ジブリ『海がきこえる』あらすじ&ネタバレあり解説 アニメ版では描かれないその後の話とは?
ジブリ『海がきこえる』をあらすじと一緒に解説【ネタバレ注意】
隠れた名作青春アニメとして根強い人気を誇る『海がきこえる』は、スタジオジブリが手掛けた長編作品の中で唯一テレビアニメとして制作された異色の作品です。 本記事では、そんな男女の恋愛を真っ向から描いた『海がきこえる』のあらすじをネタバレありで紹介。ジブリらしくない本作が生まれた経緯や、原作で描かれたアニメのその後についても解説します。 この記事には『海がきこえる』のネタバレが含まれています。未鑑賞の人は注意してください。
アニメ『海がきこえる』あらすじ
高知の中高一貫校を出て東京の大学に進学した主人公の杜崎拓(もりさきたく)は、吉祥寺駅のホームでよく知る人物に似た女性を見かけます。その女性とは高校時代に東京から転入してきた武藤里伽子(むとうりかこ)という人物でした。 拓は同窓会のため高知へと帰省することに。飛行機の中で拓は、里伽子と出会った高校時代の想い出を振り返るのでした。 ここから高校時代の回想をメインに物語が進んでいき、彼にとって里伽子という女性がどんな存在だったのかが少しずつ明らかになっていきます。
アニメ『海がきこえる』ネタバレ
転校生・里伽子の存在
高2の拓には松野豊(まつのゆたか)という尊敬する親友がいました。ある日拓は突然松野に呼び出され、東京からの転校生・里伽子の話を聞かされます。松野が里伽子に惚れていることに勘付いた拓は、どこの誰かも分からない女に松野の良さは分かるわけがないと、内心毒づくのでした。 才色兼備で都会っ子な里伽子はクラスで浮いた存在でしたが、拓はクラスも違うため特に彼女と関わることもなく、やがて修学旅行の季節になります。 旅行先のハワイで拓は突然里伽子に、所持金をなくしたからお金を貸して欲しいと頼まれます。お金の管理の甘さを拓が注意すると里伽子は反発しましたが、2人は会話をしていく中で次第に打ち解けた雰囲気に。拓は「誰にも言わないで」と念を押されながら、結局6万を里伽子に貸すのでした。
里伽子と東京へ
高3に進級し拓と里伽子は同じクラスになりました。里伽子は拓に借りた金で東京にいる父親に会いに行こうとしており、成り行きから拓が同行することになります。 東京で父親には会えましたが、すでに新しい家族がいました。ショックを隠しきれない里伽子はその夜、拓の部屋で泣いてお酒を飲んで寝てしまい、拓は仕方なくバスタブで夜を明かします。 翌朝、拓は里伽子とその元カレの岡田とお茶をすることに。軽薄な恋バナに花を咲かせ、自分の母親を悪く言う岡田にもニコニコしている里伽子に苛立ち、拓は「くだらない」と席を離れます。拓の言葉で里伽子は岡田のような男と付き合っていた自分を恥じ、そう語る里伽子に拓は大人っぽさを感じるのでした。
松野との喧嘩
東京旅行後、里伽子が酷い言葉で松野を振ったと知って拓と里伽子は互いにビンタを食らわして疎遠になります。やがて秋になり文化祭の準備の最中、拓は里伽子が女子に吊るし上げられている現場に遭遇しますが、見て見ぬ振りをしてしまいました。 そのことを知った里伽子はどこかへ泣いて行ってしまいます。 事情を知った松野がなぜ止めなかったのかと尋ねると、拓は「止めたってまた文句言われるだけだし」と言うのでした。 その瞬間、松野は拓を殴り飛ばし「お前は馬鹿だ」と去っていきます。それ以来2人は卒業まで口をきくことはありませんでした。
再会
回想が終わり、空港には拓を迎えに来た松野の姿があります。松野は拓も里伽子が好きなのに自分に遠慮していることに気づいたので怒ったのだと打ち明け、2人は和解しました。 同窓会に里伽子の姿はありませんでしたが、友人伝いに拓は、里伽子には東京に会いたい人がいてその人はバスタブで寝てしまう人なんだと聞かされます。 東京に戻ると再びホームであの女性を見かけ、拓は慌てて駆け寄りました。その女性は紛れもなく里伽子だったのです。彼女と再会して、拓が「ああやっぱり彼女が好きなんだ」と実感するところで物語は終わります。
小説版でわかる再会した拓と里伽子のその後
小説版では大学生編をメインとした『海がきこえるII~アイがあるから~』が出版されています。 新たに拓の大学の先輩・津村知沙(つむらちさ)が登場。妻子持ち男性との恋を断ち切れない知沙、両親の離婚原因となった女性のことで悩む里伽子。そんな2人のわがままに振り回されながら、拓や2人が成長していく姿が描かれていきます。 拓と里伽子の恋はゆっくりと進み、クリスマスデートをする仲に。途中で「拓」呼びになるなど、2人の関係性は少しずつ恋人へと近づいていきます。
原作は『アニメージュ』連載の小説
『海がきこえる』の原作者は、当時「コバルト四天王」の1人に挙げられていた集英社コバルト文庫の看板作家・氷室冴子です。 徳間書店の『月刊アニメージュ』編集部は、アニメ色の薄いメジャー作家による連載を構想しており、そこで編集者・三ツ木早苗の目に止まったのが集英社お抱え作家の氷室でした。 三ツ木は同誌での連載小説を原作にジブリで映像化するという内容で、見事に氷室の心を射止めます。集英社からの“引き抜き”に成功したことで、『海がきこえる』の連載及びジブリアニメ化が実現したのです。
『耳をすませば』は『海がきこえる』に触発されて生まれた
リアルな青春を描き出す『海がきこえる』は、思春期の感情のやり取りや成長を真っ向から扱う作品。ジブリが得意とするファンタジー要素や現代社会へのメッセージといった要素はほとんどありません。 若手に任せたこの『海がきこえる』の内容に物足りなさを感じた宮崎駿が、『耳をすませば』の制作に取り掛かったという噂もあります。映画評論家が宮崎との対談で2作を比較して『海がきこえる』の方を褒めた際に宮崎は反論しており、『海がきこえる』に対し宮崎が思うところがあったのは間違いないのでしょう。
『海がきこえる』は青春アニメの隠れた良作
ジブリらしさが薄い『海がきこえる』は、地上波でも放送される機会が少なく他のジブリ作品に比べると地味な作品かもしれません。しかし良質な青春アニメであることは間違いありません。 思春期特有のリアルな人間関係や青春を味わいたいならおすすめの1本。他のジブリ作品とはまた違う、甘さやほろ苦さ詰まった青春をぜひこの『海がきこえる』で堪能してみてください。