『ハウルの動く城』ソフィーが若返るのはなぜ?魔法の力や老化に込められたメッセージを考察
宮崎駿が監督・脚本を務めたアニメーション映画『ハウルの動く城』(2004年)のヒロインであるソフィーは、荒地の魔女に呪いをかけられて90歳の老婆の姿に変えられてしまいます。 しかし映画の中で、ソフィーがたびたび元の姿に戻るシーンがあるのです。急に若返ったかと思うと、すぐにおばあさんの姿に戻ってしまいます。さらに結末も、どのタイミングで魔女の呪いが解けたのかは明らかにされません。 このことはどうもソフィーの精神的状態が関連しているようです。この記事では、そんなソフィーの若返りの理由を徹底的に考察します! さらにソフィーが持つ「言霊の魔法」についても原作小説『魔法使いハウルと火の悪魔』をもとに考察します。 この記事は映画『ハウルの動く城』の結末などのネタバレを含みます。未見の場合はご注意ください!
ソフィーの基本情報
フルネーム | ソフィー・ハッター |
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年齢 | 18歳 |
職業 | 帽子屋 |
声優 | 倍賞千恵子 |
『ハウルの動く城』のヒロイン、ソフィーのフルネームは、ソフィー・ハッター。原作によれば年齢は18歳です。 声優を務めたのは、倍賞千恵子。彼女は映画「男はつらいよ」シリーズや『幸福の黄色いハンカチ』(1977年)などで、若い頃から第一線で活躍。近年の出演作には、『PLAN 75』(2022年)などがあります。
家族構成について
主に婦人物の帽子を製造販売する「ハッター帽子店」の跡取り娘ですが、店は継母のファニーが経営していて彼女は裏で帽子を作るのが仕事です。 ソフィーにはレティーという年齢の近い妹がいます。レティーは姉と違って愛想も男受けも良いタイプ。勤め先のカフェ・チェザーリでは看板娘です。
性格はうざい?ネガティブで消極的
そんなソフィーの性格はネガティブで消極的です。外出するときも地味な帽子を目深にかぶって顔を隠すありさま。 兵隊にナンパされるぐらいですから容姿は悪くないはずですが、お洒落で愛想の良い妹と比べると自信が持てません。 その上ソフィーは長女であるという責任感から、望まないにもかかわらず亡き父の帽子店を継ごうとしています。
実は魔女?魔法の力について
作中ではソフィーは魔法を使えないとされていますが、実は原作では彼女も魔女という設定になっています。 彼女は「言霊の魔法」を使うことができ、映画でもカルシファーを助けるなど、いくつかの場面でその魔法が使われています。 ソフィーの「言霊の魔法」の詳細はこちら
荒地の魔女はなぜソフィーに呪いをかけた?
ある日ソフィーは兵隊たちにしつこく絡まれているところを、魔法使いのハウルに助けられます。 そのときちょうど荒地の魔女の手下に追われていたハウルは、ソフィーの手をとって空高く舞い上がり追手を逃れました。 空中を歩いてカフェのベランダにおろしてもらったソフィーは、すっかりハウルにのぼせ上がってしまいます。 しかしその夜荒地の魔女がソフィーを訪ねて、「荒地の魔女に張り合おうなんて、いい度胸ね」とソフィーを老婆の姿に変えてしまいました。 どうして荒地の魔女はソフィーに呪いをかけたのか、それは以下の記事で説明しています。
荒地の魔女がソフィーを妬む理由はこちら
ときどき若返る理由は?魔女の呪いの正体を解説
魔女の呪いは“自信のなさ”が“老化”の正体
こうして90歳の老婆の外見になってしまったソフィーですが、ときどき呪いが解けたかのように若々しい姿にもどる場面があります。 その理由は、荒地の魔女の呪いがただ老けさせるものではなく、ソフィーの自己肯定感の低さを見た目の老化として顕在化させるものだったから。つまりソフィーが自信を失ったときに、見た目の年齢も老化するのです。 逆にソフィーが前向きな目標を持ったり、自信があったりして自己肯定感が高まると、彼女の見た目は若返ります。 以下では具体的ないくつかのシーンを振り返っていきましょう。
若返ったシーン
ソフィーが大好きなハウルのことを思ったり、自信溢れる態度になったりするときに、彼女は本来の若い姿に戻ります。 最たる例は、ハウルの身代わりとして王室の魔術師・サリマンに会いに行くシーンです。 悪魔と契約を交わしたハウルはやがて身も心も悪魔に食い尽くされてしまう、とソフィーを脅すサリマン。彼女は「ハウルが王宮に来て王国のために尽くすなら悪魔と手を切る方法を教えるが、それを拒むならば彼の魔力を無理やり奪う」と脅しました。 それに対してソフィーは「(ハウルは)悪魔とのことはきっと自分でなんとかします。わたしはそう信じます」とサリマンに強く反論。 ハウルのことを強く信じる思いを口にしたとき、ソフィーは若返っていたのでした。
老いたシーン
逆に自己肯定感が下がって老いてしまうシーンもあります。顕著な例は、ハウルが秘密の庭にソフィーを招待するシーンです。 美しい花園を大好きなハウルと手をとって歩いているうちに明るい気持ちになってきたソフィーは若い姿に戻っていきます。しかしハウルが子どもの頃の夏を過ごした水車小屋を見たとき、ソフィーは突然ハウルを失う不安にとらわれました。 「わたしきれいでもないし、掃除ぐらいしかできないかも」と自分に自信のないことを口にした彼女は、またたく間に老婆の姿に戻っていきます。 このシーンは自己肯定感と連動して魔女の呪いが変化することを顕著に示していました。
ハウルとの出会いと恋が呪いを解く“きっかけ”
物語が終盤のクライマックスに差し掛かり、サリマンの手下からハウルを守らなければならないとソフィーが決意すると、ソフィーが老婆の姿に戻ることはなくなります。 それはハウルのためにとった行動とその経験が自信となって、呪いが効かなくなったからではないでしょうか。 それまでもソフィーはハウルと恋に落ちて若々しい肯定的な感情を抱くときに、たびたび若返っていました。 さらにハウルからの見た目に左右されない愛情も、ソフィーの心に安心と自己肯定感をもたらしたのだと考察できます。 愛は自信のない後ろ向きな人間を、前向きに変える力を持っているのです。
ハウルはソフィーを待っていた!呪いを解ける唯一の存在
ソフィーは荒地の魔女とハウルの呪いを解ける唯一の存在でした。 物語も大詰めを迎えるころ、戦争の混乱でハウルの城は崩壊し、ソフィーは城の残がいとともに谷底に落ちます。 ハウルのことを想って彼女が泣いていると、ハウルがくれた指輪が光ってドアを指し示しました。ドアを開けるとハウルの思い出の水車小屋がある草原が広がっています。 何とソフィーはハウルの少年期にタイムスリップ!ハウルが流れ星を飲み込んで自分の心臓を取り出すことでカルシファーに生命を与えたのを見て、ソフィーは2人の契約の謎を知ります。 ソフィーは元の時間にもどる直前、「ハウル!カルシファー!……私、きっと行くから!未来で待ってて!」と彼らに呼びかけました。 幼いときからハウルはずっと、カルシファーとの契約を解いてくれるソフィーのことを待っていたのです。 ハウルとソフィーのその後はこちら
呪いと老化は「歳や見た目は問題でない」メッセージ
大事なのは自己肯定感
映画『ハウルの動く城』の重要なメッセージの1つは、見た目や年齢は問題ではなく、自信や自己肯定感が重要であるということです。 ソフィーは元から見た目に自信がなく、呪いで老化していましたが、自信を得たことでその呪いを解いてより一層綺麗になりました。 ハウルたちを救う体験からソフィーが自信を得て成長したことは、ソフィーの容姿の変化に如実に現れています。 まず頭の後ろで一纏めにして三編みにしていた髪の毛の一部は、カルシファーに魔法の代償として与えてしまったので、終盤はセミロングのさっぱりした髪型になりました。 さらに髪の色はもともと茶色でしたが、結末では「星の光に染まって」銀色になっています。これはそれまでの経験が、ソフィーの自己肯定感として定着したことの象徴ともいえるでしょう。
老化・醜化を肯定的に描いている
もう1つの大事なメッセージは、老化や見た目の欠点を受け入れる大切さです。 ソフィーは自らの容姿に劣等感を抱いていたために、妹よりも自分が店を継ぐべきだという思いに縛られていました。 しかし魔女の呪いで老婆の姿に変えられたおかげでありのままの自分を認められるようになり、外見のコンプレックスや家の束縛から開放されます。 同じように荒地の魔女も、魔力を奪われて年相応の姿に戻ったことで性格が丸くなりました。 さらにハウルも自分の外見に強いこだわりを抱いていましたが、本来の髪色に戻って「僕は本当は臆病者なんだ」とソフィーに弱さを見せたことで、彼女の愛と信頼を手にします。 老化や外見が気に入らなくとも、それを受け入れることで呪縛から開放されるということを、『ハウルの動く城』は教えてくれているのです。
ソフィーのキスは魔法なのか、強い願いが奇跡を呼んだのか
『ハウルの動く城』はジブリ作品の中でもキスシーンが多く、作中に5回のキスシーンが登場しています。 ファンの間ではソフィーはキス魔であるという感も見受けられますが、これは果たして作品の盛り上げのための描写だったのでしょうか。 ここからはこのキスに含まれた意味を考察していきます。
カカシのカブの呪いを解いたキス
ソフィーはハウル以外にカブ頭のカカシにもキスをして呪いを解いているので、ソフィーのキスには呪いを解く魔力があったという説があります。 しかし隣国の王子をカカシに変えた呪いについては、「愛する者にキスされないと解けない呪いね」と荒れ地の魔女によって説明されていました。要するにカブが愛するソフィーにキスされたことで呪いが解けただけで、彼女の魔力ではなかったのです。
カルシファーは言霊の魔法で救われた
むしろソフィーの潜在的な魔力を示すヒントは、カルシファーの持っていたハウルの心臓を彼の体内に戻すときの場面に見られます。 心臓をハウルに返したらカルシファーは死んでしまうのか、と尋ねるソフィーに対してカルシファーは「ソフィーなら平気だよ」と答えました。 後述するように原作では、ソフィーは言霊の魔法の力を持っています。この魔力によってハウルとカルシファーの生命を同時に救っていました。 これに対して映画では魔法に一切言及することなく、ソフィーの強い願いや思いに魔法のような力があるかのように描かれています。
ソフィーの「言霊の魔法」について
魔法は使えないとされているソフィーですが、先述したとおり、彼女には本人も知らない魔法の力がありました。それが「言霊の魔法」という力。彼女はその力で命を与えることができます。この魔法を使えば、生き物を生き返らせることも、生き物でない物を動かすことも可能。 あるシーンでソフィーは、飛行機を蹴り上げながら「動きなさいよ!」と言いました。これも蹴った衝撃で飛行機が直ったというより、彼女の魔法によって飛行機に命が与えられたと考えられます。
カルシファーが生き延びたラストシーン
ハウルが子どものころに、彼の心臓をもらう代わりに魔力を提供する契約をしたカルシファー。2人は契約を解除したいと思っていましたが、ハウルの心臓を彼に返せば、カルシファーは死んでしまいます。 そこでソフィーが魔法を使ってカルシファーに命を吹き込み、2人とも生きたまま契約を解除することができたのです。 映画のラストシーンで、ソフィーは「ハウルが命を取り戻し、カルシファーが千年も生きられますように」と言います。彼女は自分でも気づかないうちに言霊の魔法を使って、彼らに命を与えたのでした。
映画で説明されなかったわけ
映画でソフィーの魔法について言及されなかったのはなぜなのでしょうか。 監督の宮崎駿は『続・風の帰る場所 – 映画監督・宮崎駿はいかに始まり、いかに幕を引いたのか』で、ソフィーの魔法について、「ルールを逐一説明するような映画は作りたくなかった」と述べています。 ソフィーとハウルの呪縛が解かれる原因をあえて魔力と明示しなかったことで、映画は原作以上に「年齢や見た目は問題でない」というメッセージ性が強くなりました。
原作ではソフィーがもっと詳細に描かれる
映画『ハウルの動く城』の原作は、1986年に出版されたイギリスの作家・ダイアナ・ウィン・ジョーンズの筆になるファンタジー小説『魔法使いハウルと火の悪魔(邦題)』です。 原作は登場人物が映画より多く物語の筋も複雑で、映画では描かれていないソフィーや他の人物たちの背景まで詳しく書かれています。 ここからは映画と違う原作のソフィーを紹介しましょう。
原作ではソフィーも魔女だった
上記で述べたとおり、映画ではソフィーは魔法を使えないことになっていますが、原作ではソフィーは無自覚に魔法の力を持っているとされています。 彼女の持つ魔法は、言葉で魔力を吹き込む「言霊の魔法」です。たとえばソフィーが出来上がった帽子にいろいろと語りかけると、その帽子をかぶった人には素晴らしい出会いが訪れます。
ソフィーの魔法が大活躍する
原作では、ソフィーは言霊の魔法を駆使して、様々なものに命を吹き込んでいます。 たとえば原作のあるシーンで、彼女は雲の上まで飛んでいきますが、空気が薄いので呼吸がしにくくなってしまいます。そこでソフィーは「いいかい、空気よ!あたしたちの周りに集まって息をさせるの」と一言。すると息がしやすくなります。 これはソフィーが空気に命を吹き込んだため、空気が意思を持ってソフィーの言うことを聞いたということです。 この魔法を使えば大抵の願い事は叶う、かなり強力な魔法といえるでしょう。
老婆の姿は思い込み
荒地の魔女の呪いでソフィーが老婆の姿になってしまうのは、彼女の思い込みによるところが大きいことは、原作では書かれています。 原作のソフィーは帽子店での生活が退屈で重苦しいと語っており、荒地の魔女の呪いは彼女のこの閉塞感を利用したものでした。 さらに原作のハウルは、ソフィーにかけられた呪いを解こうと密かに手を尽くしますが、あまりに成功しないのを見て彼女は仮の姿のままでいることが好きなのだろうと諦めてしまうのです。
ハウルとソフィーは結婚する?
「2人はその後もしあわせに暮らしました」という結末を迎える映画『ハウルの動く城』。ではその後、2人はどんな生活をおくるのでしょうか。 原作の続編『アブダラと空飛ぶ絨毯』では、2人は結婚し、子どもを授かります。しかしある事情からソフィーは魔法で猫に姿を変えられてしまい、そのまま出産することに。生まれたのは、モーガンという男の子でした。ソフィーは猫の姿のまま、子育てをしなければなりませんでした。 その後ソフィーは人間の姿に戻り、ハウルとモーガンとともに仲良く暮らしています。
ソフィーの妹はマルクルと恋仲になる
原作のソフィーにはレティーの下にもう1人、マーサという妹がいます。 映画のレティーは、原作のレティーとマーサを合わせたようなキャラクター設定ですが、原作で2人は外見を変える呪文で入れ替わることがあるので、それほど違和感はありません。 さて原作で三女のマーサですが、年齢に似合わず早熟で早く結婚して子どもが10人欲しいと言っています。映画のマルクルは原作では15歳になるハウルの弟子・マルクルにあたりますが、マーサはこのマルクルと早くも恋仲になっているのでした。
ソフィーの呪いを解いたのは、ハウルがくれた自信だった!
映画『ハウルの動く城』において魔女の呪いで老婆の姿に変えられたソフィーが若返るカギは、ソフィーの自己肯定感にありました。 ハウルとカルシファーとの契約を解くことで2人の生命を救うことのできたソフィーは、その体験によって得られた自信で自らの呪いも解くことができたと考えられます。 原作とは違う本作の終わり方も、宮崎駿の作品らしい含蓄のある結末といえるでしょう。