2019年8月6日更新

『天空の城ラピュタ』の魅力を都市伝説やトリビアから考察!宮崎駿が描き出した「含み」ある物語

天空の城ラピュタ
© Studio Ghibli/Buena Vista Home Entertainment

ジブリを代表する名作『天空の城ラピュタ』。30年以上愛されてきた本作には、いまだに多くの都市伝説があります。今回は都市伝説の謎やトリビアを解説しながら、本作の魅力に迫ります。そこから見えてくる宮崎駿の才能とは……?

『天空の城ラピュタ』の都市伝説やトリビアから魅力をひも解く!宮崎駿の描いた壮大な物語の秘密

1986年に公開された宮崎駿監督作品『天空の城ラピュタ』。 ジブリ1作目といえば1984年『風の谷のナウシカ』や、1979年の『ルパン三世 カリオストロの城』かと思われがちですが、スタジオジブリ設立は1985年なので、『天空の城ラピュタ』が長編第一作になります。 いまだに何度観ても面白い、そんなジブリ最初期の傑作『天空の城ラピュタ』の魅力とは?今回は、数ある都市伝説やトリビアを解説していきながら、本作の魅力、そして宮崎駿が作品に与えた多くの「含み」をひも解いていきます!

「ラピュタ」に登場する名言・名セリフはこちら

天空に浮かぶ島「ラピュタ」のモデルとなったのは?

そもそも「ラピュタ」とは?

そもそも映画のタイトルにもなっている「ラピュタ帝国」とは一体どんなものなのでしょう。 ラピュタ帝国とは疫病が原因で滅亡した、超科学技術を持った古代国家です。劇中に登場する空中都市は、ラピュタ帝国の滅亡後、宮殿や神殿がある中枢部分だけが残って浮遊していたもの。内部には巨大な飛行石があり、その力によって空中に浮遊しています。 作中で敵役となるムスカは、ラピュタ帝国王家の末裔であり、再び「ラピュタ」を支配するために暗躍していました。

『天空の城ラピュタ』のモデルとなった場所がある?

ノスタルジー溢れる街並みや、天空の城のミステリアスな外観など、『天空の城ラピュタ』には様々な印象的な建造物や風景が描かれています。 そんな本作のモデルとなったのではないかと言われている実際の場所が多数存在しています。ペルーにある世界遺産マチュピチュ、巨大な熱帯樹林にいたるところを覆われた崩落の激しいカンボジアのベンメリア遺跡、フランスにあるモンサンミッシェルなど。どれも美しい神秘的な場所ばかり。 また、宮崎駿が作品制作前に実際に訪れていたイギリスのウェールズは、パズーとシータが出会った街のモデルとなっています。ウェールズは作中の町と同じく、炭鉱が盛んな地域です。作中で、親方とシャルルが街を巻き込んでケンカするシーンは、ウェールズを訪れたことがキッカケで挿入されました。(参考:『出発点 1979~1996』宮崎駿)

「ラピュタ」という名前の由来は「ガリバー旅行記」?

「ラピュタ」という名前はアイルランドの作家・ジョナサン・スイフトの著作『ガリバー旅行記』第三編に登場する天空の島「ラピュータ」に由来しているのではないかと言われています。 『ガリバー旅行記』に登場するラピュータは、数学者や天文学者などの学者たちが統治している浮島で、地上の島をその知性によって支配している地域。進歩を重視するあまり実験的な場となって、荒廃した社会を構築していました。結果、この国の人々は言葉を省略し単語で会話するようになるのです。 『天空の城ラピュタ』の企画原案で、あらすじ冒頭には、確かに「ガリバー旅行記第三部に描かれた、空中の浮島ラピュタ」と書かれているため、これがモデルであると見て間違いありません。(参考:『出発点 1979~1996』宮崎駿) 『ガリバー旅行記』は、イギリス人の社会や慣習に批判的な視点を与える、というコンセプトで描かれた小説です。産業革命の時代よりも100年以上前の作品ですが、『天空の城ラピュタ』の世界観とうまく融合して、架空ながらもリアリティある設定が作られました。

滅びの呪文「バルス」や「飛行石」の元ネタは?

バルスの語源とは

『天空の城ラピュタ』のラストで唱えられる呪文「バルス」。地上波で本作が放送されるたびに、ツイッターなどでお祭り騒ぎになることでもおなじみです。「バルス」はラピュタ語で「閉じよ」という意味で、この呪文とともにラピュタは崩壊します。 この呪文がなぜ「バルス」という名前になったのかは、制作側からは明らかにされていません。最も有力な説は、諸星大二郎の漫画『マッドメン』からの引用である、というもの。 宮崎駿は、諸星に『ナウシカ』の絵を描いてほしかった、と公言するほどの彼のファンです。そんな諸星が描いた『マッドメン』の中には、「バルス」という、「楽園崩壊」の意味を持つ言葉が登場します。もしかしたら同様のニュアンスを持つ言葉として、まったく同じ言葉を劇中に登場させたのかもしれません。 またもう一つの説としては「平和」を意味するトルコ語の「bans(バルシュ)」が元になっているのではないかというものがあります。 いずれにしても、「バルス」というたった3文字で多大なインパクトを観客に与え、30年以上にわたって多くの人が知っている有名なセリフです。ラピュタ崩壊の呪文だけあって、普通はより物々しい呪文に設定しそうですが、その辺りのバランス感覚は「さすがは宮崎駿」といったところでしょうか。

飛行石にはモデルが存在する?

青く神秘的で美しい飛行石。宝石のような見た目がファンの心をつかみ、ジブリショップなどでグッズとしても販売されました。 ショップでは品名として「ラピスラズリ」の名前が書かれているので、これがモデルの1つだとも言われています。ラピスラズリとは青い宝石であり、日本では瑠璃とも呼ばれています。

また、飛行石のモデルとなったのは、宮崎駿の少年時代に人気を博した、福島鉄次による絵物語『沙漠の魔王』なのだそうです。 『砂漠の魔王』は、イスラム世界の説話集である『千夜一夜物語』の中の有名な物語、『アラジンと魔法のランプ』を元にした物語。作中には、飛行石を使用して空を飛び、呼び出した者の名にしたがう大きな魔人が登場します。 宮崎駿が物語を作るときには、彼のこれまでの経験がすべて活かされるのですね。

『天空の城ラピュタ』の時代背景は?パズーの父親が撮った写真がヒント

作中では、具体的に「西暦何年」と語られることはありません。 しかしながら、パズーの父親が撮ったラピュタの写真には1868.7と明記されているので、19世紀後半おそらく1880年代が舞台であると考えられます。インタビューでは、宮崎駿が「産業革命のころを背景にしている」と述べているため、一致しますね。(参考:『出発点 1979~1996』宮崎駿) また宮崎駿のインタビューをまとめた単行本『風の帰る場所』によると、本作の舞台はイギリスで、登場する銃火器などもイギリスのものをモチーフにしているのだそうです。

シータやムスカ、ロボット兵にまつわる謎

ロボット兵は何者?名前はあるの?

ラピュタを守っているロボット兵。同じジブリ作品の『風の谷のナウシカ』に出てくる巨神兵と見た目が似ていて混同されがちですが、基本的には別物です。 巨神兵は山々を超えるほど巨大で、体も肉で出来ています。一方ロボット兵の方は人の2~3倍程度の大きさで、体はセラミックで出来ているのです。 また、ロボット兵が実は2種類存在していることを知っていますか?1つは戦闘用、もう1つはラピュタの庭園を守る番人のような存在となっています。戦闘用のロボットには飛行用に腕に突起があり、膜のようは羽を使って飛ぶことも可能となっています。 このロボット兵は、『ルパン三世』の2ndシーズンにも出ているのです。第155話「さらば愛しきルパンよ」は実は宮崎駿が制作した最終回となっており、ここにラムダという名前のロボット兵が登場します。まさにロボット兵そのものですので、気になる方は是非チェックを!

シータはドーラの娘という設定だった?

不思議な力を持つ「飛行石」の持ち主である本作のヒロイン・シータ。 空中海賊ドーラ一家の女ボス・ドーラは、はじめこそシータから飛行石を奪おうとしていた敵だったものの、パズーを思いやる彼女の健気な姿勢に心を打たれていきます。しまいには、シータに対して「アタシの若い頃にそっくりだよ」などと話していました。 実は当初、シータはドーラの娘という設定でした。シータにシンパシーを感じるドーラの姿が見受けられるのは、この設定が影に潜んでいたのかもしれません。 また、宮崎駿の『出発点 1979~1996』の中では、パズーの設定に関して、「ドーラが母親で、あちこちに出てくるじいさんがみんな父親」という古典的な児童モノのような気分、と説明しています。 パズーとシータ、2人の子供が繰り広げる活劇には、古典的な方法で親役を登場させる必要があった、ということでしょう。そのため作品を通してドーラは、彼らの母親的な存在を担っているのです。

シータの本名にはラピュタの王位継承者であることが隠されていた

シータには、ラピュタ王国を受け継ぐ者としてもう一つの名前がありました。その名も「リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ」。ウルはラピュタ語で「王」、トエルは「真」を意味しており、彼女がラピュタの正統な王位継承者であることを示す名前です。 ちなみにラピュタ語は特に深い意味などはないそうですが、『ロマンアルバム 映画天空のラピュタGUIDEBOOK 復刻版』にてケルト語などから着想を得ていると宮崎駿がコメントしています。

ムスカの本名にも……。

ムスカの本名は「ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ」。 シータと同じように「王」を表すウルが名前に入っています。彼の一族も、かつてのラピュタ帝国でシータの一族と同じく王家の一つだったことがわかります。 ムスカの目的は、「ラピュタ」の王に君臨し、全世界を支配すること。そのためには、彼の一族が代々受け継いできた古文書とは別に、シータの一族に引き継がれていた飛行石が不可欠だったのです。 しかしシータの名前には「真の」という意味のトエルが入っていますが、ムスカの名前にはありません。もしかしたら、彼が崩壊するラピュタとともに転落するという結末は、何か運命めいたものがあったのかも……。

パズーとシータのその後とは?幻の別エンディングの噂を検証

『天空の城ラピュタ』には、本編とは異なるエンディングが存在する、という都市伝説があります。しかし結論から言うと、別の結末を描いたストーリーは存在しません。 この都市伝説の発端は、『天空の城ラピュタ』がテレビ放送された際、映画とは別バージョンのエンディング(スタッフロール)が流れたこと。 「パズーとシータが抱き合う」「シータと水牛」「凧に乗るパズーとシータ」「飛行機に乗ってシータに会いに行くパズー」という4つの場面が描かれました。 どれも二人の後日譚のように取れなくもなく、このエンディングを観て映画本編のあとに二人が幸せに暮らしたと解釈した人がいても不思議ではありません。 しかしこれらのシーンは映画本編に描かれている場面と、ジブリの関連資料集に掲載されたイラストをつなぎ合わせたものでした。そのため、パズーとシータのその後を描いた別ストーリーというわけではないのです。 ただ、この別バージョンのエンディングから物語の続きを想起させるほど、視聴者の想像力を膨らませる名作である、ということは言えるのでは。

『天空の城ラピュタ』は他のアニメ作品とも関係が?

全く別のアニメにムスカの先祖が登場している

シータの持つ飛行石を狙って、彼女を拉致した特務機関のリーダー・ムスカ。 実は、ムスカの先祖が宮崎駿監督の別アニメに登場しているのです。宮崎駿が初めて監督を務めたアニメ作品「未来少年コナン」に登場する、レプカというキャラクターは彼の先祖に当たります。 この設定は実際に『天空の城ラピュタ(ロマンアルバム)』という書籍の中で公式に紹介されており、『未来少年コナン』は時系列上『天空の城ラピュタ』の過去の話であることも明かされているのです。 宮崎駿作品のつながりを知ることで、より物語が膨らんでいって、ファンを飽きさせないですね。しかも、こういった裏設定に打算を感じさせないのも、魅力の一つかもしれません。 宮崎駿の中では、すべての物語が一つの軸に結びついているのでしょう。

『天空の城ラピュタ』と『ふしぎの海のナディア』の関係性

実は『天空の城ラピュタ』と、庵野秀明監督によるアニメ『ふしぎの海のナディア』には関係性があったことをご存知ですか? 『ふしぎの海のナディア絵コンテ全集』に寄せられた庵野秀明のコメントによると、『未来少年コナン』の続編にあたる『未来少年コナン2』の企画案から、「ラピュタ」と『ふしぎの海のナディア』の2作品が生まれたのだとか。 その企画案の内容は、少年と少女が不思議なペンダントを探して潜水艦で旅をする道中、ペンダントを付けねらう悪党一派に遭遇するという物語。確かに「ラピュタ」にも「ナディア」にも通づるものがありますね。

ルフィの声で「海賊にならない」宣言

主人公・パズーの声を担当したのはアニメ「ワンピース」のルフィの声優としても知られる田中真弓。 「ラピュタ」の劇中で、シータに「私のためにパズーを海賊にしたくない」と言われたパズーは、笑いながら「僕は海賊にはならないよ」と爽やかに宣言しています。 その十数年後、アニメ「ワンピース」にて田中真弓が声優を務める主人公・ルフィが「海賊王に、俺はなる!」と高らかに宣言。 「ラピュタ」との直接的なつながりはないものの、同じ声優の声で真逆のことを言っていて、今となってはクスッと笑える話になっています。

綾波レイで知られる名声優が「ラピュタ」に出演していた

『新世紀エヴァンゲリオン』綾波レイ役や、『名探偵コナン』灰原哀役で知られる声優・林原めぐみ。 彼女は、本作で多数の役の声を担当しています。しかし彼女の役は、青い服の婦人や、ロボット兵が落ちてくる回想シーンの老婦など、名もない人物ばかり。 ベテラン声優となった今では信じがたいですが、「ラピュタ」は彼女が新人のころの参加作品なので、こういった役を多数演じていたのですね。

「ラピュタ」最大の魅力は、宮崎駿が描き出す「含み」を持った壮大な世界観

ここまで見てきた都市伝説や裏設定から、『天空の城ラピュタ』の魅力を引き立てるものの正体が、部分的に見えてきます。 特記すべきポイントは、現実と架空の世界の融合が、とてもバランスの良いものであるということです。実在するマチュ・ピチュなどの幻想的な風景を思わせる空中都市の存在、そしてイギリスのウェールズに訪れた実体験から生まれた炭鉱の町。 それらの風景は、色彩豊かなアニメーションの中で生き生きと描かれ、すべての人にとって入り込みやすい場所でありながら、どこか異空間のような雰囲気も両立しているのです。 また登場人物の裏設定や舞台設定なども、作品をより親密に感じさせてくれる要素の一つ。女海賊ドーラの母親的な役割によって子供たちが支えられ、子供2人による壮大な冒険活劇ながらも、無理なくまとまっています。 さらには、産業革命の時代がテーマというしっかりとしたコンセプトに、『ガリバー旅行記』や『砂漠の魔王』といった複数作品のエッセンスが調和し、『天空の城ラピュタ』という一つの世界観を作っているのです。 宮崎駿の実体験やこれまでに蓄えた知識、そして完成された舞台設定や人物背景など、多くの要素が『天空の城ラピュタ』という一つの作品に「含み」を持たせていることが、本作品が魅力的である最大の理由ではないでしょうか。

『天空の城ラピュタ』は宮崎駿の才能が詰め込まれている!想像力を掻き立てる名作

『天空の城ラピュタ』について、都市伝説や裏設定を解説しながら、作品の魅力をひも解いてきました。 本作の魅力を一言で言い表すとすれば、漫画や古文書、実際の風景など多くの要素が絡み合い凝縮された、壮大な世界観。「ラピュタ」に限らず宮崎駿作品すべてにいえることかもしれませんが、彼の多くの経験を統一感ある世界に仕上げ、表現します。 そしてこの一つの世界観に含まれた多様な要素を受け取った観客は、みな想像力を掻き立てられることでしょう。宮崎駿監督のジブリ作品に都市伝説が多いのは、観た人が想像を膨らませて物語を拡大したくなるからではないでしょうか。