『ホーホケキョ となりの山田くん』あらすじ&ネタバレ感想!高畑勲のオムニバス映画の評価とは?
『ホーホケキョ となりの山田くん』あらすじ&ネタバレ感想
スタジオジブリ作品の中でも異色と評価されることが多い『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999年)は、高畑勲監督が手掛けた作品。原作はいしいひさいちによる4コマ漫画『となりの山田君』と『ののちゃん』です。 ほのぼのでグータラな山田一家の日常を描きジブリ作品に新風を吹き込んだ『となりの山田君』について、ネタバレありで詳しく紹介します。
「となりの山田くん」を
『ホーホケキョ となりの山田くん』あらすじ
山田一家はグータラな主婦・まつ子、サラリーマンの父・たかし、中学生ののぼる、小学生ののの子、そして祖母しげの5人暮らし。彼らの穏やかで、ちょっと笑える小話を繋げたものが本作の内容となっています。 劇的なドラマはありませんが、それこそが毎日淡々と続いていく日常そのもの。山田一家の日常をちらりと覗き見しているような内容の作品です。
『ホーホケキョ となりの山田くん』ネタバレ抜粋
作品本来の魅力や独特の空気感を存分に楽しむなら、全体を通して観るのがおすすめです。とはいえどのエピソードを抜き出して観ても楽しめるというのも、オムニバス作品ならではの魅力。ここでは編集部おすすめのエピソード3つを抜粋して紹介します。
【小話①】イントロ
のぼるはふと両親がもっと違っていれば、自分ももっと格好良かったに違いないとぼやきます。すると母からは「うちらが結婚せんかったら、あんたはこの世におらへんねんで」とごもっともなツッコミが。 母は新婚の頃を思い出します。人生の大海原を2人で漕ぎ始め、子宝にも恵まれました。土地の名義をめぐってしげとたかしが揉めたり、のぼるがそれを貰い受けようと口を挟んだり。そんな小さな波風がありつつも、のらりくらりと山田家は平和な日々を送っています。
【小話②】迷子ののの子
一家はデパートの帰り道、車にのの子が乗っていないことに気が付きます。慌てて一家は引き返しますが、当ののの子には迷子という自覚がなく、同じく迷子の少年と共に大人たちが迷子になったと考えていました。不安など一切ないのの子は少年の親探しを手伝うと、そのまま彼の親の車で連れ帰ってもらいます。 入れ違う形となった山田一家は大慌てで帰宅する羽目に。右往左往する親を他所に、のの子は少年の家で楽しく過ごして帰宅するのでした。
【小話③】正義の味方
近所の公演に夜な夜な不良たちがバイクでたむろするように。たかしは果敢に注意しに行きますが、案の定脅されてしまいます。そこにまつ子としげが加勢し、しげは得意の“口撃”で不良たちに「正義の味方、やんなはれ」と彼らのガタイの良さや声を褒めまくるのでした。 あまりに褒められてバツが悪くなった不良たちは退散していきます。たかしはその後ろ姿を見ながら、自分が『月光仮面』のようなヒーローになった姿を想像するのでした。
『ホーホケキョ となりの山田くん』感想
淡々とした日常がいい
人生に大切なことが詰まっている作品で、家族ドラマとしても秀逸。淡々とした日常がいい味を出しているんだけど、周りに魅力を伝えにくいのが難点。
ジブリ随一のスルメ作品
10年、20年と観ていきたい名作。スルメのように何回も噛み締めたくなる。地味に見えて繊細な描写はさすがのジブリ。
高畑勲の最高傑作という声も!「山田くん」の魅力とは?
完全デジタルへ移行したスタジオジブリ最初の作品となった「山田くん」。その大きな特徴は、原作漫画の雰囲気を表現した柔らかでシンプルな作画です。 デジタル彩色で手描きの水彩画のようなタッチを表現するのは、実はかなり大変。普通の工程に比べて実に3倍もの作画が必要となり、本作は『もののけ姫』の14万枚を上回る17万枚もの作画枚数となりました。 短編を繋ぎ合わせた内容にも関わらず奥行きとドラマが感じられるのは、この高畑監督がこだわり抜いた作画があったからこそ。味わい深い作画のおかげで、行間から家族の温もりや優しさを受け取ることができるのです。 “適当”な作画の山田家が教えてくれるケ・セラ・セラな人生の教訓は、そのまま本作の魅力となっています。
振るわなかった興行収入
イレギュラーな松竹による配給
興行収入という面では予想を大きく下回ってしまった「山田くん」は、ジブリ作品で唯一松竹から配給された作品です。従来であればジブリ作品は東宝配給となるところですが、本作のみ折り合いがつかず松竹配給に。 さらに営業担当者が不慣れだったことも本作にとって逆風に。ジブリ作品にも関わらず西日本の映画館ではほぼ公開されないという事態になったのです。不運とも言えるイレギュラーが重なり、本作の置かれる状況はより一層厳しいものとなりました。
“あえて”落とした興行収入?
鈴木敏夫プロデューサーは『もののけ姫』で爆発的ヒットを生んだ後に「山田くん」を手掛けています。彼は著書『ジブリの仲間たち』で「山田くんのような経験も必要」だとした上で「自由を取り戻すためには、どこかで数字をリセットしなきゃいけない」と当時考えていたことを明かしました。 業績不振の言い訳のようにも聞こえますが、記録を更新し続けるといったプレッシャーを本作でリセットすることができたのは事実でしょう。また最終的には黒字に転じており、「山田くん」の底力を感じます。
ジブリファンなら『ホーホケキョ となりの山田くん』は観ておきたい
地味な一家の日常を約100分を掛けて描く『ホーホケキョ となりの山田くん』はジブリファンなら必見の1作です。日常の小さな波風を描く内容ですが、それを長編アニメとして飽きずに楽しめるのは高畑勲監督のこだわりやスタジオジブリの技が光っているからでしょう。 食わず嫌いをしているなら、これを機にぜひ山田一家の日常を覗いてみてください。
「となりの山田くん」を