『天気の子』評価が賛否両論になった理由とは 新海誠監督はあえて「意見がわかれる映画」を作った?
2016年に記録的大ヒットを飛ばしたアニメ映画『君の名は。』の次作として、3年ぶりに新作『天気の子』を公開した新海誠監督。評価は大きく賛否が分かれ、当の監督も「意見がわかれる映画になる」と発言しました。 この記事では、レビューサイトやciatr編集部から出た賛否をもとに、その理由を解き明かしてみたいと思います。 ※本記事は映画『天気の子』のネタバレを含みます。未鑑賞の場合は注意してください。
新海誠監督の『天気の子』はどんな話だった?
『天気の子』は、高校1年生の帆高が家出先の東京で、働きながら幼い弟と2人で生活する少女・陽菜と出会う物語です。 陽菜は、異常気象で雨が降り続く東京を一時的に晴れにすることができる「100%の晴れ女」。しかしこの特殊な力は、犠牲を伴うものでした。 重すぎる役割を背負った陽菜に惹かれていく帆高を主人公に、2人が運命に抗う様子を描いています。
『天気の子』への評価は賛否両論だった
『天気の子』の公開後、「週プレNEWS」が独自のアンケートを行なっています。20〜40代の男性100人に肯定派か否定派か聞いたところ、肯定派は52%、否定派は48%と拮抗していました。 ciatr編集部でも、『天気の子』は「好きな作品に入る」「どちらかというと好きじゃない作品に入る」というアンケートを取ったところ、見事に半々の意見に分かれています。
大手レビューサイトの星評価では、『君の名は。』と比べると『天気の子』は若干ですが低い数値に。 ■映画.com『天気の子』3.6/『君の名は。』 4.0 ■filmarks『天気の子』3.7/『君の名は。』 3.8 興行収入も250億円を突破した『君の名は。』と比較すると、『天気の子』は141億円を超えたとはいえ大きな差が生まれました。
作品を好きな人の意見は?
『天気の子』を好きな人はどんなレビューを残しているのでしょうか?まずは肯定的な意見をまとめてみましょう。
映像と音楽の美しさ
やはり多いのは、映像の美しさを絶賛するものです。これまでにも繊細かつ緻密な描写で注目を集めてきた新海誠監督作品。本作では目まぐるしく移り変わる「天気」を通して、その魅力が存分に発揮されていたのではないでしょうか。 そして『君の名は。』から続いてタッグを組んだRADWIMPSとの相性が抜群!という声も。壮大な世界観を絶妙に引き立てる音楽に、胸を打たれた人も多くいたようです。
若さゆえの無謀さを支持
帆高の若さゆえの無謀さをあえて支持する意見もあります。異常気象が続く雨模様の東京を閉塞感漂う現実と重ね、それをぶち破った帆高を支持するという意見が、多くの人の共感を得ているのです。 映画というフィクションだからこそ、そこには自由や希望があってほしいと思うもの。現実離れした無謀な挑戦をする帆高の姿は、まさに自由や希望を体現しています。そんな帆高の挑戦に勇気をもらったという人もいるようです。
気持ち悪い?作品を好きじゃないと感じる人の意見
続いて『天気の子』に否定的な感想を抱いた人の意見を見ていきましょう。
帆高の行動に共感できない
肯定派の意見とは対象的に、帆高の若さゆえの行動に共感できないという声も見られます。よく目にするキーワードは「自己中」や「厨二病」といったもの。 肯定派が支持する「若さ」や「自由」を利己的な「幼さ」と取るだけで、ここまで否定的な意見が生まれるとは!現実離れしすぎた帆高の行動が理解できない、感情移入できないという人も多いようです。
理想が詰め込まれすぎている
監督の理想やロマンが詰め込まれすぎていることに、気持ちの悪さを感じたという人も。キャラクターの服装やセリフから、思春期の少年の妄想を具現化したような部分を感じ、気恥ずかしさを覚えた人もいたようです。 加えて、子ども向きに作られているという感想や、ご都合主義の展開だと批判する声も上がっていました。
なぜ絶賛ではなく賛否両論となったのか?
ブームを巻き起こした前作『君の名は。』と、どうしても比較されてしまう『天気の子』。とはいえ大多数の支持を得た『君の名は。』ですら、否定的な意見は存在します。そもそもどんな作品にも賛否はあるものです。
『君の名は。』以前の新海誠作品は、もっとコアな層向けだった
以前の新海誠監督作はコアなファンが多く、万人受けするような作風ではありませんでした。『秒速5センチメートル』(2007年)や『星を追う子ども』(2011年)も、新海誠監督独特のロマンチックな展開や切ない結末に対する賛否は激しく分かれています。 ではなぜ『君の名は。』はこんなにもヒットしたのか。それにはひとつ、途上人物たちへの共感のしやすさがあるのではないでしょうか。 主人公の2人は都会と田舎にそれぞれ住んでいる普通の高校生。誰にでも起こりうると思える恋の訪れが、感情移入しやすかったポイントではないでしょうか。
主人公に共感できないなら、周辺人物に思いを馳せてみよう
一方で『天気の子』の主人公は家出少年や親のいない姉弟といったかなり特殊なキャラクター。現代日本ではかなりレアな設定だっただけに、共感できない人が前作に比べて多かったのだと思われます。 銃を手に社会を逸脱した犯罪者として追われる展開や、世界の救済より個人の幸せを選んだ帆高に感情移入できないのは、私たちが恵まれて育った証拠なのかもしれません。 しかし映画をよくよく見てみると、周辺キャラクターである須賀や夏美は、多くの現代人と同じような育ち方や価値観を持っています。彼らに注目してその葛藤に思いを寄せてみると、『天気の子』がもっと楽しみやすい映画に感じられるのではないでしょうか。
新海誠監督自身も「意見がわかれる映画になると思う」と語っていた
「MOVIE WALKER PRESS」による新海誠監督のインタビュー記事には、『天気の子』への批判を踏まえて、何が描きたかったのかが語られています。それは「帆高VS社会」という構図の中で、賛否両論を呼ぶほど“人の心を動かす”作品。 監督自身も、帆高の反社会的行動を“許せない”と感じ、感情移入できない人もたくさんいると思うと語っています。確かに帆高の言動はSNSだったら炎上するようなことかもしれないとした上で、エンターテインメント作品の中ならそんな“正しくないことを主張する”こともできると考えたそう。 これは、あえて批判を呼ぶような作品を放って問題を提起し、賛否を含めて意見を活発にするという逆説的な手法といえるでしょうか。 ただし、結末には自分の作家性が“にじみ出た”とも告白しています。監督のものづくりへの情熱は、陽菜を救おうと走る帆高のひたむきさにつながるものだったのです。
賛否両論あってこその『天気の子』!あなたはどちら?
多くの共感を呼んだ大ヒット作『君の名は。』の次に、新海誠監督があえて描いたのは賛否両論を巻き起こす問題作『天気の子』。そこには監督のものづくりへの情熱とエンタメ作品の可能性への信頼がありました。 鑑賞済みの人はこれらのことを踏まえたうえで、ぜひもう一度『天気の子』を鑑賞してみてください。監督が意図した仕掛けに気づき、新しい発見があるかもしれません。