『すずめの戸締まり』ミミズの正体・元ネタを考察!なぜすずめに見えるのか?実在の場所まで徹底解説
『すずめの戸締まり』で草太が閉じ師として鎮めていたミミズ。すずめと草太を含む限られた人にしか見えない敵で、赤黒く、渦巻きのように広がっていく様子は禍々しく怖いですね。本作の中で一番謎が多い存在だと言えるでしょう。 本記事では、ミミズの正体や込められた意味、元ネタを徹底考察していきます!新海誠監督がミミズに込めたメッセージとは、いったいどんなものだったのでしょうか。 ※この記事は『すずめの戸締まり』のネタバレを含みます。未鑑賞の場合は注意してください。
『すずめの戸締まり』ミミズの正体を考察
ミミズは地震の元凶となる意思のないエネルギーの塊。赤黒く細長い煙のような姿をしています。 死者の世界「常世」からすずめ達の世界「現世」へやってくるミミズ。普段は「要石」で封じられていますが、開いた後ろ戸から少しずつ空中に出て行って膨らみ、重さに耐えきれなくなると落ちてきます。 ミミズが落ちると地震が起こるため、閉じ師はミミズが地震を起こす前に後ろ戸を戸締まりしなければなりません。 また、すずめは最初にミミズが現れたとき「火事かな?」と言っており、なにかが燃えるような匂いがするようです。小説版では「焦げ臭いような、潮の匂いが混じっている」と、さらに詳しく書かれています。
新海誠が参考にした伝承と意外な名前の由来
新海誠監督は龍や大鯰の伝承なども踏まえたうえで、日本人ならではのアニミズム的な畏怖の要素としてミミズを盛り込んだそうです。「ミミズ」は古くから語り継がれてきた火と水の神、「日不見(ひみず)の神」の呼び方が変化したものだとか。 さらに「日不見」は日が見えないと書くので、土の中で暮らすミミズのこと、つまり大地そのものを表しています。草太の唱える祝詞には、「ずっと人間が借りてきた山や川を、住む人がいなくなったのでお返しします」という意味が込められています。 また、『月刊ニュータイプ』2023年1月号では、村上春樹の短編『かえるくん、東京を救う』に登場する「みみずくん」からもインスピレーションを得たと明かしています。
なぜナマズではなくミミズなのか?
地震と関連付けられる生き物といえばナマズですが、なぜ『すずめの戸締まり』ではナマズではなくミミズが地震を引き起こす存在として登場したのでしょうか。 そもそも、地震の原因が地下にあると考えるのは中国からもたらされた思想が影響しています。江戸時代の絵画を観てみると、日本を囲む龍のように細長い生き物が多く登場していますが、この時点では明確にナマズが描かれているわけではありませんでした。その後、1855年の安政大地震ののちに、ナマズを自身の原因として描いた絵画が散見されるようになっています。 つまり、元々は細長い竜のような異形の生物が地震を起こすと考えられていて、それが転じてナマズになったようです。そのため、同様に細長く異形のミミズは、江戸時代初期の地震観を反映しているのではないでしょうか。
『すずめの戸締まり』ミミズの元ネタの場所は?実在したって本当?
本日は震災から十年目の東日本大震災復興祈願祭を執り行いました。鹿島神宮でも大きな被害を受けましたが、震災前後には鹿島では不思議な出来事が2度起きました。#鹿島神宮 #武甕槌大神 #復興祈願 #東日本大地震 #要石 #大鯰 #鯰絵 pic.twitter.com/fQ1irDYKEQ
— 鹿島神宮/kashima-jingu【公式】 (@kashima_jingu) March 11, 2021
ミミズの元ネタは諸説ありますが、その1つが鹿島神宮の鯰(なまず)ではないかという説です。鹿島神宮には本作でも重要な役割を持つ「要石」が実際に祀られています。 そして鹿島神宮にある鯰絵(なまずを題材に描かれた浮世絵)には、要石を頭に押し付けられた鯰が描かれており、本作の要石で封印されるミミズと同じ構図です。 また小説の中で頭と尻尾に巨大な剣(要石)が刺さった龍を描いた書物が登場しています。鹿島神宮の要石は鯰の頭・香取神宮の要石は鯰の尻尾を鎮めていると古くから言い伝えられている点も本作の元ネタではないかと言われている理由です。
ミミズはなぜ地震を引き起こすのか?
ミミズが吸い込んでいる金色の糸は何?
ミミズが膨らむ過程で吸い込んでいる、地面からのびた金色の糸は地気です。 地気とは大地の精気のこと。動物や植物を育てる、大地のエネルギーのようなものです。 見捨てられた土地の、余っているエネルギーをミミズは吸い取って、その重さをたっぷり蓄え、地面にむかってゆっくりと倒れ始めるのです。
ミミズの正体は?どうすれば鎮まる?
ミミズは「日本列島の下をうごめく巨大な力」です。祝詞を唱え、後ろ戸を戸締まりをすることでミミズを常世に送り返すことができます。 しかし戸締まりで鎮めたミミズはいずれ他の後ろ戸から出てきてしまいます。また数百年に一度起こるような大災害は、ただの戸締まりでは鎮めることは出来ません。 作中では東京の要石のある場所には巨大な後ろ戸があり、100年前に一度開いたと言われています。これは、1923年の関東大震災のことでしょう。その後、当時の閉じ師たち数人がかりで閉じることができたようです。 ミミズを完全に鎮めるためには、要石と呼ばれる「神の力を宿した石」で封印する必要があります。
すずめと草太にしか見えないのはなぜ?
ミミズは草太とすずめにしか見えません。ミミズが見えるすずめと草太の共通点があるとすれば、後ろ戸に入ったことがあること。「後ろ戸を通る」ことがミミズを見える人の条件ではないでしょうか。 すずめは東日本大震災で被災し母親を探している途中で、偶然後ろ戸を通っていました。 草太にミミズが見えるのも代々受け継がれた能力ではなく、後ろ戸を通ったことで後天的に得た能力かもしれません。
ミミズに込められた新海誠の意図を考察
- 見捨てられた土地の癒えない霊魂
- すずめ自身が(見る人が)最も恐れているトラウマ
①見捨てられた土地の霊魂
ミミズは常世から出てきます。常世は死んだ者が行く世界。つまりミミズは、死んだ人間やモノ、土地の癒えなかった霊魂ではないでしょうか。 そしてそれを完全に抑えられるのは2つの要石。祖先たちの霊を鎮めるための人身供養が、要石なのかもしれません。
②すずめが(見る人が)最も恐れているトラウマ
一番最初にミミズを見たとき、すずめは「火事かな?」と言っていました。また原作小説では、すずめはミミズの匂いを、「焦げ臭くて、潮の匂いが混じっていて、ずっと昔に嗅いだことがあるような」と感じています。 閉じ師であった草太の祖父は「常世は見る者によって姿を変える」とすずめに伝えていました。そしてすずめに見える常世は、12年前の被災地の瓦礫や火災の風景、ヘドロでした。それらから立ち上る煙は、まるでミミズのよう。 つまりすずめに見えていたミミズは、震災と津波の後に目にした火災の煙だったのではないでしょうか。実はミミズも、見る者によって姿を変えるものなのかもしれません。 そしてミミズは見る人が一番おぞましいと思っているもので、すずめにとってはそれが震災の記憶・トラウマだったのではないでしょうか。
ミミズに込められたメッセージは?
上記を踏まえると、ミミズとの戦いには2つの意義を見出すことができます。 1つは祝詞の通り「①捨てられた土地の魂を鎮め、産土(土地の神々)にお返しする」という意味。もう1つはすずめ自身が「②目をそらしていたトラウマと向き合う」という意義です。 ①は社会として②は個人として、「過去と向き合う」ということがテーマとして描かれています。 ミミズがおぞましく危険に描かれていることを考えると、新海誠監督は、過去のことを過去として忘れ、目をそらしてしまう危険性を「ミミズ」というモチーフを通じて描こうとしたのではないでしょうか。
「東日本大震災」との向き合い方
新海誠監督は「新海誠本」にて、東日本大震災の記憶が風化してしまうことへの危機感を話していました。 今回のキャストの何人かに震災の記憶がほぼないことも踏まえ、「これ以上、そこに触れるのが遅くなってはいけない」、「今のうちにこの映画を作らなければいけない」と思っていたそうです。 今でも多くの人が、悍ましいミミズや緊急地震速報、燃える街の描写に、トラウマを思い出して苦しんでしまうかもしれません。 しかしそれでも、1人でも多くの人に恐ろしい過去を思い出して乗り越えてほしいと願い、ミミズとの戦いを描いたのではないでしょうか。
『すずめの戸締まり』あなたにミミズはどう見える?
今回は謎多き「ミミズ」について考察していきました。存在自体が抽象的なミミズは、みなさんにはどう見えたでしょうか。 さまざまな見方があると思いますが、はっきりしている点は草太と出会いミミズと対峙した日々があったことで、すずめは過去と向き合い打ちのめされるのではなく前向きに生きていけたということです。 すずめとミミズの戦いを深読みしながら観ると、また違った気付きが得られるかもしれません。