『ハウルの動く城』原作小説との違いやハウルとソフィーのその後について【映画では描かれない秘密】
ジブリの大ヒットアニメ映画『ハウルの動く城』。その原作は、イギリスの作家ダイアナ・ウィン・ジョーンが書いた『魔法使いハウルと火の悪魔』というファンタジー小説です。 この記事では全映画では描かれなかったその後の物語まで3巻の原作小説を紹介!映画との違いを中心に解説し、宮崎駿が伝えたかったメッセージも読みときます。 ※この記事は映画『ハウルの動く城』のネタバレを含みます。未鑑賞の場合は注意してください。
『ハウルの動く城』原作小説3部作のあらすじ・ネタバレ
イギリスの作家ダイアナ・ウィン・ジョーンズの人気児童小説『魔法使いハウルと火の悪魔』(原題:Howl's Moving Castle 1986)を元にジブリで製作された映画『ハウルの動く城』(2004年)。 荒地の魔女によっておばあさんに変えられてしまった帽子屋のソフィーは、呪いを解こうと家を飛び出しました。そして同じく荒地の魔女に心臓を狙われている女たらしの魔法使いハウルや、見習いのマイケル(映画ではマルクル)、さらに火の悪魔カルシファーらとともに、空を飛ぶ城に住み込むことに……。 誰もがワクワクするようなファンタジーストーリーです。
第1巻『ハウルの動く城1 魔法使いハウルと火の悪魔』
映画『ハウルの動く城』の原作となったのが、1986年に発表された第1巻の内容です。魔法が実在する国インガリーのソフィーは、魔女に呪いをかけられて90歳のおばあさんの姿に変えられてしまい……。 本作では映画にも登場したキャラクターの詳細や異なる設定が描かれており、ソフィーやハウルの意外な一面を見られます。映画では明らかにされなかった点がわかって「なるほど!」とスッキリする方も多いでしょう。児童小説ながら、大人が読んでも惹きつけられるファンタジー小説です。 原作で描かれた詳細設定についてはこちら
第2巻『ハウルの動く城2 アブダラと魔法の絨毯』
本物の空飛ぶ絨毯を手に入れた絨毯商人の青年アブダラは、その絨毯に連れて行かれた夜の庭で、謎の姫君と恋に落ちます。しかし彼女は突然、巨大な魔神にさらわれてしまうのです。アブダラは魔法使いハウルの妻ソフィーの助けを借りて、姫の行方を捜すことにしますが……。 1990年に発表された第2巻は、原作第1巻から数年後を舞台に、若い絨毯商人アブダラを主人公とした物語です。ソフィーやハウルは主人公ではなく、ハウルに至っては少ししか登場しません。しかしラストで伏線が一気に回収される展開が面白く、ストーリーの満足度が高い作品です。 第2巻で描かれるハウルとソフィーのその後についてはこちら
第3巻『ハウルの動く城3 チャーメインと魔法の家』
ハイ・ノーランドに住む本好きの少女チャーメインは、魔法使いの家の留守番を任されます。魔法だらけのその家で、魔法の本のまじないを試してしまったチャーメインは、危険な魔物と出会うことに。やがて遠国の魔女ソフィーたちと知り合い、力を合わせて王国を救おうとしますが……。 前作から18年ぶりとなる2008年に発表された第3巻は、前作に名前が登場した北国ハイ・ノーランドの少女が主人公。ソフィーとはまた違った性格の少女が魔法に出会うストーリーで、後半にはソフィーやハウルも登場してワクワクが止まりません。
『ハウルの動く城』原作と映画の違いについて
原作小説の第1巻とアニメ映画は、大まかなストーリーは同じです。しかし映画ではソフィーやハウルたちの性格や設定などが詳しく説明されていない点が多くあります。映画を見て「なぜこうなったんだろう?」などと疑問点が残った方も多いでしょう。 宮崎駿監督はインタビューで、本作を製作するにあたり「説明するための映画は作らないと決めた」と明かしています。つまり詳しい説明はあえて省かれているのです。その結果、言葉ではなく映像で魅せるアニメ映画となったと言えるでしょう。 しかし宮崎駿監督もベネチア映画祭のインタビューで「『ハウルの難しい城』だった」などと述べており、難しい作品になったことを自覚していたようです。
実はハウルは浮気性で人間くさい男
原作と映画で大きく違う点として、ハウルの性格が挙げられます。映画では見栄っ張りで子どもっぽい部分もありながらも、つかみどころがなく魅力的なイケメンでした。 原作でのハウルは映画版よりもひどい女たらし&浮気性で、外出すれば出会った女性を口説く女性関係にだらしない男。皮肉屋でもあり、ソフィーとは口論が絶えません。そのため原作を読むとがっかりしてしまうかも……。 とはいえ、第1巻を読み終える頃にはハウルの印象が大きく変わっている点も原作の魅力のひとつです。ハウルのことをより深く理解したい方は、ぜひ一度原作を読んでみてください。
ソフィーはキス魔の魔女
映画『ハウルの動く城』ではソフィーのキスシーンがたくさんあります。荒地の魔女、マルクル、ヒン、カカシのカブ、カルシファー、そしてハウルとも。ファンタジー映画としては異例とも言えるキスシーンの嵐に「ソフィーはキス魔なの?」と思ってしまいます。 映画のソフィーがキス魔なのは、原作でソフィーが「命を吹き込む」という魔法を持つ魔女だからです。映画ではソフィーが魔女であることをはっきりと描く代わりに、彼女の力を優しいキスで表現されたのでしょう。
原作ではハウルとソフィーのその後が描かれた!
映画のラストには無かったプロポーズ描写
原作の映画のラストシーンにあたる場面では、ハウルがソフィーに「一緒に暮らそう」とプロポーズをしています。 ハウルは続けて「僕たちって、これから一緒に末永く幸せに暮らすべきじゃない?」と言い、ソフィーは「あんたは私をこき使うんでしょ」と返事。それに対してハウルは、「そうしたら僕の服という服を切り刻んで、思い知らせておくれ」と答えます。 はっきり「結婚」の言葉は出ていないものの、2人らしくて可愛らしいプロポーズですよね。
2人は結婚して子供が生まれる!
映画の当時27歳のハウルと当時18歳のソフィーは、9歳違いの歳の差カップル。そんな2人は原作の第2巻『ハウルの動く城2 アブダラと魔法の絨毯』では、結婚した夫婦として描かれています。 さらにこの巻ではソフィーがハウルとの子どもを出産するのです。そのためソフィーは、原作の第2巻ではすっかりたくましいお母さん!そもそも映画版のソフィーは原作よりも可愛らしい性格として描かれていたので、映画を見た方はちょっとびっくりしてしまうかもしれません。
生まれた子の名は「モーガン」
2人の間に生まれた子どもは男の子で、名前は「モーガン」でした。モーガンはなんと、ソフィーが猫の姿で産んだ子どもです。というのも、原作『ハウルの動く城2 アブダラと魔法の絨毯』でソフィーはお腹にモーガンがいる状態でハウルの魔法によって猫の姿に変えられてしまうのです。 それはハウルがソフィーを守ろうとしてかけた魔法でした。ソフィーは猫の姿のままでの出産を余儀なくされ、元の姿に戻るまでは猫のままで子育てもしていました。
映画と違う原作小説の設定を詳しく紹介
①ハウルはとても女好きで、テレビゲームも持っている
上記で述べたとおり、小説「ハウルの動く城」ではハウルは女好きのだらしない男です。ハウルが外出するときは戦争のために出かけるのではなく、女の子をナンパするために街に出て行くことがほとんど*です。 ソフィーに言い寄って気を引くのも実はハウルで、城で共に暮らすことになっても他の女の子にも恋をします。妹のレティーにまで心を惹かれてしまうのですから、呆れたものです。 またイギリスでは伝統として、ファンタジーの世界を描いても主人公はあくまでも現代人という設定が頑なに守られています。 ハウルも例に漏れず、テレビゲームなどの現代っ子の遊びをすると描かれました。
②ソフィーも魔法を使える魔女
原作版でのソフィーは、自分では気づかないものの「物に命を吹き込む」という魔法の力を身につけています。これによってラストシーンでのハウルが命を落とさずに済むのですが、映画の中でははっきりとこの力については描かれてはいません。 また小説において1度老婆の姿になってしまうとそこから若返ることはなく、物語のほとんどでソフィーは老婆の状態です。 最後に老婆であることは自分の思い込みだということに気づき、その姿から若者本来の姿に戻るという展開になっています。
③ソフィーはひとりっ子だった
童話や児童小説などでは三姉妹のうち末の三女が成功するものが多いことは有名ですよね。本作の主人公であるソフィーもそのことを知っており、原作では自分の失敗を「自分が長女なせいだ!」と嘆くシーンがあります。 原作は児童小説であり、主人公の「私は長女だから失敗するのよ!」という発言は言うなればメタ発言。 映画では三女のマーサは登場しないばかりか、存在すら不明となっています。そのため長女であることをしきりに嘆くソフィーの姿は描かれていません。
④魔法アイテム「7リーグ靴」が登場
映画には登場しなかった重要なアイテムとして7リーグ靴があります。 これは1歩で7リーグ(38.892km)進むことができる優れものです。ハウルは魔法が使えるので使うことはありませんが、魔法が得意でないマイケル(マルクル)やソフィーは重宝しています。
⑤荒地の魔女はハウルの凶悪な敵である
映画では、ハウルたちとともに城で暮らすことになる、荒地の魔女。原作では一寸たりとも仲良くなることはなく、終始ハウルと戦い続けます。 小説で荒地の魔女は「火の悪魔アンゴリアン」に操られており、美しさの追及のために、ハウルや魔法使いサマリンたちの良い部分をつぎはぎしてパーフェクトな人間を作ろうとする恐ろしい企みを持っています。 また若く長生きできるように流れ星と契約もしているのでした。
⑥サリマンは男性でハウルと同期
映画の中では、王室付きの魔法使いで強大な力の持ち主の女性として描かれているサリマンですが、原作は男性でありハウルとは同期という設定になっています。 ですが映画のサリマンを思わせるような存在はあちこちに登場しているので、それを映画に引用したとも考えられます。
⑦扉の向こうこそが「現実世界」
原作ではハウルたちが暮らす世界が魔法世界として描かれていて、現実世界は別に存在しています。黒い扉の向こうにあるウェールズという世界は、ハウルの家族が暮らす現実世界になっているのです。 映画では扉の向こうは戦場になっていますが、原作は異なっています。魔法使いやカルシファーが存在する“架空の世界”のみで映画のストーリーは完結し、ウェールズの現実世界やハウルの家族については一切描かれませんでした。
⑧最大の相違は城そのものにある
原作の動く城は、ジブリ映画に出るスチームパンク風のデザインではなく、“キャッスル”という感じのお洒落な城で、浮遊しながら移動しているのです。 狭くて汚いというのは、映画でソフィーが掃除婦となって活躍するシーンに活かされました。 この城のデザインがまったく変えられたことについて、作者のダイアナ・ウィン・ジョーンズは絶賛していたとのことです。
⑨ハウルたちは死んでバットエンド?結末の違い
「原作小説ではソフィー、ハウルは死ぬ」という噂がインターネットで流れていますが、まったくのデマです。ハウルたちは荒地の魔女、そして黒幕であった悪魔アンゴリアンを打ち砕き、大団円を迎えます。 ソフィーはハウルの城へ住むこととなり、ハッター姉妹の次女レティーはサリマンの弟子に、三女のマーサはマルクルと結ばれるという結末。どういった経緯でこのようになるのか、ここには掲載しきれませんのでぜひ原作小説をご確認ください。
『ハウルの動く城』小説版の続編で世界観をもっと知ろう
原作小説「ハウルの動く城」シリーズは、ジブリ映画版には描かれない設定もたくさん登場するので、映画鑑賞済みの人でもきっと楽しめる作品です。 さらに『ハウルの動く城1 魔法使いハウルと火の悪魔』には『ハウルの動く城2 アブダラと魔法の絨毯』、『ハウルの動く城3 チャーメインと魔法の家』という2冊の姉妹本もあります。 それぞれアブダラとチャーメインが主人公ですが、ハウル、ソフィーらも中心人物として登場するお話。ハウル、ソフィーのその後を知ることができるファン必見の作品です。 ジブリ映画とはまた違った結末を楽しめる姉妹本の2冊まで、よかったら読んでみてください!