2019年7月8日更新

【たまには社会欄も見てみよう】映画に影響を与えた21世紀の大事件たち!

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『ブラックパンサー』ティ・チャラ(チャドウィック・ボーズマン)
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21世紀に起こった18の世界的大事件に迫る映画!

実話に基づいた映画や重大な事件をモチーフにした作品は、これまでもたくさん作られてきています。全然知らなかった事件を映画から知ったということもあるかもしれません。 新聞の社会欄に大きく載るような重大事件を、映画から学んでみませんか?ここでは21世紀に起きた18の世界的事件を1年ごとにプレイバックして、その事件に影響を受けて製作された映画や事件にまつわる作品を紹介します。

【2001年】9・11事件と『ユナイテッド93』

【アメリカ同時多発テロ事件】2001年9月11日

21世紀に入ったばかりの2001年9月11日、アメリカで起こった「9・11事件」は世界を震撼させ、テロとの戦いと呼ばれることになる新たな戦争の時代へ突入しました。 イスラム過激派組織「アル=カーイダ」のテロリストによってハイジャックされた4機の旅客機のうち2機が、ニューヨークの世界貿易センタービルのツインタワーにそれぞれ激突し、ビルは崩壊。3000人以上の犠牲者を出しました。 2機目がツインタワー南棟に突入したわずか30分後、3機目がアメリカ国防総省「ペンタゴン」に激突。しかし残りの1機であるユナイテッド航空93便は、テロリストの標的を逸れてピッツバーグ郊外に墜落しました。このユナイテッド93便での出来事を詳細に描いた作品が『ユナイテッド93』です。

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『ユナイテッド93』(2006年)

ポール・グリーングラス監督によるノンフィクション作品。9・11事件で唯一標的から逸らすことができたハイジャック機「ユナイテッド93」の機内での一部始終が描かれています。リアリティ追求のため、管制官や一部の出演者が本人を演じ、パイロットなどの職務経験者や無名の俳優たちが選ばれました。 ニューアーク国際空港発ユナイテッド航空93便は、2001年9月11日運命の朝を迎えていました。93便が離陸ラッシュのため30分遅延で出発したちょうどその頃、ワールドトレードセンターにハイジャック機が激突。93便もハイジャックされ、他機の様子を電話で知った乗客たちはテロリストと戦う決意を固めます。 9・11事件で唯一テロを阻止した93便。この事件をできる限り忠実に描くことで、後世にテロの是非を問いかけ、21世紀の新たな戦争に対しての応えを導き出そうとしています。テロに屈するか、否か。もしその場に居合わせたとしたら、自分ならどうするのか。

9・11事件を描いたその他の作品

同じく9・11事件の当日を描いたノンフィクション作品には『ワールド・トレード・センター』(2006年)があります。世界貿易センタービルへ救出へ向かった港湾局警察官たちが体験した、9・11その日が再現されています。 他にも9・11事件をテーマにしたフィクション作品が製作されています。『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(2011年)と『再会の街で』(2007年)は、どちらも大切な家族をテロで失った悲しみから立ち直ろうとする物語。2017年には9月11日当日を描いた『ナインイレヴン 運命を分けた日』も公開されました。 9・11事件から1年後の2002年に公開された『11’09”01/セプテンバー11』は、世界各国の11人の映画監督が「9・11」をモチーフにしたオムニバス作品です。また、ドキュメンタリーの手法で迫った『華氏911』(2004年)では、マイケル・ムーア監督が9・11事件がなぜ起きたのかを徹底的に検証しています。

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【2002年】東ティモール独立と『カンタ!ティモール』

【東ティモール独立】2002年5月20日

21世紀に入って最初の独立国家となった東ティモール民主共和国。16世紀にポルトガルの植民地となり、1859年にはオランダの進出によって西ティモールがオランダ領となりました。 第二次世界大戦時には一時日本に占領されましたが、1975年のインドネシアによる占領まではポルトガル領となっていました。インドネシアの軍事的制圧に対して抵抗運動が続けられ、スハルト独裁政権が倒れた翌年1999年には東ティモール紛争に突入。 国際連合東ティモール・ミッションによって独立を決める住民投票が行われ、2002年にようやく独立を果たしました。しかし独立後も東西の出身者の格差による軋轢や高い失業率など混乱が続きました。『カンタ!ティモール』はそんな東ティモールの独立までの歴史を追ったドキュメンタリー作品です。

『カンタ!ティモール』(2012年)

独立した2002年に東ティモールへ訪れ、1人の青年の歌を耳にした日本人女性・広田奈津子。平和を訴えかけるその歌を追いかけるうちに、東ティモールの歴史を深く知っていき、『カンタ!ティモール』という作品が生まれました。 広田監督が追ったのは独立運動の心を歌詞に込めて歌っていた青年アレックス。また、東ティモールの初代大統領となったカイ・ララ・シャナナ・グスマンにインタビューも行なっています。 インドネシアの軍事統制下で暗喩を込めて反体制の歌を歌っていた青年を探すため、再び東ティモールへ渡った広田監督。その青年アレックスは独立運動に身を投じた若者で、彼の案内でカメラはティモールという島の歴史と素晴らしい自然を映し出していきます。 東ティモールの紛争や独立については当時日本でもニュースとして取り上げられましたが、それ以前の歴史やそれ以後の東ティモールを、日本人が知る機会はなかなかありませんでした。 しかし実は第二次世界大戦下で日本が占領した歴史や、独立後の日本からのODA(政府開発援助)など、日本とは深い関わりを持っている国なのです。広田監督はドキュメンタリーという方法で、この若い国の本当の姿を伝えようとしました。

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【2003年】イラク戦争と『アメリカン・スナイパー』

【イラク戦争】2003年3月20日

9・11事件によって世界を大きく巻き込むテロとの戦いが始まった21世紀。9・11テロに対してまずアメリカが行なったのは、首謀者オサマ=ビン=ラーディンの引き渡し要求でした。しかしタリバン政権はそれを拒否し、アメリカはイギリス軍とともにアフガニスタンを攻撃しました。 そして2003年、ブッシュ政権はフセイン政権が大量破壊兵器を保有しているとしてイラクも攻撃。しかしこれは国連の承認を得ずに強行したものでした。こうして始まったイラク戦争はフセイン政権を倒し、独裁政権には終止符を打ちましたが、混迷した状況のまま2006年にはイスラム教宗派対立から内戦に突入します。 アメリカ軍がイラクから完全に撤収し、オバマ大統領がイラク戦争の終結を宣言したのは2011年12月14日でした。しかし結局イラクで大量破壊兵器は発見できず、混乱をきたしたイラクと周辺国に過激派組織イスラム国(IS)を生み出す原因となったのです。

『アメリカン・スナイパー』(2014年)

クリント・イーストウッド監督による伝記映画で、イラク戦争に4度従軍した伝説の狙撃手クリス・カイルの自伝を映画化した作品です。主演はブラッドリー・クーパーで、味方には「伝説」、敵には「悪魔」と呼ばれたスナイパーを淡々と演じています。 アメリカ海軍の特殊部隊ネイビー・シールズに入隊したクリス・カイルは、イラク戦争に従軍して狙撃手としての腕を開花させ、多くの戦友たちを救います。しかし敵からは懸賞金がかけられるほどの脅威に。戦場ではアメリカにいる妻子を想い、帰還しては心の傷を癒せずに苦悩することになります。 イラク戦争で戦った本人が綴った著書を元にしており、過度な脚色もされずリアルさを追求した作品にも関わらず、公開後は保守派とリベラル派の間で賛否両論が巻き起こりました。好戦的か反戦的か、これは作品を見た者自身の判断に完全に委ねられた作風といえます。 カイルを同胞を救った英雄と捉えるか、あるいは戦争によるPTSDに苦しむアメリカ人と見るか。いずれにしてもイーストウッド監督自身はイラク戦争には反対を表明しており、この作品でもカイルを英雄視したのは周りの人間であって、彼は戦争の傷に苦しむ1人の人間であったことを描いています。

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イラク戦争を描いたその他の作品

キャスリーン・ビグロー監督の『ハート・ロッカー』(2008年)でも、イラク戦争に従軍した爆弾処理班の隊員が、戦争によって普通の感覚を失っていく様子を描いています。 オサマ=ビン=ラーディンの捜索ミッションを描いた作品に、同じくビグロー監督の『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012年)があります。また、大量破壊兵器の有無について描いた映画は「イラク内戦」の項で後述します。

【2004年】スマトラ島沖地震と『インポッシブル』

【スマトラ島沖地震】2004年12月26日

スマトラ島はインドネシアの大スンダ列島に属している一島で、西部に位置しています。海外から多くの外国人観光客も訪れる保養地としても有名です。しかし、2004年のクリスマス・シーズンに起こった未曾有の大規模地震によって多くの犠牲者を出しました。 インド洋で発生した「スマトラ島沖地震」はマグニチュード9.1、死者は22万人を超えます。インドネシアだけでなく、インドやスリランカなど周辺の国々にも多大な被害を及ぼしました。特に平均10メートルにも達したとされる津波がインド洋沿岸に何度も押し寄せ、この地震での被害のほとんどが津波被害だったといいます。 スペイン映画『インポッシブル』は、クリスマス・シーズンをリゾートで過ごそうとタイに訪れていた家族が、この津波に襲われる様子を描いた作品です。

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『インポッシブル』(2012年)

ナオミ・ワッツとユアン・マクレガーが主演した『インポッシブル』は、スマトラ島沖地震の津波で家族が離散してしまったスペイン人一家の実話を元にしています。『永遠のこどもたち』のスペイン人監督フアン・アントニオ・バヨナが手がけました。 タイのリゾート地に3人の息子とバカンスを楽しんでいたマリアとヘンリー。ところがクリスマスの翌日、12月26日にスマトラ島沖地震が発生し、突然の災害の前になすすべもなく家族は離れ離れになってしまいます。 日本での公開は2013年。実際のモデルとなったマリア・ベロン本人が来日時に語ったのは、この映画を通して被災者の痛みと生きようとする人間の強さを伝えたかったということ。2013年といえば、折しも日本はまだ東日本大震災からの生々しい痛みから立ち直ろうとしていた時期です。 実体験に基づいて描かれた津波のリアルの描写は公開時に批判もあり、日本での公開も危ぶまれたようです。それでも実際に公開された本作は、大災害で被災したすべての人々に向けて力強いメッセージを届けています。

【2005年】ハリケーン・カトリーナと『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』

【ハリケーン・カトリーナ襲来】2005年8月末

2005年の夏、アメリカの南東部を最大時カテゴリー5の大型ハリケーン「カトリーナ」が襲いました。特に甚大な被害を出したのはルイジアナ州ニューオーリンズ。48万人の市民に避難命令が出され、街の8割が水没したといいます。 1918年から2005年のハリケーン襲来までのニューオーリンズを舞台にしたドラマ『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』は、まさに復興途中のニューオーリンズで2006年に撮影されました。

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『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008年)

F・スコット・フィッツジェラルドの短編小説を原作とした、『セブン』のデヴィッド・フィンチャー監督によるドラマ作品です。主演はブラッド・ピットとケイト・ブランシェット。80歳で生まれて若返り続ける男ベンジャミン・バトンの数奇な一生を描いています。 ハリケーンがニューオーリンズの街に迫りある2005年のある日、老女デイジーは今際の際に自分が書いた日記を娘のキャロラインに読んでもらいます。そこには、老人の姿で生まれて若返り続けるベンジャミンという男の不思議な人生が綴られていました。 原作の舞台はボルチモアですが、フィンチャー監督によれば、1920年代の古き良き街並みが残る場所を探している中で、ニューオーリンズを気に入ったとのこと。ここより完璧な場所は他にはなかったそうです。 そのため、たとえニューオーリンズがハリケーン・カトリーナで壊滅的被害を受けた後でも、7カ月間この街に滞在して撮影を敢行したといいます。そして物語にもハリケーン襲来を盛り込み、この天災によって傷ついたニューオーリンズの被災者たちに、ベンジャミンの生き方を通してエールを送りました。

ハリケーン・カトリーナにまつわるその他の作品

ハリケーン後の爪痕も生々しい3ヶ月後のニューオーリンズで初めてロケを行ったのが、トニー・スコット監督の『デジャヴ』です。ニューオーリンズの街を再建するために、多くの地元のクルーを雇い、経済的援助となるようあえて撮影を敢行したそうです。

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【2006年】イラク内戦突入と『グリーン・ゾーン』

【イラク内戦突入】2006年4月

ブッシュ大統領が国際社会の承認もないまま戦闘を開始したイラク戦争。アメリカの大義は「イラクが大量破壊兵器を保有している」という一点でした。しかし、肝心の大量破壊兵器を見つけることはできず、大義を失ったまま戦闘は続きました。 2003年のフセイン政権崩壊後、3年も経ってようやく正式政府が発足。しかし2006年にはすでに、イラクはイスラム教の宗派抗争によるテロで内戦に陥っていました。そんな中、この年12月30日にはフセインの処刑が執行されました。 イラクの首都バグダードにあった米軍管理領域を舞台にした『グリーン・ゾーン』では、大量破壊兵器の捜索ミッションの様子が描かれています。

『グリーン・ゾーン』(2010年)

「ボーン」シリーズのポール・グリーングラス監督が、マット・デイモンと再び組んで製作したサスペンス作品です。デイモンはCIAによる大量破壊兵器の捜索を補佐する陸軍軍人ロイ・ミラーを演じています。 イラクで大量破壊兵器探索という特別任務を担った捜索班の隊長ロイ・ミラーは、何度も誤情報に踊らされ、兵器を見つけることができないでいました。作戦に疑問を抱いたミラーは部隊を離脱し、CIAの協力者とともに真相を追っていきます。 イラクと周辺国を混乱に陥れたイラク戦争は、国際社会はおろかアメリカ国内でもその意義を問われることとなりました。グリーングラス監督はサスペンス映画の体裁を取りながらも、大量破壊兵器についての情報戦の裏側を暴こうとしました。

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イラク内戦を描いたその他の作品

『グリーン・ゾーン』とは違う側面からこの問題を扱った作品が、ダグ・リーマン監督の『フェア・ゲーム』(2010年)です。イラク戦争を開戦する大義を保つため、政府による情報操作があったことを追求しています。 大量破壊兵器の存在を否定するレポートを提出した外交官ジョセフ・ウィルソンとCIAエージェントの妻バレリー・プレイムが、政府の陰謀に巻き込まれていく「プレイム事件」を描いています。ウィルソンをショーン・ペン、プレイムをナオミ・ワッツが演じました。

【2007年】パキスタンのブット元首相暗殺と『わたしはマララ』

【ブット元首相暗殺】2007年12月27日

イスラム圏初の女性首相となったパキスタンのベナジル・ブットが、イスラム過激派の銃撃と自爆テロによって暗殺されたのは、2007年12月27日。政界復帰を目指す選挙集会でのことでした。 1988年と1993年の2度にわたって首相を務めましたが、その2度とも汚職によって解任されています。しかしパキスタン貧困層からの支持は厚く、3度目の首相再任を視野に入れていたようです。 ブット元首相の生き方に刺激を受けたのが、パキスタンの少女マララ・ユスフザイです。女性が教育を受ける権利を主張し、2014年にノーベル平和賞を受賞しました。

『わたしはマララ』(2015年)

『不都合な真実』で有名なデイヴィス・グッゲンハイム監督によるドキュメンタリー作品。18ヶ月以上もの間世界中を飛び回るマララに密着し、マララの素顔と家族の絆を映し出しています。 祖国のために立ち上がり、前線で銃弾に倒れた伝説の少女マラライから名付けられたマララ・ユスフザイ。1人の普通の少女がなぜタリバンに狙われ、銃弾を受け、そして再び立ち上がり「女子に教育を」と訴えかけることができたのか。その原動力は、男女共学の学校を経営する父、そして読み書きのできない母の願いを実現することでした。 マララが2012年にタリバンに銃撃されて瀕死の重傷を追った際、ブット元首相の遺族から遺品であるショールをプレゼントされています。国連でのスピーチではこのショールを身につけ、教育の重要性を真摯に語りました。ブット元首相のように、命を狙われても何度でも立ち上がるという決意表明だったのかもしれません。

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【2008年】リーマン・ショックと『マネー・ショート 華麗なる大逆転』

【リーマン・ブラザーズ破綻】2008年9月15日

アメリカの老舗投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻したのは、2008年9月15日。ここから世界的な金融危機が起こり「リーマン・ショック」と呼ばれたことは、すでに10年が経た2018年ですら、まだ記憶に新しいものです。 事の発端は、2007年にアメリカで始まったサブプライム住宅ローンの危機による住宅バブル崩壊。サブプライムローンとは低所得者向けの住宅ローンで、住宅価格が下降し始めた2007年には証券化されていたサブプライムローンが不良債権化する事態を招きました。

『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2015年)

アダム・マッケイ監督によるドラマ作品で、マイケル・ルイス著『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』を原作としています。世界的金融危機を予測した4人の男たちの目線からリーマン・ショックの真実に迫っています。 ウォール街のアウトローたちにキャスティングされたのは、クリスチャン・ベール、ライアン・ゴズリング、スティーブ・カレル、ブラッド・ピット。ベールが天才的トレーダーのマイケル・バーリを、ピットが伝説の元銀行家ベン・リカートを演じました。 2005年、誰よりも早くサブプライム住宅ローンが債務不履行になると予測したトレーダーのマイケル。そのことを関係者方々に訴えかけたものの、誰も取り合いません。憤慨したマイケルはこれを逆手に取り、債権の保険となる「CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)」に目を付け、耳を貸さないウォール街を出し抜こうと行動を開始します。 スティーブ・カレルが演じたヘッジファンド・マネージャーのマーク・バウムは、低所得者に頭金もなしで適当に住宅ローンを組ませていた大手銀行に不信感を抱いていました。 実際、そうした無茶な貸付がサブプライム住宅ローンの不良債権化と住宅バブルの終焉を招いたのです。先見の明を持っていたマイケルたちのようなごく一部の金融関係者がもっと多く存在し、しっかり耳を貸していたら、最悪の事態を防ぐこともできたのかもしれません。

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リーマン・ショックを描いたその他の作品

オリバー・ストーン監督の『ウォール街』(1987年)の続編『ウォール・ストリート』(2010年)では、伝説の投資家ゴードン・ゲッコーを再びマイケル・ダグラスが演じ、リーマン・ショックに揺れるウォール街の現在を描き出しました。 また、ドキュメンタリーではチャールズ・ファーガソン監督の『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実』(2010年)が、世界規模の金融危機の実態を関係者へのインタビューなどで明らかにしています。

【2009年】オバマ大統領就任と『大統領の執事の涙』

【オバマ大統領就任式】2009年1月20日

生きているうちに黒人のアメリカ大統領誕生の瞬間に立ち会えると思っていなかった、そんなアメリカ人も多かったに違いないその日、2009年1月20日にバラク・オバマが第44代アメリカ合衆国大統領に就任しました。 『大統領の執事の涙』では、ホワイトハウスで7人の大統領に仕えた執事の視点で、アメリカの現代史そのものが語られています。そしてこの物語は、オバマ大統領誕生までを見届けています。

『大統領の執事の涙』(2013年)

リー・ダニエルズ監督の『大統領の執事の涙』の主人公セシル・ゲインズは、歴代7人の大統領に仕えた実在の黒人執事がモデル。20世紀の半世紀にわたるアメリカ史を大統領の執事として目撃したゲインズの人生が描かれています。『ラストキング・オブ・スコットランド』のフォレスト・ウィテカーがゲインズを、その妻グロリアをオプラ・ウィンフリーが演じています。 黒人奴隷として生まれたセシル・ゲインズ。懸命に働きホテルのボーイから大統領の執事にスカウトされ、以降30年にわたってホワイトハウスの執事を務めることになります。7人の大統領と間近で接し、キューバ危機やベトナム戦争など大事件の裏側を目撃しながらも自分の仕事を全うしていきます。 この物語はゲインズの執事としての顔ともう一つ、父親としての顔も描かれています。白人に仕える父親への反発から公民権運動に没頭する長男ルイスが経験するのは、まさに黒人闘争の歴史。父と息子、黒人と白人、その間で起きる確執もテーマに投影されています。 オバマ大統領はこの作品を観て、涙ぐんだといいます。それはゲインズに限らず、黒人差別の元凶だったジム・クロウ法によって不当に差別されてきた、すべての世代の人たちを思ってのことだったようです。 オバマ大統領の誕生は、そんな歴史に埋もれてきた無名のヒーローたちの努力が積み重なって実現したものだということがよくわかります。

オバマ大統領誕生にまつわるその他の作品

キング牧師暗殺から50年後、トランプ政権下の2017年に公開された『私はあなたのニグロではない』には、黒人文学者ジェームズ・ボールドウィンの目線でアメリカの黒人差別の歴史を追求していくドキュメンタリー。 監督はラウル・ペックで、60年代と現代のアメリカを交互に映し、ボールドウィンの言葉を散りばめた構成で差別の正体を暴き出しました。オバマ大統領はボールドウィンの言葉を引用したスピーチを行っており、この作品でも言及されています。

【2010年】アラブの春とシリア内戦『シリア・モナムール』

【アラブの春とシリア内戦】2010年12月、2011年4月〜

2010年12月にチュニジアで始まったアラブ系諸国の民主化運動は、「アラブの春」と呼ばれて瞬く間に各国に拡散。チュニジア、リビア、エジプトで次々と独裁政権を倒していきました。 しかしどの国も民主政権の確立には至らず混乱したまま、イスラム過激派組織の台頭を招きました。特にシリアでは2011年に内戦が勃発。ロシアが支援するアサド政権に対抗するアメリカと反政府組織、そしてISとの混戦によりさらに泥沼化しています。

『シリア・モナムール』(2014年)

シリア人監督オサーマ・モハンメドによるドキュメンタリー映画で、シリア内戦が始まった当初に現地の人々が撮った映像で構成されています。携帯電話やハンディカメラで撮られた映像は生々しく、当時YouTubeやFacebookにもアップロードされたといいます。 アラブの春からアサド政権打倒に動いたシリアの民衆たち。しかし政府軍の弾圧によって内戦へと陥っていきました。パリに亡命したモハンメド監督は、祖国の惨状を現地に住むクルド人女性シマブからの映像で知ることになります。 シリア内戦は2018年の現時点でも、いまだ終わりの見えない戦いを強いられています。モハンメド監督のように亡命したり、難民となって祖国を離れヨーロッパに散ったシリア人も多く、ヨーロッパ諸国では難民問題を抱えています。

シリア内戦を描いたその他の作品

『シリア・モナムール』と同じくドキュメンタリーでシリアの現状を伝えようとする映画があります。『それでも僕は帰る〜シリア 若者たちが求め続けたふるさと〜』(2013年)は、民主化運動に人生をかけた青年たちの姿を追っています。 『ラッカは静かに虐殺されている』(2017年)でも市民ジャーナリストたちがスマホで撮った街の惨状をSNSに投稿し、国際社会に訴えかけています。アラブの春もSNSで民主化運動が拡散されましたが、スマホ映像で製作された映画が戦争や弾圧に対抗できるツールとなってきたことにも驚かされます。

【2011年】東日本大震災と『ヒミズ』

【東日本大震災】2011年3月11日

アメリカの9.11同様、日本で3.11といえば東日本大震災のことだと誰もがわかる日付となった2011年3月11日。 東北地方の太平洋沖で発生した最大震度7度の大地震は、広い範囲で太平洋沿岸部に津波を起こし、最大40メートルもの巨大な波が東北沿岸部の町を襲いました。この大震災での死者は1万5千人を超え、そのほとんどが津波が原因とされる水死でした。 また、津波は福島第一原子力発電所も襲い、1〜3号炉でメルトダウンが発生しました。これは深刻な放射性物質漏洩を起こし、レベル7とされる最悪の原子力事故となりました。

『ヒミズ』(2012年)

園子温監督による古谷実の漫画『ヒミズ』の映画化作品です。震災後の日本に生きるさまざまな人々を描いたドラマで、主演の染谷将太と二階堂ふみが主人公の住田祐一と茶谷景子を演じました。 貸しボート屋を営む母親と二人暮らしの住田祐一は、ごく普通に生きて立派な大人になりたいと願う15歳の中学生。しかし彼の周りは震災で家をなくした被災者たちや金の無心に来るロクでもない父親、そして祐一を熱烈に追いかける同級生の景子といった人物が取り巻く、まったく普通でない環境。そんな中、母が失踪して祐一は1人で生きていくことになります。 園子温監督はこの映画の撮影前に大震災に直面し、原作とはまったく違う設定で脚本を書き直したといいます。それは、東日本大地震後の日本を描くこと。原作は「終わらない日常」を描いていた作品で、震災後の日本は「終わらない非日常」が当たり前になってしまったことが、変更を決意させたようです。 また、震災後の被災地での撮影には葛藤があったものの、ここで撮っておかなければ一生後悔すると思ったと語っています。そんな園子温監督の覚悟が現れているのが、度々フィーチャーされる津波で流された跡の町の風景。敢えて挿入することで、あの日を忘れないという決意を感じます。

東日本大震災を描いたその他の作品

園子温監督は『ヒミズ』の後すぐに、架空の大震災と原発事故を描いた『希望の国』(2012年)も製作しています。この作品でも被災地を訪れて取材し、撮影も行いました。 東日本大地震後を描いた他の映画に『遺体 明日への十日間』(2013年)があります。震災直後の遺体安置所を取材したルポルタージュ『遺体 震災と津波の果てに』を元にした作品で、君塚良一が監督、西田敏行が主演を務めています。

【2012年】金正恩第一書記就任と『ザ・インタビュー』

【金正恩第一書記就任】2012年4月11日

トランプ大統領には「小さなロケットマン」と呼ばれ、いつミサイルを飛ばしてくるかわからない、ベールに包まれた北朝鮮の最高指導者・金正恩。親子3代の世襲で、初代は金日成、2代目は金正日、そして金正恩が3代目の後継者となりました。 権力の継承が行われたのは2012年4月11日。金正日までは最高指導者の地位は総書記でしたが、それは父の永久地位とし、新たに創設した「朝鮮労働党第一書記」という座に就きました。 2017年には韓国で特殊任務旅団が創設され、金正恩暗殺を目的とした「斬首作戦」を導入しようとしていました。あまり現実的には思えない作戦ですが、実はこれより3年も前に、アメリカで金正恩暗殺をコメディ仕立てに扱った映画が物議を醸していました。

『ザ・インタビュー』(2014年)

セス・ローゲンとエヴァン・ゴールドバーグの共同監督、主演をローゲンとジェームズ・フランコが務めた『ザ・インタビュー』は、金正恩暗殺がテーマのコメディ映画! アメリカのトーク番組で司会者を務めるデイブとプロデューサーのアーロンは、北朝鮮で金正恩のインタビューをすることになります。そこへCIAが彼らに金正恩暗殺の依頼が!一時金正恩と親友のように仲良くなる2人ですが、金正恩と北朝鮮の本当の姿を見て、やはり暗殺を決行することに。 金正恩が北朝鮮の最高指導者となって2年後に製作された作品で、まだまだかなりベールに包まれていた北朝鮮と金正恩。内容はベタなコメディですが、金正恩を揶揄しているとして北朝鮮側から猛烈な非難を浴びました。 2014年12月25日に全米公開される予定でしたが、配給元のソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントが大規模なサイバー攻撃を受け、上映館もテロ予告で脅迫され、公開中止に追い込まれました。 しかしその後オンデマンドやインターネット配信によって、約37億円も売り上げたとのこと。北朝鮮と金正恩への興味は尽きないということでしょうか。

【2013年】ボストンマラソン爆弾テロ事件と『パトリオット・デイ』

【ボストンマラソン爆弾テロ事件】2013年4月15日

2013年4月15日、第117回ボストンマラソンの競技中に突然爆弾テロが発生しました。ゴール付近で爆発が2度起こり、3人が死亡し、負傷者は282人にものぼりました。 テロから2日後、FBIによって容疑者2名の写真が公開され、チェチェンからの移民で若い兄弟であることが判明。そして4月19日、激しい銃撃戦の末に兄は死亡、弟は逮捕されました。

『パトリオット・デイ』(2016年)

『ローン・サバイバー』でタッグを組んだピーター・バーグ監督とマーク・ウォルバーグ主演の作品で、ボストンマラソン爆弾テロ事件の裏側を描いています。 毎年パトリオット・デイ=愛国者の日に開催されるボストンマラソン。トミー・サンダース刑事はこの日マラソンの警備を担っていました。50万人の人出の中、トミーの背後で爆発が起こり、会場は混乱。そこへFBIが到着し、テロと断定されます。 ボストン市民が愛するボストンマラソンで起きた悲劇は、忘れがたいものになりました。しかし犯人特定から逮捕まで、102時間という早さで解決した背景には、多くのボストン市民の協力もあったようです。 この事件の後、ボストン市民は合言葉「ボストン・ストロング」の元、テロに屈しない意志を固めています。映画の最後には、テロで左足を失ったパトリック・ダウネスが義足をつけて2016年のボストンマラソンに参加し、ゴールする映像も流されました。

ボストンマラソン爆弾テロ事件を描いたその他の作品

2017年の『ボストン ストロング〜ダメな僕だから英雄になれた〜』は、テロで両足を失ったジェフ・ボーマンの実話を元に製作されました。ボーマンは犯人を特定する証言をした実在の人物。ボーマンをジェイク・ギレンホールが演じています。日本では2018年5月11日公開です。

【2014年】セウォル号沈没事故と『ダイビング・ベル セウォル号の真実』

【セウォル号沈没事故】2014年4月16日

仁川港から済州島へ向かっていた大型旅客船セウォル号が、観梅島沖の海上で転覆し沈没したのは2014年4月16日。この船には修学旅行中の高校生が325人も乗船していました。 乗員・乗客合わせて476人を乗せていたセウォル号。死者は299人、行方不明者は9人、そして生存者は172人。乗客を置いて先に逃げた乗組員は全員逮捕されました。また、捜索中に命を落とした作業員も。2017年にようやく船体の引き上げが行われました。

『ダイビング・ベル セウォル号の真実』(2014年)

セウォル号沈没事故の真相究明のため製作されたドキュメンタリー作品で、監督はイ・サンホとアン・へリョン。2014年釜山国際映画祭で上映されましたが、遺族による上映反対や、釜山市長から上映中止が求められる事態も起きました。 MBS記者のイ・サンホは事件現場に入り、あまりにも混乱した現場に驚きます。メディアの報道とは違う現実を目の当たりにする中、民間企業による潜水鐘「ダイビング・ベル」を使った救助活動が始まります。 この沈没事故は韓国史上最も大規模で悲惨な事故となりました。過積載の問題や乗組員の経験不足など韓国の運航会社の問題のみならず、韓国社会自体の問題として後々大きく取り上げられました。 何よりも、多くの高校生が命を落としたことが、この事件の最大の悲劇。『ダイビング・ベル セウォル号の真実』はマスコミ報道の嘘を暴き、政府の危機管理能力に対する不信感やセウォル号沈没の疑問点を挙げ、韓国社会に議論を巻き起こしました。

【2015年】パリ同時多発テロ事件と『メイド・イン・フランス パリ爆破テロ計画』

【パリ同時多発テロ事件】2015年11月13日

ISの戦闘員、いわゆるジハーディストによる大規模なテロ事件が同時多発的にパリ市街と郊外で起こりました。2015年11月13日の夜9時20分、最初の自爆テロがパリ郊外のスタッド・ド・フランスで起こります。 その後立て続けにパリ10区のカンボジア料理店と11区のピザ店、カフェで武装グループが銃を乱射、レストラン付近で自爆テロが発生。21時40分には、ライブ中のバタクラン劇場へ同グループが押し入り銃乱射の上、立てこもりました。 このテロ事件による死者は少なくとも130人とみられており、負傷者は300人を超しました。 ジハーディストとは聖戦主義者でイスラム過激派を指します。実はこの事件より前に、ジハーディストのグループに潜入するジャーナリストを主人公にした映画が製作されていました。

『メイド・イン・フランス パリ爆破テロ計画』(2015年)

ニコラ・ブークリエフ監督、マリック・ジディ主演のサスペンス作品で、フランスで2度も上映中止となった問題作。パリ同時多発テロ事件が発生した同年に製作された映画ですが、まるでこの事件を予測していたかのような内容に衝撃が走りました。 フリー・ジャーナリストのサムは、パリ郊外で集会するイスラム原理主義者のグループに潜入。行動を共にしているうちに、パリ市内での爆破テロ計画を知ってしまいます。しかしスクープを狙うあまり、組織の深みにはまっていき、共犯者とならざるを得ない事態に発展します。 2015年1月7日に起こった風刺週刊誌「シャルリー・エブド」社襲撃事件、そして11月13日の同時多発テロ事件によって、この作品は劇場公開が2回も中止となりました。 あまりにも現実の事件と酷似しており、まるで予言めいたリアルさが不気味と言わざるを得ません。しかし若者たちがどうしてテロリストがなっていくのかを描いた点で関心が高まり、しかも上映中止のニュースと相まってテロ事件との関連で取りざたされました。

パリ同時多発テロ事件にまつわるその他の作品

2015年はフランスにとってテロとの厳しい戦いの年となりました。2015年8月21日にも「タリス銃乱射事件」が起きています。高速鉄道タリスの車内でイスラム過激派が銃を乱射し、乗客3人が負傷した事件です。 クリント・イーストウッド監督が『15時17分、パリ行き』(2018年)で、この事件を扱っています。犯人を取り押さえた3人のアメリカ人が本人役として主演していることも話題となりました。

【2016年】イギリスEU脱退と『わたしは、ダニエル・ブレイク』

【イギリスEU離脱の国民投票】2016年6月23日

イギリスがEU(欧州連合)を離脱するかの是非を問う国民投票が、2016年6月23日に行われました。結果は予想を大きく覆して僅差でEU離脱票が上回り、2017年にイギリスのメイ首相が正式にEUに離脱を通告しました。 イギリスのEU離脱は「ブレグジット」とも呼ばれ、ヨーロッパだけでなく、世界経済や政治にも大きな影響を与えています。これは近年、世界でグローバル化が進展してきたことが、大きな歪みとなってイギリスの国民投票に現れた結果といえます。 グローバル化は第一に大量の移民・難民と欧州育ちのテロリストの流入を招きました。そこから経済格差とテロへの恐怖が生まれているのです。特にその波をもろに受ける労働者や低所得者層では、反EUの感情が育ってもおかしくはなかったわけです。

『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016年)

ケン・ローチ監督がイギリス社会の現在を映した『わたしは、ダニエル・ブレイク』は、複雑な社会制度に戸惑い、貧困にあえぐ低所得層を描いた作品です。主人公のダニエル・ブレイクをデイヴ・ジョーンズが演じています。 心臓病でドクターストップを受け、仕事ができなくなった大工のダニエル。国の援助を受けるにも制度が複雑なため、一向に援助を受けることができません。そんな中シングルマザーのケイティの家族と知り合い、お互いに助け合うように。それでも、シビアな社会の現実が彼らを襲います。 ローチ監督は引退を撤回してまで、今の世界にイギリスの現状を伝えたかったといいます。この作品は国民投票の1ヶ月前に、カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞しています。 イギリス国民一人一人の1票が大きな重みを持ち、EU離脱を決めた国民投票。これはダニエルやケイティのような社会に抑圧された大多数の1票であり、イギリスという国の行方を国民自身が決めた瞬間でした。

【2017年】ラスベガス銃乱射事件と『女神の見えざる手』

【ラスベガス銃乱射事件】2017年10月1日

アメリカの銃乱射事件は度々起こり、その度に全世界にニュースが駆け巡っていますが、一向に無くなる気配はありません。そんな中で飛び込んできた「ラスベガス銃乱射事件」のニュースは、あまりにも衝撃的なものでした。 2017年10月1日、ラスベガス・ストリップ大通り沿いのラスベガス・ヴィレッジで開催されていたカントリー・ミュージック・フェスティバルの会場は突如大混乱に陥りました。会場の斜め向かい側の対面に位置するマンダレイ・ベイ・ホテルの32階から、無差別に銃が乱射されたのです。 死者58人、負傷者546人となり、容疑者の男パドックは自殺。その動機すらわからないまま、アメリカ史上最悪の銃乱射事件として記録に残りました。また全米ライフル協会はこの事件に対しても、アメリカ人の銃保持の権利を主張し、銃規制強化に反対する声明を発表しています。

『女神の見えざる手』(2016年)

ジョン・マッデン監督による社会派サスペンスで、銃規制法案を通すために奮闘するロビイストを主人公としています。主演はジェシカ・チャスティンで、天才的ロビイストのエリザベス・スローンを演じています。 大手ロビー会社にでトップ・ロビイストとして働くエリザベスは、銃所持支持のロビー活動の仕事を断ります。逆に銃規制派の会社に移籍すると、その天才的手腕で次々と難局を乗り越えていきます。 アメリカにおいてロビイストとは、政治や世論・マスコミすら動かして強大な権力を操作している、かなり重要な存在。銃規制に反対する全米最大の団体「全米ライフル協会」の主張も、この映画に描かれているようにロビイストたちの暗躍によって政治や世論を動かしていることは間違いないでしょう。 日本では2017年10月20日、つまりラスベガス銃乱射事件の同月に公開となり注目が集まりました。また、2018年2月15日にもフロリダ州の高校で生徒17人が死亡するという銃乱射事件が起き、事件を経験した高校生たちが銃規制の必要性を訴える活動を開始。3月にフロリダ州で銃規制法案が成立しています。

アメリカの銃乱射事件を描いたその他の作品

アメリカの銃乱射事件が日本でも大きく注目された事件といえば、1999年4月20日に起きた「コロンバイン高校銃乱射事件」ではないでしょうか。マイケル・ムーア監督がこの事件をドキュメンタリー作品『ボーリング・フォー・コロンバイン』(2002年)として取り上げ、全米ライフル協会の思惑と銃規制の難しさを示しました。

【2018年】トランプ政権と『ブラックパンサー』

【トランプ政権2年目】2018年1月〜

不動産王として有名なドナルド・トランプが、アメリカ合衆国大統領に本当に就任するとは、一体誰が予測できたでしょうか?2016年の大統領選挙に出馬した当時は泡沫候補とされていたのに、最終的にヒラリー候補を下すとは。 しかも多くの識者がトランプ政権は長くは保たないと分析していたにも関わらず、2018年現在も政権2年目の大統領としてすでに中間選挙も視野に入れ始めています。

『ブラックパンサー』(2018年)

『クリード チャンプを継ぐ男』のライアン・クーグラー監督によるマーベルのヒーロー映画で、主役の若き国王ティ・チャラ/ブラックパンサーをチャドウィック・ボーズマンが演じています。 秘境にある超文明国家ワカンダの国王ティ・チャラは、もう一つの顔「ブラックパンサー」を持っていました。父王の急逝によって若くして王位を継いだティ・チャラは、ワカンダが持つ秘密の宝である希少鉱石「ヴィブラニウム」を守る使命を負うことになります。 大統領就任後にも数々の差別発言を繰り返しているトランプ大統領ですが、ハリウッドでは相変わらず反トランプ派が主流。2018年に公開された『ブラックパンサー』ではアメコミ映画初の黒人ヒーローが誕生し、興行的にも大成功を収めています。 そしてこの作品は、アカデミー賞主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンドがスピーチで主張した「スタッフ・キャストの多様性」を見事に体現しています。前時代に立ち返ろうとしているトランプを尻目に、多様性に富むアメリカの良さを再確認して前に進もうとしているからこそ、共感を生んで大ヒットしたのかもしれません。

これからの世界を描く映画は?

9・11テロから始まった21世紀。2010年代も厳しいテロとの戦争が続いています。事件を改めて振り返ってみると、世界はいかに地続きでつながりあっているかがわかります。 これまでさまざまな事件・事故が映画の中で描かれてきましたが、これからもどんなことが起ころうと時代の記録として映画は残り、いつの世にも時代を映す鏡の役割を果たしていくのではないでしょうか。