2025年6月10日更新

『火垂るの墓』おばさんは悪くない?セリフは正論?大人になってわかった優しさを考察

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火垂るの墓
Ⓒ 野坂昭如/新潮社,1988

映画『火垂るの墓』で、神戸大空襲で母を亡くした清太と節子は、西宮の「おばさん」のもとに身を寄せます。子どものころ、このおばさんの態度を見て「なんていじわるな人なんだ!」と思った人も少なくないのではないでしょうか。 しかし、彼女は本当に悪い人だったのか?戦時中という時勢や清太たちの態度を踏まえると、彼女に対する見方が変わってくるかもしれません。

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『火垂るの墓』おばさんのセリフは正論?

空襲で母を亡くし、親戚のおばさんのもとも身を寄せた清太と節子。しかし彼女は2人に粗末な食事しか与えず、彼らの母の形見である着物を売って米を買ってきたりします。そんなおばさんに多くの視聴者は「なんてひどい人なんだ!」と憤ったことでしょう。 あるとき、おばさんは雑炊を嫌がる節子と、お昼はおむすびだと言う清太に対して、「お国のために働いてる人の弁当と、一日中ブラブラしてるあんたらと、なんで同じや思うの」と一喝します。 たしかに清太は節子との時間を確保するために、働きにも学校にも行かず、1日中ブラブラしていました。このことが、おばさんの気に障ったのではないでしょうか。

戦時中の対応としては悪くなかった

戦時中という時代背景を考えると、おばさんの態度はそこまで悪いものだったとは言えないとも考えられます。 遠い親戚とはいえ、子どもを2人も引き取るのは大変なことです。今の時代で考えてみてもその大変さは容易に想像できます。しかも当時は戦時中。自分たちの食べ物だけでも大変なのに、安全面でも不安のある時代です。 また清太はおばさんの言う通り、「1日中ブラブラ」していました。これは節子と一緒にいたいという思いもあったと思いますが、当時は学徒動員などで、彼と同世代の子どもたちも働いている時代。探せば働き口は比較的簡単に見つかったかもしれません。 せっかく引き取ってやったのに、働きも勉強もせず、しかも感謝の言葉もなく文句ばかり言っている清太と節子を、おばさんはどんな思いで見ていたのでしょうか。

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おばさんとの関係 生死を分けたのは清太の幼さか【考察】

最終的に清太は節子を連れて、おばさんの家を出ていくことを決意します。おばさんは清太たちを止めようともしませんでした。しかしこのご時世、兄妹2人だけで暮らしていけるわけはなく、彼女は清太たちはすぐに戻って来ると思っていたのかもしれません。 一方で、清太はもともと海軍将校の息子であり、裕福な生活を送っていただけに、プライドの高い少年だったのかもしれません。そんな彼は「働きもせずブラブラして」と小言をいわれ、わずかな食事しかもらえない生活に耐えられなかったのでしょう。 もし清太が意地を張らずにおばさんの家に留まっていれば、少なくとも節子は栄養失調で命を落とすことはなかったかもしれません。2人のことを快く思っていなかったとはいえ、もしおばさんがそばにいれば、節子を見捨てるようなことはしなかったのではないでしょうか。

『火垂るの墓』おばさんの意見分かれるセリフ あなたはどう思う?

子どものころに『火垂るの墓』を観たときには、この親戚のおばさんはなんて意地悪な人なんだ、と思ったものですが、大人になってみると、彼女のほうが正論を言っていることに気づいたという声は多く聞かれます。 ぜひ『火垂るの墓』を観て、自分はどう感じるか確かめてみてください。