2018年5月18日更新

『かぐや姫の物語』を徹底考察!高畑勲が込めた想いを紐解く!【ネタバレ】

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かぐや姫の物語

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『かぐや姫の物語』徹底考察!【ネタバレ注意!】

2018年5月15日、東京三鷹市にあるジブリの森博物館の入り口に、喪服を着た人々が集まりました。スタジオジブリが催した「高畑勲を送る会」に参列するファンたちです。享年82歳。稀代のアニメーション監督でありプロデューサー・高畑勲の遺作となったのが、今回ご紹介する『かぐや姫の物語』です。 2013年に公開されたこの作品は、高畑にとってアニメーション監督としてのライフワークと言っていほど、長い時間とさまざまな紆余曲折を経て完成にこぎ着けた労作でした。構想は2000年代初頭、「竹取物語」を原作とすることが決まってからさらに4年もの歳月がかけられています。 ファンタジーの古典ともいうべき不朽の名作に、アニメーションという手法で新しい世界観を生んだ高畑のこだわりは、作品のそこかしこに感じられます。そこで今回は『かぐや姫の物語』の見どころをチェックしながら改めて、高畑が届けようとしたメッセージの厚みを紹介していきたいと思います。

原作「竹取物語」を尊重しながら人間性をより深く掘り下げる

高畑は構想段階から一貫して、「竹取物語」のストーリーをできる限り尊重したいと考えていたようです。一方でキャラクターや演出などには、アニメオリジナルの脚色を積極的に加えています。 たとえばかぐや姫誕生(登場?)のシーン。原作は竹から生まれますが、アニメではタケノコの頭がふわりと広がって、中からお雛様のような愛らしい姿が現れます。それからの里山暮らしや、仲間たちとともにのびのびと成長していく姿を丁寧に描いているところも、アニメならではの魅力です。 幼馴染であるとともに異性としても需要な役割を果たす捨丸というキャラクターは、原作には出てきません。そうした独自の解釈に基づくオリジナリティのすべては、かぐや姫の人間らしさを強く印象付けたかった、高畑ならではのアレンジと言えそうです。 ちなみにかぐや姫の声を担当したのは、幼少期が子役の内田未来。成人してからは女優・朝倉あきが演じています。

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主題歌は『かぐや姫の物語』のすべてを、物語っていた

独特のタッチが強く記憶に残る作画に負けない、印象的な劇伴を担当したのは久石讓。東京交響楽団による演奏など、音楽にも高畑勲らしいこだわりが感じられます。ちなみに劇中の「わらべ唄」や「天女の歌」は、作詞・作曲に高畑自身が携わっています。 そしてなによりも胸を打つのが、二階堂和美が歌う主題歌「いのちの記憶」です。せつせつと穏やかに語りかけるような歌声が伝えるのは、愛してくれた人々と別れて地球を去っていくかぐや姫の、おぼつかない想いそのもの。 頭の中の記憶は失われても、命そのものに刻まれているかのように深まっていく寂しさと切なさを歌ったこの曲は、作品全体のテーマを強く心に響かせてくれました。

捨丸との関係は純愛?それとも不適切??

アニメのオリジナルキャラとして前半部分にかぐや姫と深く関わってくるのが、里山の幼馴染・捨丸です。「お兄ちゃん」気質で子供たちのリーダー格、狭い里山にあってはまさにヒーローのような存在なのかもしれません。声は俳優・高良健吾が子供時代から大人まで、通して担当しています。 子供時代のかぐや姫と捨丸の交流には、幼いながらも淡い想いが交わされている様子がはっきりと描かれています。ですから突然の別れの後、互いに大人になって再会した時に、その想いが年齢相応に盛り上がるのは当然でしょう。 成人した捨丸は結婚し妻子ある身。それでもふたりは大人の男女として、幸せな時間を共有します。それは確かにある意味「不適切な関係」だったかもしれません。それでもこと恋愛に関しては不遇だったかぐや姫が精一杯、人として生きようとしているように思える重要なエピソードなのです。

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誰かに似ていると大人気。「女童」とは何者なの?

「女童」も読み方は「めのわらわ」。平安時代に、貴族などの身の回りの世話をしていた幼女のことをそう呼んでいたそうです。『かぐや姫の物語』では個性的な存在感を持つ女優・田畑智子が声を演じ、幼女らしからぬユーモラスかつ強烈な存在感を振りまいて穏やかな笑いを生んでくれました。 そんな女童、実は別の意味でもファンに大人気です。理由は「どこかで見たような」ルックス。同じ二次元キャラでは『猫の恩返し』のナトルが激似だと評判に。ちょっと変化球ですが『パタリロ』もかなり造作が接近しています。 ちなみに三次元でも諸説ありますが、満面の笑顔がピンポイントで驚くほど似ているのが、元モーニング娘。のメンバー、鞘師里保。「さやしりほ」でamazonを検索すると2011年発売の1st写真集の表紙が出てきます。その愛らしさ、確かに女童級かも。

顎のカタチが大人気。「御門」のパワハラとセクハラに学ぶ

ある意味、女童以上にインバクトのあるキャラクターが、御門。大河ドラマにも出演した歌舞伎俳優、2代目中村七之助が声を演じました。かぐや姫の評判を聞きつけ宮廷に入るように命じるなど、現代ならそうとうパワハラな第一印象ですが、物語の舞台となった平安初期にはごく当たり前のことだったそうです。 彼の「人気の秘密」は個性的なその顔だちにあります。脚光を浴びたのが2015年に地上波で初放送された直後でした。Twitterなどでは通称「顎祭り」で盛り上がりまくり。御門の人並外れてシャープな顎の形状が、さまざまなネタとしてネット上で話題を呼んだのでした。 ちなみに彼の行動はパワハラにとどまらず、明らかなセクハラレベルまでエスカレートして行きます。天然系ナルシストな御門の軽率な行動は、かなり顰蹙もの。これもまたちょっとした、高畑流の反面教師的メッセージと言えるかもしれません。

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高畑のこだわり「プレスコ手法」が生んだもうひとつの感動秘話

制作が進んでいた頃に「鳥獣戯画のよう」と言われていた作画は、水彩画調の背景に手書きのようなタッチで注目を浴びました。同様に、高畑のこだわりが発揮されていたのが、すべての高畑作品に共通する「プレスコ手法」と呼ばれるセリフの収録スタイルです。 できあがった映像を見ながら声を収録していく「アフレコ」とは逆に、セリフと音声から作品を作り上げていくこの手法は、声優の演技力や臨場感をより生々しく伝えることができるのだそう。ですが『かぐや姫の物語』では、このやり方がひとつのドラマを生みました。 発端は、翁役の俳優・地井武男の急逝。すでに収録は終えていたものの、セリフの変更でアフレコが必要になってしまいます。その代役としてやはり俳優の三宅裕司が選ばれ、6つのシーンを吹き替えたのでした。公開時、観客のほとんどが気づかなかったという「熱演」ぶりは、高畑のこだわりが生んだ本作の見どころのひとつです。

『かぐや姫の物語』最大の謎!姫の罪と罰とはいったいなんだったのか。

映画公開時のキャッチコピーとなっていたのが、「姫が犯した罪と罰」。映画では、地上に憧れを抱いてしまったことがそのまま「罪」であり、その「罰」として月の住人から見れば穢れに満ちた地上に追放されたことが語られています。 彼女が「罪」を犯すきっかけになったのが、劇中で歌われる「わらべ唄」。地上に対する憧れ心を呼び起こしたこの唄をくちずさむたびに、かぐや姫は我知らず涙を流します。 ラストシーンで、姫が正気を取り戻すきっかけとなったのもこのわらべ唄でした。そして彼女は羽衣をまとって地上での記憶を失い、月へと戻っていきます。その時、背後に姫は背後に浮かぶ地球を振り返り、再び涙を浮かべます。 美女の涙は鉄板の「もらい泣きアイテム」ですが、高畑はそんなところにもしっかり、謎めいたメッセージを仕込んでいました。このように観るたびに新たな発見がある『かぐや姫の物語』は、高畑が全霊を込めた底知れない「深さ」を持っているのです。