2020年12月25日更新

『風の谷のナウシカ』巨神兵は神か兵器か?9つの観点から謎多き存在を解説してみた

『風の谷のナウシカ』
© 1984 Studio Ghibli・H

宮崎駿の名を一躍世に知らしめ、30年以上たった今でも絶大なる人気を誇る『風の谷のナウシカ』。この記事では本作に登場する巨神兵について、9つの観点からその存在を徹底的に紐解きます。

目次

1.『風の谷のナウシカ』に登場する巨神兵とはいったい何者なのか

『風の谷のナウシカ』巨神兵
© 1984 Studio Ghibli・H

巨神兵ははるか昔に突然出現し、「火の七日間」と呼ばれる最終戦争で世界の大半を焼き尽くしたと伝えられている巨大な人工生命体です。 映画では工房都市「ペジテ市」の地下で巨神兵の胎児が発見され、その情報を掴んだトルメキア王国がペジテへ侵攻し、巨神兵の繭を強奪。ところが本国へ輸送中に船が風の谷付近に墜落してしまい、クシャナ率いるトルメキア軍は風の谷をも占領します。 冒頭で描かれる伝承の回想シーンに登場する巨神兵の群れと、終盤に復活する1体の巨神兵の凄まじい姿は、登場する時間こそ少ないものの強烈な印象を残しました。

2.不完全な状態での覚醒

ペジテの者たちが繭を取り戻そうと、風の谷に向けて放った王蟲の大群。それを食い止めるため、クシャナは奪った繭から巨神兵を覚醒させます。しかし全身はまだ未成熟で固まっておらず、自立して歩行すら行えない不完全な状態でした。 トルメキア軍参謀のクロトワが思わず吐き捨てた、「腐ってやがる。早すぎたんだ」というセリフがすべてを言い表しています。 クシャナの命令は理解しているものの、知性はまったく感じられませんでした。人工生命体の神というよりも、単なる奇怪な生物兵器と化していたのです。

3.プロトンビームの威力が恐ろしい

巨神兵はクシャナの「なぎ払え!」という命令に従って、向かってくる王蟲の群れに対して上体を持ち上げてプロトンビームを2発放ちます。 1発目は群れに命中し、大爆発を起こすほどの威力を発揮。2発目は自身の腐敗が進んでいたため、ほとんど効果がありませんでした。2発目を放った後に体内ですさまじい爆発を起こし、巨神兵の肉体は完全に腐り落ちて絶命してしまいます。 このプロトンビームとは、巨神兵が口から発射する陽子弾のこと。完全体であれば、彼方にある山をも吹き飛ばし、巨大なきのこ雲を作るほどの威力をもつとされています。

4.巨神兵をめぐるそれぞれの思惑

『風の谷のナウシカ』クシャナ
© 1984 Studio Ghibli・H

トルメキア軍を率いるクシャナは当初、巨神兵を利用して腐海を焼き払って壊滅させるという目的で行動していました。 風の谷に向かってきた王蟲の大群に立ち向かうため、不完全なままに覚醒させてしまったことが、彼女の破滅を招いてしまいます。先述したように、巨神兵の発射したプロトンビームは本来の威力を持たず、押し寄せる王蟲の大群を止めることはできませんでした。

5.オーマとは?ナウシカと巨神兵の関係

風の谷のナウシカ
©Studio Ghibli/Walt Disney Pictures

映画ではクシャナとの関係がクローズアップされるため、ヒロインであるナウシカとの関係はあまり掘り下げられていません。 原作においては、巨神兵の骨格と繋がった装置と「秘石」の存在をめぐり、「秘石」を所持するナウシカを自分の親として認識する経緯が描かれました。 ナウシカに「オーマ」という名を与えられたことで、高い知性を持つ裁定者たる知的生命体へと変わっていくのです。映画よりもさらに、人工生命体の「神」としてのイメージが強くなるかもしれません。

6.原作漫画の巨神兵との違い

映画に登場する巨神兵は、群れをなして歩き、光る槍を持った茶色い人型の姿か、あるいは溶けかけた不完全な姿しか描かれません。しかし原作では完全体の個体として登場しました。 肩から背中に発光する突起を持ち、細身の体躯は筋肉がむき出しになったようにみえます。ヘルメットのような頭部、緑の大きな目を持ち、複数の長い牙も特徴的です。 さらに巨神兵は完全な人工生命体の兵器ではなく、超硬質セラミック製の内部骨格をもつサイボーグでもあります。一説では前文明の日系企業「東亜工廠」が、紛争を解決するために作り出した調停者という見方もされているようです。

7.「火の七日間」とはなんだったの?

『風の谷のナウシカ』
© 1984 Studio Ghibli・H

ここからは、『風の谷のナウシカ』の原作漫画における世界観を詳しく解説していきます。ネタバレが多く含まれるので、未読の人は注意してください。

巨神兵の存在理由に関する説

旧世界の人工創造物である巨神兵は、かつての「火の七日間」の実行者。あらゆる紛争に対処するため、「調停と裁定の神」としての役割を持っていました。人類文明に壊滅的な打撃を与え、「黄昏の時代」を到来させた張本人です。 しかしなぜ「火の七日間」が実行されたのかは明確には描かれていません。 ここからは考察の域になりますが、巨神兵の「調停者」と「裁定者」としての性質を考えたとき、答えが見えてくるのではないでしょうか。

【考察】原作最終巻での「調停」と「裁定」の描写

原作の最終巻ではオーマがトルメキア王国の皇子2人をシュワの墓地へ運ぶ描写がありますが、そのシーンのやり取りを追ってみます。 巨神兵「お前達もいっしょに(シュワへ)行きたいのかね?どうした、行きたいのだろう?」 2人の皇子は巨神兵に怯えながらも、自らの保身のためどうしてもシュワへいきたいため、頷く。巨神兵は2人を掴んで宙吊りにする。 2人の皇子「ち、ちがう!!おろしてくれぇ。ひぃ。はなせ!!」 巨神兵「本当に離していいのか?」 2人の皇子「ハ…!!いき、いきます!!」 巨神兵「トルメキア兵に告ぐ!!合意の元に裁定が下った。2人の皇子は私と共にシュワへ行く。お前達がこれ以上前進する理由はなくなった。ただちに反転シ家に帰レ。自分の家で平和に暮らせ!!」 こうした流れがあり、オーマは戦闘の「調停」を行っていきます。 しかしこの後トルメキア軍が自らの意思で引き返そうとしなかったため、巨神兵はプロトンビームを放ち威嚇しました。強制力の行使、つまり「裁定」を行ったのでした。

自分の論理を持ち、力を行使する神の如き兵

ここまでの内容をまとめると、巨神兵は人間の意思を聞き入れて整理し、双方の合意を重んじつつ円滑な遂行をガイドする存在と言えるでしょう。 一方で独自の思考や論理を持っており、従わない者や優柔不断な者には力を行使し、強引に従わせることもあるのです。 母(ナウシカ)の言葉を忠実に遂行し、従者のような存在としても描かれたオーマ。巨神兵の本質はそこではなく、「調停」と「裁定」を実行する者だったと考えられます。 旧人類は巨神兵を造ってはみたものの、解決すべき問題の終着地点が見えず、より良い世界にはなりようがない状況だったのかもしれません。 「火の七日間」は人間同士の単なる最終戦争ではなく、荒ぶる兵として全てに壊滅的な打撃を与えるという「裁定」を、巨神兵が選択した結果ではないでしょうか。 結果的に「火の七日間」の経て得をした人間が存在しなかったことも、それを裏付けているように思えます。

8.映画『巨神兵東京に現わる』

2012年7月10日から10月8日まで、東京都現代美術館で行われた『館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技』。そのなかの企画として製作されたのが、映画『巨神兵東京に現わる』です。 映画本編のほかに、撮影に使用されたセットの展示やメイキングの公開なども話題を呼びました。 さらに2012年11月17日には、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』との同時上映作品として、『巨神兵東京に現わる 劇場版』のタイトルで劇場公開されています。

リアルに再現された巨神兵

企画・庵野秀明、監督・樋口真嗣、プロデューサー・鈴木敏夫のタッグで、CGを使用せずミニチュアの特撮が行われた『巨神兵東京に現わる』。 宮崎駿監督から出された条件は、“ナウシカを登場させないこと”だったそうです。 登場する巨神兵は、光の槍や飛行能力を持った「完動品」。形状は原作に近いものの、より細部まで再現するためサイズは原作よりはるかに巨大となっています。デザインを担当したのは、フィギュア造形作家で「仮面ライダー」シリーズなどの造形美術も担当する竹谷隆之です。

徹底したディテールへのこだわり

撮影のために制作された巨神兵は全長180cm程度で、後方から棒を介して操作する仕組みでした。操作には最大で5人を必要とする複雑な作りだったそうです。 またプロトンビームを発射する口内のしくみも実に細かく作られています。

9.そもそも巨神兵をデザインしたのは庵野秀明だった

そもそも『風の谷のナウシカ』で巨神兵のキャラクターデザインや登場シーンの原画を担当したのは、庵野秀明本人なのです。 宮崎駿監督は突然訪ねてきた庵野の原画を見て、いきなり巨神兵の原画に抜擢しました。先述のプロトンビームの描写も含め、巨神兵のシーンはすべて庵野が手がけているのです。当時の様子を鈴木敏夫プロデューサーは、「道場破りのようだった」と語っています。 こうした経緯もあり、上手く3次元化できているのも当然といえば当然なのかもしれません。「エヴァンゲリオン」のエヴァ初号機にもかなり似ているのも納得です。

巨神兵について知れば『風の谷のナウシカ』の世界を深く理解できる!

風の谷のナウシカ
© Studio Ghibli/Walt Disney Pictures

この記事では巨神兵について、原作との違いを比較しながら解説してきました。 『風の谷のナウシカ』において、大きなテーマを背負っている巨神兵。その謎を知れば知るほど、もう1度映画を観返したい気持ちが湧き上がってきますね!