2019年7月18日更新

【ジブリ】鈴木敏夫プロデューサーインタビュー “ 長編ばかりがジブリじゃない”

鈴木敏夫プロデューサー、ジブリ
©ciatr

数多くの長編映画を送り出してきたスタジオジブリですが、宮崎駿をはじめとする名だたる監督が実験的挑戦に取り組んできた短編も名作揃い。 今回は、鈴木敏夫プロデューサーから短編制作にまつわる貴重な話を伺った。

鈴木敏夫プロデューサーインタビュー ジブリ短編(ショートショート)制作の裏側に迫る

数々の名作を世に送り出してきた、スタジオジブリ。 ジブリといえば、『となりのトトロ』『千と千尋の神隠し』など長編映画が一般的ですが、短編も名作揃い!宮崎駿をはじめ、近藤喜文、百瀬義行など名だたるアニメーターが遊び心満載の挑戦的作品を生み出している。 今回は、『ジブリがいっぱいSPECIAL ショートショート 1992-2016』の発売を記念して、ジブリ鈴木敏夫プロデューサーから、ジブリの短編の制作秘話やアニメーション制作の極意に至るまで興味深い話の数々を伺った。 スタジオジブリは、なぜ短編を制作し続けているのか?

ジブリ鈴木敏夫プロデューサーが考える優秀なアニメーターの条件とは?

ジブリ鈴木敏夫プロデューサー
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まずは、優秀なアニメーターの条件とは?という問いに対しての、鈴木敏夫プロデューサーの回答から紹介したい。 鈴木:「アニメーターってね、実写の世界でいうと役者さんなんですよね。だから、アニメーションをみていただくと分かるように、色んな動きがあるじゃないですか。ご飯食べるとか動くとか。それがね、的確というか上手というか。」

リアルな芝居が秀逸だった近藤喜文

さらに、優秀なアニメーターの一例として、名前を挙げたのが『耳をすませば』で知られる近藤喜文だった。 鈴木:「例でいうと、『となりのトトロ』を宮崎駿が作ろうとしたとき、自分で絵を描こうとは思わなかったんですよ、本当は。それで近藤喜文っていう人、このひとは、リアルな芝居が上手。リアルって言うのが、どういうことかっていうと、あそこには4歳の女の子が出てくるじゃないですか。 そういう子が身近にいるとわかりやすいんですけど。歩くときにまっすぐ立って歩く人っていないですよね。前のめりか、後ろのめり。そうすると、宮崎駿っていう人は、漫画のアニメーションが基本だからあんまりやってこなかった。 ところが、近藤喜文という人はそれができるアニメーターでした。それで宮崎駿は、近藤喜文にトトロの絵を描いてほしい、なんてこともあった。ようするに、芝居をできる。つまり、色んな人の、色んなものをみていて、芝居を観察する。観察したものをその作品の中に活かす。そういうことができる人ですよね。」

あのフワフワ感を出せるのは宮崎駿だけ

一方、トトロのあの柔らかな曲線を描けるのは、宮崎駿監督の他にはいないという。 鈴木:「例えばね、トトロ、おなかを押すとへこみそうでしょう。これ、書くの大変なんですよ。ジブリに色んなアニメーターがいますけど、線だけで書いてね、お腹を押しても硬そうになるんですよ。この感じを出せるのは、トトロに関しては、宮崎駿だけ。 将来これをリメイクする人が出てきたとして、やはりおなかは固いんじゃないでしょうか(笑)。あのふわふわした感じ、柔らかさを表現できるのは宮さんだけ。やっぱりうまいですよね。」

スタジオジブリはなぜ短編を作り続けるのか

鈴木プロデューサー曰く、ショートショートは長編に比べてあまり実入りのいい仕事ではなかったという。 鈴木:「どういうことかというと、アニメーションの場合、お話もさることながら、キャラクターが必要でしょう。どういう家に住んでいるかなど、状況設定によって、大道具、小道具に相当するもの考えなくてはいけない。それで音楽も作る、声も入れる。15秒でも、2時間でも、やらなきゃいけないことは同じなんですよ。だから効率が悪いと思ったことがありました。」

短編で目指すのは、アニメーションの根源的面白さ

では、キャラクターや設定を生み出し、時間をかけた数秒の短編作品から、長編作品を作りたいと考えたことはなかったのだろうか? この問いに対して、鈴木プロデューサーは即答で、「それはありません」と答えてくれた。その後続いた言葉に、ジブリが短編を続ける理由の一端を感じられた気がする。 鈴木:「(短編は)実験的要素が多いです。アニメーションの究極的なものは何かというと、四角と三角の物を動かす。そういものをやってみたい。すると、ものに命を吹き込み、動く楽しさって、ものすごく単純なものになっていくんですよ。そういうものを動かして楽しかったらいいでしょう。多分子供が一番喜ぶと思っているんですよ。だから本当はショートショートではそういうものをやっていきたい。」 ジブリの短編は、腕扱きのクリエイターたちにとって、アニメーションの根源的面白さの追求や、実験的挑戦に挑む絶好の機会になっていたのだろう。

ジブリとCM

ジブリ鈴木敏夫プロデューサー
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2001年頃から、ジブリはこれまで断っていた企業CMを手がけ始めるが、そこにはどんな背景が隠されていたのだろうか。 映画協賛企業のオファーを断りきれなくなったことがひとつ。もうひとつは、ジブリの若いクリエイターに勉強する機会を提供したいという目的があった。そして、3つ目の理由がとても意外なものだったのでここで紹介したい。 鈴木:「ジブリにも色々なアニメーターがいて、腕はある社員だけど仕事をやってくれないっていう面倒くさいのがいるんですよ。その方たちにジブリにいる言い訳を作る絶好の機会だなと。どういうことかというと、CMやって稼いでいるから会社に貢献している。すると、色んな人に言い訳できるじゃないですか。」 ジブリの中には、腕はあるが、中々仕事を引き受けてくれない社員がいるという。『千と千尋の神隠し』制作当時、宮崎駿がいくら頭を下げても引き受けてくれないアニメーターがいたというエピソードもあるほどだ。 そういった社員がジブリにいられる言い訳を作る絶好の機会だったと鈴木プロデューサーは語ってくれた。 鈴木:「ジブリの中で大変な腕をもちながら仕事をしない。昔ね、実を言うとそういう人たちって、色んな世界にいっぱいいたと思うんです。だけど減ってきたというか。そういった方たちを中心に、日頃、やってみたいと思っていたことを、CMの世界でやる。それが面白かったですよね。」

CMであっても、ジブリのやりたいことを追求する

CMとなれば、企業や商品を目一杯アピールしたい、クライアントの要望と、クリエイターの作家性がぶつかり合うのではと考えてしまう。では、ジブリは作品のクオリティとクライアントの要望のバランスをどうとっているのか。これまでの、ジブリが手がけてきたCMを振り返る限り、作品のクオリティに一切の妥協を感じない。 それをなし得るのはなぜか。答えは、「好きなようにやれるものだけをやる」という、驚くほどシンプルなものだった。 鈴木:「まずは好きなようにやらせてくれませんか、それで駄目ならやめましょう。態度でかいですよね。(笑)。でもそのほうが良いものができると思っているんです。」 鈴木プロデューサーは新しい担当者から、CMのオファーが来るとこの条件を提示し、のめない場合は、オファー自体を受けないという。

宮崎駿の映像的記憶力

宮崎駿が描き出すキャラクターや風景は、わたしたちの心を掴んでなぜ離さないのか?鈴木プロデューサーが宮崎駿に感心するのは、日常体験を絵として覚えて頭の中に焼き付ける、映像的記憶力だという。 鈴木:「彼が例えば、キャラクターを描く。必ずモデルがいますよね。空想で描けない。実を言うと建物も。風景も。ようするに、自分で観たものを再構成している。だから、全く何もなしで描けと言われると描けない。自分が、そうやって描いてきて、どこかで使い切る。今まで溜めてあったものを。使い切るとね、取材にいくんです。観に行く。それで刺激を受けてまた書けるんですよ。ちょうどポニョのときに、ちょっと枯渇してきたなと感じていた(笑)。使い切ったんですよ。」

宮崎駿と他のアニメーターとの決定的な違い

人間の目はふたつ、レンズはひとつ。言われてみれば当たり前のことだが、わたしたちが宮崎駿監督の絵に自然に惹かれてしまう理由はここに起因しているのかもしれない。 鈴木:「目に焼き付けて絶対写真に撮らない。写真に撮ると、人間の観たものと違うんですよ。人間の目って2つあるでしょう。それでモノ見てるでしょう。それとカメラで見たものと全部違うんですよ。彼は自分で見たふうに描くから。そこが他のアニメーション映画とちょっと違う。 みんな写真を見ながら描いている。これは批判じゃなくていうと、新海さんなんかも、写真をそのまま使ったりするでしょう。それは、人間の見たものじゃないですよね。しかも新海さんの場合、空を実際より高くしたり、雲を全部とって小さくしたり、大きくしたり、それはそれで面白いんですけど。 やっぱり、宮崎駿の自分の見た目で、それを記憶しといて描くのを比較すると、どちらが人間的かというと、宮さんのほう。それは普段我々がそうしているからです。だってぼくらは自分の目で色んなモノをみるでしょう。写真で撮ったものは必ず違うから。みなさんも多分無意識のうちに経験されているでしょう。だから色んなことやらなきゃいけないんじゃないかな。」

ジブリの意外な一面に出逢えるショートショート

ジブリ ショートショート
(C)2019 Studio Ghibli

宮崎駿監督作品としては、『天空の城ラピュタ』以来の本格アクション活劇となった、CHAGE and ASKAの楽曲「On Your Mark」のプロモーションフィルム、鳥獣戯画を元にオリジナルの物語が語られる丸紅新電力のCM、中田ヤスタカと百瀬ヨシユキ(義行)異色のタッグが生み出したcapsuleのミュージック・クリップなど、ジブリ渾身の短編が詰まった『ジブリがいっぱい SPECIAL ショートショート 1992-2016』は、2019年7月17日発売。 さらに、ショートショートの中には、「金曜ロードショー」オープニングのキャラクターや日清製粉グループの企業CMに登場するコニャラなど、鈴木敏夫プロデューサーが生み出したキャラが多数登場しているので、その点も注目だ。 この夏、長編とはひと味違う、ジブリの新たな一面に出逢ってみてはいかがだろうか。 ■発売情報:『ジブリがいっぱいSPECIALショートショート 1992-2016』 2019年7月17日(水) 発売 ブルーレイ:4,700円+税、DVD:3,800円+税