月9」枠で放送されたドラマ『海月姫』。『東京タラレバ娘』など数々の有名作を生み出した人気漫画家・東村アキコによる少女漫画を原作に製作されました。その視聴率は10%に届かず、一度は4%台にまで落ち込むなど低迷していました。 そんな『海月姫』ですが回を重ねるごとに20代~30代の女性を中心にファンを増やし、SNSでは“最近の月9の中では面白い”と評判のドラマになったのです。お世辞にも高いとは言えない視聴率でしたが、本作にはどのような魅力があったのでしょうか? 今回は近年の月9ドラマ事情や同クールに放送されたドラマについても分析しながら、『海月姫』の視聴率からは測れない魅力とは何かを考察します。

『海月姫』のあらすじを復習したい場合はこちら!

近年の月9ドラマ視聴率事情

「月9ブランド」はもう過去のもの?

本作について分析を始める前に、近年の月9事情とその傾向を知っておきましょう。 そもそも「月9」はフジテレビの月曜9時からの連続ドラマを指す言葉で、ドラマ好きや関係者の間で使われていたものが浸透し一般的に用いられるようになったものです。1990年代前半に誕生し、当時月9枠では局を象徴するような人気ドラマばかりが放送されていました。 しかし、そんな「月9ブランド」は凋落しつつあるのです。月9の最盛期と言われる1990年代には1年間に月9枠で放送された4作すべて平均視聴率が30%近いほどの人気を誇っていましたが、2000年代には4作のうち平均視聴率が20%を超えるものは1作ほどになってしまいました。 2009年以降平均視聴率が20%を超えたのは2014年の『HERO』のみ。その後2016年の『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』を除いては、10%を超える作品もほとんどなくなってしまいました。 本作の放送開始は2018年1月。その前年、2017年の月9も、7月に放送された『コードブルー~ドクターヘリ緊急救命~3』が平均視聴率14.6%を記録した以外は振るわないという状況で本作の放送開始を迎えました。 社会的にも「若者のテレビ離れ」は起きているようですが、それに伴ってなのか「月9ブランド」のかつての興隆は見る影もなくなってしまいました。

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視聴率では測れないドラマ『海月姫』の魅力とは?

では、本作の視聴率には表れなかった人気の理由は何だったのでしょうか?

少女漫画ならではのストーリー。月海たちに共感するファンも

尼~ず『海月姫』(プレス)
©フジテレビ

本作の魅力のひとつはその少女漫画らしいストーリーにあります。月海と修と蔵之介の三角関係を中心に描いた本作は、その3人の様子に共感したり胸キュンしたりする女性ファンを多く集めたのです。 修に想いを寄せつつも自分に自信が持てない月海の姿は、多くの女性の共感を呼びました。真剣に月海への想いを伝える修に胸キュンしたり、月海のことを想いつつもそれを隠して修と月海の恋を見守る蔵之介の姿に切なくなったりする女性ファンも多かったようです。 また個性豊かなオタク女子たち「尼~ず」の内情に踏み込んだところもひとつの魅力でしょう。彼女たちのダサいだけではなく魅力的な面をおもしろおかしく描いた本作は、オタク男子の奮闘を描き大人気を博したドラマ『電車男』と似た面白さがあります。 漫画を原作とした作品には「原作と全然違う!」という原作ファンからの批判が付き物ですが、本作はそれぞれの登場人物の細かな設定を除いては、大きく改変された部分がありませんでした。それもまた、原作の少女漫画らしい展開がそのまま反映された理由のひとつでしょう。

若手キャスト陣の名演も!キラキラ女優たちがオタク女子を熱演

芳根京子『海月姫』(プレス)
©フジテレビ

キャスト陣の演技も素晴らしいものでした。 主役の月海を演じたのは芳根京子。その持ち前の演技力で、悲しい過去のために自分に自信が持てず冴えない女子というキャラクターを熱演しました。芳根の素朴な可愛らしさも、恋に奥手な月海のイメージに合っていたのではないでしょうか。

尼~ず『海月姫』(プレス)
©フジテレビ

また大きな話題を呼んだのが「尼~ず」の面々です。彼女たちはそれぞれ何かに没頭するオタク女子で、天水館という男子禁制の場所で暮らしています。そんなオタク女子を演じたのは今をときめく人気キャストなのです。 いわゆる「枯れ専」の地味な女子・ジジは木南晴夏が、アフロヘア―の鉄道オタク・ばんばを松井玲奈が、顔が見えないほど前髪を伸ばし漢王朝の復興を願う三国志オタク・まややを内田理央が、日本人形に名前を付けて可愛がっている和服オタク・千絵子を富山えり子が演じています。 多くのドラマ作品に出演する人気女優ぞろいで、特に松井はSKE48・乃木坂46の元メンバーでアイドルとして活躍していた経歴を持つほか、内田は小悪魔的な魅力でモデルとしても人気を博しています。そんな彼女らがオタク女子として、振り切ったコミカルな演技をしているのも大きな見所です。

泉里香『海月姫』(プレス)
©フジテレビ

また、「尼~ず」に負けないほどの反響を呼んだのが稲荷翔子を演じた泉里香の演技です。稲荷は天水館周辺の再開発を目論む会社の社員で、仕事のためなら手段を選ばないバリキャリ美女。月海たちと敵対することになるキャラクターです。 そんな彼女の「女に嫌われる女」っぷりがあまりに見事だと評判になりました。稲荷は修に想いを寄せ、彼に自分の言うことを聞かせるためにあらゆる手段で彼を嵌めようとしますが、その卑怯な手段に憤った修が彼女にビンタしたシーンは視聴者から“スカッとした!”という声が多く挙がりました。 また要潤が演じた鯉淵家の運転手・花森よしおも人気キャラクターとなりました。高級車のレクサスにつられて言うことを聞いてしまう、小者っぽさや飄々とした様子がおもしろいと人気を博したのです。

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原作ファンも納得のビジュアルの完成度

ビジュアルの完成度の高さも魅力の一つとなりました。漫画の実写化作品には原作との違いに納得がいかないファンからの批判的なコメントがもはや付き物ですが、本作は原作漫画のファンからも支持を集めたのです。 「尼~ず」の面々は原作そっくりすぎる、と話題になり、普段はキラキラしたモデルや女優として活躍しているキャスト陣が風変わりなオタク女子たちを演じているその変貌ぶりに驚くファンも多いようでした。

瀬戸康史『海月姫』(プレス)
©フジテレビ

特に、女装男子・蔵之介のビジュアルは“可愛すぎる”と大きな話題に。原作漫画でも、蔵之介は女装姿が美しすぎるあまり、なかなかその性別を見抜けないという設定でしたが、そのイメージを裏切らない完成度です。 蔵之介を演じたのは瀬戸康史。女装をしていないときのハンサムなイメージと、可愛らしい女装姿とのギャップが多くの女性の心を射抜きました。 また彼が月海たちの作ったドレスを着て艶やかな美女になったり、月海たちの立ち上げたブランドのファッションショーでモデルを務めたまややが衣装を着てメイクをすると普段の姿からは予想もつかないほど可愛くなったり、登場人物が「変身」するシーンも多々ありました。 このような「変身」するシーンは少女漫画ではよくあるものですが、それだけに多くの女性の支持を集めるのです。“ありのままの自分を受け入れてほしい”と思う一方で“今より可愛い自分に変わりたい”と願う多くの女性たちの心情は本作の大きなテーマでもあります。 作中でも、蔵之介の「女の子は誰でも可愛くなれる」という信念や、月海の立ち上げたブランドのコンセプト「変わり続ける女の子のための洋服」などにそのテーマは反映されています。本作は女性ファンの可愛くなりたい願望を体現する、ときめける作品なのです。

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同クールのドラマとの違いは?

また、ドラマ『海月姫』の評判が良かった理由の1つに、同クールに放送されていたドラマと一線を画していたという理由がありそうです。

視聴者の「素直な女子」の恋愛を描いた作品への共感

芳根京子、瀬戸康史『海月姫』(プレス)
©フジテレビ

同クールの恋愛ドラマには『きみが心に棲みついた』『ホリデイラブ』『明日の君がもっと好き』がありました。これらはそれぞれ、サイコパス男からの脱出、不倫、男女のドロドロの恋模様を描いたエキセントリックなものでした。 『海月姫』はこれらとは異なり、月海という「素直な女子」の恋模様を描いたものです。彼女と修の惹かれ合う様子や、月海をこっそりと想う蔵之介の姿は、ピュアでありながら視聴者の身の回りにも起きそうなものだからこそ、それぞれの人物に共感することができたのでしょう。 他の3作はどれもハラハラさせられる展開でドラマ性はありますが、視聴者が共感することは難しそうです。『海月姫』の描いた恋愛はリアリティがありつつも、かつての月9が描いたような「現代の若者の理想」のピュアなものでもあるのです。

笑って泣ける「普通の状況」での連ドラらしさが鍵

工藤阿須加、芳根京子『海月姫』(プレス)
©フジテレビ

他にも坂元裕二、野木亜紀子という名作を多く手がけた脚本家による『anone』『アンナチュラル』も好評でしたが、本作と異なり非日常的な状況でストーリーが展開します。先に述べた恋愛ドラマと同じく、視聴者はこれらの作品を楽しむことはできても、共感することは頻繁にはないのではないでしょうか。 また、同じく同クールに放送された『BG~身辺警護人~』『99.9-刑事専門弁護士- SEASONⅡ』の2つは一話完結型のもので、1回ごとに事件が起きてはそれを解決して次の回へ、という展開でした。 対して『海月姫』は回を追うごとに恋愛が発展していったり「尼~ず」たちが成長していったりと、毎回作品を視聴することによっておもしろくなる「連ドラらしさ」があったのです。 そういった面では『もみ消して冬~わが家の問題なかったことに~』とも共通点がありますが、「もみ消して冬」が完全にコメディに振り切っていたのに対し、本作は月海たちが繰り広げるドタバタコメディの中に、彼女たちの成長や切ない恋模様などが描かれており、笑って泣ける見ごたえのある作品なのです。 また若手の俳優を中心にキャスティングした点でも、他の作品とは異なっています。他の作品のキャストには安定感のある30代~50代の俳優も多く見られますが、本作のキャスト陣は20代の若手俳優・モデルが中心でした。この点も若い世代を中心に話題を呼んだと見られます。

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今後「月9ブランド」を回復させるには?

工藤阿須加、芳根京子『海月姫』(プレス)
©フジテレビ

では、今後月9ブランドはどうすれば回復するのでしょうか?『海月姫』の視聴率には現れなかった成功をもとに考察します。

近年「連ドラらしさ」がヒットの鍵?

必要なのは「連ドラらしさ」「今の恋愛」「若者の共感」の要素だと考えられます。『海月姫』は先にも述べたように、毎回視聴することによって面白くなるという「連ドラらしさ」を持っていました。一話完結型のドラマではそれを味わうことはできません。 近年、社会現象となるほどの人気を博したドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』も、ヒロインと同居人の男性の恋模様やその周りの人々の関係が回を重ねるごとにゆっくりと発展する「連ドラらしさ」を持っていたために、毎回楽しみに視聴するファンを多く獲得できたのだと考えられます。 かつて、月9の最盛期は「月曜の夜は町からOLが消える」といわれるほど、毎週若い女性が月9を視聴していたようでした。そう言われるほどの人気を獲得するには「連ドラらしさ」が重要なのです。

「王道の胸キュン」ドラマでも戦える!

また「王道の胸キュン」を描いたものである点も重要だと言えそうです。 恋愛のあり方が多様化してきた今日においては、本作と同クールに放送されたようなエキセントリックな内容の恋愛ドラマも製作されます。そんな時だからこそ「王道の胸キュン」を、コメディと混ぜてさりげなく描いた本作は、若い女性たちの間で人気を博したのでしょう。 また自分に自信が持てず引っ込み思案な月海や尼~ずは、強烈な個性こそ持っていますが、素直なキャラクターです。そんな彼女たちが殻を破り成長していく姿は、思わず応援したくなってしまうはず。 月海の三角関係の中で悩む姿はまさに「普通の若者のピュアな恋愛」であり、そんな彼女を応援する一方で、少女漫画特有の王子様的存在である修や蔵之介の存在により、若い女性は本作にキュンキュンすることができるのです。

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『海月姫』は従来のドラマとは一線を画する作品に!

芳根京子『海月姫』(プレス)
©フジテレビ

視聴率の一方で、数字では測れない人気を博したドラマ『海月姫』。その理由は他の近年放送されたドラマとはあらゆる要素において一線を画するものであったからでした。 今後月9ドラマでどのような作品が登場するかはまだ未知数ですが、『海月姫』のような静かな大人気を博するものが出てくるかどうか、楽しみですね。