『ハウルの動く城』荒地の魔女はハウルの元カノだった!?なぜおばあちゃんになってしまったのか解説
宮崎駿が監督・脚本を務めたアニメーション映画『ハウルの動く城』(2004年)に登場する荒地の魔女は本作のヒロイン・ソフィーに呪いをかけて老婆の姿に変えてしまう悪い魔女です。 この記事では、そんな荒地の魔女について基本情報、ハウルとの関係、原作との違いから声優を務めた美輪明宏に関するエピソードまで徹底解説します! この記事は映画『ハウルの動く城』の結末などのネタバレを含みます。未見の場合はご注意ください!
荒地の魔女って何者?
本名 | ニーニャ |
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年齢 | 不明 |
声優 | 美輪明宏 |
モデル | 美輪明宏 |
荒地の魔女は悪魔と契約したことで王宮を追放された魔女です。大きな身体に宝石をまとった姿で最初は登場します。 しかし物語の中盤で魔力を奪われて普通の老女に戻るとソフィー達の介護なしでは生活ができない身体に。一方で素直な心を取り戻しハウルの動く城の仲間たちと心が通い始めます。
荒地の魔女がおばあちゃんになったのはなぜ?
荒地の魔女は、魔法学校の校長であるサリマンに呼び出され、彼女の元へ向かう階段を上っているときにおばあちゃんになっています。おばあちゃんになったのはサリマンに魔力を奪われて本来の姿に戻ってしまったためです。 サリマンは強い魔力を持つ荒地の魔女を、戦争中に野放しにしておくことが危険だと考えたのでした。荒地の魔女は、妬んでいたサリマンが「自分のことを必要とした」と勘違いし、まんまと罠にかかってしまいました。
サリマンとの関係とは
その昔、サリマンと荒地の魔女はどちらも王国付きの魔法使いでした。しかし魔女となった荒地の魔女はサリマンによって王国から追放。サリマンに対して妬みがあり、50年ぶりに呼ばれたことで「ついに私の力が必要になった」と勘違いしてしまいました。
荒地の魔女はなぜハウルをつけ狙うのか?
荒地の魔女がハウルを狙っていた理由には、「強い魔法使いの心臓が魔力の役にたつから」や「美しい若者の心臓が若返りの魔力に役立つから」など諸説あります。 とりわけ有力な説は「ハウルに恋をしていたから」というもので、本当はハウルの心臓ではなく心がほしかったのではないかと考えられているのです。 そのように考えられる根拠は映画のセリフのなかや、プロデューサーの発言などに散りばめられています。さらにハウルと若き日の荒地の魔女との恋を描いたとされる短編アニメーション映画まで存在するのです。 ここからは荒地の魔女がハウルに恋をしていたと考えられる理由を説明していきましょう。
荒地の魔女はハウルの元カノ?決定的な証拠を解説
荒地の魔女がハウルの元カノであるのではないかと想像できる劇中の匂わせセリフが、なんと2つもあるんです。さらに鈴木敏夫プロデューサーが決定的な証言を残しています。詳しく見ていきましょう。
荒地の魔女「男なんか仕方のないものだけど、若い心臓は良いよ」
物語の後半でソフィーたちと打ち解けるようになった荒地の魔女は、ソフィーがハウルのことを愛しているのをすぐに見抜きます。 ソフィーが荒地の魔女に恋をしたことがあるかと聞くと、魔女は「そりゃしたよ、今もしてるね」と答えソフィーを驚かせて、「男なんか仕方のないものだけど、若い心臓は良いよ」と言うのです。 この言葉はハウルの想い人をわかっていても諦められず、心臓を奪って自分だけの男にしたいという魔女の胸中を吐露したものではないでしょうか。
ハウル「面白そうな人だなって思って僕から近づいたんだ。それで逃げ出した。恐ろしい人だった……」
一方ハウルが荒地の魔女をどう思っていたのかは、上のセリフからわかります。 ハウルが荒地の魔女に近づいた理由は、どうも好奇心によるものが大きかったようです。作中でもたびたびプレイボーイな行動を取る彼は、いわゆる“メンヘラ製造機”な可能性が高そう。 何気なく興味を持って近づいたハウルのキザな言動が魔女を“メンヘラ”にしてしまったのかもしれませんね。 ハウルも荒地の魔女も、悪魔と契約を結んだという共通点がありました。その興味から近づいたのち、魔女が契約で化け物になっていたことを知ったハウルは、きちんと話さずに逃げ出してしまったのかもしれません。
“ハウルの童貞を奪ったのは荒地の魔女です”!?
映画『ハウルの動く城』の鈴木敏夫プロデューサーは著書『風に吹かれて』で、「簡単に言うとハウルの童貞を奪ったのは荒地の魔女です」と述べています。 どうやら荒地の魔女はハウルの無垢な心を奪った最初の女性だったようなのです。 今でこそモテ男な雰囲気を漂わせるハウルですが、思い悩んで家出した思春期に、荒地の魔女と一緒に暮らしていたことがあったのだとか。 その具体的なエピソードが綴られた『ハウルの動く城』のサイドストーリーとなる短編映画を、以下で紹介していきましょう。
荒地の魔女の若い頃が『星をかった日』で描かれている
『星をかった日』は2006年1月から三鷹の森ジブリ美術館にて随時公開されている、絵本原作の短編アニメ映画です。 舞台となるのは架空の国・イバラード。主人公は“時間局”から逃れるために都会の家を飛び出した少年・ノナです。 彼は田舎街でニーニャと出会い、彼女のもとに住み込んで星の種を育て始めます。やがて時間局の人間がノナを連れ戻しに来て、星たちも夜空に巣立っていくのでした。 ニーニャはノナのやることなすことほとんどに「そう、素敵ね」と返す、幻想的で美しい女性です。 前述の鈴木プロデューサーは押井守監督との対談で、この作品におけるノナとニーニャについて映画『ハウルの動く城』との関連性を解説しています。鈴木プロデューサーによれば、ノナ=ハウル、ニーニャ=若かりし頃の荒地の魔女という裏設定があるそうです。 これは2人のハウル少年の初恋の物語なのかもしれませんね。
ソフィーをおばあちゃんにしたのは嫉妬からだった
こうしてまとめてみると、荒地の魔女がソフィーに呪いをかけた動機は嫉妬である可能性が大きいことがわかると思います。 製作者目線でハウルと荒地の魔女が昔から深い仲であったという裏設定を設けていたのであれば、荒地の魔女が長い間ハウルを愛していたことはほぼ確実です。 しかし荒地の魔女の手下に追われていたハウルは、ソフィーと運命的な出会いをしてしまいます。 ソフィーが強力な競争相手であることを悟った荒地の魔女は、すぐにソフィーの帽子屋を訪れて、彼女に呪いをかけて自分と同じ老婆の姿に変えてしまうのです。 荒地の魔女がハウルを諦めたくない思いは、ソフィーのポケットに入っていた「心なき男、おまえの心臓は私のものだ」というハウルへのメッセージにも込められていました。
原作版はサリマンを支配するほど強かった
映画『ハウルの動く城』の後半では、魔力を奪われて素直な心を取り戻した荒地の魔女ですが、原作では最初から最後まで凶悪な魔法使いのままです。 原作でハウルが荒地の魔女と出会ったとき、彼女は若くて美しい女性に化けていましたが、彼は恐れをなして逃げ出してしまいます。怒り狂った彼女はハウルがやがて自分のもとに戻ってくるように呪いを掛けます。しかも荒地の魔女は、ハウルの首までとろうと思っているのです。 原作での荒地の魔女はサリマンを打ち負かすほど強力な魔法使いです。彼女が王様の娘の命を狙ったので、原作では若い男性王室付き魔術師という設定のサリマンが荒地に派遣されますが行方不明になってしまいます。さらにサリマン捜索に出かけたジャスティン王子まで戻ってこないことに……。 実は原作での荒地の魔女は、ばらばらにしたサリマンやジャスティン王子の体をつなぎ合わせて1人の完璧な男を作ろうとしていました。その理想の男の頭部はハウルで、彼女は彼を王様にして、自分は女王の座につこうとしていたのです。
荒地の魔女の登場シーン&基本情報をおさらい!
若さ・美しさに執着しハウルを付け狙う
荒地の魔女はもともとは優れた魔法使いでしたが、悪魔と取引をして身も心も食い尽くされてしまい、荒地に追放されていました。 毛皮のコートにピッタリの高価そうなドレス、宝石のアクセサリー、化粧と魔法で若さと美貌を保っていますが、輿に入るのもようやっとのかなりの肥満体。そしてなぜかハウルの心臓をしつこく狙い続けています。
ソフィーに呪いをかける
ハウルとソフィーが初めて出会った日の晩、荒地の魔女がソフィーの帽子店にやってきます。 おしゃれにうるさい魔女は、店に入るなり「安っぽい店、安っぽい帽子、あんたも十分安っぽいわね」とすっかりソフィーを見下した様子。 帰りぎわに「荒地の魔女に張り合おうなんて、いい度胸ね」と言ってソフィーに呪いをかけて、若いソフィーを90歳の老婆の姿に変えてしまうのでした。
サリマンに魔力を奪われ年相応の見た目に
物語の中盤で、ハウルとともに王宮に呼び出された荒地の魔女。まずは王宮に入るまでに、何十段もある険しい階段を登らされます。 汗だくでヘトヘトになってようやく王宮に入った荒地の魔女は、部屋の真ん中に置かれた椅子に思わず座り込みました。 しかしそれは王室付き魔術師・サリマンが、戦争中に荒地の魔女を野放しにできないと仕掛けた罠だったのです。まんまと計略にひっかかった魔女は魔力を奪われ、本来の姿に戻されてしまいました。
ハウルの城にすみ、ソフィーたちと不思議な絆を育む
王宮からの呼び出しを断るためにソフィーを身代わりに送り込んだハウルでしたが、結局ソフィーを救出するために王宮に乗り込みます。 その混乱に紛れて、よぼよぼの老婆となった荒地の魔女もハウルの小型羽ばたき式飛行機械「フライングカヤック」に乗り込みハウルの城までついてきました。 こうして荒地の魔女はハウルの城に住み、ソフィーたちと不思議な絆を育んでいきます。 意地悪だった荒地の魔女ですがソフィーから食事などの介助をしてもらううちに感謝したのか、のちに重要な助言をするようになっていきました。
荒地の魔女の声優は美輪明宏
映画『ハウルの動く城』の荒地の魔女の声優は、歌手の美輪明宏が務めましたが、実はキャラクタービジュアルも、特に顔の部分で美輪がモデルになっているとのことです。 その経緯について美輪は2016年にTBSのラジオ番組『薔薇色の日曜日』で次のようなエピソードを紹介しています。 荒地の魔女の役の話が美輪にまわってきたとき美輪は、なぜ自分がこの役なのか尋ねたそうです。すると宮崎駿は魔女の顔を何度書いても美輪の顔になってしまうので、これはもう美輪さんしかないということで頼んだ、という返事だったとか。 美輪が、自分はそんなにデブかと問い詰めると、彼は黙ってニヤッと笑っただけ。 もともと宮崎の映画が好きで『もののけ姫』(1997年)の犬神の役で声の出演をして宮崎と意気投合していたこともあり、美輪は魔女の役も引受け、楽しく録音をすませたそうです。
『ハウルの動く城』は荒地の魔女がおばあちゃんになってからが面白い
映画『ハウルの動く城』の荒地の魔女は原作と異なり完全な悪役ではありません。美輪明宏の変化に富んだ声と個性的な容姿に着想を得たキャラクターデザインで、少し性格は悪いですが親しみの持てる登場人物になっています。 このことは2003年のイラク戦争に反対であった宮崎駿の反戦の願いが本作の重要なテーマになっていることと関係あるのかもしれません。 映画の後半でハウルとソフィーたちが戦う敵は荒地の魔女ではなく、一般市民の生活を破壊する戦争とそれを推進する勢力でした。 『ハウルの動く城』はソフィーとハウルだけでなく、荒地の魔女やカブ頭の王子などさまざまな登場人物たちの愛が、戦争を巻き起こす大きな勢力に打ち勝つ物語なのです。 悪役に見えた荒地の魔女の長く重い恋も、戦争を終わらせることに大きく貢献していました。