『千と千尋の神隠し』カオナシの正体を考察!モデルになった人物や声優は?
ジブリ映画『千と千尋の神隠し』に登場する謎多き存在「カオナシ」。 黒い身体にお面をつけたような顔、その下に大きな口を持っている不思議なキャラクターです。劇中では、はじめは大人しく主人公の千尋に懐いているようでしたが、後半には油屋を巻き込んでの大暴走を見せました。 カオナシの正体はいったい何だったのか、モデルは誰なのか、そしてなぜ千尋に執着していたのかなど、カオナシに関してさまざまな疑問を抱く人も多いのではないでしょうか。 そこでこの記事では、大ヒット映画『千と千尋の神隠し』のカオナシの正体に迫ります!
まずはカオナシの言動をおさらい
まずはストーリーをおさらいするとともに、カオナシの言動の変化を振り返っていきます。飛ばして考察から読みたいという場合は、ぜひ目次を利用してください。
千尋との出会い、そして交流
ハクとともに橋を渡っている千尋を見かけたカオナシは、千尋を求めるようになり彼女に付いていきます。そして千尋は、雨の夜に濡れながら油屋の外に佇むカオナシを見て、客だと勘違いして湯屋の中へ招き入れてしまいました。 この時点でのカオナシは「あ…」「え…」などの意味のない声を出すのみで、言葉を発することができず、お面の表情も変わりません。 千尋を喜ばせたい思いが強いようで、番台蛙から薬湯の札を盗んで千尋に渡したり、大量の金を手から出して差し出したりします。カオナシは人が欲しがるものを手から出す力を持っているのです。 千尋はそれを受け取らず拒否しますが、カオナシはなぜ拒否されるのか理解できない様子です。
油屋で大暴れ
やがて、油屋へ訪れていた神様である「オクサレ様」の身体から溢れた砂金に喜ぶ従業員を見たカオナシは、偽物の金を餌にして油屋の従業員・青蛙を飲み込み、青蛙の声を使って喋るようになります。 カオナシが大量の金を出せると知ったほかの従業員たちは、金をもらおうと彼を精一杯接待しはじめ、大量の料理を食べたカオナシは巨大化していきます。 しかしやっぱり千尋には、金を出しても拒否されるカオナシ。理解できず戸惑いながらも、そこへやってきた従業員たちを飲み込んで、さらに巨大化していくのでした。 そして再び千尋と対面しますが、またもや彼女に拒絶されたうえ苦団子を食べさせられ、カオナシは怒りで暴走。飲み込んだものたちを嘔吐しながら油屋の中で千尋を追いかけ回すのです。
銭婆のもとで暮らすことに
飲み込んだものをすべて吐き出したカオナシは、元の姿へ戻っていきました。千尋はその足で、ハクを助けるために海上を走る電車に乗って銭婆のもとへ行こうとするのですが、「こっちだよー」とカオナシを呼びます。 千尋は、カオナシが油屋の中にいるのは良くないと思ったため、誘い出したのです。千尋に呼ばれたカオナシは、大人しく付いていきます。 そしてカオナシは、銭婆に「おまえはここにいな。あたしの手助けをしておくれ」と言われ残ることになりました。居場所を見つけたカオナシは穏やかになります。 そして、それまでは時々見える程度だった足が、帰る千尋たちを見送る時にははっきりと見えるようになっていました。
カオナシの正体を考察!欲望の象徴?
カオナシは欲望に忠実な「悲しい存在」
金で千尋を誘惑する姿から、キリスト教において修行中のイエス・キリストを誘惑した悪魔サタンではないかという説や、欲望にまみれた者に罰を与える神様だという説もあるカオナシ。 しかし金で物事を解決しようとしたり人を操ろうとしたりする様子から見るに、カオナシの真の正体は「欲望」という概念そのものを実体化したキャラクターだと考えられます。 うまく人とコミュニケーションが取れず、居場所を求め、思い通りにならなければ暴れるというキャラクター像は「今どきの若者」のよう。 反対に、お金はあるものの自分の存在意義や人との繋がりを失い、お金でしか人の心を振り向かせることができない大人(社会人)のようにも思えますね。 いずれにせよ、純粋な主人公・千尋とは対照的な、欲望に忠実な存在がカオナシの正体であることは間違いないでしょう。
カオナシは「誰の心の中にもいる」
宮崎駿監督は、「カオナシは誰の心にも存在する」と発言しています。つまり、“カオナシの正体=人間の心の弱い部分”とも考えられるのではないでしょうか。 居場所がなくて寂しくて、存在意義がなくて不安。自分の正体が何者なのか、自分でも分からない。自分の言葉ではうまく話せず、人の心もいまいち理解できない。人に拒絶されるとどうすれば良いのかわからない……。どこか身に覚えがあるという人もいることでしょう。 カオナシを見ていると悲しい気持ちになるのは、多かれ少なかれ自分と重なる部分があるからかもしれません。 最終的には、銭婆のもとで心休まる生活を手に入れたカオナシ。この結末は「誰にでも居場所はある」というメッセージだと捉えられます。
なぜカオナシは千尋を求めたのか?
カオナシがはじめに千尋を見かけたとき、千尋はハクの術で気配を消していたはずが、カオナシにだけはなぜか彼女の姿が見えていました。その時カオナシは、“自分と同じ居場所のない存在”である千尋に興味を持ったのかもしれません。 しかしその後、千尋は居場所を見つけ、さらにカオナシを湯屋に招き入れるという親切な行為をします。それにより、カオナシは千尋に自分の居場所があるかもしれないと固執しはじめたのではないでしょうか。 しかも千尋は、ほかの者たちのように欲がありませんでした。欲望のない千尋が不思議で仕方ないカオナシは、より千尋に興味を抱き、そんな彼女を手に入れたくなるのです。 その後、彼女が思い通りにならず暴れるカオナシですが、落ち着いた後は千尋に素直に付いていきます。一貫して、カオナシは自分の居場所を求めている寂しい存在なのです。
カオナシのモデルはあの監督だった!
カオナシのモデルといわれているのは、映画『借りぐらしのアリエッティ』を手がけた米林昌宏監督です。このことは『千と千尋の神隠し』のヒット祈願イベントで、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが語っていました。 プロデューサーが明かしたこの逸話について、坊の声を演じた神木隆之介も会った瞬間「あっカオナシだ」と思ったと便乗しています。 しかし実際には、米林自身によってこの話は後付けだったことが判明。「ジブリの立体建造物展」の動員10万人突破記念セレモニーにて「自分が描いたカオナシを見て宮崎監督が、まろ(米林のニックネーム)にそっくりじゃないか、と言ったところから広まった」と明かしています。
カオナシの声優を務めたのは中村彰男
カオナシが口にするセリフといえば、「あ、あ……」や「イヤダ……」「笑ったな?」というほとんど意味をなさないもの。この声は誰が演じているのかさまざまな憶測が飛び交っていましたが、実際には中村彰男という俳優兼声優が担当していました。 中村は1983年の初舞台『オセロー』への出演以来、主に舞台俳優として活躍。ドラマ『銭形平次』にも登場していました。カオナシの声を担当してからは声優業にも挑戦し、アニメ『交響詩篇エウレカセブン』などに出演しています。
カオナシの正体は結局……?
カオナシについて宮崎駿は著書『千尋と不思議な町』の中で、「時間の都合でストーリーを再構成したとき、画面の隅にいるだけの名無しのキャラクターにカオナシという名前を与えて、後半の主役にした」と語りました。 そんなふとしたきっかけで生まれたカオナシですが、悪魔や神様、人間の欲望そのものなど、その正体についてはさまざまな考察が存在しています。 改めて『千と千尋の神隠し』を観ながらその存在についてじっくり考えてみると、大切なことを教えてくれるかもしれません。1度“あなたの中のカオナシ”と向き合ってみてはいかがでしょうか。