2021年8月26日更新

『風立ちぬ』シベリア完全解説!作中登場シーンを考察&実写で再現してみた

シベリア
©︎ciatr編集部

ジブリ映画『風立ちぬ』に登場するお菓子・シベリア。本作でのこのお菓子の登場シーンには、いったいどんな意味が隠されているのでしょうか。そんな話題のお菓子シベリアをciatr編集部で再現!シベリアの歴史や名前の由来についても紹介します。

『風立ちぬ』登場のお菓子シベリアを完全解説!

ジブリ映画『風立ちぬ』に登場したお菓子・シベリアは、一定の年齢層以上には懐かしい、若い人には珍しいお菓子として注目を集めました。 しかし劇中でシベリアが登場したシーンは、実は本作の主人公・堀越二郎という人物の人間性を垣間見ることのできる重要なシーンになっていました。記事ではその点について考察していきます。 また、謎のお菓子シベリアの歴史や名前の由来についても紹介しつつ、ciatr編集部で実写版シベリアを完全再現!? 盛りだくさんの内容になっているので最後まで読んでみてください。

『風立ちぬ』シベリアを巡るシーンが意味するもの

シベリアの登場シーンの概要

ある夜の仕事からの帰り道、二郎は売店でシベリアを買います。 夜遅い時間でしたが、彼は店の前で小さな男の子をおぶった女の子を見かけました。親を待っているらしい彼らに、二郎はシベリアを差し出し「これを食べなさい」と渡そうとしますが、女の子は嫌な顔をして走り去ってしまいました。 彼は仕方なくそのまま下宿に帰り、同僚の本庄とシベリアを食べながらそのことを話します。本庄は「それは偽善だよ」と指摘するのでした。

本庄が「偽善」と指摘した理由

子どもにシベリアをあげようとした二郎の行動を、本庄は偽善だと指摘しました。つづけて彼はこうも言っています。「腹を減らしてる子どもならこの横丁だけでも何十人もいる。隼の取り付け金具1個の金で、その娘の家なら、ひと月は暮らせるよ」。 彼らの夢である飛行機は日本軍の依頼で作っており、そのお金の出どころは税金です。本来なら貧しい子どもたちに使うこともできるお金ですが、国は軍事事業にほぼすべてを注ぎ込んでいました。 また「どうして日本は貧しいんだろう」という二郎に対して、本庄はこう答えます。「今回の技術導入でユンカース社にどれほどの金を払うか知ってるか?」、「日本中の子ども達に天丼とシベリアを毎日食わせてもお釣りがくる金額だ。」 本庄は、飛行機づくりがそれだけの犠牲の上に成り立っていることを自覚していました。彼は人々を貧しくする軍事事業に加担している二郎も含めた自分たちが、子どもにシベリアを恵もうとすることは偽善だと指摘したのです。

シベリアは二郎のエゴを浮き彫りにする装置

本作の主人公である二郎は、飛行機設計については天才的で理想主義的ですが、そのほかのことについては無頓着な人物として描かれています。それを象徴するシーンの1つが、このシベリアのくだりです。 上記の本庄との会話で「どうして日本は貧しいのだろう」と言った二郎は本庄と違って、飛行機づくりにどれほど金がかかっているのか、またその出どころはどこなのかということに、興味がなかったのだとわかります。 自分の夢がどれほどの犠牲の上に成り立っているのかをわかっていない、興味もない彼は、人の気持ちや社会になどに関心のない、エゴイスティックで自己中心的な人物だといえます。監督である宮崎駿は、この一連のシベリアのシーンで、二郎の性格の負の側面も描こうとしたのでしょう。

そんなシベリアの歴史・名前の由来は?

シベリア、お菓子、パン、フリー素材

シベリアは、カステラに羊羹またはあんこを挟んだお菓子です。ただし、羊羹やあんこはサンドイッチのように、ただスライスされて挟まれているのではなく、カステラとくっついているのが大きな特徴。 これはシベリアを作る際に、カステラを敷いたトレーに溶けた羊羹や小豆あんを流し込み、その上からカステラを重ねているためです。 詳細は不明ですが、関東地方では大正時代から食べられていたようで、喜劇俳優・古川ロッパの著書などにも記載があります。冷蔵庫が普及していない時代に、ひんやりとした食感や涼し気な名前が好まれ、昭和初期には「子どもたちが食べたいお菓子No.1」だったとか。 シベリアの名前の由来は、羊羹をシベリアの永久凍土に見立てたという説や、カステラを氷原に、羊羹をシベリア鉄道の線路に見立てたという説がよく聞かれます。 しかしほかにも、シベリア出兵にちなんだという説、日露戦争に従軍していた菓子職人が作ったなど、さまざまな説があり、真偽は不明です。

『風立ちぬ』シベリア、実写版を完全再現への道

謎に包まれたお菓子、シベリア。そんなシベリア記事を作るにあたって編集部員M「シベリアのビジュアル再現したら面白い」と発言。そこでciatr編集部で二郎が買ったシベリアを実写で完全再現を試みることに。問題の作中のシベリアがこちら。

『風立ちぬ』

『日々新聞』という新聞の切り抜き上に、分厚めの茶色い紙(?)を挟み、シベリアが2つ置かれています。 ここからはこのビジュアルを完全再現するために調達した素材を紹介していきますッ。

完全再現への道〜素材編〜

包装用の新聞

日本経済新聞
©️ciatr編集部

シベリアの包装の外側を担う『日々新聞』。『日々新聞』とは1872年(明治5年)に創刊された東京最初の日刊新聞であり、現在の『毎日新聞』の前身となる新聞です。 そんな日々新聞は『東京日々新聞』『大阪日日新聞』2種の題号が同時に存在していました。作中では省略されていますが『風立ちぬ』の舞台は東京であることから包み紙に使われているのは『東京日々新聞』でしょう。 なので再現には『毎日新聞』を使うのがベターなのですが、すっかりその事実を失念していた編集部員Sは購読している『日本経済新聞』を使用してしまいました。 なので再現する場合は『毎日新聞』を使用することをおすすめします!

なんか茶色い紙

天然竹皮

シベリアの包装の要ともいえる茶色い紙。編集部ではこれはちまきの包み紙のようである→竹の皮?という推測のもと、天然竹皮(7枚入り¥330)を用意しました。全長30cmほどの大きさ、安心感のある分厚さでシベリアも載せることができそうです。 画像をクリックするとそのまま商品ページに遷移可能なので、『風立ちぬ』を追体験しながら鑑賞したい人はポチってみては?

シベリア

スーパーやコンビニではあまり見かけることのないシベリアをどこで調達するのか?それは完全再現する上で大きな課題でした。しかしリサーチする中で「シベリアの聖地のパン屋が横浜にある」という情報をゲットし、早速噂のパン屋さんを訪れました。

桜木町コテイベーカリー
©️ciatr編集部

シベリアの聖地、その名も「コテイベーカリー」。横浜市営地下鉄とJR根岸線 桜木町駅から徒歩5分、繁華街である野毛エリアに向かう裏路地にひっそりと佇んでいます。

桜木町コテイベーカリー
©️ciatr編集部

大正5年創業のコテイベーカリーは目玉の1つはやっぱりシベリアであり、お店のディスプレイもそれを押し出したものとなっています。 店主・馬中さんのインタビューを掲載した「シベリア物語」によるとシベリアは本来和菓子のようなものだったのですが、羊羹を作る設備に加えてカステラを焼成する設備を持つ和菓子屋さんはなかなか無かったのでパン屋が窯の余熱を利用して作るようになったのだとか。 なので昔はどこのパン屋でも作られていましたが、工数が多く手間がかかるのでだんだん販売する店が減ってきてしまったそうです。 興味が湧いた人はみなとみらい観光のついでに立ち寄ってみては? コテイベーカリーでシベリアを無事買うことができ安心した編集部員Sはオフィスへ向かいます。ここからは完全再現への道〜撮影編〜に入ります。 コテイベーカリー 所在地 〒231-0063 神奈川県横浜市中区花咲町2丁目63 TEL 045(231)2944 営業時間 平日 午前9時~午後7時 祝日 午前10時~午後7時 定休日・日曜日(臨時休業あり)

完全再現への道〜撮影編〜

集めた素材、新聞・竹皮・シベリアを手にオフィスのデスクで『風立ちぬ』のシベリアを確認しつつ調整していきます。

シベリア
©︎ciatr編集部

本編のシベリアをモニターしつつ試行錯誤する編集部員M

シベリア
©︎ciatr編集部

何かが違う……。そんな違和感を感じつつベストな角度を探っていきます。

シベリア
©︎ciatr編集部

公式画像を横に並べ微調整!雰囲気結構寄せることができたのでは?そして最終的に決定した再現シベリアがこちら。

シベリア
©︎ciatr編集部

実写版『風立ちぬ』のシベリア、完成しました。しかし正直に言って、めちゃめちゃ似ているわけでもないけど、全然似てないと笑い飛ばせるほどでもない。そんな出来だと私は感じています。 以下の記事では編集部員Sが完全再現する上で感じたこと、改善できた点を振り返ります

完全再現への道〜反省編〜

「完全再現」という大仰な煽り文句を打ち出したのにも関わらず、完璧に再現もできず、ネタにもなれなかった実写版シベリア。 材料の手配から撮影まで携わった編集部員Sがこれから『風立ちぬ』のシベリアを再現する人のために注意すべきポイントを残しておこうと思います

新聞にはこだわれ

素材編で既に触れていますが、作中で使われているのは『毎日新聞』の前身である『日々新聞』です。完全再現を目指すなら『毎日新聞』を使うのが筋というものでしょう。 そしてもっとこだわるならば作中の日付や旧仮名遣いに則り、自身で何らかの編集ソフトを使用し作るのがベストな選択と言えるでしょう。

シベリアの幅は大事

今回使用したシベリアはコテイベーカリーの手作りのもの。ふわふわのカステラともっちりとした羊羹が美味しいこのシベリアですが作中のものと比べると少しボリューミーです。そのため竹皮からカステラ部分がはみ出してしまいどことなく違和感を感じさせる理由の一因になってしまったかもしれません。 時たまスーパーで見かけるメーカーのシベリアの幅はやや薄い印象があるのでもしかしたらそちらを使用した方が再現率は高かったかも

照明の色温度は暖かめにするべき

『風立ちぬ』でシベリアが登場するシーンは夜の売店横なので、そのシーンに合った照明を調整するべきだったと思います。昔懐かしの昭和〜な雰囲気、ジブリ独特の作風を演出するためにも撮影は少し暗めの暖色電球のもと、光源を手前に置くべきです。白色蛍光灯の下で撮影したことが悔やまれます。 以上反省と後世へのアドバイスでした。

編集後記

シベリア
©︎ciatr編集部

めちゃくちゃシベリアと連呼してきましたが、一体味はどうだったのでしょうか。 カステラは通常のそれよりもふわふわして甘みは少し抑えられている印象でした。購入したコテイベーカリーの店主の方のお話によると、卵をあえて多めに使用しているみたいです。間に挟まっている4〜5cmの水羊羹と一緒に齧るとちょうど良い甘さが広がります。 普段甘いものが苦手な私でも美味しく食べられるレトロなお菓子・シベリア。この味がずっと残ればいいですね。

『風立ちぬ』謎多きシベリア

シベリアは昭和世代には懐かしく、今では若い世代にも人気のお菓子ですが、その発祥や名前の由来、考案した人物などは謎に包まれています。 しかし時代を象徴する食べ物として『風立ちぬ』に登場し、重要な役割を担ったことは興味深いですね。そんなシベリアは、関東地方を中心に、今でもいくつかのパン屋さんやスーパーで手に入れることができます。 シベリアを食べながら、『風立ちぬ』を観てみるのもいいかもしれませんね。