2021年7月23日更新

『もののけ姫』の悪役・ジコ坊はエリート現代人だった!正体や処世術を読み解く

『もののけ姫』(1997年)

『もののけ姫』に登場する謎の老人・ジコ坊。アシタカを助けたり、彼と対立したりとシーンによって立場を変えていった彼は、いったいどんな人物なのでしょうか。その正体から処世術、声優などを紹介しましょう。

『もののけ姫』ジコ坊は何者?ただの悪役じゃない魅力を解説

1997年に公開され、大ヒットとなったスタジオジブリの『もののけ姫』。この作品に登場するジコ坊は、作中で数々のトラブルを巻き起こす、いわば悪役といえる立場のキャラクターです。 しかし実はその正体は、単なる悪役ではない多面的な人物。ここでは彼の基本情報から複雑な人物像、そして宮崎駿が彼に託したイメージまでを掘り下げて考察していきましょう。

ジコ坊の基本情報、正体

名前 ジコ坊
所属 「唐傘連」のリーダー格
目的 勅命によりシシ神の首をとる
性格 ・世俗を知る成熟した大人
・人助けをする優しい面も

所属する唐傘連って?

ジコ坊が指揮をとっている唐傘連は、師匠連という組織の下に位置する架空の組織です。ジコ坊が帝からの書状を持っていたことから、朝廷と連絡を取れるほど社会的地位が高い組織であると思われます。 メンバーは皆、ジコ坊と同じ赤と白の着物に頭巾をかぶった服装をしています。常に巨大な唐傘を持っていますが、実はこれは柄と笠の部分をバラバラにして、柄を長い吹き矢として使うことが可能。そのほかにも暗器や煙玉といった、忍者のような武器を使って戦います。 これらの服や武器、そして名前に「唐」という文字が入っていることから、中国にルーツを持つ組織である可能性も考察されています。

仕事ができる男・ジコ坊を公私で読みとく

ジコ坊は単純な悪役とは違った複雑な人物です。手段を選ばず冷静に仕事をこなす姿と同時に、基本的には善人であることをうかがわせるシーンもあります。 ここではそんなジコ坊の人物像を、公私に分けて見ていきましょう。

【公】勅命を冷静に遂行するエリート

スタミナと隠密能力に長けている

『もののけ姫』

外見は小柄な老人であるジコ坊ですが、その身体能力には眼を見張るものがあります。 一本歯の高下駄を履いているにもかかわらず、ヤックルと並走したり、渓谷ではひょいひょいと岩を飛び越えて渡ったり、ダイダラボッチから1晩逃げ切ったりする彼。スタミナと隠密行動に長けていることがわかるシーンがちらほらあり、ただ者ではないことがうかがえますね。

呪いの力を借りているアシタカと対等に渡り合う

『もののけ姫』

また作中では、ジコ坊の戦闘能力が高いことがわかるシーンもあります。彼はアシタカと戦った際、呪いの力で強くなっているアシタカと対等に渡り合い、その実力を見せつけました。 作中に登場する人間のキャラクターでは、最強レベルの戦闘能力を持っていると言えるでしょう。

エボシと連携してシシ神の首をとる

『もののけ姫』

「森を焼き払い、シシ神の首を狩ること」を目的としていたジコ坊は、タタラ場を取り仕切っていたエボシ御前と協力してその目的を達成します。 しかし彼には、エボシを単なる捨て駒としか考えていない腹黒い側面もありました。目的のためには手段を選ばず、1度は助けたアシタカを攻撃を向けることも躊躇していません。 よく言えば任務を確実に遂行する、頭の切れる人物だと言えます。

【私】優しい一面もある、人生を達観した素顔

アシタカを助け 雑炊をわける

物語冒頭、アシタカは砂金で米を買おうとして断られてしまいます。そこへ通りかかったジコ坊は、その価値を店主に説明し、見ず知らずの青年を助けました。 その後2人は行動をともにし、夜には持っていた味噌とアシタカの米を使い雑炊を作り、一緒に食べます。当時はアシタカが提供した米よりも、ジコ坊が持っていた味噌のほうが高価だったことを考えると、これは太っ腹な行動だったと言えるでしょう。 仕事のためには冷酷さを発揮するジコ坊ですが、利害関係が絡まない限りは他人に親切な善人であるようです。

「人はいずれ死ぬ。遅いか早いかだけだ。肝心なことは死に喰われんことだ。」

『もののけ姫』

アシタカとともに雑炊を食べるシーンで、ジコ坊はこのように語っています。 このセリフから、これまでさまざまなことを経験してきた彼の人生観がうかがえます。ジコ坊は生きるために必死に働き、人生を達観する価値観を手に入れたのではないでしょうか。 まだ若く、タタリ神による死の呪いを受けたアシタカに、死を恐れて大切なことを忘れてはいけないと言いたかったのかもしれません。

宮崎駿「ジコ坊らは日本人そのもの」

『もののけ姫』公開の際、監督の宮崎駿はインタビューで「ジコ坊らは日本人そのもの」と語ったと言われています。 彼は基本的には善人でありながらも、帝の勅令に忠実に従う中間管理職的な立場の人物です。素顔は優しいのに、仕事となれば感情を排し、さまざまな処世術を駆使して淡々と仕事をこなします。 そうした性格には、現代の日本人に通じるものがあるのかもしれません。

アシタカ、サンとの対比構造

もののけ姫

ジコ坊とエボシは、主人公であるアシタカやサンとは対極にあるキャラクターです。 若く理想に燃える、ある意味では青臭いアシタカやサンに比べ、ジコ坊やエボシはさまざまな経験を通して世俗を知った、人生を達観した人物として描かれています。 ジコ坊の「いやあ、まいった、まいった。バカには勝てん」という最後のセリフには、多くの日本人が抱く、純粋で簡単には社会の規範に従わない若者たちに対する羨望のようなものが込められているのではないでしょうか。

声優:小林薫

ジコ坊の声優を務めたのは、「Dr.コトー診療所」シリーズや「深夜食堂」シリーズなどで知られる小林薫です。 1970年代に唐十郎が主宰する状況劇場に在籍していた彼は、1977年に『はなれ瞽女おりん』で映画デビュー。その後、『恋文』や『それから』(ともに1985年)など数多くの映画やドラマに出演しています。 2007年に公開された『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』では、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞しました。 近年では、映画『花束みたいな恋をした』や『Arc アーク』、大河ドラマ『晴天を衝け』(すべて2021年)、などに出演しています。

『もののけ姫』ジコ坊は現代に生きる私の目にどう映るか

もののけ姫

仕事を確実に遂行するエリートでありながら、人間臭さも持ち合わせたジコ坊。『もののけ姫』のなかでは腹黒さを見せることもあれば、成熟した大人としての含蓄のあるセリフを発することもあり、それでいてコミカルな存在感を発揮する、多面的な魅力のあるキャラクターです。 彼の活躍に注目して『もののけ姫』を観てみるのも面白いかもしれませんね!