2019年1月11日更新

『耳をすませば』カントリーロードの歌詞は原曲と正反対?鈴木敏夫の娘が日本語版に込めた思いを読み解く

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耳をすませば

『耳をすませば』の主題歌「カントリーロード」は、月島雫の声を担当した本名陽子が歌っています。また冒頭では、ジョン・デンバーによる原曲「Take Me Home, Country Roads」のカバーバージョンも流れていました。 しかしよくよく聴いてみると、原曲の歌詞と日本語訳詞の内容がまったく真逆になっていることに気付きます。 作品のテーマを代弁する曲でもある「カントリーロード」。その訳詞の本意を探っていきたいと思います。

原曲とジブリ版はどう違う?

原曲の歌詞は「故郷に帰りたい」という気持ちを表わしたもの。一方、『耳をすませば』版の内容はその真逆で、「帰らない」という決意を表しています。

なぜ原曲と真逆の歌詞になった?

まだ何もなし遂げていない、これから夢に向かう少女(月島雫)の決意を表した歌詞だからです。作詞を担当したのも、雫と同世代の鈴木敏夫プロデューサーの娘でした。

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「カントリーロード」と原曲の違い

どちらの曲もテーマは「故郷へ続く道」。しかし、本名陽子が歌う「カントリーロード」と原曲「Take Me Home, Country Roads」では、込められた思いが正反対なのです。

思い出 消すため That I should've been home yesterday (昨日にでも故郷に帰るべきだった)
カントリーロード この道 故郷へ 続いても 僕は 行かないさ 行けない カントリーロード Country roads, take me home To the place I belong West Virginia, Mountain Mamma Take me home, country road (カントリーロード 故郷へ連れて行け 僕が居るべき あの場所に ウェストバージニア 母なる山 故郷へ導け カントリーロード)

【考察】なぜこのような和訳になった?

『耳をすませば』月島雫

友人たちに歌詞を見せた時、雫は「故郷がどんなものかわからないから、自分の気持ちを書いた」と言っています。この時の雫は自分が住む町を出たことがなく、進路もまだはっきりとしない状態でした。 しかし聖司と出会って、自分がやりたいことと進むべき道がしっかりとわかっている様子を見て、雫は思い悩みます。それでも、自分がやってみたいこと=物語を書くことを決めてからは、寝食を忘れて没頭。1冊の物語を書き上げました。 「カントリーロード」の和訳をした時はまだ不安しかなかった雫ですが、物語を完成させた後は、自分の進むべき道を見出だして前を向きました。この歌は、そんな雫の揺れる気持ちが反映されたもの。故郷を後にして、自立して歩み続ける決意を示した歌だったのです。

作詞を担当したのは鈴木敏夫の娘

作詞は当初、宮崎駿が担当する予定でしたが、締め切り間近になっても完成しませんでした。 そこで宮崎は、同じく製作プロデューサーを務めた鈴木敏夫の娘・麻美子にお願いしようと思いつき、渋る鈴木をよそに本人が快諾。締め切り当日、麻美子はものの5分で見事な歌詞を書き上げ、作詞クレジットに鈴木麻美子と記載されることになりました。 ちなみに、「ひとりぼっち おそれずに 生きようと夢見てた」は宮崎が手を入れた部分で、麻美子の案を支持した近藤喜文監督との間でひと悶着あったとか……。

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「カントリーロード」が流れるシーンを振り返り解説

『耳をすませば』月島雫、バロン

その1:冒頭シーン

原曲のオリビア・ニュートン=ジョンのカバーバージョンが流れる冒頭シーン。雫の住む町が丁寧に描写されています。ここで初めに雫の故郷(ホーム)を映し出し、この町で始まる物語の序章と原曲が紹介されています。

その2:夕子に頼まれた歌詞の和訳を見せる場面

雫は親友の夕子から「カントリーロード」の和訳を頼まれていました。最初に出来たバージョンは基本的に直訳で、雫曰く“ありきたり”。本人も納得がいっていないようでした。 その時にもう1つ、森林伐採を揶揄する内容の「コンクリート・ロード」も夕子に見せています。雫はシャレのつもりで書いた歌詞だったようですが、後で同じ学年の生徒・天沢聖司に偶然見られてしまうことに。2人が初めて会うシーンで、聖司に対する雫の第一印象は最悪! その後、まだ納得がいかないなりにも和訳が完成。夕子と他の友人に見せた時は、みんなに認められ、謝恩会で歌おうと言われていました。中学3年生の雫たちが、これから巣立って行く気持ちを表すにはぴったりな歌詞です。

その3:地球屋でのセッション

耳をすませば

雫が猫のムーンに導かれるように訪れたアトリエ「地球屋」。雫はここで聖司と再会し、聖司がヴァイオリン職人を目指していることを知ります。 聖司が弾くヴァイオリンに合わせて「カントリーロード」を歌っているところに、聖司の祖父とその友人たちが帰宅。セッションに加って楽しいひと時を過ごします。 聖司の祖父であり地球屋の主人・西司朗は、雫の「物語を書く」という夢を後押しする大人の1人。このセッションは、雫と聖司、司朗との距離が近づく重要なシーンです。

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その4:聖司のプロポーズ〜エンディング

耳をすませば

聖司が町にかかる美しい雲海を雫に見せるラストシーン。ここでもちょうど、聖司が雫にプロポーズするあたりから「カントリーロード」が流れ始めます。 そのままエンドロールで本名陽子が歌う映画主題歌バージョンが流れ、物語は終わりを迎えます。聖司が自転車に雫を乗せて同じ道を去って行く様子は、2人の未来を示しているようにも思えます。

原曲「Take Me Home, Country Roads」について

「カントリーロード」の原曲は、原題を「Take Me Home, Country Roads」といい、アメリカのカントリー歌手ジョン・デンバーが、1971年に発表して大ヒットしたカントリー・ポップです。 楽曲の邦題は「故郷へかえりたい」。原曲の歌詞の内容は、故郷の美しいウェストバージニア州や、そこに住む大切な人を懐かしみ、これから帰ろうといったもの。 この曲はジョン・デンバーの代表曲であり、2014年にはウェストバージニア州の4番目の公式州歌となっています。

「カントリーロード」の歌詞からわかる『耳をすませば』のテーマ

『耳をすませば』月島雫、天沢聖司

ラストシーン近く、聖司が雫を自転車に乗せて坂を上る時、「雫を乗せて坂道を登る」と決めた聖司に対して、雫は「お荷物になるだけなんて嫌」と言います。このシーンが、雫の自立心と決意を表しているのかもしれません。 雫の気持ちが書かれた歌詞が、この映画のテーマである「自立と巣立ち」を端的に表していることを知れば、本作の意図もよくわかるはず!今一度、雫の訳詞を噛みしめて、視聴してみてはいかがでしょうか?