『思い出のマーニー』原作小説と映画の違いは?時代背景に戦争が描かれていた
スタジオジブリ劇場用長編アニメーション20作品目の『思い出のマーニー』。イギリスの児童文学作家ジョーン・G・ロビンソンの同名作品を原作とした本作は、療養のため海辺の田舎町に滞在することになった少女が体験した、ちょっと不思議な出来事を描いています。 この記事では、その原作小説を紹介し、原作と映画の違いを解説していきましょう。
『思い出のマーニー』原作小説の概要
タイトル (原題) | 『思い出のマーニー』 (When Marnie Was There) |
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原作者 | ジョーン・G・ロビンソン |
発行年 | 1967年 |
ジャンル | ファンタジー、児童文学 |
『思い出のマーニー』の原作は、イギリスの作家ジョーン・G・ロビンソンが著した児童向けの同名児童文学。1967年にイギリスで出版され、25万部を売り上げるヒットとなった他、BBCでテレビ化もされました。 日本では1980年に翻訳版が岩波少年文庫より出版。スタジオジブリによる映画化を受けて新訳版も出版されるなど、原作にも再び注目が集まりました。
原作小説のあらすじ
イギリスの片田舎に住む少女、アンナ。絵を描くのが好きなごく普通の女の子ですが、小さい頃に両親と祖母を亡くし孤児となったためか、周囲に溶け込めずにいました。 ある夏、杏奈は喘息の療養のため、養母と離れ海辺の村で過ごすことになります。そこで彼女はぽつりと立つ「湿地屋敷」を見つけ、なぜかその建物に強く心を惹かれるのでした。 ある日彼女は夜中に1人、湿地屋敷の裏口へ向かいます。屋敷に近づくと無人のはずの館に明かりが灯り、金色の長い髪に青い目の女の子・マーニーが現れました。 アンナはマーニーに心を開いていき、彼女に悩みを打ち明けていきます。マーニーも孤独を感じていることを打ち明け、2人は永遠に友達でいる誓いを立てました。
原作小説と映画の違い
- 舞台がイギリスから日本に
- ストーリーが短く凝縮されている
- キャラクターの性格の変更
違い①:舞台がイギリスから日本に
原作小説の舞台はイギリス、ノーフォーク州の海辺にある架空の村リトル・バートン。 モデルとなっているのは、同州にあるBurnham Overyという村で、原作者ジョーン・G・ロビンソンは実際に夏をこの地で過ごしており、ここでの体験が小説の元となっているとのことです。 映画では物語の舞台を日本の北海道へと移しています。杏奈が普段住んでいるのは札幌、そして療養のため訪れる海辺の村は、北海道東部、釧路・根室・厚岸などがモデルです。 北海道を選んだ理由は気候や土地がイギリスに似ているため。ジブリはこれまで北海道を舞台にすることを避けていたので、挑戦的な選択でした。 宮崎駿が明るく澄み渡っている空を描きたいタイプだったため、瀬戸内を舞台とする案も出ていました。しかし今作にはぼんやりとした空模様や美しい湿原が必要だったため、北海道が選ばれたようです。
杏奈の「青い目」はコンプレックスじゃない
物語の舞台をイギリスから日本へ移したため、登場人物達は皆日本人という設定に変更されています。 杏奈は1/8だけ外国の血が入っているという設定になり、目の色が少しだけ青いキャラクターデザインになりました。 映画版では瞳の色が他の人と少し違うことが杏奈のコンプレックスになっていましたが、原作では周りも皆イギリス人なのでコンプレックスにはなっていません。
風車小屋がサイロに変更された
物語の中で、嵐の夜、杏奈とマーニーはある建物へ2人で入り、何故かマーニーは杏奈を置いて去ってしまいます。 このばあやのお仕置きにも使われた建物は、原作では風車小屋でした。実際にモデルとなった風車小屋が、今もイギリスに残っているそうです。 映画版では、日本ではまず見かけることのない風車小屋ではなく、農作物や家畜の飼料を貯蔵するのに使われていた、古いサイロとなっています。
違い②:ストーリーが短く凝縮されている
マーニーと会う回数が少ない
映画では杏奈とマーニーの交流は夢の中も含めて4回ですが、原作では6回の交流があります。1週間ほぼ毎日一緒に過ごすくらい頻繁に交流し、最後の夢での語り合いが展開されました。
日記を見つけるタイミングが遅い
映画版では、杏奈とマーニーが交流している途中でマーニーの日記が登場します。それに対して原作では、マーニーとの別れの後にアンナが日記の存在を知ることになります。
マーニーと別れたその後が描かれる
映画では物語の終盤で杏奈とマーニーが別れますが、原作では物語の中盤で2人は別れ、その後杏奈が帰宅するまでの物語に多くのページが割かれています。
時代背景に戦争がある
マーニーがアンナの母と別れた理由は、映画ではサナトリウムで療養することになったためとされています。 しかし原作では戦争のためアンナの母を疎開させたことが理由です。戦争が終わって娘を呼び戻しても、ただでさえ両親から愛された経験の少ないマーニーは、娘との関係を上手く築けずギクシャクしてしまうのでした。
違い③:キャラクターの性格の変更
杏奈の養母は冷たい
杏奈の養母・頼子の親戚の大岩夫婦は映画版では杏奈を過保護なくらいかわいがる、優しい夫婦として描かれています。しかし原作の養母ナンシーはあまり優しくありません。どちらかといえば心配なあまり厳しくなってしまうタイプなようです。
十一(といち)がもっと活躍する
映画版では、物語も終盤になってやっと一言しゃべる船頭の十一(といち)。原作でも11番目の子ども「あまりんぼ」で、寡黙であることには変わりありませんが、死にかけたアンナを助けるという大活躍を見せます。
彩香の家は大家族だった
原作では、湿地屋敷に新しく引っ越してきたリンジー一家は、リンジー夫妻と5人の兄弟。アンナはこの家族みんなと次第に打ち解けていきます。兄弟のうち、次女のプリシラがマーニーの日記を発見し、アンナをマーニーだと思い込みました。 映画版では、引っ越してきた家族はそんなに大家族ではありません。子どもは兄と妹の2人兄弟で、両親はほとんど登場しませんでした。妹の彩香が、マーニーの日記を通して、杏奈と仲良くなって行きます。
『思い出のマーニー』の原作と映画の違いを見つけよう
この記事では『思い出のマーニー』の物語を、舞台、ストーリー、キャラクターの3観点から原作と映画の違いを紹介してきました。 違いを読み解くことで、物語のもっと奥深い魅力に気がつくことができるかもしれません。この機会に原作まで読んでみてはいかがでしょうか。